かわいそうな看守は囚人を犯さなければならない。

紫藤なゆ

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「まことしやかに媚薬などと言うがなあ」

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 寝過ごしてしまった。
 赤いベッドの上で目を覚ますと、すでにエメラードは定位置についていた。良くあることだが、昨日の件を考えると仕事熱心で片付けていいのか疑問だ。
「あんた、ちゃんと寝てんの?」
「寝た。おはよう」
「おはよう」
 牢でならば良かったのだが、ベッドの上からでは妙な気分だ。牢獄感が欲しい。起きて部屋に貴族の男がいました、みたいな感じがする。間違いない。
 おはようからお休みまでだった男が、おはようからおはようまでになった。
 鬱陶しいと思わずにすむのはこの男の育ちのよさゆえだろう。目の前にいて鬱陶しいところがない。多少、気づかわれすぎではと思うくらいだ。
「……ってか、休日はあるの?」
「休日……あるのだろうか」
「いや確認しなよそこは。大事なとこだよ」
 いくら忠実な臣下でも休日くらいはあるものだ。
「だが、陛下に休日はないのだ」
「そうなの? なんか暇そうだけど」



 やっぱり暇なんだろう。
「まことしやかに媚薬などと言うがなあ。これが、期待はずれの代物だ。一物を膨らせるだけの薬とは、笑えるではないか?」
「はぁ……っ」
 エメラードは答えだか吐息だかわからない音を漏らした。やはりスクの上にいる。スクは赤いベッドが汚れることを思った。誰が洗うんだろう。
 エメラードか。
 かわいそうに。
「それとも意外にいいものか? どうだ、エメラード」
 いつもよりひどく股間を膨らませたエメラードは、それを苦しげにスクの中に押し込んでは引っ張り出す。時折止まろうとしたのか、ぶるぶると震え、また動いた。
 彼の意思の感じられない、生物的な動きだ。
(いた、痛い……うん? 痛い……たぶんいたい)
 いつもより乱暴に揺さぶられているので、粘膜が悲鳴をあげている。しかし痛みに慣れすぎたせいかもしれない、柔らかい内臓がぞわぞわする方が気にかかる。
 エメラードが腹の中からスクの雄を押し上げるせいだ。尿意と区別のつかない衝動が、尿道にぎゅうぎゅう溜まっていく。
「っく……は……」
 エメラードが吐息を漏らす。
 苦しげな顔をする。それは苦しいだろう。得体のしれない薬は、少なくとも彼の熱を上げているようだ。布越しの触れ合いでも異常に熱い。
「これ、教えよ。報告は早急に、正確にと言っておるだろう。それほどは待たんぞ、エメラードや」
 王がねっとりと名を呼ぶ。
 こんな部屋を与えておきながら、スクへの興味はほとんどないのだろう。王はただ、彼をいじめることにご執心だ。
 スクも思う。いじめがいのある男だ。
「はっ、ふ……」
 けれども、かわいそうな男だ。さすがにこれほど長く共にいれば、愛着も湧いてくるものだ。
「……エメラード」
 囁いた。
「……!」
 彼が驚いた顔をする。
 スクはふと、その名を舌に乗せるのは初めてのことだと気づいた。一瞬だけ自分でも驚いたが、それよりも。
「どんな感じか聞かれてる。答えな」
「な……、」
「そうだな……熱くて死にそうだ、とでも」
 何の面白みもない言葉だが、エメラードが気の利いた返しをするほうがおかしいだろう。
「ほら、教えて差し上げろ。どんな感じ?」
「あ……」
 あつくて。ささやく。スクの口はエメラードの耳元にある。エメラードはまるで抱き合う近さで、スクと揺れあっているのだった。
 陵辱には近すぎる。
 今更ながらにそう思った。
 スクは王に視線を向けそうになって、やめた。わざと嫌がってみせるような、そこまでの仕事はできそうにない。
(楽しいのかな)
 実際のところ、犯される男も女も、そうそう泣き叫びはしない。そんなことをしては殺されるからだ。もしそれでも抗ったとしても、長くは体力がもたない。
 王はそんなこと、とてもよくわかっているだろう。
「熱く……死にそう、で……」
「ほう」
 のろのろとしたエメラードの言葉に、かぶせるように王が答えた。
「熱いか」
「は……」
「よいことだ。そのまま……炭になってしまえ」
 王が笑う。
 まるで穏やかに笑う。だが冗談には聞こえなかった。エメラードが震えたのも当然だ。忠義を捧げる相手に、消えてしまえと言われて嬉しくはないはずだ。
 エメラードが起き上がろうと腕に力を入れたのがわかった。
 その前に王は、護衛をつれてさらりとその身を翻したのだった。



「あ」
 残されたエメラードは口をはくりと開き、紅潮した頬を青ざめさせた。
 だが熱は熱として、まだスクの中にある。
(かわいそうに)
 憐憫は悪くない感情だった。自分にもそのような気持ちがあるのだと知れる。そのように余裕のある状態なのだと知れる。
 スクはため息をついて、エメラードの脇をくすぐった。
「……? ……うっ! な!」
「そーれ」
「はっ……こら、や……やめないか……!」
「あ、脇が弱いんだ」
「……!」
 楽しくこちょこちょしていたというのに、がしっと腕を掴まれた。呆れた、責める視線が向けられる。
(涙目だけど)
 元気じゃないか。
「ねえ」
 ふたりきりになった。それなのにまだこうしているのは、不思議な感じがする。エメラードとしては引くに引けない身なのだろう。
 いや、引くのかもしれない。
 それを確かめる気にはならなかった。
「つづき」
「……陛下はもう行かれた」
「そうだけどさ」
 しかしぐずぐずとスクにくっついているので、希望は持てそうだ。スクは両足をエメラードの腰に絡めた。
「む」
「それ、やめなよ」
 スクは笑って、彼の眉間の皺に指を這わせた。
「取れなくなるよ」
 せっかくいい顔をしているのだ。育ちのいい、苦労のないようなきれいな顔をしているのだ。わざわざ凝り固めなくたっていいだろう。
「……その方が騎士らしい、のでは、ないか……?」
 はあ、と最後に息を吐いた。熱そのもののような吐息だ。
 苦しいのだろう。
「どう頑張っても怖い顔にはならないよ」
「ならば……」
「まあ、単に……俺の趣味だよ」
「趣味」
「そう。きれいなほうがいいよ」
 触っていて気分がいい。
「顔か」
「……顔だよ」
 そうだろうか。
 顔がいいのは間違いない。とはいえ何を言っても、熱に浮かされたエメラードの頭に届いているか怪しい。
「ほら」
 スクは体を揺すった。
「続き」
「そう……いう、わけには……」
「続きだよ。このまま放っておくなんて、ひどい」
 すると情けなく眉を下げるので、こっちの方がいい。とてもかわいい顔だ。スクはご機嫌になって、サービスよく背に腕を回してやる。
「ほら」
「だが……っ」
「出しちゃえ」
 子供のような体で、子供のような声を出す。なかなかに便利だが、単純に好んで使うこともある。
「エメラード。出したいよね? こんなにして」
 遠慮がちにできた、中に入りきっていない根の部分を掴んだ。ゆるゆると指でこすってやる。びくりとエメラードが震えた。
 やはり泣きそうな目をしている。
 自分がそうさせたのだと思うと悪くない。
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