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ヒロイン(?)からのエイプリルフール【前】
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「ヴィクトリアさん。今日はエイプリルフールですね。今から私が嘘をつきますから、どの部分が嘘か考えてみてください」
アビゲイルは人懐っこい笑顔を見せながら、ヴィクトリアに話しかけた。4月1日の午前のお茶の時間のことである。
「え、どうして私がそれに付き合わなくちゃいけな「まあまあ、いいじゃないですか。ちょっとしたお遊びですよ。お・あ・そ・び」
ヴィクトリアはこれまでの経験上、アビゲイルが引かないことを理解していたので、諦めるようにしてその遊びに付き合ってやることにしたのだった。
「ああそうだ。話の途中で質問するのは無しですよ。私だって頑張ってお話するんですから、ちゃんと聞いててくださいね。それから質問は私の話が終わった後に3回だけ受け付けます。ですのでもう一度言いますが、しっかりと話を聞いててくださいね?」
繰り返すように話を聞けと言われたヴィクトリアは、少しうんざりしたような表情を浮かべてる。それからはいはいとアビゲイルに話すよう促すのだった。
「実は私、昨日アーサーさまとお勉強会をしたんです。さすがは高位貴族の令息で、今やってる授業なんて学園に入るまでに終わらせてるみたいで、私にもわかりやすくかみ砕いて教えてくださったんです。優しいですよね」
にこにこと微笑みながら言う内容は、ヴィクトリアも知っていることだった。『確かに昨日、この二人は勉強室で一緒に勉強をしたはずだ』と彼女は考える。なぜならそれが、アーサールートに存在するイベントの一つだからだ。
内容としては授業に遅れ気味なヒロインを見かねたアーサーが、勉強をわかりやすく教える。その途中、手が触れ合い…という、よくある感じのイベントである。
「それで今度アーサーさまに昨日のお礼として、焼き菓子を差し上げようと思うんですよね。男性は甘い物があまり好きではない方が多いので…ってアーサーさまの婚約者のヴィクトリアさんに言うことじゃなかったですよね。すみません。感謝の気持ちを伝えたいというだけで、その…。アーサーさまを狙っているとか、そういうつもりではないんですよ?信じてくれます、よね?」
アビゲイルは首を少し傾け、ヴィクトリアの瞳をじっと見つめる。その視線はまっすぐで、ヴィクトリアには少しまぶしい。
純粋にアーサーに感謝を伝えようとしているように見えるアビゲイル。ゲームとしてはまだ半分を超えたくらいで、二人の仲は恋人未満友達以上の関係だ。
ヴィクトリアとしてはアーサーは恋人枠ではなく、家族や友人枠の人間で自分以外とどのような関係を結ぼうとそれは個人の勝手だと思っている。
しかし長い付き合いのあるアーサーを、自分からアビゲイルに差し出してはいるが、それでも少しは不安や悔しさがあるのだ。
「も、もちろん信じているわ。むしろ感謝の気持ちをしっかりと表すことができる人だと、感心しているのよ?」
動揺で声が震えるが、そこは高位貴族。すぐに立て直し、相手を褒めることも忘れない。そして自然を装い紅茶に手を伸ばし、それ以上はしゃべらないようにするヴィクトリア。
情報を与えすぎればぼろが出る可能性がある。それよりは、と途中で話を切り上げたのだ。しかし動揺は言葉からだけでなく、行動からも読み取れてしまう。
いつもなら完璧な令嬢を演じることができるヴィクトリアも、目の前に迫るイベントやフラグ、それから把握できない自分の心に冷静ではいられなかったようだ。
「あれ?ヴィクトリアさん。お口にクリームがついてますよ?」
アビゲイルは人懐っこい笑顔を見せながら、ヴィクトリアに話しかけた。4月1日の午前のお茶の時間のことである。
「え、どうして私がそれに付き合わなくちゃいけな「まあまあ、いいじゃないですか。ちょっとしたお遊びですよ。お・あ・そ・び」
ヴィクトリアはこれまでの経験上、アビゲイルが引かないことを理解していたので、諦めるようにしてその遊びに付き合ってやることにしたのだった。
「ああそうだ。話の途中で質問するのは無しですよ。私だって頑張ってお話するんですから、ちゃんと聞いててくださいね。それから質問は私の話が終わった後に3回だけ受け付けます。ですのでもう一度言いますが、しっかりと話を聞いててくださいね?」
繰り返すように話を聞けと言われたヴィクトリアは、少しうんざりしたような表情を浮かべてる。それからはいはいとアビゲイルに話すよう促すのだった。
「実は私、昨日アーサーさまとお勉強会をしたんです。さすがは高位貴族の令息で、今やってる授業なんて学園に入るまでに終わらせてるみたいで、私にもわかりやすくかみ砕いて教えてくださったんです。優しいですよね」
にこにこと微笑みながら言う内容は、ヴィクトリアも知っていることだった。『確かに昨日、この二人は勉強室で一緒に勉強をしたはずだ』と彼女は考える。なぜならそれが、アーサールートに存在するイベントの一つだからだ。
内容としては授業に遅れ気味なヒロインを見かねたアーサーが、勉強をわかりやすく教える。その途中、手が触れ合い…という、よくある感じのイベントである。
「それで今度アーサーさまに昨日のお礼として、焼き菓子を差し上げようと思うんですよね。男性は甘い物があまり好きではない方が多いので…ってアーサーさまの婚約者のヴィクトリアさんに言うことじゃなかったですよね。すみません。感謝の気持ちを伝えたいというだけで、その…。アーサーさまを狙っているとか、そういうつもりではないんですよ?信じてくれます、よね?」
アビゲイルは首を少し傾け、ヴィクトリアの瞳をじっと見つめる。その視線はまっすぐで、ヴィクトリアには少しまぶしい。
純粋にアーサーに感謝を伝えようとしているように見えるアビゲイル。ゲームとしてはまだ半分を超えたくらいで、二人の仲は恋人未満友達以上の関係だ。
ヴィクトリアとしてはアーサーは恋人枠ではなく、家族や友人枠の人間で自分以外とどのような関係を結ぼうとそれは個人の勝手だと思っている。
しかし長い付き合いのあるアーサーを、自分からアビゲイルに差し出してはいるが、それでも少しは不安や悔しさがあるのだ。
「も、もちろん信じているわ。むしろ感謝の気持ちをしっかりと表すことができる人だと、感心しているのよ?」
動揺で声が震えるが、そこは高位貴族。すぐに立て直し、相手を褒めることも忘れない。そして自然を装い紅茶に手を伸ばし、それ以上はしゃべらないようにするヴィクトリア。
情報を与えすぎればぼろが出る可能性がある。それよりは、と途中で話を切り上げたのだ。しかし動揺は言葉からだけでなく、行動からも読み取れてしまう。
いつもなら完璧な令嬢を演じることができるヴィクトリアも、目の前に迫るイベントやフラグ、それから把握できない自分の心に冷静ではいられなかったようだ。
「あれ?ヴィクトリアさん。お口にクリームがついてますよ?」
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