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第二章 茅の輪くぐりで邪気払い
牛鬼②
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どうやら舞手の徳田の家族らしい。徳田の妻は、まだ不機嫌そうである。
「注意されたんがそんなに気に触ったんやろか…」
千景が言うと、桃がううん、と否定する。
「それ原因ではないっぽいのよね。ねえネネコ?」
「そうそうー、あっしは、夫婦喧嘩じゃないかなぁって思うんだよねー」
「神社まで来て喧嘩……」
呆れた千景の脇を、桃が小突く。
「千景は家が神社なのに夫婦喧嘩してるじゃない……」
「え?ちーちゃん、そーなのぉ?」
「いやそんなしょっちゅうしとる訳やないやろ……」
ネネコと桃はその場の他の人間には見えないので、小突かれてもできるだけ平静を装いながら、千景は反論しようとする。しかしモゴモゴ語尾が不明瞭になってしまう。
「あー、ちーちゃん、図星ぃー」
さらにネネコがからかい、千景もポーカーフェイスを崩した。きゃは!とネネコが笑い、千景も苦笑する。
「なんか、懐かしいなぁ……ネネコとよく、恋愛のハナシしとったな」
千景が川で過ごした中学生時代を思い出していると、後ろから聞き慣れた声がした。正嗣が帰宅し、準備をして来たのである。
「なんやネネコもおったんか。間違って祓われんようにな」
「えー、マー坊に祓われるなら本望かもー」
「ネネコ……」
呆れた桃は、正嗣と同じ頃に帰宅したらしき風悟の姿を見つけ、嬉しそうに飛んで行った。風悟も白衣袴に着替えており、遠くから女子高生に「あの人、カッコいいー」などといわれている。
「相変わらずね」
「いつものことや」
「人間は謙虚さを忘れちゃいけないのよ」
「そう言われたかて、顔かたちなんて遺伝やしなあ。そういう桃かてこの顔が好きなんやろ?」
あら、と桃はうそぶく。
「顔が好みなだけで何百年も一緒にいるほど、子供じゃないわよ」
千景が遠巻きに息子と式神の様子を眺めていると、社務所の奥の座敷から呼ばれた。じき本番である。千景は徳田の妻子を手招きした。しかめ面のままだが、妻も一礼をして社務所に入って来た。
「よく見える場所を用意しておきますんで、パパのかっこいい姿を近くで見せてやって下さい」
そう言われ、子供はうれしそうだ。
神楽は邪気祓いの一環であり、正嗣も祝詞をあげる。だが今回はそれだけでなく、牛鬼の本体が現れる可能性も考えて式神も仕込んでいる。牛鬼の祠は簡単に修復したが、肝心の本体が未だわからないのだ。
「牛鬼はもともと、人に悪さしたり家畜を食う妖怪や。魚食っとるくらいならまあええが……とにかく風悟も桃も、用心してな」
そうして、神楽が始まった。薄暗い中、篝火が幻想的な雰囲気を作る。
三芳が鬼、徳田が武士の役割で、悪鬼退治の舞だ。2人は練習の時よりも数段上手に踊っており、手にした武具を軽々と振り下ろす徳田と、それを見事にかわす三芳を、参拝者は時折拍手を交えながら観入っていた。
「ん……」
千景が、三芳を見た。先ほど見ていた気配と、何か違うのだ。
「なんや……人ではない……あれは……」
そう思い隣にいる風悟に目配せすると、風悟も同じことを考えていたらしい。そこに、水の匂いがした。ネネコだ。
「ねえ、あれ違う人なんだけどぉー。三芳って人?裏で襦袢のまま気絶してたしぃ」
「えっ?」
風悟は中座して裏に向かう。その間にも神楽は進み、三芳ではない舞手は、徳田の攻撃を交わしながら時折反撃もしている。千景は正嗣と目が合った。正嗣はすでに気づいており、祝詞と式神を使役する文言を交互に唱えている。
「……牛鬼か!」
三芳になり変わって鬼の扮装をしているのは、本物の牛鬼であった。
「注意されたんがそんなに気に触ったんやろか…」
千景が言うと、桃がううん、と否定する。
「それ原因ではないっぽいのよね。ねえネネコ?」
「そうそうー、あっしは、夫婦喧嘩じゃないかなぁって思うんだよねー」
「神社まで来て喧嘩……」
呆れた千景の脇を、桃が小突く。
「千景は家が神社なのに夫婦喧嘩してるじゃない……」
「え?ちーちゃん、そーなのぉ?」
「いやそんなしょっちゅうしとる訳やないやろ……」
ネネコと桃はその場の他の人間には見えないので、小突かれてもできるだけ平静を装いながら、千景は反論しようとする。しかしモゴモゴ語尾が不明瞭になってしまう。
「あー、ちーちゃん、図星ぃー」
さらにネネコがからかい、千景もポーカーフェイスを崩した。きゃは!とネネコが笑い、千景も苦笑する。
「なんか、懐かしいなぁ……ネネコとよく、恋愛のハナシしとったな」
千景が川で過ごした中学生時代を思い出していると、後ろから聞き慣れた声がした。正嗣が帰宅し、準備をして来たのである。
「なんやネネコもおったんか。間違って祓われんようにな」
「えー、マー坊に祓われるなら本望かもー」
「ネネコ……」
呆れた桃は、正嗣と同じ頃に帰宅したらしき風悟の姿を見つけ、嬉しそうに飛んで行った。風悟も白衣袴に着替えており、遠くから女子高生に「あの人、カッコいいー」などといわれている。
「相変わらずね」
「いつものことや」
「人間は謙虚さを忘れちゃいけないのよ」
「そう言われたかて、顔かたちなんて遺伝やしなあ。そういう桃かてこの顔が好きなんやろ?」
あら、と桃はうそぶく。
「顔が好みなだけで何百年も一緒にいるほど、子供じゃないわよ」
千景が遠巻きに息子と式神の様子を眺めていると、社務所の奥の座敷から呼ばれた。じき本番である。千景は徳田の妻子を手招きした。しかめ面のままだが、妻も一礼をして社務所に入って来た。
「よく見える場所を用意しておきますんで、パパのかっこいい姿を近くで見せてやって下さい」
そう言われ、子供はうれしそうだ。
神楽は邪気祓いの一環であり、正嗣も祝詞をあげる。だが今回はそれだけでなく、牛鬼の本体が現れる可能性も考えて式神も仕込んでいる。牛鬼の祠は簡単に修復したが、肝心の本体が未だわからないのだ。
「牛鬼はもともと、人に悪さしたり家畜を食う妖怪や。魚食っとるくらいならまあええが……とにかく風悟も桃も、用心してな」
そうして、神楽が始まった。薄暗い中、篝火が幻想的な雰囲気を作る。
三芳が鬼、徳田が武士の役割で、悪鬼退治の舞だ。2人は練習の時よりも数段上手に踊っており、手にした武具を軽々と振り下ろす徳田と、それを見事にかわす三芳を、参拝者は時折拍手を交えながら観入っていた。
「ん……」
千景が、三芳を見た。先ほど見ていた気配と、何か違うのだ。
「なんや……人ではない……あれは……」
そう思い隣にいる風悟に目配せすると、風悟も同じことを考えていたらしい。そこに、水の匂いがした。ネネコだ。
「ねえ、あれ違う人なんだけどぉー。三芳って人?裏で襦袢のまま気絶してたしぃ」
「えっ?」
風悟は中座して裏に向かう。その間にも神楽は進み、三芳ではない舞手は、徳田の攻撃を交わしながら時折反撃もしている。千景は正嗣と目が合った。正嗣はすでに気づいており、祝詞と式神を使役する文言を交互に唱えている。
「……牛鬼か!」
三芳になり変わって鬼の扮装をしているのは、本物の牛鬼であった。
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