うつしみひとよ〜ツンデレ式神は跡取り陰陽師にベタ惚れです!〜

ロジーヌ

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第一章 クリスマスと藁人形

人魚姫②

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 映画が始まった。
 人魚姫の、淡い恋の話を熱心に見るのは女子だけかと思いきや、案外、男子も真剣に見ている。
「昔、これ見て泣いたってはなし、なんとなく思い出したわ。助けた本人が報われないっていう理不尽なのが子ども心に嫌やったんかもやけど、恋愛が成就するかは別やな。人間同士も結ばれない場合があるから仕方ないよなあ……」
「実感こもってるわね」
「タイムリーやしな。ああ、俺だけやなく、正太郎さんも……」

 それからしばらく、二人は静かに映画を見た。
「結局は、自分が身を引くほうを選ぶんやからなあ……女は強いな」
「好きな人を傷つけるより、潔いわよ。内田さんみたいに皆に優しい人は、皆を傷つける場合もあるもの」
「正太郎さんのほうが、よっぽど男前やな」
「性格と性差は関係ないわよ」
「人か、そうでないかも関係ないしなあ」
 そう言って風悟は、ふと考える仕草をする。
「そもそも、式神に性別はあるんやろか」
「なによ突然」
「桃は」
「うん」
 ああ、いや……と風悟は少し黙り、言葉を探る。
「桃の木は、邪気を祓うんや。祓うっちゅうか、浄化というか」
 境内にも桃の木はある。神社は元々は山なので、自生のものかあとから植えたか移植したのか定かでないが、春先に芽吹く姿は参拝客を癒している。
「たまに、神社に変なの迷いこむやろ。あれ、親父が結界緩めとるんや。桃はただ使役される式神と違って、もとは土地神か何かやないかと思う。そやから、本家が縛りつけてる桃の本体を、どこぞの悪鬼が壊してくれんかな、て。まあ桃は、その悪鬼も浄化してしまうんやけど……」
「……考えたことなかったわ」
「親父は本家が嫌いやから、なんか調べたんかもな。で、桃を解放してやりたいんやけど、元は分家やし、なんか不都合あるみたいで。ほんまは俺ができたらいいけど、力不足で無理やから……」
 映画は終盤に差し掛かる。人魚姫が、恋した王子を殺すか、泡になる運命を選ぶか。

「泡になって消えるなら、最初から出会わんほうが良かったとかは、思わんのやろか」
「どうかしらね」
「消えんでも、叶わん恋のまま何百年も縛られるのもなあ」
 あら、と桃は風悟を見上げる。
「好きな相手の近くにずっといられるのは、そう悪いことでもないわよ」
 余裕と茶目っ気のある言い方は、桃が見た目よりはるかに長い間ひとの世を見てきた事実を、風悟に改めて想起させた。
「ここから離れたいとは、思わんのか?」
「どうして?」
 苦笑した風悟に、桃は、努めて気軽に問いかける。
「風悟は、神社から出たいと思う?」

 風悟は、正嗣が陰陽師と高校教師という両面において地域の古老から受け入れられている現状を考える。神秘的な事象が自然と受け入れられた時代から存在する神社では、昨日のようなことも至って日常的なのだ。
 そして、風悟が陰陽師家系に生まれなければ霊感はなかったのか、という仮定は無意味であり、桃を疎ましく思ったこともない。
 体感として、神社の息子である自分の境遇を恨んだことは、風悟には無かった。
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