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第二章
ハイエースはゆくよどこまでも(1)
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ニイノ古書店での、『侑哉一人店番ウィーク』は、順調に過ぎていった。侑哉は既に二ヶ月あまりをバイトとして過ごしていたので、TシャツGパン姿にふわふわ茶髪パーマで、目付きがやや悪い青年がレジに鎮座する姿も、ニイノ古書店の客にとって見慣れたものとなっている。常連客は店主の甥ということでむしろ温か い目で見てくれるのも、侑哉にとってありがたい。
そして、何より心強いのは花子の存在だ。
「ゆーや、おつかれ~っ」
ピンクのツインテールを揺らし、夏仕様のセーラー服で午後にやってくる花子は、孤独な侑哉にとって、有難い話し相手だ。しかも花子は友義に普段からも頼まれていたのか、慣れている様子で「留守番してるから銀行いってきなよ」などと侑哉に声を掛ける。
そして本を読んだりお茶を飲んだり、雑談をして夕方秋葉原のバイト先へ去っていくのだ。
「あ、そだ。温泉ね、この前言ってた日程で決まりそう。夏休みの臨時バイトさんがシフトに入ってくれることになったから」
代理店主三日目、今日も花子は古書店に来て寛いでいる。岩本の実家である温泉宿ツアーは、八月最初の週で日程調整を試みたが、カフェのシフトが決まるまでは保留になっていた。
「ああ、良かったー。そうだよな、三人一気に休んだら店回んないよな」
カフェのバイト仲間を誘う、という結果を深く考えていなかった侑哉と岩本だが、さすが花子は根回しを怠らない。夏休みに入った大学生や、ライブの隙間時間で稼ぎたいアイドル見習いに個別に声を掛けて、隙なく組まれたシフト表を手に、店長から正当な休みをゲットしたのだ。
花子はスマホのスケジュールとメモアプリを確認する。
「でね、車は静音ちゃんが出してくれるって。ハイエースだから荷物も乗るよ」
「ハイエース?」
静音は確か、「静ねえ」という愛称で親しまれている、23歳の和風美女だ。狐のような目に、切り揃えた前
髪と肩までのストレート黒髪が、人外系の和風キャラコスプレに合うと評判である。
「実家が整備工場なんだよ。私といずみちゃんは免許ないけど、静ねえは普段から乗り慣れてるから一人で全部
運転できるからって」
ははあ、と侑哉は想像した。和風コスとハイエースの取り合わせも、異世界感がでて面白い。
「もう一人は、いずみちゃん?」
名前に聞き覚えがあるが、侑哉はすぐに顔が思い出せない。
「うん、わかる? SFっぽいインカム付けてる子」
「あー、はいはい。茶髪のボブか」
丸顔にまつげの長い大きな目が特徴的ないずみは、ア ンドロイドものにでてきそうな銀基調のボディスーツにミニスカート、そしてへッドセットが定番の姿だ。
侑哉はふと、三人が並んだ姿を想像した。
「もちろん、温泉には私服でいくよね?」
念のため、侑哉は花子に聞いてみる。温泉地にきたご年配の方がSFな服装にびっくりしてひっくり返ったりしたらなんか申し訳ないと思ったからだが、花子は変な質問を、というような顔をして、セーラー服の衿をつまむ。
「うん、私服。これはお店の制服だしね」
「髪も?」
反射的に侑哉はそう聞いたが、花子は首を傾げる。
「うん、髪はこのままだけど。どうして?」
花子のトレードマークであるピンクのツインテールの髪は、地毛なのである。
「いや、まあ、髪は......」
侑哉は口ごもった。学校の修学旅行ではないのだ。そしてこの髪は花子にとっては仕事道具の一つであり、学生が奇抜な身なりのせいでバイトを首になるのとは次元が違う。言ってから気付いた自分の浅慮に、侑哉は軽く自己嫌悪に陥ったが、そんなことに気付かない花子は、岩本が送ってきた宿の写真を見ながら楽しそうに話す。
「ねえねえ、浴衣着て、温泉アニメの一シーンを皆で撮影しようかな。ね、どう?」
「撮影......なのか」
写真を撮るという気軽な響きとは違い、照明まで持ち込みそうなイメージである。
「出張撮影会とかもやってるからさ~。参考写真で店内に貼るの。ねえ、どんなのがいいと思う?」
「なんで俺に聞くんだよ」
「お客さん代表として? というか、オタクさんの意見?」
侑哉は真面目に考えてみる。ちなみに花子のプロポーションは、普通やや細め、くらいだ。だからアニメキャラの格好が似合うのだが、肉が付きやすい体質の子は大変らしい。
「浴衣......温泉なら最近アニメ化された『ゆる☆湯巡り』がいいかもな」
「それそれ。さすが詳しいね~」
コスプレにさほど興味のない侑哉も、ロケーション撮影というシチュエーションにはなんとなくそそられる。
しばらく二人でネット検索にいそしんだ。
「あ、ここ」
花子が指をさしたのは、宿のホームページに載ってい た近隣観光案内だ。「登山・ハイキング」とあり、山の写真が載っている。
「ここ? 山を背景に撮るの?」
「うん、ちょっと行ってみたい」
旅行は二泊三日の予定だ。観光する時間くらいはあるだろう。侑哉はオッケー、とスマホのメモに入力する。
それから二人は、毎日古書店のレジカウンターに向かい合わせで座りながら、スマホで漫画やアニメの画像を検索し、コスプレ撮影に適した構図探しに夢中になった。
かくして、侑哉の一人店番も心細さを感じることなく、むしろのびのび、楽しく、滞りなく、安全に終了したのだった。
そして、何より心強いのは花子の存在だ。
「ゆーや、おつかれ~っ」
ピンクのツインテールを揺らし、夏仕様のセーラー服で午後にやってくる花子は、孤独な侑哉にとって、有難い話し相手だ。しかも花子は友義に普段からも頼まれていたのか、慣れている様子で「留守番してるから銀行いってきなよ」などと侑哉に声を掛ける。
そして本を読んだりお茶を飲んだり、雑談をして夕方秋葉原のバイト先へ去っていくのだ。
「あ、そだ。温泉ね、この前言ってた日程で決まりそう。夏休みの臨時バイトさんがシフトに入ってくれることになったから」
代理店主三日目、今日も花子は古書店に来て寛いでいる。岩本の実家である温泉宿ツアーは、八月最初の週で日程調整を試みたが、カフェのシフトが決まるまでは保留になっていた。
「ああ、良かったー。そうだよな、三人一気に休んだら店回んないよな」
カフェのバイト仲間を誘う、という結果を深く考えていなかった侑哉と岩本だが、さすが花子は根回しを怠らない。夏休みに入った大学生や、ライブの隙間時間で稼ぎたいアイドル見習いに個別に声を掛けて、隙なく組まれたシフト表を手に、店長から正当な休みをゲットしたのだ。
花子はスマホのスケジュールとメモアプリを確認する。
「でね、車は静音ちゃんが出してくれるって。ハイエースだから荷物も乗るよ」
「ハイエース?」
静音は確か、「静ねえ」という愛称で親しまれている、23歳の和風美女だ。狐のような目に、切り揃えた前
髪と肩までのストレート黒髪が、人外系の和風キャラコスプレに合うと評判である。
「実家が整備工場なんだよ。私といずみちゃんは免許ないけど、静ねえは普段から乗り慣れてるから一人で全部
運転できるからって」
ははあ、と侑哉は想像した。和風コスとハイエースの取り合わせも、異世界感がでて面白い。
「もう一人は、いずみちゃん?」
名前に聞き覚えがあるが、侑哉はすぐに顔が思い出せない。
「うん、わかる? SFっぽいインカム付けてる子」
「あー、はいはい。茶髪のボブか」
丸顔にまつげの長い大きな目が特徴的ないずみは、ア ンドロイドものにでてきそうな銀基調のボディスーツにミニスカート、そしてへッドセットが定番の姿だ。
侑哉はふと、三人が並んだ姿を想像した。
「もちろん、温泉には私服でいくよね?」
念のため、侑哉は花子に聞いてみる。温泉地にきたご年配の方がSFな服装にびっくりしてひっくり返ったりしたらなんか申し訳ないと思ったからだが、花子は変な質問を、というような顔をして、セーラー服の衿をつまむ。
「うん、私服。これはお店の制服だしね」
「髪も?」
反射的に侑哉はそう聞いたが、花子は首を傾げる。
「うん、髪はこのままだけど。どうして?」
花子のトレードマークであるピンクのツインテールの髪は、地毛なのである。
「いや、まあ、髪は......」
侑哉は口ごもった。学校の修学旅行ではないのだ。そしてこの髪は花子にとっては仕事道具の一つであり、学生が奇抜な身なりのせいでバイトを首になるのとは次元が違う。言ってから気付いた自分の浅慮に、侑哉は軽く自己嫌悪に陥ったが、そんなことに気付かない花子は、岩本が送ってきた宿の写真を見ながら楽しそうに話す。
「ねえねえ、浴衣着て、温泉アニメの一シーンを皆で撮影しようかな。ね、どう?」
「撮影......なのか」
写真を撮るという気軽な響きとは違い、照明まで持ち込みそうなイメージである。
「出張撮影会とかもやってるからさ~。参考写真で店内に貼るの。ねえ、どんなのがいいと思う?」
「なんで俺に聞くんだよ」
「お客さん代表として? というか、オタクさんの意見?」
侑哉は真面目に考えてみる。ちなみに花子のプロポーションは、普通やや細め、くらいだ。だからアニメキャラの格好が似合うのだが、肉が付きやすい体質の子は大変らしい。
「浴衣......温泉なら最近アニメ化された『ゆる☆湯巡り』がいいかもな」
「それそれ。さすが詳しいね~」
コスプレにさほど興味のない侑哉も、ロケーション撮影というシチュエーションにはなんとなくそそられる。
しばらく二人でネット検索にいそしんだ。
「あ、ここ」
花子が指をさしたのは、宿のホームページに載ってい た近隣観光案内だ。「登山・ハイキング」とあり、山の写真が載っている。
「ここ? 山を背景に撮るの?」
「うん、ちょっと行ってみたい」
旅行は二泊三日の予定だ。観光する時間くらいはあるだろう。侑哉はオッケー、とスマホのメモに入力する。
それから二人は、毎日古書店のレジカウンターに向かい合わせで座りながら、スマホで漫画やアニメの画像を検索し、コスプレ撮影に適した構図探しに夢中になった。
かくして、侑哉の一人店番も心細さを感じることなく、むしろのびのび、楽しく、滞りなく、安全に終了したのだった。
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