2 / 28
「それの乱れる顔が見たいと言っているのだ!」
しおりを挟む
「エメラード、右へずれよ。それの顔が見えぬ」
「は。……申し訳、ありませ……」
青白い顔をしたエメラードは、スクの上から少しずれた。スクはその顔をじっと見上げている。
色狂いの王の顔よりは、ずっと珍しいものに思えたからだ。
「これ、休んでいいとは言っておらんぞ」
呆れたような王の声にエメラードがびくりと揺れた。スクにとってただの色狂いの王でも、エメラードにとっては敬愛する主らしい。
従わなければという以上の熱意を感じる。
と同時に、この行為への嫌悪が見えるのだ。スクの目の前にあるのはまさに葛藤だ。まさかこんなことで死にそうなほど悩む男がいるとは、スクの想像を超えている。
(育ちがよすぎるって大変だ)
「……っく」
はたして彼の中にはどんな苦痛が詰まっているのだろう。
あきらかに慣れない動きで内蔵をかき回されて、スクは単純に痛いし苦しい。しかしエメラードの方がひどい顔をしている。
なかなかの喜劇だ。
「……もっと腰を動かせ、それ。……なんとも怠惰な男よ」
王は安全な位置からもどかしそうに命じたが、諦めたようにため息をついた。スクからすればいかにも大げさで、エメラードに圧力をかける声だ。
あるいは王もまた、この男の葛藤を楽しんでいるのかもしれない。王にも理解できないことだろう。
王の名代として、たかだか虜囚を犯すくらい。
十かそこらの子供でも、もっと上手くやる。少なくともスクの育ってきた中ではそうだった。
(どう育ったらこうなるんだろ)
スクは男の苦悩を見上げている。
エメラードは何も見たくないのか、目を伏せている。あるいは牢の床を見ているのかもしれない。そこには何もない。
「……こっち見ろよ」
スクが思わずつぶやくと、驚愕した瞳が向けられた。すぐに逸らされる。スクはわざわざ首の角度を変えて、その視界に入った。
さあ見ろ、よく見ろ。
敵を見ずに何ができるのだ。
「ええい、つまらぬ。もっとよく見せよ。嘆きでも悦楽でもよい。それの乱れる顔が見たいと言っているのだ!」
王が声を荒げて言う。がつんと音がして、何かを投げつけたのかもしれない。
エメラードがびくりと震え、動揺したてのひらがスクの目を隠した。叱る理由を与えているようなものだ。それは。
「顔を見せよと言ったのだぞ、エメラード。余の声を聞いているのか?」
しかしやはりその裏側に喜びを感じた。あきらかに王は、不慣れな男を叱りつけて楽しんでいるのだ。
堅物にもほどがあろうと白けた声で言うと、王は牢を出ていった。残されたエメラードは相変わらずスクの上にいる。
「あんたさぁ」
なんならばまだ彼のものが中にあるので、早く出ていって欲しい。
が、それよりも、スクはエメラードをからかうことを優先させた。なんのことはない、スクにも王の気持ちがわかる。
からかいたくなる男だ。
どんないいお育ちをすれば、こんなものが、こんな世界に落とされるのだろう。
「もっと上手くできないの?」
言うと苦悩の男の額に、また深いしわが刻まれた。
(あ、怒った)
王でない相手には怒れるらしい。
「……黙れ」
しかしすぐさまその怒りは散って、途方に暮れた顔をした。腰を引こうとして、止まる。あまりに窮屈なので動けないようだ。
「乾きすぎてるんだよ」
スクはため息をつく。ただでさえ水気が少ない上、もたもたとしているからだ。さっさと動いて、出して、終わらせるべきだったのだ。
「次は油でも用意しておくんだね」
そうすればぬるぬる滑るから、まあ、激しく犯しているように見えるだろう。べつに乾いていようと強引に動けばいいのだが、この男はそれをしないだろう。スクとしてもそれは助かる。尻穴を痛めると動けなくなる。
「…………なぜ」
呻くようにエメラードが言った。
「うん?」
スクは指を舐めながら問い返した。
待っても状況はよくならないのだから、自分がなんとかするしかない。
「なぜ平気なんだ」
聞かれて首を傾げた。
「なぜ平気じゃないんだ?」
するとエメラードは顔をしかめ、石のように止まった。スクは濡らした指を足の間に持っていき、ぎちぎちになったそこをほぐしにかかる。
実に間抜けで、それなりに辛い作業なのだが、エメラードが傷ついた顔をするので、スクはやはり愉快だった。あの王とは話が合うかもしれない。
いじめたくなる顔だ。
(夢を食べて育ったのかなあ)
どんな甘やかな、絵空事みたいな夢なのだろう。
「なんで平気じゃないの」
もう一度聞くと、エメラードは首を振った。うずうずと悪い気持ちが湧いてきて、スクは笑う。
「あんたが犯されてるわけじゃないだろうに」
不思議だ。
勝手に傷ついている。こんなに傷つきやすくて、どうやって生きていくつもりなのだろう。
「……そうだ、おまえが、酷い目に遭っているんだ」
「ん、まあ、そうかな……」
ねちねち、密着しすぎた粘膜を、少しずつ引き離す。これだけ理解し得ないだろう相手と、肌はまるでひとつのもののように重なっている。丁寧に、少しずつ、指で引き離さなければ破れてしまう。
「たとえ敗者だからと……」
エメラードは声を低めて呟き、語尾は消えた。
「まあ、敗者だから、命があるだけ儲けものだよ」
「……命があることを恨むほどの屈辱も、世にはある」
「あるかもね」
「人は、動物ではない」
「そうだけどさ」
「誇りが、あるからこそ……生きられるのではないか……」
「誇りねえ」
彼がそう言うのなら、彼にとってはそうなのだろう。スクにとっては、そんなもので腹は膨れない。
正直なところ、王を楽しませていれば飯が食えるというのなら、それはそれで別にいいのだ。戦場に出ていたのはそれが一番スクの得意な、スクに向いた仕事であっただけである。
「それより押し込むのやめてくれないかな。どっちかっていうと、引っこ抜いて」
「は」
「あ、それとも、続きがしたい?」
「ばかな……っ!」
「ぃっ……てぇ」
急に思い切り引き抜かれて粘膜が悲鳴をあげた。熱に近い痛み。瞬間的な鋭さが過ぎると、ずきずき重く変わった。
「…………すまない」
顔をしかめながらエメラードが言う。
たぶんそっちも痛いのだろう。しかし情けなく股間を押さえるような真似はせず、さっと服を整え、背を伸ばしているのが笑えた。
いったい、この場に保つべき体裁があるのか?
スクにはないから、尻を撫でながら丸まった。
「あー……ヒリヒリする」
「すまなかった。何か……薬を……頼んでおく……」
エメラードはふらふらと立ち上がり、それでもスクに背を見せずに下がって牢から出た。
そのさまは怯えているようにも見える。
あべこべである。
(や、そもそもの話……おかしいよな)
エメラードが文句を言わないのが不思議だ。
勝者であるはずのエメラードは、スクの牢番をずっとやっている。いっそ働いているだけエメラードの方が大変そうだ。勝者の仕事ではない。
なぜおとなしく王の言うことを聞いているのか不思議だ。
「は。……申し訳、ありませ……」
青白い顔をしたエメラードは、スクの上から少しずれた。スクはその顔をじっと見上げている。
色狂いの王の顔よりは、ずっと珍しいものに思えたからだ。
「これ、休んでいいとは言っておらんぞ」
呆れたような王の声にエメラードがびくりと揺れた。スクにとってただの色狂いの王でも、エメラードにとっては敬愛する主らしい。
従わなければという以上の熱意を感じる。
と同時に、この行為への嫌悪が見えるのだ。スクの目の前にあるのはまさに葛藤だ。まさかこんなことで死にそうなほど悩む男がいるとは、スクの想像を超えている。
(育ちがよすぎるって大変だ)
「……っく」
はたして彼の中にはどんな苦痛が詰まっているのだろう。
あきらかに慣れない動きで内蔵をかき回されて、スクは単純に痛いし苦しい。しかしエメラードの方がひどい顔をしている。
なかなかの喜劇だ。
「……もっと腰を動かせ、それ。……なんとも怠惰な男よ」
王は安全な位置からもどかしそうに命じたが、諦めたようにため息をついた。スクからすればいかにも大げさで、エメラードに圧力をかける声だ。
あるいは王もまた、この男の葛藤を楽しんでいるのかもしれない。王にも理解できないことだろう。
王の名代として、たかだか虜囚を犯すくらい。
十かそこらの子供でも、もっと上手くやる。少なくともスクの育ってきた中ではそうだった。
(どう育ったらこうなるんだろ)
スクは男の苦悩を見上げている。
エメラードは何も見たくないのか、目を伏せている。あるいは牢の床を見ているのかもしれない。そこには何もない。
「……こっち見ろよ」
スクが思わずつぶやくと、驚愕した瞳が向けられた。すぐに逸らされる。スクはわざわざ首の角度を変えて、その視界に入った。
さあ見ろ、よく見ろ。
敵を見ずに何ができるのだ。
「ええい、つまらぬ。もっとよく見せよ。嘆きでも悦楽でもよい。それの乱れる顔が見たいと言っているのだ!」
王が声を荒げて言う。がつんと音がして、何かを投げつけたのかもしれない。
エメラードがびくりと震え、動揺したてのひらがスクの目を隠した。叱る理由を与えているようなものだ。それは。
「顔を見せよと言ったのだぞ、エメラード。余の声を聞いているのか?」
しかしやはりその裏側に喜びを感じた。あきらかに王は、不慣れな男を叱りつけて楽しんでいるのだ。
堅物にもほどがあろうと白けた声で言うと、王は牢を出ていった。残されたエメラードは相変わらずスクの上にいる。
「あんたさぁ」
なんならばまだ彼のものが中にあるので、早く出ていって欲しい。
が、それよりも、スクはエメラードをからかうことを優先させた。なんのことはない、スクにも王の気持ちがわかる。
からかいたくなる男だ。
どんないいお育ちをすれば、こんなものが、こんな世界に落とされるのだろう。
「もっと上手くできないの?」
言うと苦悩の男の額に、また深いしわが刻まれた。
(あ、怒った)
王でない相手には怒れるらしい。
「……黙れ」
しかしすぐさまその怒りは散って、途方に暮れた顔をした。腰を引こうとして、止まる。あまりに窮屈なので動けないようだ。
「乾きすぎてるんだよ」
スクはため息をつく。ただでさえ水気が少ない上、もたもたとしているからだ。さっさと動いて、出して、終わらせるべきだったのだ。
「次は油でも用意しておくんだね」
そうすればぬるぬる滑るから、まあ、激しく犯しているように見えるだろう。べつに乾いていようと強引に動けばいいのだが、この男はそれをしないだろう。スクとしてもそれは助かる。尻穴を痛めると動けなくなる。
「…………なぜ」
呻くようにエメラードが言った。
「うん?」
スクは指を舐めながら問い返した。
待っても状況はよくならないのだから、自分がなんとかするしかない。
「なぜ平気なんだ」
聞かれて首を傾げた。
「なぜ平気じゃないんだ?」
するとエメラードは顔をしかめ、石のように止まった。スクは濡らした指を足の間に持っていき、ぎちぎちになったそこをほぐしにかかる。
実に間抜けで、それなりに辛い作業なのだが、エメラードが傷ついた顔をするので、スクはやはり愉快だった。あの王とは話が合うかもしれない。
いじめたくなる顔だ。
(夢を食べて育ったのかなあ)
どんな甘やかな、絵空事みたいな夢なのだろう。
「なんで平気じゃないの」
もう一度聞くと、エメラードは首を振った。うずうずと悪い気持ちが湧いてきて、スクは笑う。
「あんたが犯されてるわけじゃないだろうに」
不思議だ。
勝手に傷ついている。こんなに傷つきやすくて、どうやって生きていくつもりなのだろう。
「……そうだ、おまえが、酷い目に遭っているんだ」
「ん、まあ、そうかな……」
ねちねち、密着しすぎた粘膜を、少しずつ引き離す。これだけ理解し得ないだろう相手と、肌はまるでひとつのもののように重なっている。丁寧に、少しずつ、指で引き離さなければ破れてしまう。
「たとえ敗者だからと……」
エメラードは声を低めて呟き、語尾は消えた。
「まあ、敗者だから、命があるだけ儲けものだよ」
「……命があることを恨むほどの屈辱も、世にはある」
「あるかもね」
「人は、動物ではない」
「そうだけどさ」
「誇りが、あるからこそ……生きられるのではないか……」
「誇りねえ」
彼がそう言うのなら、彼にとってはそうなのだろう。スクにとっては、そんなもので腹は膨れない。
正直なところ、王を楽しませていれば飯が食えるというのなら、それはそれで別にいいのだ。戦場に出ていたのはそれが一番スクの得意な、スクに向いた仕事であっただけである。
「それより押し込むのやめてくれないかな。どっちかっていうと、引っこ抜いて」
「は」
「あ、それとも、続きがしたい?」
「ばかな……っ!」
「ぃっ……てぇ」
急に思い切り引き抜かれて粘膜が悲鳴をあげた。熱に近い痛み。瞬間的な鋭さが過ぎると、ずきずき重く変わった。
「…………すまない」
顔をしかめながらエメラードが言う。
たぶんそっちも痛いのだろう。しかし情けなく股間を押さえるような真似はせず、さっと服を整え、背を伸ばしているのが笑えた。
いったい、この場に保つべき体裁があるのか?
スクにはないから、尻を撫でながら丸まった。
「あー……ヒリヒリする」
「すまなかった。何か……薬を……頼んでおく……」
エメラードはふらふらと立ち上がり、それでもスクに背を見せずに下がって牢から出た。
そのさまは怯えているようにも見える。
あべこべである。
(や、そもそもの話……おかしいよな)
エメラードが文句を言わないのが不思議だ。
勝者であるはずのエメラードは、スクの牢番をずっとやっている。いっそ働いているだけエメラードの方が大変そうだ。勝者の仕事ではない。
なぜおとなしく王の言うことを聞いているのか不思議だ。
1
あなたにおすすめの小説
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
魔法使いになりそこなったお話
ruki
BL
男は30歳まで経験がないと、魔法使いになるらしい。そんな話を信じている訳では無いけれど、その魔法使いになれるほど人生に何も起こらなかったオメガの波瑠は突然、魔法使いではなく『親』になってしまった。
【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
倉橋 玲
BL
**完結!**
スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。
金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。
従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。
宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be
※この作品は他サイトでも公開されています。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる