三つ子の百合姫

長瀬 青斗

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それは、初めて赤らんだ楓の音

いちご飴

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「大事に至らなくて本当によかったよー」
「ですねー。赤く腫れてる程度で塗り薬の処方だけで済みましたし!」
「でも油断しちゃだめだからね?無理はしないように!」
「はーい」

幸いわたしの手首の火傷は軽傷程度、痕も残らないであろう軽いものだった
美柚みゆさんに申し訳が立たない…せめて今からでも手伝いに戻った方が…

「あの、菊里きくさとs「今日くらいは安静にしてなさい」
「えええ!?なんで!?」
「なんとなく」
「え、ええぇー。。。」
「はい、あーん」
「えぇ!?んむっ」

なんだこれ、………飴?

「え、急にどうしました」
「まだ何か言い返そうとしてたから口封じ!」
「………甘くて美味しいですけども………」
「でしょー!?私この飴大好きでさ、いっつも持ち歩いてんの!」
「この味は…いちごですね」
「そそ!」

菊里さんももう1袋開け始める

「ん…開きづらいなこいつ」

ビッッッ!!

「あ、ああああああああ!!!!!」
「ああああああ!!!???」

坂道をコロコロ転がっていくいちご飴
叫んだ後にわたしは、キラキラ転がる飴を眺めながら不謹慎だけど”綺麗だな”って思った

「あーーー。。。私のいちご飴ーーー。。。」

ガックリと項垂れる菊里さん。
見た目は大人っぽいのに、たまにこどもっぽくなるよなこの人。。。

「いいんだ私にはまだいっぱいあるから…大人買いしたから…でもあの子はもう戻ってこない…」
「菊里さん…」

そっ…とカバンから1つ出して、
そっ……………と袋を開け、口に運ぶ。
………相当ショックだったんだなこの人。。。

「でも意外ですね…甘いもの好きなんですか?」
「ん?大好きだよ?どうして?」
「いや…朝に珈琲を頼んでたから…」
「あー、なるほどなるほど。私ねー、珈琲も好きなんだけど、それ以上に甘いのも大好きなのよー。珈琲を飲んだ後にね、メイプルシロップたっぷりのトーストを食べるともっと美味しく感じる気がするのよー。」
「あぁー、なるほど」
「まぁ、個人の意見だけれどね~」

カフェの話で、頭に心配そうな顔をした美柚さんが浮かんでくる

「さ、美柚さんに大事に至らなかったよって安心させに行こうね」
「………!今丁度そう言おうと思ってました!なんでわかるんですか!?」
「いや楓音かのんちゃんめちゃくちゃ顔に出やすいからね?まさか無自覚なの?」
「ひ、ひええぇ。。。よく言われます。。。」


カランカラン


「いらっしゃいま…楓音!!」
「ただいま美柚さん」
「大丈夫だったの!?」
「大丈夫でした…本当にご迷惑おかけしました……っっ」

美柚さんが、嬉し泣きみたいな、でも堪えてるみたいな顔でわたしの頭を撫でる
菊里さんが、袋に入った薬を出しながら口を開く

「幸い大事には至らなくて塗り薬の処方だけで済みました。ですがまだ腫れてるので動かさないようにしてやって下さい。」
「わかりました…!菊里さん、本当にありがとうございます。ほら楓音も!」
「ほ、本当にありがとうございました!」
「いいのいいの!」
「朝の分もまだお返しできていないですし、お礼といってはなんですがなんでもお作りします!」
「いや、流石にそれは…」
「本当に助かったので…受け取って貰えないでしょうか」
「う、うーん。。。じゃあ、お言葉に甘えて…」

落ち着かない様子で今朝と同じ席に座る菊里さん。窓際の太陽の光が差し込む席だ。

美柚さんがメニューを聞きに行く

「メニューはどうしましょうか?」
「んー、じゃあ朝と同じのをお願いします。」
「かしこまりました!」

もう15時だということもあって、店にはお客さんは菊里さん以外に居なかった

「さ、楓音にもサービスしてあげるから席に座っておいで」
「え、えええ!?いいですいいです大丈夫です……!!」
「…店長命令ね」
「えええー。。。」

チラッ、と菊里さんの方を見ると
クスクスと笑って手招きされる

「ほら、行っといで」
「むぅ………わかりました…ありがとうございます…」

窓際の丸テーブル
”どうぞ”という様に菊里さんの向かいの椅子を手で指し示される

「失礼します…」
「ようこそ~」
「今日は本当にありがとうございました」
「いいのいいの~。そのおかげでこうして楓音ちゃんと机を囲めてるし、ね。」
「こ、こちらこそです…」

なんか改めてお話すると照れくさい
それにしても綺麗な顔立ちをしてるなぁ…
まつ毛は長いし切れ長の目で…

「…どした?」
「あっっ…な、なんでもないです…!」
「ふーん?」

目をじっと見つめられると、逸らしたいのに逸らせない
ひ、ひええええええ

「ふふっ…可愛い」
「えっ……からかわないで下さいよ…!」

心臓の音がうるさい
今わたしどんな顔してるんだろう

「はーいおまたせしましたー」
「わぁ、ありがとうございますー」
「はい、楓音ちゃんには珈琲の代わりにオレンジジュースね」
「ああぁ…ありがとうございますなんかもうごめんなさい…」
「じゃあ後はごゆっくり~」

珈琲飲めないのバレちゃったな…こどもっぽいって思われたかな…

「楓音ちゃん珈琲飲めないの?」
「はい…そうなんです…。ミルクとお砂糖たっぷり入れないと飲めないです…」
「それはもはや珈琲じゃないな」

ふふふ、と笑う菊里さん
やっぱこどもっぽいと思われたかな…

「どれどれ」
「え、菊里さん!?」

ミルクとお砂糖を入れ出す菊里さん

「このくらい?もっと?」
「いやいや珈琲じゃなくなっちゃいますよ!」
「いいのいいの。いつも同じじゃつまらないじゃない?楓音ちゃんの味を試してみたいんだよ~。さ、まだ入れる?」
「えぇー。。。でも多分それくらいだと思います…」
「よしわかった!いただきまーす」

絶対甘いよね…大丈夫かな…

「…おぉ…結構珈琲の香りって残ってるものなんだね」
「そうなんですよー、わたし、珈琲の香りは大好きなんですけど、どうしても苦いのはダメで…」
「あ、楓音ちゃんも1口飲む?」
「え、いいですよー」
「そんなこと言わずに、さぁさぁ」

ずずいっと差し出されたので飲むしかない…
少し口に含む

「っっ……!!!に、苦い………」
「え、えええ!?」
「人が入れてる感覚とじゃやっぱ誤差はありますよね…ジリジリする…」
「本当に苦いのダメなんだねぇ流石にびっくりしたよ」

オレンジジュースで苦味を流し込む
…あれ…?よく考えたらさっきのって間接………

「楓音ちゃん?」
「っ!?いや、なんでもないですっっ!さ、トーストも食べましょ!!」
「え、えぇ???う、うん」
「い、いただきまーす!!」
「いただきまーす……。??」


美柚さん特製のメイプルトーストはやっぱり美味しかったけど、なんだか今日のわたしには甘すぎるように感じた
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