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第四章
こたつで練るヒロイン奪還計画(3)
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「へえ。また海外にでも行ってるのかと思ってた」
侑哉の言葉に、違うよ、と母は笑った。
「昔はね、本ばかり読んでるような人だったね。10歳離れてるから、私が物心ついたときは、トモ兄さんも14とか15……高校生にもなったら普通なら親とか妹ともあまり話さないと思うんだけど、部活も入らないで親の店に入り浸ってたの。だから、頭はよかったのね。成績も良くて。大学は店に近いから選んだだけで、そのまま卒業したら実家を継ぐつもりだったみたいだけど、親が「今はダメだ」って言い出して」
「おじいちゃんたちが?」
意外だ、と驚く侑哉と涼介に、うん、と母は頷く。
「きっと、もう少し広い世界を見てほしかったんじゃないかな。それからトモ兄さんも、海外に行ったり、ずいぶんと社交的にもなったよ。まあ......変わり者なのはずっとだけど」
父は酒を飲みながら同意している。
「なんか、意外。ずっとアクティブな人だと思ってた」
涼介はちょっと驚いている。母は息子二人の顔を交互に見てから言葉を継いだ。
「でもそのアクティブな行動の原点も、本なのよ。本を読んで気になった街にでかけたり、体験してみたり。だから、定期的に充電してるような感じね。ああ、昔あんたたちにも、トモ兄さんがなんで結婚しないか聞かれたっけ。兄さん、ずっと独身だけど、あのペースについていける女性がいないのは仕方ないと思うわ」
最後のほうは、母と父がお互いを見て笑いあう。父と友義は義理の仲だが、たまに会うと和やかに喋っているので、父も友義の気質をいくらか若いころから見ており、理解があるのだと侑哉は感じた。
「侑哉は、ともさんに似てるよな」
父が突然言った。酒を飲んでの戯れ言かと侑哉は思ったが、母も同意する。
「ああ、そうなのよ。侑哉は長男気質なのかと思ってたけど......ちょっと妄想気味というか、変なところがなん
か兄さんに似てるのよね。顔は私に似てるのに」
「変って......息子にそんな」
「うーん、悪い意味じゃないのよ。ただ、親としてはもう少し、自分以外のことにも興味を欲しかったんだろうな、って、おじいちゃん達の気持ちがわかってきたっていうか」
「いや、別に他人に興味が全くないわけでもないけどさ」
侑哉はしかし、母の観察眼を否定しきれない。そして、先日の会話を思い出す。古書店の手伝いの際に、岩本の
「侑哉は店を継ぐのか」という言葉を友義が即座に否定したことだ。友義に似てる、と親に言われた侑哉だが、友義自身もそれを感じたからこそ、そう言ったのかもしれない。
「だからさぁ、やっぱりはなちゃんを逃したら、将来きっと独身のままだよ!」
涼介が、ここぞとばかりに援護射撃をしてきた。
「あー、そっか。それはヤバいわ。そう、兄さんの周りに、はなちゃんみたいなオタクに理解ある女子がいたら、 今頃夫婦でお店やってたかもしれないし。ねえ、はなちゃんを海外から連れ戻したほうが良いんじゃないの」
さきほどまでの真面目な口調はいずこへ。ということで母もノッてきた。
「じゃあ、侑哉の今年の目標は、はなちゃんの奪還だな」
父はさらっと涼介と同じことをいう。こちらも親子だ。
そこに涼介が、うなずきながら合いの手を入れた。
「兄ちゃんはさ、勇者だもんな」
ん? と侑哉は、ニヤニヤしている弟の顔を向いた。
ああ、と母は笑っている。
「なに? それ」
「ゆうや、だから、勇者。だよねー?」
母親の言葉に、涼介は小さい子供のように無邪気な口調で言う。
「懐かしいな。侑哉は小学校低学年の頃、ゲームアニメにはまっててなぁ。涼介は幼稚園入るようになったくらいか。勇者登場!って侑哉がポーズ決めるのを見てて」
そこで父親はスマホで当時のアニメを検索する。覚えのある決め台詞は、散々真似したものだ。かっこいい、と親が笑顔で観客になってくれた光景もセットで思い出され、侑哉は恥ずかしいやらくすぐったいような気持ちになる。
「アニメ見て、このゆうしゃって兄ちゃん? てね。しばらく、ゆうやって名前、勇者みたいでいいなーって涼介が羨ましがってたよなあ」
「まあ今は涼介って名前が気に入ってるけどね。でも兄ちゃんさ、ユウヤって名前だからまりんちゃんに会えたんじゃないの?」
「ああそう言えば…ほらなんかあんたの読んでる本の主人公も、ユウヤなんでしょ? ヒロインはなちゃんを奪還する勇者ユウヤなんて、オタクなあんたにぴったりじゃない」
うわあ......と侑哉は思いっきり嫌そうな顔をした。親は別に息子の趣味にあれこれ言うわけでないが、読んでる本=好みを知られるのは地味に恥ずかしい。
そんなこんなで、陽気な家族に新年早々好き勝手いじられた侑哉だが、みなが心配しているのがうれしくもあり、恥ずかしくもあった。しかし。
「......まずは一年後期の試験をがんばります」
現実世界にも、それなりに厳しい試練が待っているのだった。
侑哉の言葉に、違うよ、と母は笑った。
「昔はね、本ばかり読んでるような人だったね。10歳離れてるから、私が物心ついたときは、トモ兄さんも14とか15……高校生にもなったら普通なら親とか妹ともあまり話さないと思うんだけど、部活も入らないで親の店に入り浸ってたの。だから、頭はよかったのね。成績も良くて。大学は店に近いから選んだだけで、そのまま卒業したら実家を継ぐつもりだったみたいだけど、親が「今はダメだ」って言い出して」
「おじいちゃんたちが?」
意外だ、と驚く侑哉と涼介に、うん、と母は頷く。
「きっと、もう少し広い世界を見てほしかったんじゃないかな。それからトモ兄さんも、海外に行ったり、ずいぶんと社交的にもなったよ。まあ......変わり者なのはずっとだけど」
父は酒を飲みながら同意している。
「なんか、意外。ずっとアクティブな人だと思ってた」
涼介はちょっと驚いている。母は息子二人の顔を交互に見てから言葉を継いだ。
「でもそのアクティブな行動の原点も、本なのよ。本を読んで気になった街にでかけたり、体験してみたり。だから、定期的に充電してるような感じね。ああ、昔あんたたちにも、トモ兄さんがなんで結婚しないか聞かれたっけ。兄さん、ずっと独身だけど、あのペースについていける女性がいないのは仕方ないと思うわ」
最後のほうは、母と父がお互いを見て笑いあう。父と友義は義理の仲だが、たまに会うと和やかに喋っているので、父も友義の気質をいくらか若いころから見ており、理解があるのだと侑哉は感じた。
「侑哉は、ともさんに似てるよな」
父が突然言った。酒を飲んでの戯れ言かと侑哉は思ったが、母も同意する。
「ああ、そうなのよ。侑哉は長男気質なのかと思ってたけど......ちょっと妄想気味というか、変なところがなん
か兄さんに似てるのよね。顔は私に似てるのに」
「変って......息子にそんな」
「うーん、悪い意味じゃないのよ。ただ、親としてはもう少し、自分以外のことにも興味を欲しかったんだろうな、って、おじいちゃん達の気持ちがわかってきたっていうか」
「いや、別に他人に興味が全くないわけでもないけどさ」
侑哉はしかし、母の観察眼を否定しきれない。そして、先日の会話を思い出す。古書店の手伝いの際に、岩本の
「侑哉は店を継ぐのか」という言葉を友義が即座に否定したことだ。友義に似てる、と親に言われた侑哉だが、友義自身もそれを感じたからこそ、そう言ったのかもしれない。
「だからさぁ、やっぱりはなちゃんを逃したら、将来きっと独身のままだよ!」
涼介が、ここぞとばかりに援護射撃をしてきた。
「あー、そっか。それはヤバいわ。そう、兄さんの周りに、はなちゃんみたいなオタクに理解ある女子がいたら、 今頃夫婦でお店やってたかもしれないし。ねえ、はなちゃんを海外から連れ戻したほうが良いんじゃないの」
さきほどまでの真面目な口調はいずこへ。ということで母もノッてきた。
「じゃあ、侑哉の今年の目標は、はなちゃんの奪還だな」
父はさらっと涼介と同じことをいう。こちらも親子だ。
そこに涼介が、うなずきながら合いの手を入れた。
「兄ちゃんはさ、勇者だもんな」
ん? と侑哉は、ニヤニヤしている弟の顔を向いた。
ああ、と母は笑っている。
「なに? それ」
「ゆうや、だから、勇者。だよねー?」
母親の言葉に、涼介は小さい子供のように無邪気な口調で言う。
「懐かしいな。侑哉は小学校低学年の頃、ゲームアニメにはまっててなぁ。涼介は幼稚園入るようになったくらいか。勇者登場!って侑哉がポーズ決めるのを見てて」
そこで父親はスマホで当時のアニメを検索する。覚えのある決め台詞は、散々真似したものだ。かっこいい、と親が笑顔で観客になってくれた光景もセットで思い出され、侑哉は恥ずかしいやらくすぐったいような気持ちになる。
「アニメ見て、このゆうしゃって兄ちゃん? てね。しばらく、ゆうやって名前、勇者みたいでいいなーって涼介が羨ましがってたよなあ」
「まあ今は涼介って名前が気に入ってるけどね。でも兄ちゃんさ、ユウヤって名前だからまりんちゃんに会えたんじゃないの?」
「ああそう言えば…ほらなんかあんたの読んでる本の主人公も、ユウヤなんでしょ? ヒロインはなちゃんを奪還する勇者ユウヤなんて、オタクなあんたにぴったりじゃない」
うわあ......と侑哉は思いっきり嫌そうな顔をした。親は別に息子の趣味にあれこれ言うわけでないが、読んでる本=好みを知られるのは地味に恥ずかしい。
そんなこんなで、陽気な家族に新年早々好き勝手いじられた侑哉だが、みなが心配しているのがうれしくもあり、恥ずかしくもあった。しかし。
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現実世界にも、それなりに厳しい試練が待っているのだった。
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