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人には二つの顔があるとは言いますが
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「悪しき者よ、ここはお前のいるべき場所ではない。アルブレヒト神官長はお前には渡さない…っ灰は灰に、塵は塵に、お前は闇へと還るがいい!」
鬼の形相、というのはこういうものを言うのだろうと、妙に納得してしまうほどの鬼気迫る表情でマルティナ補佐官がわたくしの方へと踵を鳴らして駆け寄ってきます。その手には先ほどアルブレヒトさまに見せてもらった光の玉とはまた違った、赤黒い何かが渦巻いた玉がありました。
聖なる光などの不思議な力について何一つわからないわたくしではありますが、それでもマルティナ補佐官の手にある玉がわたくしに危害を加えるものだとはすぐに理解しました。
なので本当ならすぐにでも立ち上がって逃げるべきでしょうが、補佐官の迫力のある表情や禍々しささえ感じる赤黒い玉に圧倒され全く動けずにいました。
『ひ、ゃ…!』
そんなわたくしをかばうようにアルブレヒトさまが素早く立ち上がり、さきほどまでのにこやかな表情からは想像もできないほどの険しい顔をしながら彼女の手を掴まれました。そして目にもとまらぬ早業でくるりと彼女をうつ伏せに倒し、腕を踏みつけたのです。
「ぐ、う…ッ」
「俺はお前に入室の許可を出していない。聞こえなかったかマルティナ補佐官。それともお前は俺の言葉を無視できるほど偉くなったのか?」
耳に心地よく響いた低い声が今では地を這うような低音になり、ビリビリと空気を震わせました。どこかで聞いた覚えのあるそれは、己に背くものを許さない支配者の声です。
「え、あ…。そういう、わけでは…」
「では部屋から出ていけ。もうここに来ることは許さん。今まで親父殿の顔に免じて置いていたが、もう二度と貴様の顔は見たくない。これは俺のものだ。その俺のものに何をしようとしていたのか、よく考えることだな」
そこまで言うとアルブレヒトさまはマルティナ補佐官から足をどけました。そして眼光鋭く睨みつけます。
「これに血は見せたくない。さっさと行け」
マルティナ補佐官はアルブレヒトさまの言葉にショックを受けたようで、彼をすがるような目で見つめたものの、すぐに取り付く島もないと悟ったようでした。そして踏まれた方の手をかばいながら走るようにして部屋から出ていきました。
彼女がこの部屋にいたのはほんの数分のことでしたが、突然の命の危機でわたくしの心臓はドキドキと飛び出そうなほど激しく動いています。
「すまないマレーネ…。あれは今でも俺に執着していたようだ」
ふうぅ、と長めのため息をついたアルブレヒトさまがわたくしを抱きしめながら謝ってきました。しかしわたくしは恐怖のあまりカチカチと歯を鳴らすばかりで、言葉を発することができません。
その様子にアルブレヒトさまは心配そうに眉を寄せてもう一度すまないと言うと、背中を優しくぽんぽんしてくださいました。
鬼の形相、というのはこういうものを言うのだろうと、妙に納得してしまうほどの鬼気迫る表情でマルティナ補佐官がわたくしの方へと踵を鳴らして駆け寄ってきます。その手には先ほどアルブレヒトさまに見せてもらった光の玉とはまた違った、赤黒い何かが渦巻いた玉がありました。
聖なる光などの不思議な力について何一つわからないわたくしではありますが、それでもマルティナ補佐官の手にある玉がわたくしに危害を加えるものだとはすぐに理解しました。
なので本当ならすぐにでも立ち上がって逃げるべきでしょうが、補佐官の迫力のある表情や禍々しささえ感じる赤黒い玉に圧倒され全く動けずにいました。
『ひ、ゃ…!』
そんなわたくしをかばうようにアルブレヒトさまが素早く立ち上がり、さきほどまでのにこやかな表情からは想像もできないほどの険しい顔をしながら彼女の手を掴まれました。そして目にもとまらぬ早業でくるりと彼女をうつ伏せに倒し、腕を踏みつけたのです。
「ぐ、う…ッ」
「俺はお前に入室の許可を出していない。聞こえなかったかマルティナ補佐官。それともお前は俺の言葉を無視できるほど偉くなったのか?」
耳に心地よく響いた低い声が今では地を這うような低音になり、ビリビリと空気を震わせました。どこかで聞いた覚えのあるそれは、己に背くものを許さない支配者の声です。
「え、あ…。そういう、わけでは…」
「では部屋から出ていけ。もうここに来ることは許さん。今まで親父殿の顔に免じて置いていたが、もう二度と貴様の顔は見たくない。これは俺のものだ。その俺のものに何をしようとしていたのか、よく考えることだな」
そこまで言うとアルブレヒトさまはマルティナ補佐官から足をどけました。そして眼光鋭く睨みつけます。
「これに血は見せたくない。さっさと行け」
マルティナ補佐官はアルブレヒトさまの言葉にショックを受けたようで、彼をすがるような目で見つめたものの、すぐに取り付く島もないと悟ったようでした。そして踏まれた方の手をかばいながら走るようにして部屋から出ていきました。
彼女がこの部屋にいたのはほんの数分のことでしたが、突然の命の危機でわたくしの心臓はドキドキと飛び出そうなほど激しく動いています。
「すまないマレーネ…。あれは今でも俺に執着していたようだ」
ふうぅ、と長めのため息をついたアルブレヒトさまがわたくしを抱きしめながら謝ってきました。しかしわたくしは恐怖のあまりカチカチと歯を鳴らすばかりで、言葉を発することができません。
その様子にアルブレヒトさまは心配そうに眉を寄せてもう一度すまないと言うと、背中を優しくぽんぽんしてくださいました。
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