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青年将校と部下の決意
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リリアがカトリーヌの配下だと青年将校に説明すると、すぐにリリアの猿ぐつわと縄が解かれた。
「すいません。女性なのにこんな格好をされているので、完全に怪しい人だと思ってしまいました」
リリアはヘルメット姿で、男性の作業着の上にボディーアーマーを装着していた。確かに変な人にしか見えない。
逆にリリアは男たちが味方だと知っていたので、騒ぎにならないように素直に捕まったらしい。
カトリーヌはこの青年将校の名前を思い出した。湖畔の城で、一番最初にカトリーヌに質問をしたトーマス中尉だ。
「トーマス中尉、こんなところで何をしているの?」
一年も前に一度だけ会話をしただけで、カトリーヌが自分の名前を覚えていてくれたことにトーマスは感激した。
「名前を覚えて頂いていて、ありがとうございますっ。我々の隠れ家にご案内します。お話はそちらでうかがいますっ」
カトリーヌは兄にどことなく似た感じで、ヒューイへの忠誠度が異常に高いこの青年将校だけは印象に残っていて、名前も覚えていた。
(こんなところに軍の施設なんてあったかしら?)
カトリーヌはそう思ったが、トーマスたちの隠れ家について行くことにした。
男たちは猟師の格好をしているが、ダンブル陸軍の兵士だそうだ。
カトリーヌはヒューイが将来王位に即位して、元帥の軍職に就いた際には、元帥直属の軍師となることが内定しており、そのための準備期間として、現在は陸軍少将兼海軍少将という軍職に就いていた。
トーマスは名前を覚えていてくれたことが相当嬉しかったらしく、まだニヤニヤしていたが、他の兵士たちは雲の上の人物を間近にして、緊張しまくっていた。しかも、聞いていた以上に美しく、トーマス以外はカトリーヌと目も合わせられずにいた。
こういった憧れの感情に対して、カトリーヌは度がすぎて鈍感であるため、気にせずスタスタと歩いているが、リリアは兵士たちを好ましく思った。ドギマギしていて、何だかとても可愛らしいのだ。
山林をしばらく歩くと、洞窟が見えて来た。トーマスは辺りを見回してから、洞窟へと一行を案内した。
洞窟はそんなに大きくはなく、入ってすぐ右側の岩壁が隠れ家の入り口になっていた。
上手くカムフラージュされていて、一見すると岩にしか見えない。
中に入るとかなり広々としており、カトリーヌは奥の壇上の椅子に座るよう案内された。
「実は軍の密命で詳しくはお話できないのです」
トーマスは着いて早々に申し訳なさそうに言った。
「上官の私にも?」
カトリーヌはトーマスを覗き込んだ。
(やはりどことなく兄さんに似ているわ)
「無、無理です」
キレイな顔が近づいて来て、トーマスが赤面する。
「ってことは、私よりも職位の高い陛下か殿下かランバラル陸軍大将からの命令ね」
トーマスたちはカトリーヌの前で、少し目線を上にして、腕を後ろに組んで背筋を伸ばした待機の姿勢を取っている。
トーマスの額から汗が流れ落ちるが、目線はしっかりしたままだった。
「ふう。何の作戦中かは聞かないでおくわ。それより、私たちを助けてくれる?」
「もちろんです。どうされたのでありましょうかっ」
「何だか、堅苦しいわね。ちょっとその辺に適当に座って、リラックスして聞いてくれる? 話しにくくて仕方ないわ」
「そ、そのような姿勢は少将殿に失礼でありますっ」
「いいから座って。リリア、膝をガックンさせちゃって」
「あっ、何をっ」
「ああっ」
男たちがリリアから膝の裏をリリアの膝で押されて、真面目な顔をしたままガクッとなるのを見ていて、カトリーヌはクスクス笑ってしまったが、亡くなったと思われる専門家たちのことを思い出し、すぐに悲しい顔になった。
天使の微笑みと悲しみを目の当たりにして、男たちは少将殿のためには何だってやってやる、と決意した。
「すいません。女性なのにこんな格好をされているので、完全に怪しい人だと思ってしまいました」
リリアはヘルメット姿で、男性の作業着の上にボディーアーマーを装着していた。確かに変な人にしか見えない。
逆にリリアは男たちが味方だと知っていたので、騒ぎにならないように素直に捕まったらしい。
カトリーヌはこの青年将校の名前を思い出した。湖畔の城で、一番最初にカトリーヌに質問をしたトーマス中尉だ。
「トーマス中尉、こんなところで何をしているの?」
一年も前に一度だけ会話をしただけで、カトリーヌが自分の名前を覚えていてくれたことにトーマスは感激した。
「名前を覚えて頂いていて、ありがとうございますっ。我々の隠れ家にご案内します。お話はそちらでうかがいますっ」
カトリーヌは兄にどことなく似た感じで、ヒューイへの忠誠度が異常に高いこの青年将校だけは印象に残っていて、名前も覚えていた。
(こんなところに軍の施設なんてあったかしら?)
カトリーヌはそう思ったが、トーマスたちの隠れ家について行くことにした。
男たちは猟師の格好をしているが、ダンブル陸軍の兵士だそうだ。
カトリーヌはヒューイが将来王位に即位して、元帥の軍職に就いた際には、元帥直属の軍師となることが内定しており、そのための準備期間として、現在は陸軍少将兼海軍少将という軍職に就いていた。
トーマスは名前を覚えていてくれたことが相当嬉しかったらしく、まだニヤニヤしていたが、他の兵士たちは雲の上の人物を間近にして、緊張しまくっていた。しかも、聞いていた以上に美しく、トーマス以外はカトリーヌと目も合わせられずにいた。
こういった憧れの感情に対して、カトリーヌは度がすぎて鈍感であるため、気にせずスタスタと歩いているが、リリアは兵士たちを好ましく思った。ドギマギしていて、何だかとても可愛らしいのだ。
山林をしばらく歩くと、洞窟が見えて来た。トーマスは辺りを見回してから、洞窟へと一行を案内した。
洞窟はそんなに大きくはなく、入ってすぐ右側の岩壁が隠れ家の入り口になっていた。
上手くカムフラージュされていて、一見すると岩にしか見えない。
中に入るとかなり広々としており、カトリーヌは奥の壇上の椅子に座るよう案内された。
「実は軍の密命で詳しくはお話できないのです」
トーマスは着いて早々に申し訳なさそうに言った。
「上官の私にも?」
カトリーヌはトーマスを覗き込んだ。
(やはりどことなく兄さんに似ているわ)
「無、無理です」
キレイな顔が近づいて来て、トーマスが赤面する。
「ってことは、私よりも職位の高い陛下か殿下かランバラル陸軍大将からの命令ね」
トーマスたちはカトリーヌの前で、少し目線を上にして、腕を後ろに組んで背筋を伸ばした待機の姿勢を取っている。
トーマスの額から汗が流れ落ちるが、目線はしっかりしたままだった。
「ふう。何の作戦中かは聞かないでおくわ。それより、私たちを助けてくれる?」
「もちろんです。どうされたのでありましょうかっ」
「何だか、堅苦しいわね。ちょっとその辺に適当に座って、リラックスして聞いてくれる? 話しにくくて仕方ないわ」
「そ、そのような姿勢は少将殿に失礼でありますっ」
「いいから座って。リリア、膝をガックンさせちゃって」
「あっ、何をっ」
「ああっ」
男たちがリリアから膝の裏をリリアの膝で押されて、真面目な顔をしたままガクッとなるのを見ていて、カトリーヌはクスクス笑ってしまったが、亡くなったと思われる専門家たちのことを思い出し、すぐに悲しい顔になった。
天使の微笑みと悲しみを目の当たりにして、男たちは少将殿のためには何だってやってやる、と決意した。
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