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前日譚
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「これにてフジメリカ国第二王子ロベルト・フジメリカさまと、レイスティン国のハイドワーフであるアイリーン・エイムスさまの婚約が成されました。お二人のこれからが幸せに満ち、両国の結束の証となりますように」
王宮内にある教会の聖堂にて催されていた、人間国とドワーフ国の絆を深めるためと目された婚約式がやっと終わった。
僕はたった一つの書類にサインをするだけのことにこんなに時間を取ることもないだろうに、と思った。しかしこれも王子に生まれてしまった者の務めと思って、粛々とその時間を過ごしていたのだった。
「…どうして僕があんな子供と婚約しなきゃいけないんだっ」
ベッドに腰掛けて、はあとため息をついてから怒りに任せて叫んだ。
初めて出会った婚約相手は聞いたところによると僕より一つ下で、結婚のできる歳の15歳という話だった。しかしふたを開けてみれば、それは明らかに年齢盛りすぎだろうという幼い容姿。ドワーフは小さな種族で男女問わず僕ら人間よりも小さくて、女性は成人しても幼さが残るという。
そうとは聞いていたが僕の胸あたりまでしか無く、長く艶めいた黒髪ととろけるような柔らかなはちみつ色の瞳は美しいものの、あくまで彼女の容姿は子供の枠を出ないものだった。もちろん胸も小さい。多分これが一番彼女を幼く見せる要因だろう。
約400年ぶりに生まれたハイドワーフということで丹念に磨き上げられた美少女なのだろうが、残念ながら僕には愛の天使がいるためにそれほど魅力的に見えなかった。
それに僕は子供を差し出されて喜ぶ変態ではない。しっかりと実った女性が好みだし、そもそも僕は胸派なんだよ!包んであげるよりも包まれたい派!あの柔らかな女体の中でも特別夢が詰まった幸せの塊。大きければ大きいほど良いとは世の男性の習いだろう。
そんな男を無条件で幸福にする存在が希薄な者が僕の婚約者だなんて…。ああ、なんて僕は不幸なんだ…!この後シェリルを呼んで癒されよう。そうだ。それがいい!
きっと彼女は女神のように慈愛にあふれた胸で僕を優しく包んで癒してくれるだろう。シェリル、シェリル…!僕の美の女神っ。彼女との仲を引き裂こうと画策された婚約だろうが、僕は絶対に彼女を諦めない!必ず彼女を正妃にして幸せにしてみせるっ。
きっとみんな勘違いしているだけなんだ。彼女と話してみればすぐにわかるだろうに『あの女は王子の権力が目的です』とか言ってくる。そんなことあり得ないのに!
きっと誰かが僕らが仲睦まじくしているのに嫉妬してくだらない噂を流しているだけなんだ。そうだ。きっとそうに違いない!
「ということは僕に最愛の女性がいると困る者が犯人?……ッ!そういうことか!」
ぽつりとつぶやいた言葉にピンと来てしまった。
己の胸が貧弱だから豊かな胸を持つシェリルを恨み、下級貴族であると蔑みありもしないくだらない嘘を広める。そして貧相な体では僕からの愛が得られないだろうと、美しい体を持つシェリルを排除しようとする。
アイリーンという人物はなんて醜いんだ!人間国とドワーフ国の懸け橋という重要な役割を果たすことなんてできるはずがない。そしてそんな矮小な子供を僕の婚約者にしておくことはできないっ。そんなことを許しておくのは女神への冒涜だ!そうだ、これは僕に課せられた使命なんだ!
王子に愛されるか弱い女性をあらゆる手で陥れようとする悪の存在、悪役令嬢。その魔の手から絶対にシェリルを守ってみせる。そう、絶対に!
悪役令嬢との婚約をしたその日、僕の心には愛する人を守るという正義の炎が灯った。
「僕の最愛の人を汚そうとしたこと、後悔させてやるぞアイリーン・エイムス…!」
■
「フッ…なるほど。報告後苦労さま。まったく、生まれ育った王宮内だろうと不用意な言葉は慎むべきだろうに」
存在が希薄な黒尽くめから手紙を受け取り、その内容を確かめるとすぐにろうそくで火をつける金髪の男。その瞳はギラリと妖しく光っていた。
くつくつと喉を鳴らしながら手紙が燃えるのを見つめそれが完全に灰になると、男は黒尽くめに低く鋭い声で何かを告げる。黒尽くめはそれを聞き終わるとゆらりと影になって暗がりに消えていった。
「さて、彼女には迷惑だろうが踊ってもらうことにしよう…」
男は緑色の瞳を細くしてそうつぶやき、かわいそうな彼女のために祈った。
王宮内にある教会の聖堂にて催されていた、人間国とドワーフ国の絆を深めるためと目された婚約式がやっと終わった。
僕はたった一つの書類にサインをするだけのことにこんなに時間を取ることもないだろうに、と思った。しかしこれも王子に生まれてしまった者の務めと思って、粛々とその時間を過ごしていたのだった。
「…どうして僕があんな子供と婚約しなきゃいけないんだっ」
ベッドに腰掛けて、はあとため息をついてから怒りに任せて叫んだ。
初めて出会った婚約相手は聞いたところによると僕より一つ下で、結婚のできる歳の15歳という話だった。しかしふたを開けてみれば、それは明らかに年齢盛りすぎだろうという幼い容姿。ドワーフは小さな種族で男女問わず僕ら人間よりも小さくて、女性は成人しても幼さが残るという。
そうとは聞いていたが僕の胸あたりまでしか無く、長く艶めいた黒髪ととろけるような柔らかなはちみつ色の瞳は美しいものの、あくまで彼女の容姿は子供の枠を出ないものだった。もちろん胸も小さい。多分これが一番彼女を幼く見せる要因だろう。
約400年ぶりに生まれたハイドワーフということで丹念に磨き上げられた美少女なのだろうが、残念ながら僕には愛の天使がいるためにそれほど魅力的に見えなかった。
それに僕は子供を差し出されて喜ぶ変態ではない。しっかりと実った女性が好みだし、そもそも僕は胸派なんだよ!包んであげるよりも包まれたい派!あの柔らかな女体の中でも特別夢が詰まった幸せの塊。大きければ大きいほど良いとは世の男性の習いだろう。
そんな男を無条件で幸福にする存在が希薄な者が僕の婚約者だなんて…。ああ、なんて僕は不幸なんだ…!この後シェリルを呼んで癒されよう。そうだ。それがいい!
きっと彼女は女神のように慈愛にあふれた胸で僕を優しく包んで癒してくれるだろう。シェリル、シェリル…!僕の美の女神っ。彼女との仲を引き裂こうと画策された婚約だろうが、僕は絶対に彼女を諦めない!必ず彼女を正妃にして幸せにしてみせるっ。
きっとみんな勘違いしているだけなんだ。彼女と話してみればすぐにわかるだろうに『あの女は王子の権力が目的です』とか言ってくる。そんなことあり得ないのに!
きっと誰かが僕らが仲睦まじくしているのに嫉妬してくだらない噂を流しているだけなんだ。そうだ。きっとそうに違いない!
「ということは僕に最愛の女性がいると困る者が犯人?……ッ!そういうことか!」
ぽつりとつぶやいた言葉にピンと来てしまった。
己の胸が貧弱だから豊かな胸を持つシェリルを恨み、下級貴族であると蔑みありもしないくだらない嘘を広める。そして貧相な体では僕からの愛が得られないだろうと、美しい体を持つシェリルを排除しようとする。
アイリーンという人物はなんて醜いんだ!人間国とドワーフ国の懸け橋という重要な役割を果たすことなんてできるはずがない。そしてそんな矮小な子供を僕の婚約者にしておくことはできないっ。そんなことを許しておくのは女神への冒涜だ!そうだ、これは僕に課せられた使命なんだ!
王子に愛されるか弱い女性をあらゆる手で陥れようとする悪の存在、悪役令嬢。その魔の手から絶対にシェリルを守ってみせる。そう、絶対に!
悪役令嬢との婚約をしたその日、僕の心には愛する人を守るという正義の炎が灯った。
「僕の最愛の人を汚そうとしたこと、後悔させてやるぞアイリーン・エイムス…!」
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「フッ…なるほど。報告後苦労さま。まったく、生まれ育った王宮内だろうと不用意な言葉は慎むべきだろうに」
存在が希薄な黒尽くめから手紙を受け取り、その内容を確かめるとすぐにろうそくで火をつける金髪の男。その瞳はギラリと妖しく光っていた。
くつくつと喉を鳴らしながら手紙が燃えるのを見つめそれが完全に灰になると、男は黒尽くめに低く鋭い声で何かを告げる。黒尽くめはそれを聞き終わるとゆらりと影になって暗がりに消えていった。
「さて、彼女には迷惑だろうが踊ってもらうことにしよう…」
男は緑色の瞳を細くしてそうつぶやき、かわいそうな彼女のために祈った。
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