かわいそうな看守は囚人を犯さなければならない。

紫藤なゆ

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「こう、触って」

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「こう、触って」
 仕方がないのでスクは自分で触れて見せる。はたしてこれは何かの役に立つのだろうか。方向性を間違えた気がしているが、今更戻れない。
 スクは自分の尻の間をそっとなぞった。
「ん」
 まだ少し痛い。膨れたような感覚があって、あまりよくない。痛みに慣れているから、忘れられるというだけだ。
「……ていうか脱ぐ」
「ま、待て!」
 どうせやるなら効果的にやりたい。中身を見せなければ学習にならないだろう。スクは下衣を脱ごうと尻を持ち上げたが、格子から出た足を掴まれた。
「なに」
 視線を向けると手が離れる。
 そしてエメラードは降伏のように両手を上げた。
「は?」
「そのようなことをさせるわけにはいかない」
「って」
「……捕らえた兵士をなぶるのは、非人道的なことだ」
 あの色狂いの王と違って?
 と、あやうく言ってしまうところだった。配慮、配慮。
「いや、なぶられたくないから慣れてほしいんだけど」
「それはわかるが……」
「脱ぐだけだし」
「それだけで十分に、よくない」
「誰も見てないし」
「見ていなければ良いというものではない。私が見ている。私は職務に忠実であらねばならない」
「はぁ」
 あいかわらず育ちのいい人の考えることはわからない。
 けどまあ、そうか。万が一誰かに見られた日には、ただでさえ悲惨そうなエメラードの環境が更にひどくなりそうである。
 脱ぐのはやめよう。
「んんー」
 かわりに下衣をぎゅっと引っ張って尻の形を晒してみた。また絶妙にひどい気分だ。なんだこれ。
 何プレイ?
「ここ……、まあ……見えないか」
「……そうだな」
 エメラードは見るのも嫌だという顔だった。スクだって別に見せたくなどないが、自分の行動を無駄にしたくないのだ。
「ちゃんと見て。……そうだ、そこなんだよ。あんた見もしないでやるから、色々間違ってるんだ」
「見……ないほうがいいだろう、できるだけ」
「いや見たほうがいいって。何、見たら萎えるの?」
「……」
 すると信じがたいという顔で見られた。なんなんだ。
「見るのは……辱めではないか」
「ハズカシメ」
「……裸で吊るすという刑もある」
「ああ、うん……? 貴族の人は裸で吊るされるとこう、死にたくなるわけ?」
「まあ」
「そうなんだ……大変だね」
 割と心から言ったのだが、エメラードは苦笑した。
「君が気にしていないのはわかるが、私が気にする」
「……はあ」
 配慮、配慮。
 かわいそうな看守に配慮して、しかし脱がずに触らずにどう教えろというのだろう。
(まあいいか)
 考える時間はたっぷりあるのだ。
 エメラードは仕事をしているが、スクはただ囚われているだけなので暇だ。このかわいそうで愉快な男のために、楽しく考えてみよう。
「気にするっていうのは、興奮するってこと?」
「そうでは……ない」
 なんだその間。
 ちょっとは興奮するのか。なんだ、追求してほしいのか。すごくいじめたくなるのでやめてほしい。配慮。
(配慮……)
 めんどくさい。
 やめた。こちらが配慮してストレスが溜まっては本末転倒である。
「まあ、あんた毎回ちゃんと勃ってるもんな」
「くっ……」
 エメラードが顔を赤くした。
 いっそ殺せ、みたいな良い顔だ。
「まあいいんじゃないの、健康で。勃たなきゃ王様に何させられるかわかんないしさ」
「……」
 エメラードが口を開き、閉じる。あいかわらず顔は赤い。可憐な貴族令嬢をいじめている気分になってきた。
 スクは息を吐く。
「あ、そうだ。ひとつだけ簡単な要望があるんだけど」
「……なんだ?」
「横に引っ張るのやめて」
「……横?」
「そうそう。あれ痛い。できればちょっと奥の方を上に持ち上げる感じでさ」
「持ち上げる……」
 言葉で言っても、やはりあまりピンと来ないのだろう。スクはふと思いついて、自分の唇をつんつんと指で叩いた。
「うん?」
「こう……じゃなくて」
 エメラードの視線を確認してから、スクはぐいっと口を左に引っ張る。
「こう、してほしい」
 指の先をちょっと口に含んで、外からもわかるようにくいくい押し上げた。
「聞いてる?」
「……聞いている。わかった、上だな……上……」
「いやわかってないって。ちゃんと見な」
 人が頑張って説明しているのだ。尻がだめでも顔なら見ていいだろう。だが困り眉と目元ににじむ朱色を見ていると、やっぱりいじめてやりたくなるのだった。
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