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追放
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「お前のその態度が鼻につくんだよ‼︎」
ドンっと突き飛ばされ床に手をつく。私が何をしたと言うのか。愛していた人に突き飛ばされ、涙が出てくる。
呆然とした目で、愛していた人であった侯爵家の次男ハルロイドを見上げる。
「その目だよ、ムカつくのは! お前はS級冒険者だ。だが俺は? 魔力すらない俺はお前のヒモ。お前の存在のせいで俺はみんなからバカにされたんだ‼︎」
散々喚き散らした内容は呆気に取られるほど幼稚なものだった。
「落ち着いて、ハル。私がいるじゃない」
そんなハルロイドに寄り添うのが私の従姉妹。金髪碧眼で前女王陛下に酷似した容姿を持つ彼女は魔力こそ無いものの、その美貌で殆どの貴族令息を虜にしていた。
「あなた……」
「あら、ユリア様。女性というのは殿方を立ててこそ魅力的なんですよ?」
コテンと首を傾げ、にっこりと笑う従姉妹。この状況下で浮かべられた微笑みは、私にはとても不気味に感じた。
「ああ、そうそう。家も私が継ぐことになりました。正確にはハル様が当主ですけど。ユリア様はもう用無しですね」
にんまりと浮かべられた笑みに、従姉妹の性格が読み取れる。つまり、私は従姉妹に嵌められたってわけね。そして、家に帰った私は案の定父親に追い出された。
「お前など不要だ! 大切に育ててやった恩も忘れて……その点、従姉妹のアリアはやっぱり違うな。あんなに器量良しで、しかも性格も良く有能。魔力はないが、まぁ血筋はウチと同じだから生まれてくる子供は魔力持ちだろう」
うっとりと目を細めてそう宣う父親の顔は1人の男の顔だった。ああ、この人も私のせいで劣等感を感じていたのか……
「分かりました。出て行きます……」
絶望感に打ちのめされながら私はクルリと父親に背を向けた。その時、油断したと言ってもいいだろう。まさか、実の父親が娘を殺すなど思ってもみなかったのだからーー
「い"ぁ⁉︎」
「ははは、まさか普通に追放されるとでも思ったのか? そんなわけないだろう。S級冒険者のお前の魔石はでかいだろうなぁ。アリア達の結婚資金にさせてもらうぞ」
ぐりっと中で剣を回される。途端、襲う内臓を引っ掻き回されるような激痛。慌てて聖魔法を使おうとした私はそれが使えない事に今更ながらに気が付いた。
「国がS級冒険者を見逃すと思うかい?」
覗き込んできた父親の顔は愉悦に歪んでいた。その言葉で私は察する。コレは私達の問題では無いんだ、と。魔法が使えなくなる魔道具なんて国宝級でしか聞いたことがない。つまり、国王も関わっているのだ。
「お前の魔石は国の聖結界の燃料としてありがたく使わせてもらう。コレで100年ほどは持つだろう。親孝行できてよかったなぁ」
薄れゆく意識の中で絶望する。ああ、こんな国さっさと見捨てればよかったーー
【聖女ノ嘆キヲ感知。ラストチャンス。世界ガ巻キ戻サレマス】
脳内に響く謎の音声。それと同時に私は暖かい何かに包まれ眩しさを感じる方へ吸い込まれていった。
電車、車、学校、ソウルフード、和食、寿司、着物……
失われていた記憶が戻っていく。まるでパズルの最後のピースがはまったようにーー
「ユリア様! ユリア様‼︎ もうすぐハルロイド様がいらっしゃいますよ‼︎」
ガンガンと頭に響く声にぐずる私。もう少し、まだ寝ていたいの。
「んん~」
「お・き・な・さい‼︎」
しかし、声の主は呆れた様子で私の頭を叩いた。
「いだっ⁉︎」
「やっ~とおきましたか! さあ準備しますよ!」
パチリと目を開けると、そこには10年前、突如居なくなったはずのマーサがいた。私の乳母だ。
「え? え? マーサ? なんで? 私って死んだのよ?」
「なーに言ってるんですか? 今お喋りしてるのは誰なんです?」
「私。」
「ほらほら、ふざけてないで準備しますよ。ユリア様の髪は奥様譲りでとても綺麗ですねぇ。金髪碧眼が持て囃されている今ですが、本当は黒目黒髪の方が高貴なんですよ?」
「ふーん」
髪に櫛を通しながらお喋りするマーサ。今までは私を励ます為のものとしか思えなかったが、今は理解していた。それは本当なのだと。でないと目の前に出ているステータスが理解できないから。
称号の部分には【大聖女/転生者/逆行者】と表示されている。私は先程体験したのは本当だったようだ。
それに、以前ここに転生する前の記憶も私は保持していた。いや、封印が解けたと言ってもいいのか……ふーん、ステータスもS級だった時とほとんど変わっていないんだ。
私がぼーっとしている間にマーサが殆どの支度を終えてしまったようで、ペシッと頬を叩かれる。
「うっ」
「はいはい、しっかりしてください! 最近アリア様がハルロイド様に寄ってきたと泣きついたのはあなたでしょう! 私が渾身の努力でお綺麗にしましたから、自信を持ってイチャイチャしてきてくださいな」
フンっと鼻息荒く私の背中を押すマーサ。そんなマーサに促されるまま、私はハルロイドが待つ応接室に向かったのだった。
「ステータスオープン」
ヴンッという音がして目の前に文字が映し出される。何度見ても変わらない【逆行者】の3文字は私が未来で殺される運命だということをはっきりと予言していた。
前はステータスにこんなの書いてなかった。称号にもハルロイドの婚約者とS級冒険者としか載ってなかった。なのに、前世の記憶を取り戻し過去へと逆行した今、私の前には本当のステータスが見えるようになっていたのだ。
「失礼します」
応接室に入ると、不機嫌な顔をしたハルロイドがソファーにどかりと座っていた。
おい、なんだよその態度。それが婚約者にする態度か?
途端にビキリとくる私。こんなのが好きだったなんてありえない。
「お前、本当にいい身分だな。そんな着飾って何がいいんだ?」
口を開けば私を非難する言葉ばかり。そして、その言葉は逆行する前、オシャレを辞めたきっかけとなった言葉だった。
『ねぇマーサ。私にはこんな煌びやかなドレスは似合わないわ。やっぱり冒険者らしい格好でないとね』
確か、その瞬間から私は女らしさを捨て冒険者のランクを上げることに専念し始めたのだ。
「お前は冒険者として活躍してもらわなければな。まぁ、今の時点でCランクだと恥ずかしくて堪らんがな。せめてSランクにでもなれば可愛がってやれたものを……」
そう、後に続いたこの言葉のせいで。
まぁ、当時の私は他を知らなかったから皆んなもそうなんだと思って素直に受け止めちゃったのよね。でもさ、前世を思い出した今、コイツがクズ男ってのは良くわかった。
「お言葉ですが、私は着飾るのは家の権力を示すために必要なものだと思っております。あなたは我が家を貶めたいのですか?」
「な⁉︎ 貴様! 男である俺に口答えするのか! それならまだアリアの方が可愛げがあるぞ! そうだ、婚約者を今からでもいいから変えてやろうか⁉︎」
その言葉にげんなりする。貴方は既にアリアと親交があったのか。どーせ最後は私を殺してアリアと結婚するんでしょ?
黙っているせいで言い負かせたと思っているクズ男に私は笑顔で言い返してやった。
「あら、いいですよ。私は今日限りでここから出て行きます‼︎」
「な⁉︎」
驚くハルロイドを置いて、私は急いで部屋に向かう。そういえば、マーサがいなくなるのも今日だった。ならちょうどいい。
「マーサ! 私、今から家をでるわ! ついでに国もね。どう? 一緒に行かない?」
バタンッとドアを開け放ち、マーサに声をかける私。そして、視界の端にマーサを見つけぎょっとする。
「ま、マーサ? ねぇ、何よその血⁉︎」
「ゆ、ユリアさ……ま……早く! 早くお逃げにっっ⁉︎ うぅ」
血溜まりに倒れたマーサには、逆行前に私が刺されて死んだ短剣が突き刺さっていた。そう、お父様ガ私を殺シタ時ノと同ジ……
「……嘘だ。お父様がマーサを⁉︎」
「うぅ……」
呻くマーサに慌てて上級聖魔法をかける。みるみるうちに消えていく傷跡にホッとする私は、マーサの後ろに立っていた人物に声をかけた。
「ねぇ、お父様。どういうことなの?」
自分でもこんな声が出るんだって驚くぐらい低い声が私の喉から出る。
「そうか、もうヒールが使えるようになったか。良くやったなユリア。こちらにおいで?」
「なんでマーサを殺そうとしたのかって聞いてんのよ‼︎」
「なんだね。ヒールが使えるようになったのだ。恩人に感謝はないのか?」
父親いや、この男は私が使った魔法がヒールだと勘違いしている。そして、会話が成立しなかった。
「ユリア様、コイツらはユリア様の魔石が目当てなのです! 育てて奪おうと言う話を聞いてしまい……」
ああ、そう言うことね。最近聖結界の維持が難しくなってきたと風の噂で聞いていた。持って後10年だろうと。それは私が殺された年と一致する。
「クズね。いいわ、マーサ。今から転移するけどびっくりしないでね?」
「はぃ⁉︎ 転移⁉︎」
「うん、そう。じゃあねお父様。ああ、そうだ。ハルロイド様がアリアの方が婚約者として良いって言ってたからそうしてあげて。私の魔石は結婚資金に当てられないけどまぁ大丈夫だよね?」
にっこりと笑顔で言えば「なぜそれを知って⁉︎」と驚愕の表情を浮かべる父親。そんな彼に幻滅する。所詮私は金稼ぎの道具だったってわけね。
「じゃあ、さようなら」
「ま、待て! 逃すか! お前の魔石が育てば儂は昇格されるんだ‼︎」
醜く縋ってくる老いた男は見苦しかった。
「最上級空間魔法」
***
【ユリア達が去った後】
「どう言うことだ⁉︎ お前は聖女へ封印を施していたのであろう⁉︎」
「ひぃ⁉︎ きちんと施しておりました!」
「ならば、なぜテレポートが使えたのだ⁉︎ あれは聖女しか使えぬ魔法だ! もう聖結界を維持する魔石の期限が迫っているのを知っているであろう! この魔石が小さいのも確かお前が聖女を見誤ったからであったな⁉︎」
王宮に呼ばれ、王や公爵たちの前で震えているのはユリアの父親である。その横にはハルロイドもいた。
「時期聖女を産んでから魔石を取り出そうと思うておったのに、お主早まったであろう?」
「はっ! 申し訳ありません‼︎ ですが、今回はそこの侯爵令息のせいでございます!」
「なっ⁉︎ ユリアのお父上がマーサを殺したのをユリアに見られたからでしょう⁉︎」
「うるさい! 黙れ!」
「「はひ⁉︎」」
見苦しく責任の擦りつけを始めた2人に王が一喝して黙らせる。
「こうなれば、聖女を手に入れるのは至難の業であろうよ。他の国にでも逃げられれば我らの聖結界の仕組みもバレてしまう! それは何としても防がねば、国を潰されるぞ‼︎」
威圧魔法を込めた声音で高々と宣言する王は内心焦っていた。もし、聖女を殺して魔石を奪っていたのがバレれば国がなくなるどころかもっとひどい有様になると予想できたからだ。
「今すぐ暗部に連絡してユリアを探させろ! 真名がわかっている分、すぐ見つかるだろう。早く捕えろ‼︎」
こうして、ユリア達に追っ手が差し向けられたのだった。しかし、王達は一つ勘違いしている。それはユリアが大聖女であったこと。それから前世の記憶があったことーー
ドンっと突き飛ばされ床に手をつく。私が何をしたと言うのか。愛していた人に突き飛ばされ、涙が出てくる。
呆然とした目で、愛していた人であった侯爵家の次男ハルロイドを見上げる。
「その目だよ、ムカつくのは! お前はS級冒険者だ。だが俺は? 魔力すらない俺はお前のヒモ。お前の存在のせいで俺はみんなからバカにされたんだ‼︎」
散々喚き散らした内容は呆気に取られるほど幼稚なものだった。
「落ち着いて、ハル。私がいるじゃない」
そんなハルロイドに寄り添うのが私の従姉妹。金髪碧眼で前女王陛下に酷似した容姿を持つ彼女は魔力こそ無いものの、その美貌で殆どの貴族令息を虜にしていた。
「あなた……」
「あら、ユリア様。女性というのは殿方を立ててこそ魅力的なんですよ?」
コテンと首を傾げ、にっこりと笑う従姉妹。この状況下で浮かべられた微笑みは、私にはとても不気味に感じた。
「ああ、そうそう。家も私が継ぐことになりました。正確にはハル様が当主ですけど。ユリア様はもう用無しですね」
にんまりと浮かべられた笑みに、従姉妹の性格が読み取れる。つまり、私は従姉妹に嵌められたってわけね。そして、家に帰った私は案の定父親に追い出された。
「お前など不要だ! 大切に育ててやった恩も忘れて……その点、従姉妹のアリアはやっぱり違うな。あんなに器量良しで、しかも性格も良く有能。魔力はないが、まぁ血筋はウチと同じだから生まれてくる子供は魔力持ちだろう」
うっとりと目を細めてそう宣う父親の顔は1人の男の顔だった。ああ、この人も私のせいで劣等感を感じていたのか……
「分かりました。出て行きます……」
絶望感に打ちのめされながら私はクルリと父親に背を向けた。その時、油断したと言ってもいいだろう。まさか、実の父親が娘を殺すなど思ってもみなかったのだからーー
「い"ぁ⁉︎」
「ははは、まさか普通に追放されるとでも思ったのか? そんなわけないだろう。S級冒険者のお前の魔石はでかいだろうなぁ。アリア達の結婚資金にさせてもらうぞ」
ぐりっと中で剣を回される。途端、襲う内臓を引っ掻き回されるような激痛。慌てて聖魔法を使おうとした私はそれが使えない事に今更ながらに気が付いた。
「国がS級冒険者を見逃すと思うかい?」
覗き込んできた父親の顔は愉悦に歪んでいた。その言葉で私は察する。コレは私達の問題では無いんだ、と。魔法が使えなくなる魔道具なんて国宝級でしか聞いたことがない。つまり、国王も関わっているのだ。
「お前の魔石は国の聖結界の燃料としてありがたく使わせてもらう。コレで100年ほどは持つだろう。親孝行できてよかったなぁ」
薄れゆく意識の中で絶望する。ああ、こんな国さっさと見捨てればよかったーー
【聖女ノ嘆キヲ感知。ラストチャンス。世界ガ巻キ戻サレマス】
脳内に響く謎の音声。それと同時に私は暖かい何かに包まれ眩しさを感じる方へ吸い込まれていった。
電車、車、学校、ソウルフード、和食、寿司、着物……
失われていた記憶が戻っていく。まるでパズルの最後のピースがはまったようにーー
「ユリア様! ユリア様‼︎ もうすぐハルロイド様がいらっしゃいますよ‼︎」
ガンガンと頭に響く声にぐずる私。もう少し、まだ寝ていたいの。
「んん~」
「お・き・な・さい‼︎」
しかし、声の主は呆れた様子で私の頭を叩いた。
「いだっ⁉︎」
「やっ~とおきましたか! さあ準備しますよ!」
パチリと目を開けると、そこには10年前、突如居なくなったはずのマーサがいた。私の乳母だ。
「え? え? マーサ? なんで? 私って死んだのよ?」
「なーに言ってるんですか? 今お喋りしてるのは誰なんです?」
「私。」
「ほらほら、ふざけてないで準備しますよ。ユリア様の髪は奥様譲りでとても綺麗ですねぇ。金髪碧眼が持て囃されている今ですが、本当は黒目黒髪の方が高貴なんですよ?」
「ふーん」
髪に櫛を通しながらお喋りするマーサ。今までは私を励ます為のものとしか思えなかったが、今は理解していた。それは本当なのだと。でないと目の前に出ているステータスが理解できないから。
称号の部分には【大聖女/転生者/逆行者】と表示されている。私は先程体験したのは本当だったようだ。
それに、以前ここに転生する前の記憶も私は保持していた。いや、封印が解けたと言ってもいいのか……ふーん、ステータスもS級だった時とほとんど変わっていないんだ。
私がぼーっとしている間にマーサが殆どの支度を終えてしまったようで、ペシッと頬を叩かれる。
「うっ」
「はいはい、しっかりしてください! 最近アリア様がハルロイド様に寄ってきたと泣きついたのはあなたでしょう! 私が渾身の努力でお綺麗にしましたから、自信を持ってイチャイチャしてきてくださいな」
フンっと鼻息荒く私の背中を押すマーサ。そんなマーサに促されるまま、私はハルロイドが待つ応接室に向かったのだった。
「ステータスオープン」
ヴンッという音がして目の前に文字が映し出される。何度見ても変わらない【逆行者】の3文字は私が未来で殺される運命だということをはっきりと予言していた。
前はステータスにこんなの書いてなかった。称号にもハルロイドの婚約者とS級冒険者としか載ってなかった。なのに、前世の記憶を取り戻し過去へと逆行した今、私の前には本当のステータスが見えるようになっていたのだ。
「失礼します」
応接室に入ると、不機嫌な顔をしたハルロイドがソファーにどかりと座っていた。
おい、なんだよその態度。それが婚約者にする態度か?
途端にビキリとくる私。こんなのが好きだったなんてありえない。
「お前、本当にいい身分だな。そんな着飾って何がいいんだ?」
口を開けば私を非難する言葉ばかり。そして、その言葉は逆行する前、オシャレを辞めたきっかけとなった言葉だった。
『ねぇマーサ。私にはこんな煌びやかなドレスは似合わないわ。やっぱり冒険者らしい格好でないとね』
確か、その瞬間から私は女らしさを捨て冒険者のランクを上げることに専念し始めたのだ。
「お前は冒険者として活躍してもらわなければな。まぁ、今の時点でCランクだと恥ずかしくて堪らんがな。せめてSランクにでもなれば可愛がってやれたものを……」
そう、後に続いたこの言葉のせいで。
まぁ、当時の私は他を知らなかったから皆んなもそうなんだと思って素直に受け止めちゃったのよね。でもさ、前世を思い出した今、コイツがクズ男ってのは良くわかった。
「お言葉ですが、私は着飾るのは家の権力を示すために必要なものだと思っております。あなたは我が家を貶めたいのですか?」
「な⁉︎ 貴様! 男である俺に口答えするのか! それならまだアリアの方が可愛げがあるぞ! そうだ、婚約者を今からでもいいから変えてやろうか⁉︎」
その言葉にげんなりする。貴方は既にアリアと親交があったのか。どーせ最後は私を殺してアリアと結婚するんでしょ?
黙っているせいで言い負かせたと思っているクズ男に私は笑顔で言い返してやった。
「あら、いいですよ。私は今日限りでここから出て行きます‼︎」
「な⁉︎」
驚くハルロイドを置いて、私は急いで部屋に向かう。そういえば、マーサがいなくなるのも今日だった。ならちょうどいい。
「マーサ! 私、今から家をでるわ! ついでに国もね。どう? 一緒に行かない?」
バタンッとドアを開け放ち、マーサに声をかける私。そして、視界の端にマーサを見つけぎょっとする。
「ま、マーサ? ねぇ、何よその血⁉︎」
「ゆ、ユリアさ……ま……早く! 早くお逃げにっっ⁉︎ うぅ」
血溜まりに倒れたマーサには、逆行前に私が刺されて死んだ短剣が突き刺さっていた。そう、お父様ガ私を殺シタ時ノと同ジ……
「……嘘だ。お父様がマーサを⁉︎」
「うぅ……」
呻くマーサに慌てて上級聖魔法をかける。みるみるうちに消えていく傷跡にホッとする私は、マーサの後ろに立っていた人物に声をかけた。
「ねぇ、お父様。どういうことなの?」
自分でもこんな声が出るんだって驚くぐらい低い声が私の喉から出る。
「そうか、もうヒールが使えるようになったか。良くやったなユリア。こちらにおいで?」
「なんでマーサを殺そうとしたのかって聞いてんのよ‼︎」
「なんだね。ヒールが使えるようになったのだ。恩人に感謝はないのか?」
父親いや、この男は私が使った魔法がヒールだと勘違いしている。そして、会話が成立しなかった。
「ユリア様、コイツらはユリア様の魔石が目当てなのです! 育てて奪おうと言う話を聞いてしまい……」
ああ、そう言うことね。最近聖結界の維持が難しくなってきたと風の噂で聞いていた。持って後10年だろうと。それは私が殺された年と一致する。
「クズね。いいわ、マーサ。今から転移するけどびっくりしないでね?」
「はぃ⁉︎ 転移⁉︎」
「うん、そう。じゃあねお父様。ああ、そうだ。ハルロイド様がアリアの方が婚約者として良いって言ってたからそうしてあげて。私の魔石は結婚資金に当てられないけどまぁ大丈夫だよね?」
にっこりと笑顔で言えば「なぜそれを知って⁉︎」と驚愕の表情を浮かべる父親。そんな彼に幻滅する。所詮私は金稼ぎの道具だったってわけね。
「じゃあ、さようなら」
「ま、待て! 逃すか! お前の魔石が育てば儂は昇格されるんだ‼︎」
醜く縋ってくる老いた男は見苦しかった。
「最上級空間魔法」
***
【ユリア達が去った後】
「どう言うことだ⁉︎ お前は聖女へ封印を施していたのであろう⁉︎」
「ひぃ⁉︎ きちんと施しておりました!」
「ならば、なぜテレポートが使えたのだ⁉︎ あれは聖女しか使えぬ魔法だ! もう聖結界を維持する魔石の期限が迫っているのを知っているであろう! この魔石が小さいのも確かお前が聖女を見誤ったからであったな⁉︎」
王宮に呼ばれ、王や公爵たちの前で震えているのはユリアの父親である。その横にはハルロイドもいた。
「時期聖女を産んでから魔石を取り出そうと思うておったのに、お主早まったであろう?」
「はっ! 申し訳ありません‼︎ ですが、今回はそこの侯爵令息のせいでございます!」
「なっ⁉︎ ユリアのお父上がマーサを殺したのをユリアに見られたからでしょう⁉︎」
「うるさい! 黙れ!」
「「はひ⁉︎」」
見苦しく責任の擦りつけを始めた2人に王が一喝して黙らせる。
「こうなれば、聖女を手に入れるのは至難の業であろうよ。他の国にでも逃げられれば我らの聖結界の仕組みもバレてしまう! それは何としても防がねば、国を潰されるぞ‼︎」
威圧魔法を込めた声音で高々と宣言する王は内心焦っていた。もし、聖女を殺して魔石を奪っていたのがバレれば国がなくなるどころかもっとひどい有様になると予想できたからだ。
「今すぐ暗部に連絡してユリアを探させろ! 真名がわかっている分、すぐ見つかるだろう。早く捕えろ‼︎」
こうして、ユリア達に追っ手が差し向けられたのだった。しかし、王達は一つ勘違いしている。それはユリアが大聖女であったこと。それから前世の記憶があったことーー
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