魔法使いの漂流者

三幸奨励

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絶海孤島編

第3話 地図にない島

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三度も僕を殺したあの化け物は、今やただの無残な肉の塊だ。
火球が威力補正の影響で出力を抑えるのが少し難しい。
「焦がさないように……」
小さな声でつぶやきながら、肉をじっくり焼く。
潮と血と煙が混じった匂いが鼻をつく。焼けた肉を一口かじると、重みが口に残る。
同時に体の奥に温かさがじんわり広がる感覚もあった。

夜になり、簡易的な火を囲んで座り込む。
空にはまだ残光が残り、海からの風が火の灯りを揺らす。
俺は頭の中で、ここまでのことを整理してみる。

《死に戻り》――死ねばその場で復活する。ただし時間は戻らない。同じ死因では発動できない。死因が分からないと復活できず、経験は残るが経験値はリセットされる。
「……うーん、思ったより怖いな」
『はい』
「死因を理解しないとダメってことは……」
『偶発的な即死の場合、復活は不可能になることがあります』
見えない呪詛、理解不能の力。
「……初見殺しが一番危険なのか」
苦笑する。
「結局、慎重に生きろってことか……」

次に、《認識転写》――死に戻り後、十五秒間だけ発動可能。経験値が五割未満で、理解したものだけを転写できる。転写前に使っていないスキルは消える。つまり、死ぬ前に試していない力は持ち越せない。
「……なるほど。かなり便利なスキルだな」
また挑め――そう言っているようだ。
ゲームみたいだが、痛みは現実だ。



翌朝、森の中を歩く。
慎重に。
少しずつ。

《波長理解》を流すと、もう慣れてきた揺らぎが視界に広がる。
木々の奥に、複数の魔力反応。
「多い……」
『小型個体が七匹です』
「七……!?」
息を潜めて後退する。今は戦うべきではない。魔物たちは追ってこない。
『賢明です』
「死に戻りがあるからって、死に急ぐ理由はないもんね」

森の奥へ進むと、開けた丘に黒い石柱が立っている。触れると、びり、と微かな振動が伝わる。
『高濃度魔力反応です』
「これの仕業なのか?」
魔物は濃度の高い魔力の物に吸い寄せられる。その濃度が高ければ高いほど強い魔物が生まれる。
この島はいったい、なんなんだ。

ふと、違和感。山の方角を《波長理解》で見やると、昨日見た空間の裂け目のような巨大な揺らぎがある。視線がこちらを見つめている。しかし襲ってはこない。試されているような感覚だ。
「あれは……どうがんばっても無理だ」
拳を握る。焦らない。死ねば強くなれる。しかし、無駄死には燃料の浪費だ。
理解してから死ね。
理解してから転写しろ。
それが、この力の本質だ。

森の奥で、昨日の狼型魔物を見つける。
白灰の毛並み。昨日、肉を受け取った個体だ。

今度はこちらから声をかける。
「昨日の肉、美味かった?」
狼は警戒しながらも、こちらを見る。

沈黙。

『補足します。《波長理解》の継続使用により、魔力波長の読み取り精度が向上しています。相手の意図をより深く拾えるようになっています』

なるほど。昨日は「肉をくれ」程度しか拾えなかった。今は、もう少し複雑な何かが届く気がする。

狼は、やがてぽつりと呟く。
「ここは、落ちた者の島」
胸がざわつく。
「落ちた?」
「選ばれ、捨てられ、流れ着く場所」
それ以上は語らず、森の奥へ消えていった。

落ちた者の島。選ばれ、捨てられた者の居場所。
「……帰れるのか、僕は」
『不明です』
即答。嘘はつかない。だが、希望も保証しない。

カルドは山を見上げる。あそこに、この島の答えがあるのだろう。
「……まずは、生き延びる」
理解を積み、再構築の準備を整える。
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