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スタッと静かに敵の近くの木に降り立つグル。
「おい、人間なんて本当にいるのか?」
「魔の森に聖女が現れたと聞いただろう。俺達は今からユリアの死体回収じゃなくて、人間を拉致る任務になったわけだ」
「へへっ! じゃあ前のユリアって言ったっけ? あれのお母さんと同じ状況だね」
「ああ、アレは楽しかったな」
「なかなかの獲物だった」
眼下には楽しそうな顔で話す大勢の人族。ガレア王国が派遣した真影部隊だ。
「…………っ‼︎」
無言で見つめる。が、次の瞬間グルは強い殺気を感じ慌ててオリビアの方を見た。そこにはギリっと奥歯を噛み締め、人族を睨みつけるオリビアがいた。
「やはり……! お前らが奥様を‼︎」
次の瞬間、オリビアは人族の前に現れていた。そう、目に追えぬほどのスピードで地上に降り立ったのだ。
「あーあ、私の獲物無くなった。でもまぁしょうがないかな」
オリビアの表情からは憎悪が見てとれた。今回は自分の出る幕じゃない。オリビアからそう感じ取ったグルは木の上で諦観を決め込んだ。
「おはようございます、皆さま?」
一方でオリビアはたおやかな笑みを浮かべて真影部隊と向かい合っていた。
「お⁉︎ 女じゃねぇか! ヒュー別嬪さんだな」
「へぇ、こんな森に……やはり、冒険者か?」
「なぁ聖女っぽくね?」
好き勝手言い出す人族にオリビアはすうっと目を細める。
「私が誰だとかは関係ありません。それよりも一つお聞きしたいことがありまして」
オリビアの問いに、1人の真影部隊の男が列から出てきた。目に傷を負った如何にも柄の悪そうな男。それがオリビアの男への第一印象だった。その男が徐ろに口を開いた。
「いいぜ。俺がここのリーダーだ。質問に答えてやる」
「まぁ、ありがとうございます。では、ユリア様のお母様のお話を聞かせていただけますか? どうやら何か私の知っている話とは違いまして……」
「なんだ、そんな事か」
そう言ったリーダーの顔は下品に笑み崩れていた。
「アレはもう20年程前になるか……」
そう言って自慢げに語られたのは衝撃の事実。
「あの女は良かったぜ? 俺には鑑定具ってのを持たされてるんだがな、聖女だってバレた瞬間逃げたんだ。その後は真影部隊の皆んなで獲物の追いかけっこだ。聖魔法が少し使えたらしくって、ちょこまかと逃げ回っていたが、この俺様が仕留めたんだよ。アァ、あの顔は堪んなかった。思わずなん発も腹に拳をお見舞いしてやったほどだよ。しっかし、聖女ってのは便利だよなぁ? 傷があっという間に治るんだからよぉ」
ケタケタと笑うリーダーに周りの真影部隊の部員達も釣られて笑い出す。
「んで、最後は子を孕ませて魔石取り出してズドンッてわけ。これで良かったかな? 聖女様よぉ」
「ええ、これで私のすべきことが分かりました。罪悪感を感じずに済みます」
ほろほろと涙をこぼすオリビアの顔は怒りで歪んでいた。
「おいおい、お前はもうバレてんだぜ? ほらコレが聖女を見分ける鑑定具。緑色に光れば聖女ってわけだ。ほぉ~ら、同じ目に会いたくなかったら逃げてみろヨォ。俺達が相手してやるから。な? 聖女様」
「ふふ、お前達に何ができると言うのです? 今まで犯してきた罪を償え贖罪」
瞬間、空から降ってくる大小様々な氷柱。それは真影部隊達を串刺しにした。……反応する隙も与えずにーー
「がっ⁉︎」
「いぎっ⁉︎」
「いだぁぁぁぁあ!」
「ぎゃぁぁぁ⁉︎」
「嘘だ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ゆ、許してくれ! 許せ許せ許せ許せ許せ……」
途端阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれる。
「その氷柱に触れたものは自身がやってきた悪事を全て体験することになります。全て幻覚ですが一応痛みも感じる様にしていますので、精々後悔してなさい」
「あぐぅ⁉︎ クソガァ!」
オリビアが放ったスキルは100名いたグルガ王国の精鋭を一瞬にして片付けてしまった。
「派手にやりましたね」
「そうですか? 多分、ショック死するでしょうね。これだけで勘弁してあげたのを感謝して欲しいものですよ」
グルが呆れながら言えば、ニコリと微笑むオリビア。そこにはリンに見せる優しい笑みなどではなかった。少し歪な笑み、悲しみが混ざった笑みだった。
「私はねぇ、ユリア様のお母様に拾われたのですよ。"この子をお願いします"と言われて屋敷を出ていかれました。その直後に物言わぬ死体となって帰って来ましたけれどね。奥様、約束はきちんと果たします。ユリア様は奥様に似てとても優しい子に育ちましたよ」
「グルもリン様好き。だからオリビア、リン様の障害となるものは真っ先に片付けようね」
「ふふっ、そうですね。ですが、拗ねるといけないので今度からは知らせておきましょう。ギアとか言った者も気付いているはずですし。リン様もおそらく気づいておられるでしょうからね」
「分かったわ」
丁度いいタイミングで、死亡した侵入者をグルのスキルで跡形も無く消す。
「雲霧」
スウッと解けるように空気中に消えていく死体達。証拠は無くなった。血痕もない。あくまで真影部隊はショック死だったのだから。
「さぁ、行きましょう」
「うん」
2人は再び洞窟の方へ戻って行ったのだった。
この日、ガレア王国が世界に誇る暗殺部隊【真影部隊】が世界から消えた。
「おい、人間なんて本当にいるのか?」
「魔の森に聖女が現れたと聞いただろう。俺達は今からユリアの死体回収じゃなくて、人間を拉致る任務になったわけだ」
「へへっ! じゃあ前のユリアって言ったっけ? あれのお母さんと同じ状況だね」
「ああ、アレは楽しかったな」
「なかなかの獲物だった」
眼下には楽しそうな顔で話す大勢の人族。ガレア王国が派遣した真影部隊だ。
「…………っ‼︎」
無言で見つめる。が、次の瞬間グルは強い殺気を感じ慌ててオリビアの方を見た。そこにはギリっと奥歯を噛み締め、人族を睨みつけるオリビアがいた。
「やはり……! お前らが奥様を‼︎」
次の瞬間、オリビアは人族の前に現れていた。そう、目に追えぬほどのスピードで地上に降り立ったのだ。
「あーあ、私の獲物無くなった。でもまぁしょうがないかな」
オリビアの表情からは憎悪が見てとれた。今回は自分の出る幕じゃない。オリビアからそう感じ取ったグルは木の上で諦観を決め込んだ。
「おはようございます、皆さま?」
一方でオリビアはたおやかな笑みを浮かべて真影部隊と向かい合っていた。
「お⁉︎ 女じゃねぇか! ヒュー別嬪さんだな」
「へぇ、こんな森に……やはり、冒険者か?」
「なぁ聖女っぽくね?」
好き勝手言い出す人族にオリビアはすうっと目を細める。
「私が誰だとかは関係ありません。それよりも一つお聞きしたいことがありまして」
オリビアの問いに、1人の真影部隊の男が列から出てきた。目に傷を負った如何にも柄の悪そうな男。それがオリビアの男への第一印象だった。その男が徐ろに口を開いた。
「いいぜ。俺がここのリーダーだ。質問に答えてやる」
「まぁ、ありがとうございます。では、ユリア様のお母様のお話を聞かせていただけますか? どうやら何か私の知っている話とは違いまして……」
「なんだ、そんな事か」
そう言ったリーダーの顔は下品に笑み崩れていた。
「アレはもう20年程前になるか……」
そう言って自慢げに語られたのは衝撃の事実。
「あの女は良かったぜ? 俺には鑑定具ってのを持たされてるんだがな、聖女だってバレた瞬間逃げたんだ。その後は真影部隊の皆んなで獲物の追いかけっこだ。聖魔法が少し使えたらしくって、ちょこまかと逃げ回っていたが、この俺様が仕留めたんだよ。アァ、あの顔は堪んなかった。思わずなん発も腹に拳をお見舞いしてやったほどだよ。しっかし、聖女ってのは便利だよなぁ? 傷があっという間に治るんだからよぉ」
ケタケタと笑うリーダーに周りの真影部隊の部員達も釣られて笑い出す。
「んで、最後は子を孕ませて魔石取り出してズドンッてわけ。これで良かったかな? 聖女様よぉ」
「ええ、これで私のすべきことが分かりました。罪悪感を感じずに済みます」
ほろほろと涙をこぼすオリビアの顔は怒りで歪んでいた。
「おいおい、お前はもうバレてんだぜ? ほらコレが聖女を見分ける鑑定具。緑色に光れば聖女ってわけだ。ほぉ~ら、同じ目に会いたくなかったら逃げてみろヨォ。俺達が相手してやるから。な? 聖女様」
「ふふ、お前達に何ができると言うのです? 今まで犯してきた罪を償え贖罪」
瞬間、空から降ってくる大小様々な氷柱。それは真影部隊達を串刺しにした。……反応する隙も与えずにーー
「がっ⁉︎」
「いぎっ⁉︎」
「いだぁぁぁぁあ!」
「ぎゃぁぁぁ⁉︎」
「嘘だ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ゆ、許してくれ! 許せ許せ許せ許せ許せ……」
途端阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれる。
「その氷柱に触れたものは自身がやってきた悪事を全て体験することになります。全て幻覚ですが一応痛みも感じる様にしていますので、精々後悔してなさい」
「あぐぅ⁉︎ クソガァ!」
オリビアが放ったスキルは100名いたグルガ王国の精鋭を一瞬にして片付けてしまった。
「派手にやりましたね」
「そうですか? 多分、ショック死するでしょうね。これだけで勘弁してあげたのを感謝して欲しいものですよ」
グルが呆れながら言えば、ニコリと微笑むオリビア。そこにはリンに見せる優しい笑みなどではなかった。少し歪な笑み、悲しみが混ざった笑みだった。
「私はねぇ、ユリア様のお母様に拾われたのですよ。"この子をお願いします"と言われて屋敷を出ていかれました。その直後に物言わぬ死体となって帰って来ましたけれどね。奥様、約束はきちんと果たします。ユリア様は奥様に似てとても優しい子に育ちましたよ」
「グルもリン様好き。だからオリビア、リン様の障害となるものは真っ先に片付けようね」
「ふふっ、そうですね。ですが、拗ねるといけないので今度からは知らせておきましょう。ギアとか言った者も気付いているはずですし。リン様もおそらく気づいておられるでしょうからね」
「分かったわ」
丁度いいタイミングで、死亡した侵入者をグルのスキルで跡形も無く消す。
「雲霧」
スウッと解けるように空気中に消えていく死体達。証拠は無くなった。血痕もない。あくまで真影部隊はショック死だったのだから。
「さぁ、行きましょう」
「うん」
2人は再び洞窟の方へ戻って行ったのだった。
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