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第二章
ハイエースはゆくよどこまでも(2)
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八月。待ちに待った温泉旅行だ。
行き先は岩本の実家であり、当然彼は現地で出迎えてくれるものと、侑哉は思っていた。だが、集合場所である秋葉原駅のロータリーに早朝一番乗りで待っていたのは、誰あろう岩本である。
「おはよう」
ロゴの入った黒のTシャツ、無難なGパン、スニーカー、そして無造作風にセットされた黒髪と、むだに爽やかさを演出しているが、端から見ても岩本が緊張しているのがわかる。侑哉もTシャツGパンといういつもの服装だ。そして隣には、私服姿の花子。白いオフショルダーのカットソーと水色のショートパンツ。そして生足にサンダルが眩しい。
「おす」
普段通りに挨拶をした侑哉だが、岩本に睨まれてしまった。
「岩本さん、おはよ」
そこへ花子が絶妙な角度で首を傾け、心地よいトーンで発声する。少しどぎまぎしながらも笑顔で花子に挨拶を返す岩本に、侑哉は不満をあらわにした。
「なんだよ、俺に対する態度と全然違うじゃん」
「うるせー、なんで一緒にきてんだよ!」
岩本は素に戻って侑哉に文句を言う。
「そこで会っただけだって。第一、お前のいまの推しは違う子だろ」
ラノベ『非モテ』のヒロイン、まりんちゃんのコスプレをする花子に釣られて秋葉原に通うようになった岩本だが、その後大人の魅力溢れる地下アイドルのレイが最推しになり、レイが海外に行ってしまってからは、別のアイドルを追いかけているのだ。岩本は「わかってないな」と首をふる。
「違うんだよ、お前は自分が恵まれてるのをわかってないんだ。オタクでも、イケメンというだけで女子と気軽に話す権利が貰える。モブ顔に生まれた男子の苦悩がわからないんだ」
「なんだそれ」
光属性イケメンの弟と比べて、イケメンと言われたところでモテた記憶がない侑哉は、複雑な心情をあらわに
する。
「第一、岩本は向こうで待っててくれるんじゃなかったのかよ。往復するのも金かかるのに」
「いや。たまたま今週ライブがあって。それに、旅行は道中から既に始まってる、っていう格言を知らないか?」
要は、女子とキャッキャウフフできる時間をスルーしたくない、ということらしい。
「ほらあれ、女子がおやつを分けてくれるかどうかで好意がわかると言うだろ」
「知らん。バナナはおやつに入るのか? てのは知ってる」
「バナナは食事じゃないの? 私よくシリアルに入れるよ」
欧米育ちの花子が不思議そうな顔をした。それこそ文化の違いなのか、年齢の差なのかさだかではない。
侑哉と岩本が花子への返答に困っていると、ロータリーのカーブを綺麗に曲がって、ネイビーのハイエースが
やってきた。
「お待たせ! 岩本さん、お誘いありがとうございます。晴れて良かったですね。おはよう、ティナ。ええと、そっちは侑哉くんよね? お久しぶり! わかる?」
運転席から颯爽と降り立ち、明るくそつなく挨拶をしたのは、肩までの黒髪が似合う和風美人の静音だ。夏だがパープルの長袖シャツを羽織り、運転しやすそうなGパンとオレンジのスニーカーを着こなしている。
「おはようございます。車......ありがとうございます。その、カッコいいですね」
「うん、静ねえカッコいい~」
スタイルの良い静音の私服に、花子も見惚れている。
ちなみに静音は普段もバイトと同じく「ティナ」という名で花子を呼んでいるようだ。
「酔わないように気をつけるけど、心配なら酔い止め飲んでね。いずみちゃんが薬持ってるから」
静音が促すと、いずみは助手席から出て来て、はにかみながら挨拶をした。勿論ヘッドセットを付けていない。
大きめの花柄がプリントされた明るい膝丈ワンピースとサンダルが清楚なイメージを醸し出しているいずみは、カフェでの格好とかけ離れすぎて、これもある意味コスプレのようだ、と侑哉は思った。
そうして、運転は静音、助手席はナビのため岩本が座り、後部座席の前側に花子、後ろに侑哉といずみという席順になった。最後部に皆の荷物をまとめて置いても、車内は余裕があり快適である。
「いずみちゃん、酔いやすいの?」
花子が後ろを向き、やや小声でいずみに聞いた。
「うん、ちょっとね......」
「耳のせい?」
「ううん、それは関係ないと思う」
そしていずみは、ちらっと左に座る侑哉を見た。何かしたかと驚いた侑哉は「俺?」と聞いたが、いずみは笑って首を振る。
「えーとですね......やっぱり席を代わってもらえますか? この位置だと聞きづらいので」
「え?」
するといずみは侑哉に顔を近づけ、さらに上半身の向きを変えた。
「私、左耳が聞こえづらいんです。だから右から話してもらった方が反応できるので。宜しくお願いします」
その後、車は渋滞に巻き込まれることもなく、車内も和気あいあいとした雰囲気で目的地へ向かっていった。
途中、高速道路のサービスエリアで休憩をとった際に、侑哉はずっと運転している静音に缶コーヒーを差し入れ
る。
「ありがと」
静音はサバサバと、しかし優しく礼を言う。山を眺め、伸びをすると、コーヒーを一気に飲み干した。
「楽しい旅行になるといいね」
本心からとわかる静音の言葉に、侑哉は、はい、と返事をした。
行き先は岩本の実家であり、当然彼は現地で出迎えてくれるものと、侑哉は思っていた。だが、集合場所である秋葉原駅のロータリーに早朝一番乗りで待っていたのは、誰あろう岩本である。
「おはよう」
ロゴの入った黒のTシャツ、無難なGパン、スニーカー、そして無造作風にセットされた黒髪と、むだに爽やかさを演出しているが、端から見ても岩本が緊張しているのがわかる。侑哉もTシャツGパンといういつもの服装だ。そして隣には、私服姿の花子。白いオフショルダーのカットソーと水色のショートパンツ。そして生足にサンダルが眩しい。
「おす」
普段通りに挨拶をした侑哉だが、岩本に睨まれてしまった。
「岩本さん、おはよ」
そこへ花子が絶妙な角度で首を傾け、心地よいトーンで発声する。少しどぎまぎしながらも笑顔で花子に挨拶を返す岩本に、侑哉は不満をあらわにした。
「なんだよ、俺に対する態度と全然違うじゃん」
「うるせー、なんで一緒にきてんだよ!」
岩本は素に戻って侑哉に文句を言う。
「そこで会っただけだって。第一、お前のいまの推しは違う子だろ」
ラノベ『非モテ』のヒロイン、まりんちゃんのコスプレをする花子に釣られて秋葉原に通うようになった岩本だが、その後大人の魅力溢れる地下アイドルのレイが最推しになり、レイが海外に行ってしまってからは、別のアイドルを追いかけているのだ。岩本は「わかってないな」と首をふる。
「違うんだよ、お前は自分が恵まれてるのをわかってないんだ。オタクでも、イケメンというだけで女子と気軽に話す権利が貰える。モブ顔に生まれた男子の苦悩がわからないんだ」
「なんだそれ」
光属性イケメンの弟と比べて、イケメンと言われたところでモテた記憶がない侑哉は、複雑な心情をあらわに
する。
「第一、岩本は向こうで待っててくれるんじゃなかったのかよ。往復するのも金かかるのに」
「いや。たまたま今週ライブがあって。それに、旅行は道中から既に始まってる、っていう格言を知らないか?」
要は、女子とキャッキャウフフできる時間をスルーしたくない、ということらしい。
「ほらあれ、女子がおやつを分けてくれるかどうかで好意がわかると言うだろ」
「知らん。バナナはおやつに入るのか? てのは知ってる」
「バナナは食事じゃないの? 私よくシリアルに入れるよ」
欧米育ちの花子が不思議そうな顔をした。それこそ文化の違いなのか、年齢の差なのかさだかではない。
侑哉と岩本が花子への返答に困っていると、ロータリーのカーブを綺麗に曲がって、ネイビーのハイエースが
やってきた。
「お待たせ! 岩本さん、お誘いありがとうございます。晴れて良かったですね。おはよう、ティナ。ええと、そっちは侑哉くんよね? お久しぶり! わかる?」
運転席から颯爽と降り立ち、明るくそつなく挨拶をしたのは、肩までの黒髪が似合う和風美人の静音だ。夏だがパープルの長袖シャツを羽織り、運転しやすそうなGパンとオレンジのスニーカーを着こなしている。
「おはようございます。車......ありがとうございます。その、カッコいいですね」
「うん、静ねえカッコいい~」
スタイルの良い静音の私服に、花子も見惚れている。
ちなみに静音は普段もバイトと同じく「ティナ」という名で花子を呼んでいるようだ。
「酔わないように気をつけるけど、心配なら酔い止め飲んでね。いずみちゃんが薬持ってるから」
静音が促すと、いずみは助手席から出て来て、はにかみながら挨拶をした。勿論ヘッドセットを付けていない。
大きめの花柄がプリントされた明るい膝丈ワンピースとサンダルが清楚なイメージを醸し出しているいずみは、カフェでの格好とかけ離れすぎて、これもある意味コスプレのようだ、と侑哉は思った。
そうして、運転は静音、助手席はナビのため岩本が座り、後部座席の前側に花子、後ろに侑哉といずみという席順になった。最後部に皆の荷物をまとめて置いても、車内は余裕があり快適である。
「いずみちゃん、酔いやすいの?」
花子が後ろを向き、やや小声でいずみに聞いた。
「うん、ちょっとね......」
「耳のせい?」
「ううん、それは関係ないと思う」
そしていずみは、ちらっと左に座る侑哉を見た。何かしたかと驚いた侑哉は「俺?」と聞いたが、いずみは笑って首を振る。
「えーとですね......やっぱり席を代わってもらえますか? この位置だと聞きづらいので」
「え?」
するといずみは侑哉に顔を近づけ、さらに上半身の向きを変えた。
「私、左耳が聞こえづらいんです。だから右から話してもらった方が反応できるので。宜しくお願いします」
その後、車は渋滞に巻き込まれることもなく、車内も和気あいあいとした雰囲気で目的地へ向かっていった。
途中、高速道路のサービスエリアで休憩をとった際に、侑哉はずっと運転している静音に缶コーヒーを差し入れ
る。
「ありがと」
静音はサバサバと、しかし優しく礼を言う。山を眺め、伸びをすると、コーヒーを一気に飲み干した。
「楽しい旅行になるといいね」
本心からとわかる静音の言葉に、侑哉は、はい、と返事をした。
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