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絶海孤島編
第1話 三度目
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「お金がないなぁ……」
港町の石畳に腰を下ろしながら、僕――カルドは空を見上げた。
三度目だ。今月に入って三度目の討伐失敗。
「やっぱパーティー組むべきだよなぁ……」
そうは思うけど、現実は甘くない。
魔法の才能が低い僕を誘う物好きなんて、見たことがない。
ギルドの扉を押し開けると、昼下がりのざわめきが耳に刺さった。
視線が一瞬だけこちらに向いて、すぐ逸らされる。
「ごめんなさい、討伐依頼、無理でした。あはは……」
受付嬢は苦笑いを浮かべる。
「あら、今回も無理だったのね。仕方ないわ、無茶するからよ。薬草探しの依頼もあるのだけれど、こっちにしてみない?」
はぁ……仕方ない、か。
「ありがとうございます」
薬草採取。
魔物討伐に比べれば安全。
でも報酬は安い。
紙を受け取りながら、僕は小さく息を吐いた。
ふむふむ、森の浅い場所か。
これなら今日は食いつなげる。
――そんな日々が、ずっと続くと思っていた。
*
数日後。
「海沿いの魔物討伐? 弱い個体らしいけど……」
報酬は悪くない。
今月の赤字を埋めるには十分だ。
「やります」
口に出してから、ほんの少しだけ後悔した。
海は嫌いだ。
何が潜んでいるのか分からない。
だが、金がない。
夕暮れの海。
潮の匂いが濃い。
目標は、小型の海魔。
浜に打ち上げられる魚を荒らす厄介者。
早めに終わらせよう。
「よし……」
簡易詠唱。
火球。
威力は弱いが、直撃すれば十分。
海面が揺れた。
現れたのは、確かに小型だった。
鱗に覆われた四足の魔物。
「いける……!」
火球が当たり、悲鳴が上がる。
――その瞬間。
海が、割れた。
巨大な影が、水中から立ち上がる。
え?
さっきのは、餌?
理解が追いつく前に、衝撃が走った。
黒い尾が、僕の身体を弾き飛ばす。
呼吸が止まる。
視界が回る。
冷たい水が肺に流れ込む。
苦しい。
上も下も分からない。
光が遠い。
……ああ。
やっぱり、無理だったか。
意識が沈む。
完全な暗闇。
――
次の瞬間。
「……は?」
咳き込んだ。
海水を吐き出す。
身体は甲板に転がっている。
痛みは、ない。
さっき、確かに……死んだはずだ。
「……なんで、生きてる?」
頭の奥に、声が響いた。
『確認しました。スキル《案内人》を使用します』
「……は?」
『おはようございます、カルド様』
無機質な、しかしどこか柔らかい声。
『私はスキル《案内人》。貴方の能力を補助します』
僕は甲板に座り込んだまま、ただ海を見つめた。
さっきの巨大な影は、まだ近くにいる。
現実は、何も変わっていない。
時間は戻っていない。
僕だけが、元に戻っている。
『復活にエネルギーを消費しました。残量、中』
「……何なんだよ、これ」
目の前の海が、不気味に揺れる。
あれは、まだいる。
逃げるか。戦うか。
刹那――神々しい光が、一直線に伸びた。
視界が白に染まる。
同時に、激しい痛み。身体が貫かれる感覚。熱いのに、冷たい。叫ぶ暇もない。海が爆ぜ、空気が焼ける。
僕の胸を、光が通り抜けた。
死……
『スキル《死に戻り》を使用します』
なんだ、それ――
まただ、胸が貫かれたはずなのに……
元通りだ。生きてる。
『スキル発動にエネルギーを消費しました。残量、少』
『スキル《認識転写》を使用します。15秒間のみ、1つの追加スキルの取得が可能です』
「は?」
『取得候補を提示します』
視界の端に、淡い光が浮かぶ。
『海炎魔の鱗:熱と水への耐性向上』
『魔物の魔力波長理解:魔物の気配と動きの先読み』
『低位火球の威力補正:火球の密度と威力の向上』
鼓動が早まる。
「こ、これは…」
十五秒。
波が、近づく。
巨大な影が、再び動いた。
『取得しますか?』
『エネルギー残量が少です。次の死亡時、《死に戻り》は使用できない可能性があります』
頭の中で、その言葉が転がる。
使えない。
つまり、次に死んだら、本当に終わる。
逃げれば助かるかもしれない。
脚は動く。距離も稼げる。
……でも。
火球が当たった瞬間を、僕は思い出していた。
鱗に覆われた四足の魔物。
あれは、あの巨大な影の餌だった。
なら、あれを狩り場にしている漁師は?
明日の朝、この浜に来るはずの人間は?
別に、正義感なんてない。
ただ、なんか――癪だった。
こんなとこで終わるのが。
「……威力補正」
目は海から逸らさない。
波が砕ける。
巨大な影が、再び光を集める。
カルドは立ち上がった。
――三度目だ。
港町の石畳に腰を下ろしながら、僕――カルドは空を見上げた。
三度目だ。今月に入って三度目の討伐失敗。
「やっぱパーティー組むべきだよなぁ……」
そうは思うけど、現実は甘くない。
魔法の才能が低い僕を誘う物好きなんて、見たことがない。
ギルドの扉を押し開けると、昼下がりのざわめきが耳に刺さった。
視線が一瞬だけこちらに向いて、すぐ逸らされる。
「ごめんなさい、討伐依頼、無理でした。あはは……」
受付嬢は苦笑いを浮かべる。
「あら、今回も無理だったのね。仕方ないわ、無茶するからよ。薬草探しの依頼もあるのだけれど、こっちにしてみない?」
はぁ……仕方ない、か。
「ありがとうございます」
薬草採取。
魔物討伐に比べれば安全。
でも報酬は安い。
紙を受け取りながら、僕は小さく息を吐いた。
ふむふむ、森の浅い場所か。
これなら今日は食いつなげる。
――そんな日々が、ずっと続くと思っていた。
*
数日後。
「海沿いの魔物討伐? 弱い個体らしいけど……」
報酬は悪くない。
今月の赤字を埋めるには十分だ。
「やります」
口に出してから、ほんの少しだけ後悔した。
海は嫌いだ。
何が潜んでいるのか分からない。
だが、金がない。
夕暮れの海。
潮の匂いが濃い。
目標は、小型の海魔。
浜に打ち上げられる魚を荒らす厄介者。
早めに終わらせよう。
「よし……」
簡易詠唱。
火球。
威力は弱いが、直撃すれば十分。
海面が揺れた。
現れたのは、確かに小型だった。
鱗に覆われた四足の魔物。
「いける……!」
火球が当たり、悲鳴が上がる。
――その瞬間。
海が、割れた。
巨大な影が、水中から立ち上がる。
え?
さっきのは、餌?
理解が追いつく前に、衝撃が走った。
黒い尾が、僕の身体を弾き飛ばす。
呼吸が止まる。
視界が回る。
冷たい水が肺に流れ込む。
苦しい。
上も下も分からない。
光が遠い。
……ああ。
やっぱり、無理だったか。
意識が沈む。
完全な暗闇。
――
次の瞬間。
「……は?」
咳き込んだ。
海水を吐き出す。
身体は甲板に転がっている。
痛みは、ない。
さっき、確かに……死んだはずだ。
「……なんで、生きてる?」
頭の奥に、声が響いた。
『確認しました。スキル《案内人》を使用します』
「……は?」
『おはようございます、カルド様』
無機質な、しかしどこか柔らかい声。
『私はスキル《案内人》。貴方の能力を補助します』
僕は甲板に座り込んだまま、ただ海を見つめた。
さっきの巨大な影は、まだ近くにいる。
現実は、何も変わっていない。
時間は戻っていない。
僕だけが、元に戻っている。
『復活にエネルギーを消費しました。残量、中』
「……何なんだよ、これ」
目の前の海が、不気味に揺れる。
あれは、まだいる。
逃げるか。戦うか。
刹那――神々しい光が、一直線に伸びた。
視界が白に染まる。
同時に、激しい痛み。身体が貫かれる感覚。熱いのに、冷たい。叫ぶ暇もない。海が爆ぜ、空気が焼ける。
僕の胸を、光が通り抜けた。
死……
『スキル《死に戻り》を使用します』
なんだ、それ――
まただ、胸が貫かれたはずなのに……
元通りだ。生きてる。
『スキル発動にエネルギーを消費しました。残量、少』
『スキル《認識転写》を使用します。15秒間のみ、1つの追加スキルの取得が可能です』
「は?」
『取得候補を提示します』
視界の端に、淡い光が浮かぶ。
『海炎魔の鱗:熱と水への耐性向上』
『魔物の魔力波長理解:魔物の気配と動きの先読み』
『低位火球の威力補正:火球の密度と威力の向上』
鼓動が早まる。
「こ、これは…」
十五秒。
波が、近づく。
巨大な影が、再び動いた。
『取得しますか?』
『エネルギー残量が少です。次の死亡時、《死に戻り》は使用できない可能性があります』
頭の中で、その言葉が転がる。
使えない。
つまり、次に死んだら、本当に終わる。
逃げれば助かるかもしれない。
脚は動く。距離も稼げる。
……でも。
火球が当たった瞬間を、僕は思い出していた。
鱗に覆われた四足の魔物。
あれは、あの巨大な影の餌だった。
なら、あれを狩り場にしている漁師は?
明日の朝、この浜に来るはずの人間は?
別に、正義感なんてない。
ただ、なんか――癪だった。
こんなとこで終わるのが。
「……威力補正」
目は海から逸らさない。
波が砕ける。
巨大な影が、再び光を集める。
カルドは立ち上がった。
――三度目だ。
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