マザーグースは空を飛ぶ

ロジーヌ

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第四章

旅立ちの前は騒がしい

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 そうこうしているうちに、一月から、二月と、侑哉の周りは一気にざわざわし始めた。正月休み・兼実家の手伝いから戻ってきた岩本からもらった温泉まんじゅうは、学友たちへの賄賂となり、ノートのコピーへと形を変えた。侑哉と岩本は、一般教養はあまり被っていないが、岩本が所属しているサークル仲間から情報をもらい、その礼として侑哉は正月に静音さんからもらった特製カードを 岩本に渡す(ちなみに温泉コスプレである)。フランス語にいたっては、同じクラスの女子から「秋月くんと、岩本くんのツーショットを撮らせてくれたら教えてあげる」という謎の交換条件を提示されたが、とにかく後期試験は無事終わった。

 弟の涼介の受験も、滑り止めはなんなくクリアし、本命高校の受験を待つばかりである。本命の私立校もテニスが強いので、それで選んだのかと侑哉は涼介に聞いたが、涼介は違うというのだ。
「部活全般盛んなんだよ。テニス以外にも楽しそうなのがあったら、いろいろやってみたい」
 運動が好きな弟らしい答えだと侑哉は思った。確かに環境が変わり、所属する人数が増えて規模が大きくなると、いろいろな選択肢が増える。大学のサークル規模にいたっては、会社のような他大学合同のものまである。
「おじさんですら、文芸サークルに入ってたっていうもんな」
 そんな団体があふれかえってる環境でも、興味がなかった侑哉は、どんながサークルがあるかもいまいち知らないのだ。

 ニ月頭の試験が終わり、侑哉は久々に古書店に顔を出す。店内の隅には段ボールが積まれており、侑哉が声をかけると、友義がひょっこりと顔をだした。
「お、試験終わったか?」
 友義は年末に引き取った蔵書の整理を、合間をみつけては着々と進めている。以前よりレジ周りは雑然としているが、客が足を運ぶあたりは整頓されているのは、定期的にこういった大口引き取りがある作業慣れなのだろう。侑哉はダウンを脱いで、腕まくりをした。
「おじさん、手伝います」
「悪いね。この分も時給で払うからさ」
 身内だが、こういうところはきっちりしている。なんとなくその律儀さがいまさら気になり聞いてみると、友義は苦笑しながら教えてくれた。
「いやぁ、親父がさ。家の手つだいって名目でタダ働きさせるんだよ。こっちはよそで働けばいくらか本代くらい稼げるのに......まあその分現物支給してもらったりもしたけどさ」
 なるほど、と侑哉は今は栃木で暮らす祖父母を思い浮かべる。経営者が変われば考え方も変わるだろうし、実際、甥の侑哉をただでこき使うのは、友義も気がひけるのかもしれない。
「で、準備は進んだ?」
 手を動かしながら、友義は侑哉に聞いた。旅行のことだ。
「うん。ああ、キャリーバッグ、ありがとう......どのくらいの大きさがいいかわからなくて」
 侑哉はレジ脇におかれたキャリーバッグを確認する。 数日前に鞄の相談をしたのだ。それなら貸すからと、早速用意してくれていたのである。
「一週間くらいならこれで足りると思うよ」
 海外に何度もいってる友義愛用のキャリーバッグは、外装もあじわい深い。ありがとう、と侑哉は再度礼を言う。こういうときは、身内だと気兼ねがない。
「いよいよだなあ。お姫様に会いにいくのは、緊張するか?」
 友義がうきうきしながら言うが、侑哉は辟易した。
「もうさ......なんでみんなそういう言い方すんの。俺とはなちゃんはそんなじゃないって、おじさんが一番よくわかってんじゃん」
「いやあ、俺がもう三十歳若かったら、絶対はなちゃんをお嫁さんにしてるよ。惜しいな。ああ、いまこんなこと冗談でも迂闊に言ったらつかまりそうだから、内緒な」
「そうだね......通報されそうになったんだっけ」
 侑哉は、花子と一緒にいる友義が不審者扱いを受けたという悲しい話を思い出す。それと同時に、「花子みたいな人が友義にもいたら」という、母たちの話も浮かんだ。確かに、友達だとしても、お父さん扱いされたとしても、心許せる相手というのはやはり貴重なのだ。そして、花子はうちにこもりがちな侑哉を、海外に連れ出すきっかけになってくれている。
「楽しみだなあ」
 友義は、まるで自分が旅行にいくかのような顔をしている。
「そうだ。本を何冊か持っていくといいよ。飛行機は夜便だから寝ちゃえばいいけど、待ち時間とか現地で日本語が恋しくなるから、絶対」
 確かにそれはそうだ、と侑哉も感じ、本棚から何冊か物色した。
「そういえば、マザーグースは全部読んだの?」
「うん、ざっとだけど。なんか変な話ばっかだね。意味が通じないっていうか」
 ああ、と友義は笑う。
「あれはね、だからいいんだよ。もともと子守のおばさんが子供あやすために適当に話してるのを集めたようなもんだからね。もう、なんでもあり。ああいうの読むと、人生適当でいいんだって気楽になってくるんだ」
「たしかに」
 侑哉も同意した。どこかで聞いた歌やフレーズもあったが、言葉遊びを楽しむものや、クイズも多い。英語なのに、別の国の言葉のようだ。真面目に変なことを延々と語っているような、そしてそれを読んでいると、なんだかトリップした気持ちになるのだ。
「ファンタジー小説はね、イギリスの学識ある女性が書いて広めていった、という資料があるんだけど」
 うん、と侑哉はあいづちをうつ。
  「空想は害になるって叩かれたりもしてるんだ。けれど、物語は自由でいいんだし、読んでる間は自分が主人公になればいい。侑哉も」
 そこで友義は、フフッと笑う。
「ツインテールのヒロインが待つ、外国という異世界旅行を楽しんできたらいいよ。ミッションがうまくいったら、現実世界に連れて帰ってこられるかもね」
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