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依頼
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ガナル地方にも冒険者組合の支部があるが、魔物は主にエルフの森に生息しているため、依頼はエルフからの方が多い。放牧中の馬を狙ってしばしば草原に出現するフォレストタイガーの討伐などの国内からの依頼もあるが、数は少ない。
私たちは王室から追われる身ではあるが、例の大会以降ガナルでは崇められており、冒険者組合に自由に出入りしていた。
ガナルでは目テープの変装はしていない。若く美しい女性だけの四人組で、かつ、圧倒的な実力を持つ「キューブ」の名は、何度かエルフの依頼をこなしているうちに、エルフ国でも広く認知され始めていた。
「今回はエルフの王室からの緊急のご依頼です」
王都の冒険者組合で私たちの専属受付嬢だったエリーゼが、ガナルに転勤を願い出て認められ、ガナルでも私たちの専属となっていた。
「少し長期になりそうですが、大丈夫でしょうか?」
私の顔が曇る。テリュースとデートの約束をしていたのだ。もちろん、話せば納得してくれるだろうが、彼のガッカリする顔は見たくはなかった。
ステーシアも少し残念そうな気配をかもし出していた。クレイと長期間会えないのが面白くないに違いない。
「どれぐらい長期かな?」
ステーシアが不機嫌そうに聞いた。
「一週間ほどです。この依頼を成功させると、皆様、昇級となります」
私とステーシアがA級、アミとミアがB級へと昇格するようだ。
「内容を聞いてから決めよう」
ステーシアはエリーゼに先を促した。
「グレムというエルフの村で疫病が発生し、村が全滅してしまったそうなのですが、その後、強力なアンデッドが発生してしまったのです。ゾンビキングです」
「ゾンビキング!?」
またキングか。そうだ、いいことを思い付いた。
「エルフの王様が依頼者ってことは、王様のところまで、ご挨拶も兼ねて、テリュースについて行ってもらった方がいいかしら」
私の提案にステーシアが飛びついた。
「殿下には護衛が必要よ。クレイも一緒に行かないとね」
「そうね。テリュースに聞いてみるわね」
私たちはいったん冒険者組合から自宅に戻った。
今日は火曜日だ。冒険者活動をする曜日は、私とは会えないため、テリュースは恐らく仕事をみっちりと入れていると思う。
テリュースに会いに行くかどうかと思案していたところ、アミとミアがシュンメイさんを連れて来た。途端に私は警戒心マックスとなった。
「そんなに警戒しないでください。話はアミとミアから聞きました。エルフとの友好関係を強化するいいチャンスです。テリュース王子、ミレイ王女、そして、クレイ親衛隊長の使節団を皆様に同行させて下さい。食料、馬車、その他経費すべてを国庫からお出しします」
「そうですか。話がうま過ぎますが、大丈夫でしょうか?」
「エルフと友好関係を強化することで得られる軍事費のコスト減や貿易で得られる収益は、膨大なのです。今回の旅費など大した金額ではありません。それと、エルフに恩を売るというのは、お金には代えられない価値があります」
「分かりました。お言葉に甘えます。ちなみに、ミレイ様はどういった役割でしょうか?」
「補佐です。テリュース王子の補佐とルミエール様の補佐の両方です」
「私のですか?」
「はい、セシル様の補佐が出来なくなり、沈んでおりますので、是非ルミエール様の補佐をやらせてあげて下さい」
「そういうことでしたら、了解しました。それで、いつ出発しましょうか?」
「明日の早朝、お迎えにあがります」
***
翌朝、テリュース一行が迎えに来た。
一応、冒険者チームと使節団は、別々の馬車に分かれて乗ることになっていた。
私たちはいつものようにアミとミアが御者席に乗り、私とステーシアは馬車の中に乗った。
テリュースが近くにいるので、少し気持ちが昂るが、私は努めて冷静に振る舞った。
「ゾンビキングってどういうアンデッドなのかしら?」
「どうしたの? ルミ。いつもそんなこと聞かないじゃない。さては殿下のことを意識しているのね」
ステーシアにいきなり見破られてしまった。
「まあ、そうよ。何だか落ち着かないわ」
「初めての泊まりの旅行だから?」
「そういう言い方はどうかと思うわ。宿は一緒だけど部屋は別々だし」
「婚約していても部屋は別々なのに、婚約もしていないルミたちが一緒なわけないじゃない」
「意地悪ね、ステイは」
「ごめんね。可愛いからついからかいたくなってしまったのよ。えっと、ゾンビキングね。シュンメイさんに聞いたのだけど、ゾンビって知能がなく、ただただ生者を本能のまま追い回すだけなんだけれど、ゾンビキングが現れると、ゾンビが知能を持つらしいのよ」
「それって……」
「そうなの。不死の軍隊の出来上がりよ。しかも、交戦するたびに死者が出て、ゾンビが増えて行くのよ」
「エルフさんたちは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないわよ。軍隊を出して対応しているらしいわ。一番効果的なのは火を放つことらしいのだけど、森が燃えてしまうから、出来るだけ交戦しないで、私たちを待っているみたいなの」
「私たちを待って? 私たちはそんなにお役に立てるのかしら?」
「アンデッドは治癒で消滅するって知らないの?」
「リッチーやバンパイヤなどの知的アンデッドは消滅させられるけど、ゾンビは……。なるほど、知能を持ったアンデッドなのね。じゃあ、治癒で退治出来るわ」
「そういうこと。今回はルミが大活躍の予定なの。ミレイ王女がいらしているのも、あなたの治癒の補佐のためだと思うわ」
「そうおっしゃってたわ。そうか。いつも皆んなに助けられてばかりだから、役に立ちたいと思ってたの。頑張るぞ」
ところが、事態はもっと深刻だった。疫病が飛び火して、エルフの森の村々は疫病とゾンビのダブルパンチで、存亡の危機を迎えていたのである。
私たちは王室から追われる身ではあるが、例の大会以降ガナルでは崇められており、冒険者組合に自由に出入りしていた。
ガナルでは目テープの変装はしていない。若く美しい女性だけの四人組で、かつ、圧倒的な実力を持つ「キューブ」の名は、何度かエルフの依頼をこなしているうちに、エルフ国でも広く認知され始めていた。
「今回はエルフの王室からの緊急のご依頼です」
王都の冒険者組合で私たちの専属受付嬢だったエリーゼが、ガナルに転勤を願い出て認められ、ガナルでも私たちの専属となっていた。
「少し長期になりそうですが、大丈夫でしょうか?」
私の顔が曇る。テリュースとデートの約束をしていたのだ。もちろん、話せば納得してくれるだろうが、彼のガッカリする顔は見たくはなかった。
ステーシアも少し残念そうな気配をかもし出していた。クレイと長期間会えないのが面白くないに違いない。
「どれぐらい長期かな?」
ステーシアが不機嫌そうに聞いた。
「一週間ほどです。この依頼を成功させると、皆様、昇級となります」
私とステーシアがA級、アミとミアがB級へと昇格するようだ。
「内容を聞いてから決めよう」
ステーシアはエリーゼに先を促した。
「グレムというエルフの村で疫病が発生し、村が全滅してしまったそうなのですが、その後、強力なアンデッドが発生してしまったのです。ゾンビキングです」
「ゾンビキング!?」
またキングか。そうだ、いいことを思い付いた。
「エルフの王様が依頼者ってことは、王様のところまで、ご挨拶も兼ねて、テリュースについて行ってもらった方がいいかしら」
私の提案にステーシアが飛びついた。
「殿下には護衛が必要よ。クレイも一緒に行かないとね」
「そうね。テリュースに聞いてみるわね」
私たちはいったん冒険者組合から自宅に戻った。
今日は火曜日だ。冒険者活動をする曜日は、私とは会えないため、テリュースは恐らく仕事をみっちりと入れていると思う。
テリュースに会いに行くかどうかと思案していたところ、アミとミアがシュンメイさんを連れて来た。途端に私は警戒心マックスとなった。
「そんなに警戒しないでください。話はアミとミアから聞きました。エルフとの友好関係を強化するいいチャンスです。テリュース王子、ミレイ王女、そして、クレイ親衛隊長の使節団を皆様に同行させて下さい。食料、馬車、その他経費すべてを国庫からお出しします」
「そうですか。話がうま過ぎますが、大丈夫でしょうか?」
「エルフと友好関係を強化することで得られる軍事費のコスト減や貿易で得られる収益は、膨大なのです。今回の旅費など大した金額ではありません。それと、エルフに恩を売るというのは、お金には代えられない価値があります」
「分かりました。お言葉に甘えます。ちなみに、ミレイ様はどういった役割でしょうか?」
「補佐です。テリュース王子の補佐とルミエール様の補佐の両方です」
「私のですか?」
「はい、セシル様の補佐が出来なくなり、沈んでおりますので、是非ルミエール様の補佐をやらせてあげて下さい」
「そういうことでしたら、了解しました。それで、いつ出発しましょうか?」
「明日の早朝、お迎えにあがります」
***
翌朝、テリュース一行が迎えに来た。
一応、冒険者チームと使節団は、別々の馬車に分かれて乗ることになっていた。
私たちはいつものようにアミとミアが御者席に乗り、私とステーシアは馬車の中に乗った。
テリュースが近くにいるので、少し気持ちが昂るが、私は努めて冷静に振る舞った。
「ゾンビキングってどういうアンデッドなのかしら?」
「どうしたの? ルミ。いつもそんなこと聞かないじゃない。さては殿下のことを意識しているのね」
ステーシアにいきなり見破られてしまった。
「まあ、そうよ。何だか落ち着かないわ」
「初めての泊まりの旅行だから?」
「そういう言い方はどうかと思うわ。宿は一緒だけど部屋は別々だし」
「婚約していても部屋は別々なのに、婚約もしていないルミたちが一緒なわけないじゃない」
「意地悪ね、ステイは」
「ごめんね。可愛いからついからかいたくなってしまったのよ。えっと、ゾンビキングね。シュンメイさんに聞いたのだけど、ゾンビって知能がなく、ただただ生者を本能のまま追い回すだけなんだけれど、ゾンビキングが現れると、ゾンビが知能を持つらしいのよ」
「それって……」
「そうなの。不死の軍隊の出来上がりよ。しかも、交戦するたびに死者が出て、ゾンビが増えて行くのよ」
「エルフさんたちは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないわよ。軍隊を出して対応しているらしいわ。一番効果的なのは火を放つことらしいのだけど、森が燃えてしまうから、出来るだけ交戦しないで、私たちを待っているみたいなの」
「私たちを待って? 私たちはそんなにお役に立てるのかしら?」
「アンデッドは治癒で消滅するって知らないの?」
「リッチーやバンパイヤなどの知的アンデッドは消滅させられるけど、ゾンビは……。なるほど、知能を持ったアンデッドなのね。じゃあ、治癒で退治出来るわ」
「そういうこと。今回はルミが大活躍の予定なの。ミレイ王女がいらしているのも、あなたの治癒の補佐のためだと思うわ」
「そうおっしゃってたわ。そうか。いつも皆んなに助けられてばかりだから、役に立ちたいと思ってたの。頑張るぞ」
ところが、事態はもっと深刻だった。疫病が飛び火して、エルフの森の村々は疫病とゾンビのダブルパンチで、存亡の危機を迎えていたのである。
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