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第一章 クリスマスと藁人形
人魚姫③
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「いや、俺は……なんやかんや、ここが居場所なんやと思う。親や、桃がいる、ここが」
戸惑いながらも当たり前すぎることを改めて口にした風悟に、じゃあ、と桃は笑う。
「私は、ずっと風悟の隣にいられるってことね」
「……そうやな」
もし消えたら。もし生まれ変わったら。
そう不確かな可能性にすがるより、今、自分の気持ちに従っている桃が、正太郎の毅然とした姿と重なり、風悟も頷く。
映画が終わったと同時に、スマホが鳴った。軽快で力強い、洋楽の着信音に驚いた子供らが風悟を見る。風悟は一旦スマホを切り、慌てて廊下にでた。
「親父や。さすが映画の上映時間をきっちり計算しとるな」
再度、着信音が鳴る。
「レディー・ガガね」
「せや。born this wayな」
電話に出ると、聞こえてきたのは陽気な正太郎の声だった。風悟の失恋を正嗣に聞き、クリスマスを店で過ごさないかという誘いを、風悟はありがたく受けた。
「金は親父から貰ってくださいね」
「いやいや、俺らは、先生からは金とられん。ツケとくから、頑張って独り立ちしたら払ってくれ」
「えー……⁈」
「利息は計算しとくからな」
正太郎の声に、冗談だよという内田の笑い声が重なる。背後から聞こえる女性の声は、牧村だろうか。
「行くか」
サンタの格好をした中村に挨拶をし、風悟は表へ出る。
途中、社務所にいる母に外出する旨を伝えた際、御朱印帳が目に入った。隣に積んであるのは絵馬だ。こちらも、恋愛成就の祈願を書きこむ女性に好評である。
「やっぱり、ご利益はあるんやろか、なあ?」
「なんや?」
母は、きりっとした顔を息子に向ける。いや、なんでも、と、風悟は母によく似た笑顔を返した。
「ああ、風悟。まーちゃんにな、これ持っていって。内田君にクリスマスプレゼント」
風呂敷に包まれた一升瓶を受け取りながら、風悟はまーちゃんと呼ばれて返事をする父を思い浮かべる。そう、桃が正嗣をまーちゃんと呼ぶのは、母がそう呼ぶからなのだ。
「おかん、神社の一人娘ってな。しんどくなかったか」
「なんや藪から棒に」
「親父と大恋愛やったって聞いたで」
「桃か」
母は笑う。
「まあ、ここに生まれたからまーちゃんに会えたんやし、結果オーライやろ」
「軽いな」
「うだうだ考えとるとな、悪いもんに付け入られる」
「そやなあ……」
さすがは陰陽師家系だ。昔々は、悩んでいる隙に命を落とす危険があったかもしれないのだ。そういう気質だから代々この家業をやれるのか、と風悟は納得する。そして手土産を持ち直し桃の気配を探っている息子の背中に、母が声をかけた。
「憑きものが落ちたような顔しとるな。ええことや」
境内を少し歩いて、鳥居が見えたあたりで桃が現れた。冬の日暮れは早く、すでに視界は暗いが、闇夜は異形が紛れるのには都合が良い。
立ち止まった風悟の手元を、桃が覗きこむ。
「クリスマスなのに、清酒?」
「樽酒よりええやろ」
「色気が無いわね」
「風情はあるで」
風悟が明るく笑い、桃も笑顔で着物の裾を翻す。
街頭に照らされ地に落ちる影は、人である風悟のものだけだが、二人は寄り添いながら、ゆっくりと歩きだした。
了
戸惑いながらも当たり前すぎることを改めて口にした風悟に、じゃあ、と桃は笑う。
「私は、ずっと風悟の隣にいられるってことね」
「……そうやな」
もし消えたら。もし生まれ変わったら。
そう不確かな可能性にすがるより、今、自分の気持ちに従っている桃が、正太郎の毅然とした姿と重なり、風悟も頷く。
映画が終わったと同時に、スマホが鳴った。軽快で力強い、洋楽の着信音に驚いた子供らが風悟を見る。風悟は一旦スマホを切り、慌てて廊下にでた。
「親父や。さすが映画の上映時間をきっちり計算しとるな」
再度、着信音が鳴る。
「レディー・ガガね」
「せや。born this wayな」
電話に出ると、聞こえてきたのは陽気な正太郎の声だった。風悟の失恋を正嗣に聞き、クリスマスを店で過ごさないかという誘いを、風悟はありがたく受けた。
「金は親父から貰ってくださいね」
「いやいや、俺らは、先生からは金とられん。ツケとくから、頑張って独り立ちしたら払ってくれ」
「えー……⁈」
「利息は計算しとくからな」
正太郎の声に、冗談だよという内田の笑い声が重なる。背後から聞こえる女性の声は、牧村だろうか。
「行くか」
サンタの格好をした中村に挨拶をし、風悟は表へ出る。
途中、社務所にいる母に外出する旨を伝えた際、御朱印帳が目に入った。隣に積んであるのは絵馬だ。こちらも、恋愛成就の祈願を書きこむ女性に好評である。
「やっぱり、ご利益はあるんやろか、なあ?」
「なんや?」
母は、きりっとした顔を息子に向ける。いや、なんでも、と、風悟は母によく似た笑顔を返した。
「ああ、風悟。まーちゃんにな、これ持っていって。内田君にクリスマスプレゼント」
風呂敷に包まれた一升瓶を受け取りながら、風悟はまーちゃんと呼ばれて返事をする父を思い浮かべる。そう、桃が正嗣をまーちゃんと呼ぶのは、母がそう呼ぶからなのだ。
「おかん、神社の一人娘ってな。しんどくなかったか」
「なんや藪から棒に」
「親父と大恋愛やったって聞いたで」
「桃か」
母は笑う。
「まあ、ここに生まれたからまーちゃんに会えたんやし、結果オーライやろ」
「軽いな」
「うだうだ考えとるとな、悪いもんに付け入られる」
「そやなあ……」
さすがは陰陽師家系だ。昔々は、悩んでいる隙に命を落とす危険があったかもしれないのだ。そういう気質だから代々この家業をやれるのか、と風悟は納得する。そして手土産を持ち直し桃の気配を探っている息子の背中に、母が声をかけた。
「憑きものが落ちたような顔しとるな。ええことや」
境内を少し歩いて、鳥居が見えたあたりで桃が現れた。冬の日暮れは早く、すでに視界は暗いが、闇夜は異形が紛れるのには都合が良い。
立ち止まった風悟の手元を、桃が覗きこむ。
「クリスマスなのに、清酒?」
「樽酒よりええやろ」
「色気が無いわね」
「風情はあるで」
風悟が明るく笑い、桃も笑顔で着物の裾を翻す。
街頭に照らされ地に落ちる影は、人である風悟のものだけだが、二人は寄り添いながら、ゆっくりと歩きだした。
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