4 / 28
喜劇である。
しおりを挟む
「さあ、エメラードや、今日こそはそれの鳴き声を聞かせよ」
忠告が聞き入れられるより先に、ふたたび王命は下された。エメラードへ。スクはただ、改善されないセックスの下にいるだけだ。
(……そうでもないか)
ありがたいことに人類の英知、油が追加されている。エメラードは一応スクの言葉を聞いていたようだ。
(うーん……)
とはいえあまりにも慣れない手つきは変わらず、もたもたとして、苦悩して、遅々として進まないのだった。穴がどこかもわからないような動きだ。
(あんたにもついてる穴だよ)
見つけたらこれだとばかりに開かせようとする。待て待て、やわらかい肉にも方向性と防御力があるのだ。
(っていうか)
何が問題といって、エメラードはスクにまったく視線を向けない。それで上手にできると思っている方がおかしい。
泣かせるにしても鳴かせるにしても、まず敵を知れだ。
「情けないものよなあ、エメラード。知っておるか? 城の女どもの話では、おまえはよくわきまえた紳士らしいぞ。このさまでいるわけにはいくまい」
エメラードがかすかに口を開き「いえ、」と、音もなく呟いた。
(……興味なさそう)
興味があったら、もう少しましなことになっているはずだ。もしかするとスクが初めての性交の相手かもしれない。
(うわ)
かわいそうに。
だが道を歩いていて突然に襲われるよりは、いくらかマシだろう。王の命令と言っても彼の意思で従っているのだし。
「っ……」
滑るは滑るで問題があって、今までは届かなかった奥までつるんと入った。少し怖い。簡単に痛みを訴える浅い場所と違って、感覚が鈍くなる場所だ。
それに自然に出てこないほど奥に注がれてしまうと、下痢を起こしかねない。
「はあ……」
やだなあ。
現実問題、これほど不衛生な環境で下痢はまずい。脱水する。体力が奪われる。更に不衛生にもなる。
牢内には下水道施設などないので、回収されるまで、自分の出したものと同居することになる。
(……そんなこと考えてる時点で恵まれてるなあ)
どうやら。
それというのもエメラードのおかげである。感謝しよう。王はエメラードを虐めるのに夢中で、いたぶってやろうとしていたスクのことを忘れがちだ。
王の視線と表情を見ていればわかる。
色狂いの王はひたすらエメラードを注視しているのだ。
(うん、まあ、でも)
耐えるような顔は一応しておこう。その方がお気に召すだろうから。
「のう、そこな悪魔よ、そちも不満であろ」
「んっ?」
と思ったら、こっちに話しかけてきた。悪魔というのはスクのあだ名だ。黒い悪魔。黒髪黒瞳の小柄なスクには、そのようにご立派なあだ名がつけられている。
王はにこにこと好々爺の顔をしている。なるほどさすが知恵ものの王、表情を取り繕うことは上手らしい。
「そのように下手に打ち込まれては、よいも悪いもなかろう。臣下の不始末ゆえ、特別に恩賞をくれてやろう。……何が欲しい?」
「……」
なんかくれるらしい。
スクは少し考えた。くれるもんはなんでももらうが、かといって、王の興味を引くのは問題がある。何か、つまらない、かといっていじらしさもないような、ものを。
でも欲しいものが欲しいなあ。
という気持ち。
「エメラード、何を止まっておる?」
「は……」
「あの……お、それ、ながら」
揺らされながらスクは言った。
「お尻が、痛くて……」
できるだけ悲しげに言った。
喜劇である。誰かの苦痛も苦悩も、どうも人がやる限り間抜けなものだ。
しかし現実問題、与えられたクッションは素晴らしいものだった。
「はー、やれやれ」
柔らかさなどあり得なかった牢の中に、こうして、クッションという新しい風がふいたのだ。
「最高……これを家宝にしよう……」
この柔らかさ。これぞ優しさだ。クソの役にもたたない思い出やありがたいお言葉よりもずっと、この柔らかさこそが真実なのだ。
「それはよかったな」
エメラードが真面目に言った。牢という生活環境を真剣に考えてくれているのかもしれない。看守の鑑だ。
だが彼は牢番用の席につき、その椅子はとても硬そうだ。
「たまには貸してあげてもいいよ」
「……それには及ばない」
苦笑。
囚人に憐れまれる気はないようだ。
しかしスクにしてみれば、彼の状況はけっこうまずい。集団にいるのに軽んじられているという状態は、なかなか絶望的なものだ。
しかしエメラードは真面目に実直に牢番をしているだけだ。
(夜はいないけど)
さすがに家に戻って眠っているのだろう。夜は定期的に他の兵士が見回りが来る。そして外への扉の前に、二人の牢番がいるようだ。
昼だってそうすればいい。
エメラードは牢番というより、もはやスクの話し相手としてそこにいるようだ。
(そうなんだろうな)
王はスクを飼っておきたいのだ。いったい何がそんなに気に入ったんだか。
(小さいからか?)
女のように見えたのかもしれない。そういう扱いを受けたことは何度かあった。小さな体は便利なことも多々あるのだが、面倒なことにもなる。
今回はお得だ。一緒に捕まった同僚はさて、まだ命があるだろうか。
「ねえ、後宮にはどういう人が多いの」
小柄が気に入られている説を確かめるため、スクはクッションに抱きつき転がりながら聞いた。素晴らしい。硬い床にただ転がっているのとは気分が違う。体も楽だ。
野宿ならば慣れているが、人工的に硬いばかりの床は、まったく眠るのに向いていない。
「どういう……色んな方が、いるが」
「小さいか大きいかでいうと?」
肌触りもいいクッションだ。王室御用達の品だろうか。そうでなくとも、適当に手に入れただけのものでも、スクが今まで触ったこともない品なのだろう。
「まあ……小さい、方が、多いのではないか。女性であるし」
「ふうん」
あまりぴんとこないが、やはり見た目採用だろうか。
見た目が気に入られているなら幸いである。なんといってもスクは自分の中身がかわいくはないと知っている。
「……おまえも小さいな」
エメラードがいまさら深刻な顔で言うので笑った。
「そう? 小さい? 狭い? きつきつ?」
「黙りなさい」
「だからさ……やっぱりもっと、上手くなってくれると嬉しいんだけどな?」
尻が痛いのは嘘でもない。ズキズキ尻を痛めながら床に転がっていると気分が落ちる。それは落ちる。
別にクッションがあるからといって快癒はしないが、気を紛れさせる柔らかさは天使だ。
「…………考えておく」
考えてくださるらしい。
忠告が聞き入れられるより先に、ふたたび王命は下された。エメラードへ。スクはただ、改善されないセックスの下にいるだけだ。
(……そうでもないか)
ありがたいことに人類の英知、油が追加されている。エメラードは一応スクの言葉を聞いていたようだ。
(うーん……)
とはいえあまりにも慣れない手つきは変わらず、もたもたとして、苦悩して、遅々として進まないのだった。穴がどこかもわからないような動きだ。
(あんたにもついてる穴だよ)
見つけたらこれだとばかりに開かせようとする。待て待て、やわらかい肉にも方向性と防御力があるのだ。
(っていうか)
何が問題といって、エメラードはスクにまったく視線を向けない。それで上手にできると思っている方がおかしい。
泣かせるにしても鳴かせるにしても、まず敵を知れだ。
「情けないものよなあ、エメラード。知っておるか? 城の女どもの話では、おまえはよくわきまえた紳士らしいぞ。このさまでいるわけにはいくまい」
エメラードがかすかに口を開き「いえ、」と、音もなく呟いた。
(……興味なさそう)
興味があったら、もう少しましなことになっているはずだ。もしかするとスクが初めての性交の相手かもしれない。
(うわ)
かわいそうに。
だが道を歩いていて突然に襲われるよりは、いくらかマシだろう。王の命令と言っても彼の意思で従っているのだし。
「っ……」
滑るは滑るで問題があって、今までは届かなかった奥までつるんと入った。少し怖い。簡単に痛みを訴える浅い場所と違って、感覚が鈍くなる場所だ。
それに自然に出てこないほど奥に注がれてしまうと、下痢を起こしかねない。
「はあ……」
やだなあ。
現実問題、これほど不衛生な環境で下痢はまずい。脱水する。体力が奪われる。更に不衛生にもなる。
牢内には下水道施設などないので、回収されるまで、自分の出したものと同居することになる。
(……そんなこと考えてる時点で恵まれてるなあ)
どうやら。
それというのもエメラードのおかげである。感謝しよう。王はエメラードを虐めるのに夢中で、いたぶってやろうとしていたスクのことを忘れがちだ。
王の視線と表情を見ていればわかる。
色狂いの王はひたすらエメラードを注視しているのだ。
(うん、まあ、でも)
耐えるような顔は一応しておこう。その方がお気に召すだろうから。
「のう、そこな悪魔よ、そちも不満であろ」
「んっ?」
と思ったら、こっちに話しかけてきた。悪魔というのはスクのあだ名だ。黒い悪魔。黒髪黒瞳の小柄なスクには、そのようにご立派なあだ名がつけられている。
王はにこにこと好々爺の顔をしている。なるほどさすが知恵ものの王、表情を取り繕うことは上手らしい。
「そのように下手に打ち込まれては、よいも悪いもなかろう。臣下の不始末ゆえ、特別に恩賞をくれてやろう。……何が欲しい?」
「……」
なんかくれるらしい。
スクは少し考えた。くれるもんはなんでももらうが、かといって、王の興味を引くのは問題がある。何か、つまらない、かといっていじらしさもないような、ものを。
でも欲しいものが欲しいなあ。
という気持ち。
「エメラード、何を止まっておる?」
「は……」
「あの……お、それ、ながら」
揺らされながらスクは言った。
「お尻が、痛くて……」
できるだけ悲しげに言った。
喜劇である。誰かの苦痛も苦悩も、どうも人がやる限り間抜けなものだ。
しかし現実問題、与えられたクッションは素晴らしいものだった。
「はー、やれやれ」
柔らかさなどあり得なかった牢の中に、こうして、クッションという新しい風がふいたのだ。
「最高……これを家宝にしよう……」
この柔らかさ。これぞ優しさだ。クソの役にもたたない思い出やありがたいお言葉よりもずっと、この柔らかさこそが真実なのだ。
「それはよかったな」
エメラードが真面目に言った。牢という生活環境を真剣に考えてくれているのかもしれない。看守の鑑だ。
だが彼は牢番用の席につき、その椅子はとても硬そうだ。
「たまには貸してあげてもいいよ」
「……それには及ばない」
苦笑。
囚人に憐れまれる気はないようだ。
しかしスクにしてみれば、彼の状況はけっこうまずい。集団にいるのに軽んじられているという状態は、なかなか絶望的なものだ。
しかしエメラードは真面目に実直に牢番をしているだけだ。
(夜はいないけど)
さすがに家に戻って眠っているのだろう。夜は定期的に他の兵士が見回りが来る。そして外への扉の前に、二人の牢番がいるようだ。
昼だってそうすればいい。
エメラードは牢番というより、もはやスクの話し相手としてそこにいるようだ。
(そうなんだろうな)
王はスクを飼っておきたいのだ。いったい何がそんなに気に入ったんだか。
(小さいからか?)
女のように見えたのかもしれない。そういう扱いを受けたことは何度かあった。小さな体は便利なことも多々あるのだが、面倒なことにもなる。
今回はお得だ。一緒に捕まった同僚はさて、まだ命があるだろうか。
「ねえ、後宮にはどういう人が多いの」
小柄が気に入られている説を確かめるため、スクはクッションに抱きつき転がりながら聞いた。素晴らしい。硬い床にただ転がっているのとは気分が違う。体も楽だ。
野宿ならば慣れているが、人工的に硬いばかりの床は、まったく眠るのに向いていない。
「どういう……色んな方が、いるが」
「小さいか大きいかでいうと?」
肌触りもいいクッションだ。王室御用達の品だろうか。そうでなくとも、適当に手に入れただけのものでも、スクが今まで触ったこともない品なのだろう。
「まあ……小さい、方が、多いのではないか。女性であるし」
「ふうん」
あまりぴんとこないが、やはり見た目採用だろうか。
見た目が気に入られているなら幸いである。なんといってもスクは自分の中身がかわいくはないと知っている。
「……おまえも小さいな」
エメラードがいまさら深刻な顔で言うので笑った。
「そう? 小さい? 狭い? きつきつ?」
「黙りなさい」
「だからさ……やっぱりもっと、上手くなってくれると嬉しいんだけどな?」
尻が痛いのは嘘でもない。ズキズキ尻を痛めながら床に転がっていると気分が落ちる。それは落ちる。
別にクッションがあるからといって快癒はしないが、気を紛れさせる柔らかさは天使だ。
「…………考えておく」
考えてくださるらしい。
1
あなたにおすすめの小説
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
魔法使いになりそこなったお話
ruki
BL
男は30歳まで経験がないと、魔法使いになるらしい。そんな話を信じている訳では無いけれど、その魔法使いになれるほど人生に何も起こらなかったオメガの波瑠は突然、魔法使いではなく『親』になってしまった。
【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
倉橋 玲
BL
**完結!**
スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。
金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。
従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。
宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be
※この作品は他サイトでも公開されています。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる