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面倒ごとはパスします
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「……気でも狂ったのかい? 」
「ふっふっふっ……! 来るんじゃねぇセシリアさん! こいつがどうなってもいいのか!!」
「ひぃっ!?」
短剣を首元に押し当てられて、私は情けなく声を上げます。
やばいですよ!? この自称勇者さんが何を考えているのか知りませんが……それ故に底知れぬ恐ろしさというものがあります。
「……一応言っておこうか。 私ならばここからでも容易に君を撃ち抜くことができるよ?」
「そんなことは分かっている! だが撃たれた瞬間に……アリスを刺し殺すくらいならできるぜ?」
「……」
自称勇者さんの脅しに押し黙るセシリア。
それは単なるハッタリかもしれませんが……その可能性にかけるのはあまりに代償が重すぎます。
どうしたら良いでしょうか……死にたくないですし。
「時に勇者くん。 君は一体? 何を目的にしているんだ」
「勇者はこの世に二人もいらない。 俺はあんたを倒して……魔族をこの世から滅殺するんだ!」
「……なんて馬鹿な」
心底呆れたと言わんばかりの表情を浮かべるセシリア。
私もそれと同じように、自称勇者さんの愚かさに戦慄していました。
「ふむ……そういうことならば。 私は名誉なんてこれっぽっちも必要ないから、君が倒したことにしていいよ?」
「なっ……それは本当か!?」
「無論だとも」
セシリアからの思わぬ提案に私の拘束を緩める自称勇者さん。
その迂闊な行動が……命取りでした。
「ふふっ。 詰めが甘いね」
「んなっ……!?」
瞬間、雷電が瞬き自称勇者さんの意識を一瞬で刈り取りました。
バタリと地面に倒れ伏した勇者さんが手からこぼした短剣を足払いで遠くへとぶっ飛ばしました。
「ふふっ。 甘いね勇者くん。 別に私は名誉なんかに興味はないが……自分の欲しいものは自分自身の力で手に入れるべきなのさ」
「うーん。 助かったよセシリア」
「いやいや。 今回ばかりは私もなかなか肝を冷やしたよ」
セシリアの言葉に心底安堵する私。
今回は……セシリアがいなかったら本当にヤバかったですね……。
★★★★★
とりあえず色々と紆余曲折がありましたが⋯⋯私たちはセシリアの魔法によって魔王さんのお城へとやって来ました。
勇者さんは「なんなんだこの魔法は……」と困惑していましたが……安心してください、何回も見ている私ですらこれっぽっちも理解出来ておりませんので。
そうして突入した魔王城にて出会い頭に魔王さんに特大火球をぶっ放し……気絶した魔王さんの介抱をしている最中なのです。
『魔王さん? 起きてくださーい?』
『うーん……。 もう少しだけ……』
セシリアに吹っ飛ばされた魔王さんの頬をペシペシと叩きますが……ぜんっぜん起きる気配はありません。
そんな折、縄で危険すぎる自称勇者さんを縛り終えたセシリアが戻ってきました。
そして……『私に任せてくれ』となにやら不敵な笑みを浮かべて前に出ました。なんでしょうか……物凄く悪い予感がします。
『さて……魔王くん。 実は私は新しい魔法の研究をしていてね? どうだい、実験体になってみないかい?』
『うーん……』
『そうかいそれは良かった。 それじゃあ心置き無くいかせてもらおう』
その『うーん』は明らかに同意のものではないと思いますが……まぁ起こしてもらえるのならばそれでいいでしょう。
そんなこんなで杖を取りだしたセシリアは、私の知らない詠唱(セシリア自作の魔法だから当たり前)を完成させて……その魔法を放ちました。
大きな火球が魔王さんを襲い……大爆発を起こしました。
『なっ……なんだぁ!?』
『ふふっ。 いいお目覚めだね魔王くん』
唐突な爆発に仰天して起き上がった魔王さんを、とてつもなく爽やかな笑顔で覗き込むセシリア。
何が何だか分からないと言った雰囲気の魔王さんと同様、私も猫耳の獣人さんも目を剥いて驚いています。
『何が……起こったんですか!?』
「どうしたんだいアリス? 別にさして難しいことはしていないさ。 ただ単に威力を殺して、その分を爆発の力にまわしたと言うだけだよ」
『そ……そうなんだ。 ナットクシタヨ』
『まぁ……それはそうとして、何か頼みたいことがあるのだろう? 折角起こしたんだから……要件を伝えようか』
何を言っているのかよく分からないセシリアの魔法解釈についてはひとまず置いておいて、私は未だ困惑している魔王さんに向き直りました。
『ええと……まぁ色々あったんですけど。 とにかく協力してください。 あの頭がおかしい自称勇者さんをどうにかして貰いたくて……』
『……勇者? そんなやつ……この魔王城にいたのか?』
あぁ……本当にアウトオブ眼中だったんですね可哀想に。
やれやれと呆れながら、私は縄に縛られて依然として気絶している自称勇者さんを指さしました。
『とにかく。 あの人は貴方たち魔族を滅殺しようとしている危険思想の持ち主なんですよね。 ですから……とにかく何とかしてその考えを改めさせてあげてください!』
『はぁ!? それはちょっと……!?』
『それではまた明日やって来ますんで! お願いしますね!』
『いや……ちょっ!』
魔王さんをよそに、私はセシリアに合図をして発動させた転移魔法で一目散に魔王城から脱出しました。
アディオス魔王さん。 面倒ごとは頼みましたっ!
「ふっふっふっ……! 来るんじゃねぇセシリアさん! こいつがどうなってもいいのか!!」
「ひぃっ!?」
短剣を首元に押し当てられて、私は情けなく声を上げます。
やばいですよ!? この自称勇者さんが何を考えているのか知りませんが……それ故に底知れぬ恐ろしさというものがあります。
「……一応言っておこうか。 私ならばここからでも容易に君を撃ち抜くことができるよ?」
「そんなことは分かっている! だが撃たれた瞬間に……アリスを刺し殺すくらいならできるぜ?」
「……」
自称勇者さんの脅しに押し黙るセシリア。
それは単なるハッタリかもしれませんが……その可能性にかけるのはあまりに代償が重すぎます。
どうしたら良いでしょうか……死にたくないですし。
「時に勇者くん。 君は一体? 何を目的にしているんだ」
「勇者はこの世に二人もいらない。 俺はあんたを倒して……魔族をこの世から滅殺するんだ!」
「……なんて馬鹿な」
心底呆れたと言わんばかりの表情を浮かべるセシリア。
私もそれと同じように、自称勇者さんの愚かさに戦慄していました。
「ふむ……そういうことならば。 私は名誉なんてこれっぽっちも必要ないから、君が倒したことにしていいよ?」
「なっ……それは本当か!?」
「無論だとも」
セシリアからの思わぬ提案に私の拘束を緩める自称勇者さん。
その迂闊な行動が……命取りでした。
「ふふっ。 詰めが甘いね」
「んなっ……!?」
瞬間、雷電が瞬き自称勇者さんの意識を一瞬で刈り取りました。
バタリと地面に倒れ伏した勇者さんが手からこぼした短剣を足払いで遠くへとぶっ飛ばしました。
「ふふっ。 甘いね勇者くん。 別に私は名誉なんかに興味はないが……自分の欲しいものは自分自身の力で手に入れるべきなのさ」
「うーん。 助かったよセシリア」
「いやいや。 今回ばかりは私もなかなか肝を冷やしたよ」
セシリアの言葉に心底安堵する私。
今回は……セシリアがいなかったら本当にヤバかったですね……。
★★★★★
とりあえず色々と紆余曲折がありましたが⋯⋯私たちはセシリアの魔法によって魔王さんのお城へとやって来ました。
勇者さんは「なんなんだこの魔法は……」と困惑していましたが……安心してください、何回も見ている私ですらこれっぽっちも理解出来ておりませんので。
そうして突入した魔王城にて出会い頭に魔王さんに特大火球をぶっ放し……気絶した魔王さんの介抱をしている最中なのです。
『魔王さん? 起きてくださーい?』
『うーん……。 もう少しだけ……』
セシリアに吹っ飛ばされた魔王さんの頬をペシペシと叩きますが……ぜんっぜん起きる気配はありません。
そんな折、縄で危険すぎる自称勇者さんを縛り終えたセシリアが戻ってきました。
そして……『私に任せてくれ』となにやら不敵な笑みを浮かべて前に出ました。なんでしょうか……物凄く悪い予感がします。
『さて……魔王くん。 実は私は新しい魔法の研究をしていてね? どうだい、実験体になってみないかい?』
『うーん……』
『そうかいそれは良かった。 それじゃあ心置き無くいかせてもらおう』
その『うーん』は明らかに同意のものではないと思いますが……まぁ起こしてもらえるのならばそれでいいでしょう。
そんなこんなで杖を取りだしたセシリアは、私の知らない詠唱(セシリア自作の魔法だから当たり前)を完成させて……その魔法を放ちました。
大きな火球が魔王さんを襲い……大爆発を起こしました。
『なっ……なんだぁ!?』
『ふふっ。 いいお目覚めだね魔王くん』
唐突な爆発に仰天して起き上がった魔王さんを、とてつもなく爽やかな笑顔で覗き込むセシリア。
何が何だか分からないと言った雰囲気の魔王さんと同様、私も猫耳の獣人さんも目を剥いて驚いています。
『何が……起こったんですか!?』
「どうしたんだいアリス? 別にさして難しいことはしていないさ。 ただ単に威力を殺して、その分を爆発の力にまわしたと言うだけだよ」
『そ……そうなんだ。 ナットクシタヨ』
『まぁ……それはそうとして、何か頼みたいことがあるのだろう? 折角起こしたんだから……要件を伝えようか』
何を言っているのかよく分からないセシリアの魔法解釈についてはひとまず置いておいて、私は未だ困惑している魔王さんに向き直りました。
『ええと……まぁ色々あったんですけど。 とにかく協力してください。 あの頭がおかしい自称勇者さんをどうにかして貰いたくて……』
『……勇者? そんなやつ……この魔王城にいたのか?』
あぁ……本当にアウトオブ眼中だったんですね可哀想に。
やれやれと呆れながら、私は縄に縛られて依然として気絶している自称勇者さんを指さしました。
『とにかく。 あの人は貴方たち魔族を滅殺しようとしている危険思想の持ち主なんですよね。 ですから……とにかく何とかしてその考えを改めさせてあげてください!』
『はぁ!? それはちょっと……!?』
『それではまた明日やって来ますんで! お願いしますね!』
『いや……ちょっ!』
魔王さんをよそに、私はセシリアに合図をして発動させた転移魔法で一目散に魔王城から脱出しました。
アディオス魔王さん。 面倒ごとは頼みましたっ!
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