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これはどうしようもない。

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「出しちゃえ」
 すこし滑りが悪い。エメラードの服を探って油を見つけ出した。指に塗りつけて、ぬるりとまた彼のものを掴む。
「……今、離れる、から」
「そうじゃなくて」
「……おかしなことをしないでくれ」
「おかしなこと」
「そういう……」
「どういう……?」
 許してやらずに絡めた足の、かかとでエメラードの尻をふにふに押した。
「んっ!」
 そんなことをしているから、中をぎゅっと締め上げてしまう。締まっているのが当然の部分だ。意識して力を抜いていないといけない。
「はあ……」
「つらい、のだろう」
「つらくはない……あんたが焦らすのは、つらい」
「……」
「エメラード。ふふ、いい名前だね」
 輝かしい、周囲に期待されて生まれた名だ。そしてそれに似つかわしい、丁寧に育った人だ。
「しょうがないなあ」
 甘ったれな子供にするみたいな気分で頭を撫でてやった。膝をたて、よいせ、と体を動かす。
「んっ、ん……」
 がんばっていると、それなりに声は出る。大変なので。
「……っ、待て。待ちなさい……」
「またない」
 早くしてほしいのだ。
 大きな、熱いものを中に入れたまま、動きもしないなんてひどい。
「待ちなさいと……!」
「あ」
 スクは動きを止めた。
 エメラードの手が肩を押さえたからだ。しかしその手はゆっくりと下がって、スクの背中を撫でた。
「うん」
 気持ちいい。
 うっとりと目を細めると、エメラードが困ったように苦笑した。
「……続きを、したいのは、私の方だ」
「あんたの体が」
「そうだ。まだ熱い……はちきれそうだ。犯したい。君の、」
「ふ」
 スクは笑った。
「中を、思い切り……」
 エメラードは耐えられないとばかりに顔をしかめて口を閉じた。
「じゃあ」
 苦しげな男の首に腕を回す。後頭部をさらさらと撫でた。やはりきれいな髪だ。
 きっといい匂いもする。
 引き寄せた。
「して」
「待ちなさい」
「いやなの?」
 すると苦難の表情が諦めに変わり、苦しげに言った。
「……しよう。させてくれ。……どうしようもない」
「どうしようもない……」
 スクはそれを確かめるために、下肢に力を入れる。熱の塊を噛みしめる。
「はふ」
 確かに、確かにそうである。
「ふふ」
 これはどうしようもない。
 エメラードはうめいたあとで呼吸を整え、真面目な顔をして、ようやく動き始めた。ゆっくり、じっくり。
 こらえにこらえたものが、エメラードの額に汗として吹き出ている。
「んぅ」
 不満だ。
 我慢なんてしなくていい。
 あまりにもゆっくり。粘膜にできた襞のひとつひとつを、ねっとりと擦り上げていく。
「く……っ」
 はちきれそうに膨らませているくせ、まるで被虐的な動きに、スクは言葉を失って見上げた。
 あいも変わらず彼の苦悩は美しい。
 わずかに伏せられたまぶたの、まつげが揺れている。足で挟み込んだ体が、その力を持て余して震えている。
「……」
 スクの視線に気づいたか、まぶたが上がった。
 目が合う。
 同時にエメラードは柔らかく笑って、スクの頭を片手で抱いた。
「んっ、そ……れ、」
「……いけないか?」
「……」
 いけない。つまらない。もっと気持ちのいいところに触れてほしい。
 そんな返事を考えたが、口から出ていかなかった。その手が離れることを想像すると、どうも嫌だったのだ。
「……私は、君の頭は、とても……」
「あっ……!」
 自然と声が漏れた。
 押されたままに背を浮かせて、体の芯がどこかを目指し始めたのを知る。
「あ、う」
「抱き心地が、いいと」
「そ」
 スクは必死に手を伸ばしてすがりつき、それから慌てて力を抜いた。これほど窮屈に抱きしめては、動くなと言っているようなものだ。
 衝動のままに動きたい。動けない。動いてほしい。
「そんなこと、」
「うん?」
 穏やかに問い返されて、顔を引っ掻いてやりたい。どうして自分の方が余裕がなくなっているのか、理解できない。何が起こった。
 人恋しさが突き破ってしまったのだ、色々と。
「そんなことは?」
「ない……」
「では、こうして、いよう」
「んー……っ!」
 話が通じていない。
 でもなんだか、どうでもいい。
 頭をしっかりと抱えられ、大きな手のひらを感じながら揺らされた。あんまりきちんと抱えられているので、それほど動かない。動けない。
 とても安定している。
 突き上げられても背中がずれない。
 揺り戻しも穏やかに、体は触れ合ったままだ。空気は穏やかなのに、なぜか、擦られる中がいつも以上にぞわぞわしてたまらない。
「な、にっ……これ……!」
「ああ」
 エメラードが紅潮した頬を持ち上げて笑った。
「やはりあの書は……正しいようだ」
 それは違うと思う。
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