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 ヴィンと言う音と共に、テレポート先へ到着する。キョロキョロと辺りを見回してみれば、S級冒険者だった時の狩場だった。

「マーサ! ここなら誰も来ないわ‼︎」
「ゆ、ユリア様! 嗚呼、ご無事でいらっしゃる」

 縋り付いて泣くマーサはとてもいい人だ。だからこそ、私はマーサを殺そうとした国の奴らが許せない。

「ねぇマーサ。聖女って他国にバレたらとまうなるの?」
「グスッ……ええっとですね。まず保護されます。それから、聖協会に送られて神様にお祈りですかね」

 なんだそれ。飼い殺しではないか。

「そうなの。じゃあ、私たちの国王がした事は違反?」
「ええ、バレれば即国を滅ぼされます。誰しも聖女が欲しいですから。その争いを避けるために聖協会が聖女を保護するのです」

 なら、父親達は私が密告すれば1発で処刑ってところか……でも、私はそんなやり方じゃあ満足しない。やるなら自分で徹底的に堕とす。じわじわと痛めつけてやる。

「ふふっねぇいい事思いついたわ、マーサ。私、国を作ろうと思うの」
「ユリア様、頭の調子は大丈夫で?」
「うふ、大丈夫よ。私なら出来るのよ」

 そう、前世の知識トこノ力がアレバ……ね。

「私は今から名を変えるわ。実はね前世の記憶を持ってるの」
「は? 前世の……でございますか? 輪廻転生と言ったような?」

 ハテナマークを頭の上に浮かべるマーサにクスッと笑ってしまう。普通ならこんな話あり得ないとして聞こうともしないだろう。

「そう、私はね日本という国に女性として生きていたの。名前は水原凛」
「ミズハラリン? どれがファーストネームですか⁇」
「ふふっリンの部分がファーストネームよ」
「ではリン様とお呼びしましょう!」
「ありがとうマーサ」

 にぱっと笑うマーサは先ほどまで命の危険に晒されたことなどすっかり忘れたように振る舞っている。しかし、私は騙されなかった。何故なら手が震えているから。

聖心魔法マインドヒール

 こっそり心を落ち着かせる精神統一魔法をかければ、震えはおさまっていた。

「ねぇマーサ! 私ね、ここに国を造りたいの‼︎」
「はぁ……リン様。やはり頭が……」

 違うわ! この森は魔の森と呼ばれ、冒険者なんかも滅多に入れない怖ーい森なんだぞ‼︎ まぁ、そんな事言えないけど。

「えーっとね、ここは森の中でこの森の場所はちょうど権力争いしている大国さん達が狙っている場所なんだ」
「つまり?」
「どっちかが手を出しちゃえば戦争になるから、相手にそのきっかけを作ってもらおうと画作中で手を出せていない森」
「つまり?」
「美味しそうな食事を前に睨み合う2体の怪物」
「つまり?」
「それを私が掻っ攫ってしまおう‼︎ というわけであります‼︎」
「リン様。勝算はあるのですか?」

 勿論だよ。だって魔の森に入るのって結構武力必要だから大国も睨み合ったまま手を出せていないんだよ。……言えないけど。

「ある!」
 
 冷や汗ダラダラの私はチラリとマーサを横目で見つめる。自信満々に頷いた手前、実はここはとても危険なんです、とは言えないのだ。ごめんなさい‼︎ マーサ。

「はぁ、いいですよ。リン様を信じます。ですが、リン様の言っている通りならばここは魔の森になりますね。私が怯えないように敢えて隠されたようですが、それぐらいは分かりますよ」
「ありゃ、やっぱり?」
「ええ。リン様の強さなら大丈夫でしょうが、私にはここで生きていくことは難しいでしょう」

 お役に立てず申し訳ありません、と謝るマーサに私は慌てて今まで隠しておいた能力スキルを打ち明ける。

「あのね、マーサさえ良ければ私がマーサを生まれ変わらせたいの」

 そう、私は大聖女になった事で、あるスキルを獲得していた。それはーー聖天使化ーー上位種族にマーサを進化させることができるようになったのだ。真名を知っていると言う条件付きで。

「でも、それだとマーサが私の眷属になるから……やっぱり嫌だよね」
「いいですよ」
「へ? だってマーサ……」
「いいです。私の命が救われたのはリン様のおかげです。ならば私の命はリン様の物と言っても過言ではないでしょう?」

 にっこりと微笑むマーサに私は何も言えなかった。日本人としての記憶がある私は、眷属と言う言葉は間違ってもいい風には聞こえなかったから。だから、私はある可能性にかけた。

「ううん、ごめん。まだ待って。私はレベル上げしてくる! マーサ、時間はかかるけどもう少しだけ我慢してくれる?」
「ふふふ、そんな事しなくても宜しいのに……」

 私が嫌なのよ。マーサは私の母親同然の存在なのだから。

 その後、私は逆行前によく来ていた洞窟にマーサを案内し、そこに聖結界をはった。上級創造魔法クリエイトである程度居住空間を整えマーサの為に食料も置いていく。

「ここからはでちゃダメよ! 危ないから。その食料が尽きるまでには戻ってくるわ。だから絶対にそこから出ないでね」
「はいはい、リン様は心配性なのですね。わかりました」

 そして,私はレベル上げのために森へ潜ったのだった。

○○○

「ギャ! キャキャ‼︎」

 不気味な鳴き声が森に響く。私と言えば、ある実験を行おうと躍起になっていた。マーサを眷属ではなく、同等の存在にするには能力スキルの進化が必要。なら魔妖精ゴブリンで実験すれば!

 ゴブリンを誘き寄せようと一人で囮をやっていたのだ。1匹のゴブリンが群れから離れる。それを狙って私はスキルを行使した。

「よしかかった! 君の名前は今からグルだ! お願い効いて! 眷属化‼︎」

 バッと手をゴブリンに向け、一筋の希望も込めて聖天使化の劣化版である眷属化を唱える。バックンバックンと脈打つ心臓、そろりと目を開ければ目の前には可愛らしい銀髪の美少女が立っていた。

「へ? ウソ」
「リン様ー! 私グル‼︎」
「うっそだぁぁぁ! こ、こんな可愛い子があの恐ろしい魔物⁉︎」
「魔物だけどただの魔物じゃないもん! 見てみて、ステータスオープン‼︎ ほら! グルはリン様の眷属でしょ?」

 恐る恐る覗き見た私は驚愕に目を見開いた。は、はは。ウソでしょう。この子の種族が【ゴブリン→聖魔妖精ネライダ】と表記されていた。

「マジ?」
「まじ!」

 キラキラと目を輝かせて頷く美少女。よくよく見れば耳がとんがっており、妖精の特徴を受け継いでいた。……とても強そうには見えない。しかし、私の目に映るステータスにはグルがC級冒険者と同じぐらいの強さを持っている知らせていた。

 C級程であれば、魔の森の浅い部分なら入れるレベル。武術を習ってる男性と喧嘩しても余裕で勝利できるぐらいだ。しかし、ここは深層である。私としても眷属化したグルををこのまま放っておくことは出来なかった。

「ただいま」
「ただいま!」
「あらあら、可愛らしい子供を連れてこられましたね」
「グルっていうの! あなたリン様と同じ匂いする‼︎ マーサ様!」
「ふふふ、可愛いわねぇこの子の」

 先ほどまでゴブリンでしたなんて言えるわけない‼︎

「あ、眷属化したらついて来ちゃって……」
「ふふふ、分かりました。私がしっかり面倒を見ておきますね」
「グル置いていかれるの?」

 うるうると涙目のグルにウッとつまる私。しかし、心を鬼にして、マーサにグルを託した。

「いい、いい子にしてるのよ? マーサのいうことをちゃん聞いてね」
「はーい!」

 元気に手を振るグルはマーサから果実をもらってご機嫌のようだ。その隙に私はまたレベルアップの為に森へ潜ったのだった。
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