魔法使いの漂流者

三幸奨励

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絶海孤島編

第2話 漂流した魔法使い

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「……威力補正」
視界の淡い光が弾けた。
頭の奥に、何かが組み上がる感覚。
『取得完了。低位火球の構造理解を統合しました』
「統合……?」
考える暇はない。

海面が爆ぜる。
巨大な影――さっき僕を殺した魔物が、浜へと乗り上げた。
黒い鱗に覆われた巨体。長い尾が砂を引きずり、濁った黄金の瞳がこちらを射抜く。
「くっ……!」
簡易詠唱。
火球。
さっきと同じ呪文。同じ魔力。
だが――
放たれた瞬間、火球が歪んだ。
収束。密度が上がる。
命中。
爆ぜた。
「のわっ!!」
さっきとは明らかに違う衝撃が魔物を包む。
『構造最適化により威力が向上しています』

だが、決定打にはならない。
魔物は怒り狂い、尾を振る。
横薙ぎ。
――避けきれない。
刹那、強い衝撃。
「いっっっつ……!!!」
骨が軋む。視界が跳ねる。
砂浜に叩きつけられた。肺から空気が抜ける。立てない。
魔物の顎が開く。
あぁ、また――

暗転。



「――ぐっ!」
再び、浜辺。
息が荒い。
もう、何度目だ。
あの瞬間の冷たさがまだ喉に残っている。

『追加取得可能時間、15秒』
光が浮かぶ。候補が変わっている。
『海炎魔の外殻構造理解:外殻への攻撃耐性向上』
『水中推進原理理解:水中での機動力向上』
『魔物魔力波長理解:魔物の気配と動き読み』
「……波長理解」
『取得しますか?』
「する!」

統合。
世界が、少し変わる。
魔物の周囲に、揺らぎが見える。魔力の流れ。動く前に、わずかに波打つ。
「そういうことか……!」

魔物が突進。
その"揺れ"が一瞬先に見える。
横に転がる。尾が空を切る。
火球。爆発。鱗が割れる。
もう一度。もう一度。もう一度!!
咆哮。
黒い鱗で覆われた巨体が、崩れ落ちた。

静寂。
潮の音だけが戻る。
「……やったのか?」
『敵対個体の生命反応、消失』
『討伐によるエネルギー回復を確認。残量、少』
「はぁ……」
その場にへたり込む。
生きている。本当に。
『経験値を獲得しました』
「……うお、まじか、こんなに」
頭の奥の声は、淡々としている。
『おめでとうございます』
「そりゃどうも」

海を見る。巨大な死体が浮いている。
さっきまで、あれに殺された。何度も。
「……ありがとう」
『補助が役目です』
「さっき、エネルギーが回復したのは?」
『魔物討伐時、対象の魔力が一部吸収されます。微量ですが、戦闘継続の助けになります』
「……死に戻りの回数を、戦いで稼げるってことか」
『上限はありますが、概ねその通りです』
なるほど。死んで学んで、戦って回復する。えげつない仕組みだ。

そのときだった。
沖合が、不自然に渦を巻く。
空が曇る。突風。
「え?」
さっきの魔物の血が、海に溶ける。それを中心に、渦が広がる。
『高濃度魔力反応を感知』
波が、壁のように立ち上がる。
逃げ場がない。

飲み込まれた。



目を覚ましたとき、砂の感触が違った。
潮の匂いも、どこか濃い。
「……ここ、どこだ?」
立ち上がる。

隣に、さっきの魔物の肉塊が転がっていた。
波に引きずられて来たのか。あの巨体が、妙にちっぽけに見える。
「そうか、こいつを倒した後の波で……」

見渡す。
森。見たことのない樹木。遠くに、山。
港も、町も、何もない。
『現在地、既存地図と照合不能』
「……は?」
『該当地域、認識外』

認識外。

その言葉の意味が、じわじわと染みてくる。
地図にない。
つまり、知られていない場所だ。

歩き出す。
森の奥から、視線を感じる。木陰。小さな影。狼のような魔物。身は一メートルもない。ひどく怯えている。
襲ってこない。ただ、こちらを見ている。

「に……肉を……」

声?
辺りを見渡す。いるのは目の前の魔物だけだ。
「……喋れるのか?」
『取得スキル《波長理解》によるものです』

そうか。さっき取得した、あれか。

「ほら」
倒した海の魔物から、ほんの一部を切り分けて差し出した。
狼は一歩、また一歩と近づき、静かにそれを受け取る。
「ありがとう。恩に着る」
そう言って、森へ消えた。

「さてと……」
改めて、辺りを見渡す。
ここはどこで、なぜここにいる。
帰れるかどうかも、分からない。

でも。

「……とりあえず、こいつ食うか」
見知らぬ島での生活が、始まった。
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