かわいそうな看守は囚人を犯さなければならない。

紫藤なゆ

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喜劇である。

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「さあ、エメラードや、今日こそはそれの鳴き声を聞かせよ」
 忠告が聞き入れられるより先に、ふたたび王命は下された。エメラードへ。スクはただ、改善されないセックスの下にいるだけだ。
(……そうでもないか)
 ありがたいことに人類の英知、油が追加されている。エメラードは一応スクの言葉を聞いていたようだ。
(うーん……)
 とはいえあまりにも慣れない手つきは変わらず、もたもたとして、苦悩して、遅々として進まないのだった。穴がどこかもわからないような動きだ。
(あんたにもついてる穴だよ)
 見つけたらこれだとばかりに開かせようとする。待て待て、やわらかい肉にも方向性と防御力があるのだ。
(っていうか)
 何が問題といって、エメラードはスクにまったく視線を向けない。それで上手にできると思っている方がおかしい。
 泣かせるにしても鳴かせるにしても、まず敵を知れだ。 
「情けないものよなあ、エメラード。知っておるか? 城の女どもの話では、おまえはよくわきまえた紳士らしいぞ。このさまでいるわけにはいくまい」
 エメラードがかすかに口を開き「いえ、」と、音もなく呟いた。
(……興味なさそう)
 興味があったら、もう少しましなことになっているはずだ。もしかするとスクが初めての性交の相手かもしれない。
(うわ)
 かわいそうに。
 だが道を歩いていて突然に襲われるよりは、いくらかマシだろう。王の命令と言っても彼の意思で従っているのだし。
「っ……」
 滑るは滑るで問題があって、今までは届かなかった奥までつるんと入った。少し怖い。簡単に痛みを訴える浅い場所と違って、感覚が鈍くなる場所だ。
 それに自然に出てこないほど奥に注がれてしまうと、下痢を起こしかねない。
「はあ……」
 やだなあ。
 現実問題、これほど不衛生な環境で下痢はまずい。脱水する。体力が奪われる。更に不衛生にもなる。
 牢内には下水道施設などないので、回収されるまで、自分の出したものと同居することになる。
(……そんなこと考えてる時点で恵まれてるなあ)
 どうやら。
 それというのもエメラードのおかげである。感謝しよう。王はエメラードを虐めるのに夢中で、いたぶってやろうとしていたスクのことを忘れがちだ。
 王の視線と表情を見ていればわかる。
 色狂いの王はひたすらエメラードを注視しているのだ。
(うん、まあ、でも)
 耐えるような顔は一応しておこう。その方がお気に召すだろうから。
「のう、そこな悪魔よ、そちも不満であろ」
「んっ?」
 と思ったら、こっちに話しかけてきた。悪魔というのはスクのあだ名だ。黒い悪魔。黒髪黒瞳の小柄なスクには、そのようにご立派なあだ名がつけられている。
 王はにこにこと好々爺の顔をしている。なるほどさすが知恵ものの王、表情を取り繕うことは上手らしい。
「そのように下手に打ち込まれては、よいも悪いもなかろう。臣下の不始末ゆえ、特別に恩賞をくれてやろう。……何が欲しい?」
「……」
 なんかくれるらしい。
 スクは少し考えた。くれるもんはなんでももらうが、かといって、王の興味を引くのは問題がある。何か、つまらない、かといっていじらしさもないような、ものを。
 でも欲しいものが欲しいなあ。
 という気持ち。
「エメラード、何を止まっておる?」
「は……」
「あの……お、それ、ながら」
 揺らされながらスクは言った。
「お尻が、痛くて……」
 できるだけ悲しげに言った。
 喜劇である。誰かの苦痛も苦悩も、どうも人がやる限り間抜けなものだ。



 しかし現実問題、与えられたクッションは素晴らしいものだった。
「はー、やれやれ」
 柔らかさなどあり得なかった牢の中に、こうして、クッションという新しい風がふいたのだ。
「最高……これを家宝にしよう……」
 この柔らかさ。これぞ優しさだ。クソの役にもたたない思い出やありがたいお言葉よりもずっと、この柔らかさこそが真実なのだ。
「それはよかったな」
 エメラードが真面目に言った。牢という生活環境を真剣に考えてくれているのかもしれない。看守の鑑だ。
 だが彼は牢番用の席につき、その椅子はとても硬そうだ。
「たまには貸してあげてもいいよ」
「……それには及ばない」
 苦笑。
 囚人に憐れまれる気はないようだ。
 しかしスクにしてみれば、彼の状況はけっこうまずい。集団にいるのに軽んじられているという状態は、なかなか絶望的なものだ。
 しかしエメラードは真面目に実直に牢番をしているだけだ。
(夜はいないけど)
 さすがに家に戻って眠っているのだろう。夜は定期的に他の兵士が見回りが来る。そして外への扉の前に、二人の牢番がいるようだ。
 昼だってそうすればいい。
 エメラードは牢番というより、もはやスクの話し相手としてそこにいるようだ。
(そうなんだろうな)
 王はスクを飼っておきたいのだ。いったい何がそんなに気に入ったんだか。
(小さいからか?)
 女のように見えたのかもしれない。そういう扱いを受けたことは何度かあった。小さな体は便利なことも多々あるのだが、面倒なことにもなる。 
 今回はお得だ。一緒に捕まった同僚はさて、まだ命があるだろうか。
「ねえ、後宮にはどういう人が多いの」
 小柄が気に入られている説を確かめるため、スクはクッションに抱きつき転がりながら聞いた。素晴らしい。硬い床にただ転がっているのとは気分が違う。体も楽だ。
 野宿ならば慣れているが、人工的に硬いばかりの床は、まったく眠るのに向いていない。
「どういう……色んな方が、いるが」
「小さいか大きいかでいうと?」
 肌触りもいいクッションだ。王室御用達の品だろうか。そうでなくとも、適当に手に入れただけのものでも、スクが今まで触ったこともない品なのだろう。
「まあ……小さい、方が、多いのではないか。女性であるし」
「ふうん」
 あまりぴんとこないが、やはり見た目採用だろうか。
 見た目が気に入られているなら幸いである。なんといってもスクは自分の中身がかわいくはないと知っている。
「……おまえも小さいな」
 エメラードがいまさら深刻な顔で言うので笑った。
「そう? 小さい? 狭い? きつきつ?」
「黙りなさい」
「だからさ……やっぱりもっと、上手くなってくれると嬉しいんだけどな?」
 尻が痛いのは嘘でもない。ズキズキ尻を痛めながら床に転がっていると気分が落ちる。それは落ちる。
 別にクッションがあるからといって快癒はしないが、気を紛れさせる柔らかさは天使だ。
「…………考えておく」
 考えてくださるらしい。
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