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第一章 クリスマスと藁人形
風悟と桃③
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桃は、式神なのに自分の意思を持っている。
術者が作った形を借りて具現化し、使役が終わったら依り代に戻るか消滅する……わけではない。
桃はずっと形を保ち、さらには主である陰陽師に恋をしているのだ。
厳密に言えば、現在の主の息子に、であるが。
「要は、佐々木家の男の顔が好みっちゅうわけやな。知らんけど」
正嗣は今日も早朝から社務所でお札の整理をしている。そして、近年とみに需要が増えた御朱印帳セット用に新たな棚を導入したばかりなので、その置場所を思案していた。
桃は、カラフルな御朱印帳を手に取る。
「神社ガールね」
「そういうとこだけ横文字なんやな」
「固有名詞は尊重すべきよ」
ちなみに御朱印帳は三種類用意しているが、人気なのは桃に似せた女の神様が表紙のもので、正嗣が筆で描いた絵がもとになっている。購入者層は男性が多い、と思いきや、女性人気がやや勝っていた。
「なんやこれ持って神社巡っとったら、片思いが実った
ーいう投稿があったらしくてな」
「絵馬にでも書いてあったの?」
「インスタや。俺の絵は映えるらしい」
「ふうん」
「モデルがええんやろな」
「……おだてても、何も出ないわよ」
「事実やろ。桃は可愛い」
柔和な顔でほめ殺しをする正嗣を、桃はじっと見た。そして、白い両腕をあげてファイティングポーズをとる。
「消える羽目になっても、知らんで」
あくまでも笑顔のまま、数学教師でもある宮司は物騒なセリフを口にした。
「それが使役している式神に向かって言う言葉かしら?」
「俺がお前の本体を焼いたら一発でアウトやろ」
「焼く気なんてないくせに」
「そうやな。おかあちゃんに怒られたら、かなわんからな。婿入りまでして一緒になったのに、嫌われとうない」
おかあちゃん、というのは、正嗣の妻、すなわち風悟の母である。
「ラブラブね」
「一途と言わんか。情緒がないのう」
桃はため息をつく。
「で? 今日、私は風悟と仕事をすればいいのね?」
「そうや。俺は今日学校行かなあかんからな。風悟は大学が休みやし、バイトもまあどうにかなるやろ」
「まだ冬休みじゃなかったんだっけ」
「試験休みだっただけや。まあ冬休み言うても、うちの年末年始は忙しいからな」
そこで正嗣はにやっと笑い、手のひらを上に向けて親指と人差し指で丸をつくる。
「稼ぎ時や」
一般参拝者の、祈祷代や賽銭のことである。婿だから明け透けなく言えるのか、普段の柔和な顔より守銭奴のような表情のほうが正嗣の本性なのだろうと、既に二十年もの付き合いになる桃にはわかっていた。
「風悟の性格は母親似よね」
「わからんで。佐々木の家のもんは豪胆で一本気、言い方変えたら不器用っちゅうことやからな。風悟は、じいちゃんより、はるかに口が上手いやろ。まあそれだからお前もやきもきするんやろが」
桃は唇を尖らせる。
「それよりどうや、御朱印帳の新作案。お前のひらひらした着物を生かしてな、人魚姫っぽくしてみた」
正嗣が差し出した和紙には、さらさらと筆で女の神様が描かれており、それを見た桃は、うーんと唸る。
「アリエルってことならまあ許してあげるわ」
「髪型だけならエルサやろ」
「このほうが動きやすいのよ」
「風悟のいまの彼女は、髪おろしてるなあ」
ん、と桃は一瞬黙る。
「難儀やの」
再び、守銭奴から温厚な数学教師に戻った現在の主の顔を、桃はいまいましく睨み付けた。
術者が作った形を借りて具現化し、使役が終わったら依り代に戻るか消滅する……わけではない。
桃はずっと形を保ち、さらには主である陰陽師に恋をしているのだ。
厳密に言えば、現在の主の息子に、であるが。
「要は、佐々木家の男の顔が好みっちゅうわけやな。知らんけど」
正嗣は今日も早朝から社務所でお札の整理をしている。そして、近年とみに需要が増えた御朱印帳セット用に新たな棚を導入したばかりなので、その置場所を思案していた。
桃は、カラフルな御朱印帳を手に取る。
「神社ガールね」
「そういうとこだけ横文字なんやな」
「固有名詞は尊重すべきよ」
ちなみに御朱印帳は三種類用意しているが、人気なのは桃に似せた女の神様が表紙のもので、正嗣が筆で描いた絵がもとになっている。購入者層は男性が多い、と思いきや、女性人気がやや勝っていた。
「なんやこれ持って神社巡っとったら、片思いが実った
ーいう投稿があったらしくてな」
「絵馬にでも書いてあったの?」
「インスタや。俺の絵は映えるらしい」
「ふうん」
「モデルがええんやろな」
「……おだてても、何も出ないわよ」
「事実やろ。桃は可愛い」
柔和な顔でほめ殺しをする正嗣を、桃はじっと見た。そして、白い両腕をあげてファイティングポーズをとる。
「消える羽目になっても、知らんで」
あくまでも笑顔のまま、数学教師でもある宮司は物騒なセリフを口にした。
「それが使役している式神に向かって言う言葉かしら?」
「俺がお前の本体を焼いたら一発でアウトやろ」
「焼く気なんてないくせに」
「そうやな。おかあちゃんに怒られたら、かなわんからな。婿入りまでして一緒になったのに、嫌われとうない」
おかあちゃん、というのは、正嗣の妻、すなわち風悟の母である。
「ラブラブね」
「一途と言わんか。情緒がないのう」
桃はため息をつく。
「で? 今日、私は風悟と仕事をすればいいのね?」
「そうや。俺は今日学校行かなあかんからな。風悟は大学が休みやし、バイトもまあどうにかなるやろ」
「まだ冬休みじゃなかったんだっけ」
「試験休みだっただけや。まあ冬休み言うても、うちの年末年始は忙しいからな」
そこで正嗣はにやっと笑い、手のひらを上に向けて親指と人差し指で丸をつくる。
「稼ぎ時や」
一般参拝者の、祈祷代や賽銭のことである。婿だから明け透けなく言えるのか、普段の柔和な顔より守銭奴のような表情のほうが正嗣の本性なのだろうと、既に二十年もの付き合いになる桃にはわかっていた。
「風悟の性格は母親似よね」
「わからんで。佐々木の家のもんは豪胆で一本気、言い方変えたら不器用っちゅうことやからな。風悟は、じいちゃんより、はるかに口が上手いやろ。まあそれだからお前もやきもきするんやろが」
桃は唇を尖らせる。
「それよりどうや、御朱印帳の新作案。お前のひらひらした着物を生かしてな、人魚姫っぽくしてみた」
正嗣が差し出した和紙には、さらさらと筆で女の神様が描かれており、それを見た桃は、うーんと唸る。
「アリエルってことならまあ許してあげるわ」
「髪型だけならエルサやろ」
「このほうが動きやすいのよ」
「風悟のいまの彼女は、髪おろしてるなあ」
ん、と桃は一瞬黙る。
「難儀やの」
再び、守銭奴から温厚な数学教師に戻った現在の主の顔を、桃はいまいましく睨み付けた。
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