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第二章 茅の輪くぐりで邪気払い
牛鬼①
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明日、6月30日の大祓を控えて、佐々木家は忙しくしていた。風悟は大学、正嗣は勤め先の高校が終わって、夕方からの神事となる。屋台は灯りの準備をしており、賑やかだ。
「ごめん、ちーちゃん。見つかんなかったわぁー」
そう言い千景に謝るのは、ネネコだ。水かきに水滴が残っているのか、ぱちんと手を合わせた拍子にしぶきが飛んだ。
「牛鬼か……そもそも祠がちょっと壊れたくらいではようよう悪鬼に戻ると思えんのやが…境内はそもそも結界あるしな。茅の輪くぐりで溜まった邪気にあてられたか……」
「あ」
桃は、以前小さな邪気が境内にいた時、風悟が言っていたことを思い出した。正嗣がわざと結界を緩めている、と。
(これは千景に言っちゃ、まずいわよね……)
なんや?と振り向く千景に、ううん、と首を振り誤魔化す。
「とにかく、このまま神楽まで何事もなければ良いのよね。まーちゃんから式神借りてるから、当座は私がしのぐわ」
「ひゅー!桃、やるじゃん~」
桃が袖から出した護符を見て、ネネコは口笛を吹く。だが河童の口なので上手く吹けず、気の抜けた音が響いた。
夏の16時はまだ明るいので、幼児も自由にそこら歩きまわっている。桃が見渡すと、先日来ていた親子連れが今日もいた。
「あー、また葦抜いてんじゃーん。しつけってさ、ほんとダイジィー」
呆れたネネコの声を背中に聞き、千景は前よりも厳しい顔つきで親子に近づく。葦を抜かないよう、再度注意したが「子供のすることを」と聞かない。母親苛立って言った。
「だって、神社のものってお下がりって言うやないですか。これだってお下がりでもろうても大丈夫じゃないの?」
確かに節分で撒く豆などは、お下がりといい持ち帰ると良いとされる。しかしこれは茅の輪の葦だ。
「……これは、皆さんが厄を落とすために潜るもんです。要は、潜って落とされた厄が溜まったもんなんですよ。そんなもん持ち帰るって、厄を何倍にもして貰うんと一緒なんです。わかります?」
大きい猫目の、キリッとした顔立ちの千景は、真面目な顔をすると本人の気持ち以上に迫力が増す。親子は気圧されながらも、ぶつぶつと文句を言って去って行った。
親子が去り際に捨てて行った葦を拾い、千景は溜め息をつく。
「千景、こういうのって気のせいじゃないの?」
桃がその手元を覗き込み、手を伸ばす。すると、葦は溶けるように消えてしまった。
「……あら?」
「小さいもんやから、桃が浄化したんやな。確かに人の厄は目に見えん。けどな、知らずにまとった不安や邪念も、集まればかなりのエネルギーになるんや。前回はまだ茅の輪を置いてそんな経ってなかったけど、大祓えの頃だと、それなりになるからな……」
「さっすがちーちゃん!相変わらずみえてるぅー!」
ネネコがそう言い、千景の肩をバンバンと叩く。飛んだ飛沫を軽く払いながら、千景は本殿を見た。
「まーちゃんが帰ってくるまで、なんもなければ良いけどな……」
そこに、千景呼ぶ声がした。神楽の打ち合わせをしたいという、中村の声だ。
衣装と武具を身につけた踊り手が2人、社務所にいる。1人はベテランの三芳、もう1人は若手の徳田だ。
「こっちは慣れないとこもありますが、精一杯努めさしますんで」
中村さんが言うと、徳田がぎこちなく頭を下げる。あとは正嗣が帰ってくるのを待つだけだ。
「パパー!」
幼児の声で、徳田が振り向いて手を振る。
「あれ、さっきの…」
半開きの社務所の戸から見えたのは、葦を引き抜いていた、親子だ。
「ごめん、ちーちゃん。見つかんなかったわぁー」
そう言い千景に謝るのは、ネネコだ。水かきに水滴が残っているのか、ぱちんと手を合わせた拍子にしぶきが飛んだ。
「牛鬼か……そもそも祠がちょっと壊れたくらいではようよう悪鬼に戻ると思えんのやが…境内はそもそも結界あるしな。茅の輪くぐりで溜まった邪気にあてられたか……」
「あ」
桃は、以前小さな邪気が境内にいた時、風悟が言っていたことを思い出した。正嗣がわざと結界を緩めている、と。
(これは千景に言っちゃ、まずいわよね……)
なんや?と振り向く千景に、ううん、と首を振り誤魔化す。
「とにかく、このまま神楽まで何事もなければ良いのよね。まーちゃんから式神借りてるから、当座は私がしのぐわ」
「ひゅー!桃、やるじゃん~」
桃が袖から出した護符を見て、ネネコは口笛を吹く。だが河童の口なので上手く吹けず、気の抜けた音が響いた。
夏の16時はまだ明るいので、幼児も自由にそこら歩きまわっている。桃が見渡すと、先日来ていた親子連れが今日もいた。
「あー、また葦抜いてんじゃーん。しつけってさ、ほんとダイジィー」
呆れたネネコの声を背中に聞き、千景は前よりも厳しい顔つきで親子に近づく。葦を抜かないよう、再度注意したが「子供のすることを」と聞かない。母親苛立って言った。
「だって、神社のものってお下がりって言うやないですか。これだってお下がりでもろうても大丈夫じゃないの?」
確かに節分で撒く豆などは、お下がりといい持ち帰ると良いとされる。しかしこれは茅の輪の葦だ。
「……これは、皆さんが厄を落とすために潜るもんです。要は、潜って落とされた厄が溜まったもんなんですよ。そんなもん持ち帰るって、厄を何倍にもして貰うんと一緒なんです。わかります?」
大きい猫目の、キリッとした顔立ちの千景は、真面目な顔をすると本人の気持ち以上に迫力が増す。親子は気圧されながらも、ぶつぶつと文句を言って去って行った。
親子が去り際に捨てて行った葦を拾い、千景は溜め息をつく。
「千景、こういうのって気のせいじゃないの?」
桃がその手元を覗き込み、手を伸ばす。すると、葦は溶けるように消えてしまった。
「……あら?」
「小さいもんやから、桃が浄化したんやな。確かに人の厄は目に見えん。けどな、知らずにまとった不安や邪念も、集まればかなりのエネルギーになるんや。前回はまだ茅の輪を置いてそんな経ってなかったけど、大祓えの頃だと、それなりになるからな……」
「さっすがちーちゃん!相変わらずみえてるぅー!」
ネネコがそう言い、千景の肩をバンバンと叩く。飛んだ飛沫を軽く払いながら、千景は本殿を見た。
「まーちゃんが帰ってくるまで、なんもなければ良いけどな……」
そこに、千景呼ぶ声がした。神楽の打ち合わせをしたいという、中村の声だ。
衣装と武具を身につけた踊り手が2人、社務所にいる。1人はベテランの三芳、もう1人は若手の徳田だ。
「こっちは慣れないとこもありますが、精一杯努めさしますんで」
中村さんが言うと、徳田がぎこちなく頭を下げる。あとは正嗣が帰ってくるのを待つだけだ。
「パパー!」
幼児の声で、徳田が振り向いて手を振る。
「あれ、さっきの…」
半開きの社務所の戸から見えたのは、葦を引き抜いていた、親子だ。
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