魔法使いの漂流者

三幸奨励

文字の大きさ
1 / 20
絶海孤島編

第1話 三度目

しおりを挟む
「お金がないなぁ……」
港町の石畳に腰を下ろしながら、僕――カルドは空を見上げた。
三度目だ。今月に入って三度目の討伐失敗。
「やっぱパーティー組むべきだよなぁ……」
そうは思うけど、現実は甘くない。
魔法の才能が低い僕を誘う物好きなんて、見たことがない。
ギルドの扉を押し開けると、昼下がりのざわめきが耳に刺さった。
視線が一瞬だけこちらに向いて、すぐ逸らされる。
「ごめんなさい、討伐依頼、無理でした。あはは……」
受付嬢は苦笑いを浮かべる。
「あら、今回も無理だったのね。仕方ないわ、無茶するからよ。薬草探しの依頼もあるのだけれど、こっちにしてみない?」
はぁ……仕方ない、か。
「ありがとうございます」
薬草採取。
魔物討伐に比べれば安全。
でも報酬は安い。
紙を受け取りながら、僕は小さく息を吐いた。
ふむふむ、森の浅い場所か。
これなら今日は食いつなげる。
――そんな日々が、ずっと続くと思っていた。



数日後。
「海沿いの魔物討伐? 弱い個体らしいけど……」
報酬は悪くない。
今月の赤字を埋めるには十分だ。
「やります」
口に出してから、ほんの少しだけ後悔した。
海は嫌いだ。
何が潜んでいるのか分からない。
だが、金がない。
夕暮れの海。
潮の匂いが濃い。
目標は、小型の海魔。
浜に打ち上げられる魚を荒らす厄介者。
早めに終わらせよう。
「よし……」
簡易詠唱。
火球。
威力は弱いが、直撃すれば十分。
海面が揺れた。
現れたのは、確かに小型だった。
鱗に覆われた四足の魔物。
「いける……!」
火球が当たり、悲鳴が上がる。
――その瞬間。
海が、割れた。
巨大な影が、水中から立ち上がる。
え?
さっきのは、餌?
理解が追いつく前に、衝撃が走った。
黒い尾が、僕の身体を弾き飛ばす。
呼吸が止まる。
視界が回る。
冷たい水が肺に流れ込む。
苦しい。
上も下も分からない。
光が遠い。
……ああ。
やっぱり、無理だったか。
意識が沈む。
完全な暗闇。
――
次の瞬間。
「……は?」
咳き込んだ。
海水を吐き出す。
身体は甲板かんぱんに転がっている。
痛みは、ない。
さっき、確かに……死んだはずだ。
「……なんで、生きてる?」
頭の奥に、声が響いた。
『確認しました。スキル《案内人》を使用します』
「……は?」
『おはようございます、カルド様』
無機質な、しかしどこか柔らかい声。
『私はスキル《案内人》。貴方の能力を補助します』
僕は甲板に座り込んだまま、ただ海を見つめた。
さっきの巨大な影は、まだ近くにいる。
現実は、何も変わっていない。
時間は戻っていない。
僕だけが、元に戻っている。
『復活にエネルギーを消費しました。残量、中』
「……何なんだよ、これ」
目の前の海が、不気味に揺れる。
あれは、まだいる。
逃げるか。戦うか。
刹那――神々しい光が、一直線に伸びた。
視界が白に染まる。
同時に、激しい痛み。身体が貫かれる感覚。熱いのに、冷たい。叫ぶ暇もない。海が爆ぜ、空気が焼ける。
僕の胸を、光が通り抜けた。
死……
『スキル《死に戻り》を使用します』
なんだ、それ――
まただ、胸が貫かれたはずなのに……
元通りだ。生きてる。
『スキル発動にエネルギーを消費しました。残量、少』
『スキル《認識転写》を使用します。15秒間のみ、1つの追加スキルの取得が可能です』
「は?」
『取得候補を提示します』
視界の端に、淡い光が浮かぶ。
『海炎魔の鱗:熱と水への耐性向上』
『魔物の魔力波長理解:魔物の気配と動きの先読み』
『低位火球の威力補正:火球の密度と威力の向上』
鼓動が早まる。
「こ、これは…」
十五秒。
波が、近づく。
巨大な影が、再び動いた。
『取得しますか?』
『エネルギー残量が少です。次の死亡時、《死に戻り》は使用できない可能性があります』
頭の中で、その言葉が転がる。
使えない。
つまり、次に死んだら、本当に終わる。
逃げれば助かるかもしれない。
脚は動く。距離も稼げる。
……でも。
火球が当たった瞬間を、僕は思い出していた。
鱗に覆われた四足の魔物。
あれは、あの巨大な影の餌だった。
なら、あれを狩り場にしている漁師は?
明日の朝、この浜に来るはずの人間は?
別に、正義感なんてない。
ただ、なんか――癪だった。
こんなとこで終わるのが。
「……威力補正」
目は海から逸らさない。
波が砕ける。
巨大な影が、再び光を集める。
カルドは立ち上がった。
――三度目だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

ヤンデレ女神と征く開拓スローライフ。

山椒
ファンタジー
両親に、友達に、恋人に、嫁に裏切られ続けた男、神室千照は絶望して自ら命を絶った。 すべてが終わるという安堵感であったが次に目覚めた時には女神が目の前にいた。 千照のことをずっと見ていた女神、アマテラスは千照に異世界転生を提案する。 まだ人生に未練があった千照はそれを受け入れ、二度目の人生を送ることになる。 だが千照は知らなかった。千照にはとてつもない才能が秘められていることを。 千照は知らなかった。アマテラスがヤンデレであることを。 千照は知らなかった。彼を裏切らないものはとてつもない人格の持ち主であることを。

処理中です...