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恋バナ滅ぶべし。 慈悲は無い

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 それから三十分後。
 試着室にて着替えを終えた私はカーテンを開きました。

『ど、どうでしょうか?』
『『おおぉぉぉーっ!!!』』

 そこにはセシリアとアーチェさんの歓声が響き渡りました。
 まぁ……うん。
 自分で言うのもアレですけど、これは確かにすごい。
 先程までのダサさが完全に払拭されて、まるでどこかの国の貴族令嬢のような服装になっていました。
 腰元まで伸びた長い銀髪がさらにそれっぽい雰囲気を醸し出しています。

『す……すごい!!アリスってば美少女じゃん!?』
『あぁ……素晴らしい出来だよ……。 君は本当に才能がある』
『そ、そこまで褒められると照れてしまいますが……。
 でも……ありがとうございます』

 二人の絶賛を受け少し頬が緩みます。
 しかし……。歩きにくい!!!フリフリが多すぎますし……なんか落ち着かないです……。

『よし!じゃあ次はこれなんてどうかな? 絶対似合うと思うんだけど』
『えぇ……? まだやるんですかぁ……』

 まだまだ解放してくれそうもないセシリア達を見てため息をつくのでした。

 ★★★★★

『うぅ……。疲れた……。』

 あの後もしばらくファッションショーが続き、ようやく解放された時にはもう日が暮れかけていました。

『いやぁ……ごめんね?アリス』
『申し訳なかった……。まさかあんなにも洋服選びが楽しいものだとは思わなかったよ……』
『……いえ。気にしないで下さい……。私も楽しかったですし……。というか……こんなに服を買ったのは初めてですよ……うわぁ……』

 購入時のお金はそれはもうべらぼうに高かったです……。
 今日セシリアとアーチェさんから渡されて、購入した服はどれもこれも可愛くて綺麗なものばかりでしたが……やはり慣れないものを長時間着るのは厳しいですし、今はいつも通りの服を着ております。
 おかえりイモい私。

『……というか、私たち自分の服を買っていないじゃないか!?』
『たっ……確かに!』

 がくりと崩れ落ちるセシリアとアーチェさん。 私にかまけて自分のやる事忘れるって……失礼ですがアホなんですか???
 とりあえず今日は宿屋へと向かい、一日予定をずらすことで明日を再びショッピングデーにすることが決まったのでした。
 ええと……アホなんですか???

 ★★★★★

『さて……今日の女子会の議題はズバリ……恋バナだよ!』
『こ……恋バナですか?』

 宿屋でゴロゴロしていた私とセシリアに、偉く元気なアーチェさんがそう招集をかけました。
 ちなみに本日の女子会にも揚げ芋が用意されておりますが……セシリアは一向に手をつけません。 ちょっと面白いですね。

『そう! 女の子にはそういう話が必要なんだよ~』
『いやまぁ、確かに必要なのかもしれませんが……。 別に今話す必要はないんじゃないですか?』

 私はそういう系統の話にネタを持ち合わせていないので……どうにか切り抜けたかったのですが……。

『いやいや。アリスは分かってないなぁ……。 こういう話はタイミングが大事なのよ?特に……恋愛に関してはねぇ』
『なるほど。確かに一理ありますね。……ところでセシリア。 この揚げ芋美味しいですよ?食べますか?? 食べさせてあげますよ??? はい。あーん』

 止まる気配がないので諦める私。 
 腹いせとばかりに劣等生の私は、これ見よがしに優等生のセシリアにちょっかいをかけてやります。 へへっ。 

『いらない。 それはそうとして、だ。 アリスは好きな人っているのかい?』
『あ! 私も気になる~!』
『……いや。 そもそも私たちの通ってた大学って男女別れて生活してましたし……今の職場って世界を回ってますから特に意中の人はいませんよ?』
『ふ~ん。 つまんないな~』
『……あ、でもセシリアは学生時代結構モテてましたね』
『……え? そうなの!?』
『ふふっ。 あぁ。 あれは私が入学してすぐの事だ……』

 得意げに頷くセシリアは、学生時代のモテエピソードを語り始めました。
 まぁセシリアは品行方正、才色兼備のとてつもないエリートでしたから……男女問わずにモテておりました。 まぁ当然と言えば当然ですが。
 ……というか魔法を使えたら割と無条件でモテるみたいなところはありましたね……。  足が早かったらモテる、みたいな感じでしょうか?

『しかし……アリスはそう言ったこととは無縁だったね』
『……うるさいです』
『へ~意外。 アリスって割とモテそうなのに~』
『いやいやアーチェ。 アリスは口が悪いからね。 初めの頃に寄ってきた男たちも……次第に離れていったんだよ』
『…………うん。 まぁ……モテることだけが全てじゃないよ』

 セシリアの言葉を聞いてまるで可哀想なものを見つめるかのような視線を向けてきたアーチェさん。 
 ……何ともいえぬ敗北感に苛まれて、私は毛布に顔を埋めるのでした。
 恋バナ滅ぶべし。 慈悲は無い。
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