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序章 奇妙な鎧武者
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奇妙な鎧武者だった。小太りで、お腹がポッコリ突き出ている。宛ら「妊婦」といったところ。中に誰か入っているのかもしれない。
尤も、外観だけで腹の中を確認することは難しい。その鎧武者は全身に漆黒の大鎧をまとっている。
しかし、両手に握っている得物は、全く武者らしくないものだった。
右手にアサルトライフル、左手に大口径ライフル。何でやねん。
得物を見た瞬間、「武士の装備はどうした?」と問いたくなる。一応、それらしいものも有るにはあった。
武者の後背、腰の辺りに一振りの打刀が真横(地面と水平)に差してあった。それを見て「なあんだ、やっぱり武士じゃないか」と思う、いや、多分、誰も思うまい。
そもそも、鎧武者自体が特異なのだ。「人間とすら言い難い」と断言できる。
鎧武者の身長は、何と五メートルも有った。それほどノッポさんな人間はいない。少なくとも地球上には。
しかし、現在地は紛うことなく地球だった。時は二十二世紀、より正確に言うと「西暦二千百三十年」だ。
絶対に武士の時代ではない。謎の鎧武者が立っている場所も、当然ながら中世期の日本ではなかった。
鎧武者の周辺には、彼の身長の何倍も有る高層ビルが立ち並んでいた。現在地を簡潔に表現するならば「都市」、或いは「市街」だろう。
都市内に現れた謎の巨大鎧武者。その現場に居合わせたなら、貴方ならどうする?
スマホで鎧武者を撮影するだろうか?。それから安全な場所まで逃げるだろうか? 警察に連絡するだろうか?
しかしながら、現況に於いて、そんなことをしている奴はいなかった。
鎧武者の周囲は全くの無人だった。視界を広げて都市全体を見ても、これまた全くの無人だ。
無人の都市、所謂「ゴーストタウン」。そんな寂しい場所に、一人ぼっちの巨大鎧武者。そのように考えると、同情の念を覚えなくもない。
しかし、鎧武者は孤独ではなかった。彼の腹の中には――やっぱり「人」が入っていた。しかし、赤ちゃんではなかった。
鎧武者の腹の中にいた者は、中学三年生男子と、手のひらサイズの小女だ。
中学生は座席に座ったまま忙しなく動いていた。動きながら、何やら叫んでいる。少女の方も、大声でがなり立てていた。
とても、とても、とても――煩い。喧しい。寂しさなど覚える暇がないほど騒がしい。
尤も、煩いの「中」だけではなかった。「外」は、もっと喧しかった。それこそ爆心地と錯覚するほどに。
実際、鎧武者の周りで何度も爆発が起こっていた。それも、鎧武者に近い場所で次々——連続で。
鎧武者は爆発の標的だった。彼は現在進行形で窮地に立っている。毎秒迫る命の危機から、必死に逃げ回っている最中だった。
鎧武者が高層ビル群の影に入った途端、頭上から爆音が上がった。それも複数回。それが一つ聞こえる度、高層ビルが一つ倒れた。その際、巨大なコンクリートの塊が、地面に向かって雪崩の如く落下した。
降り注ぐコンクリート塊の雨霰。その殺人的大瀑布を、鎧武者は命辛々回避した。その直後、彼の腹の中で手のひらサイズの少女「小妖精」が声を上げた。
「『燿平』。流石に、今のは危なかったぞ」
小妖精の声に続いて、「燿平」と呼ばれた中学三年生が声を上げた。
「『耀蔵爺ちゃん』。危なくなかったときって――有ったっけ?」
「無いな」
「だったら言わないでよねっ」
中学三年生男子の声は震えていた。 その男子、「名取燿平《なとり・ようへい》」は恐怖していた。
負けるどころじゃすまない。このままじゃ――殺されるっ!?
鎧武者の腹内に設けられた「操縦室」という狭い空間で、中学三年生男子が必死に手足を動かし続けている。
その男子、耀平は、左右それぞれの手で、複数のボタンが付いた操縦装置を同時に操作し続けていた。その両足で、足元から突き出した複数個のペダルやフットレバーを同時に操作し続けていた。
耀平の体から生えた全ての手足が、全ての操縦装置を、目にも止まらぬ超高速で操作し続けている。その行為は人外の神技だ。
しかし、耀平は飽くまで人間だ。人間の領域を超える技に耐えられるほど、彼の体は丈夫ではなかった。
両手の操縦装置は血に塗れていた。耀平の手の皮がズル剥けていた。足も同様だった。耀平の体から血が滴っていた。それらの傷は痛みを伴っていた。そのせいで、耀平の目から涙が出た。
それでも、耀平は必死に操作し続けた。
我慢、我慢、我慢――絶対に好機は来る。それまで我慢だっ!!!
今の耀平を支えていたものは、「秘策」と言う名の希望だった。そこまで辿り着けたなら、窮地を脱することができる。勝利することができる。その可能性を想像して、耀平の心に希望の光が射した。その瞬間、
((耀平っ、後ろっ))
唐突に、耀平の耳に声が飛び込んできた。しかし、それは小妖精には届いていなかった。
そもそも、それは声ではなかった。
謎の声は、耀平の「脳内」に直接届いていた。聴覚が反応していない以上、「幻聴」の可能性を想像しても止む無しか。
しかし、耀平は「声」に反応した。
耀平は両脚で巧みにフットレバーを操作して、真横、左手側に舵を切った。すると、彼らを乗せた鎧武者が左手側に横っ飛びした。
その直後、鎧武者の頭ほども有る砲弾が鎧武者の真横を通り過ぎていった。その事実を直感して、耀平と小妖精は顔を見合わせた。
「今のは、マジで――」
「危なかったぞ」
「うん」
耀平も、小妖精も、右手を掲げて額の汗を拭った。その瞬間、再び燿平の脳内に「声」が響き渡った。
((気を付けてくれよな。全く))
この場にいない第三者の声。一体、誰の声なのか? その正体を、耀平は完璧に理解していた。
「分かってるよ。『ムラマサ』」
ムラマサ。その型式番号はNTM01(Natori heavy Industries Tsukumosu Military version 01)。それが、この鎧武者の名前、「製品名」だ。
鎧武者は「名取重工業」という会社が造った搭乗型ロボットだ。
そのロボット(総称)を「ツクモス」と言う。
鎧武者ムラマサは、初めて戦闘用(軍用)として造られたツクモスだった。
尤も、外観だけで腹の中を確認することは難しい。その鎧武者は全身に漆黒の大鎧をまとっている。
しかし、両手に握っている得物は、全く武者らしくないものだった。
右手にアサルトライフル、左手に大口径ライフル。何でやねん。
得物を見た瞬間、「武士の装備はどうした?」と問いたくなる。一応、それらしいものも有るにはあった。
武者の後背、腰の辺りに一振りの打刀が真横(地面と水平)に差してあった。それを見て「なあんだ、やっぱり武士じゃないか」と思う、いや、多分、誰も思うまい。
そもそも、鎧武者自体が特異なのだ。「人間とすら言い難い」と断言できる。
鎧武者の身長は、何と五メートルも有った。それほどノッポさんな人間はいない。少なくとも地球上には。
しかし、現在地は紛うことなく地球だった。時は二十二世紀、より正確に言うと「西暦二千百三十年」だ。
絶対に武士の時代ではない。謎の鎧武者が立っている場所も、当然ながら中世期の日本ではなかった。
鎧武者の周辺には、彼の身長の何倍も有る高層ビルが立ち並んでいた。現在地を簡潔に表現するならば「都市」、或いは「市街」だろう。
都市内に現れた謎の巨大鎧武者。その現場に居合わせたなら、貴方ならどうする?
スマホで鎧武者を撮影するだろうか?。それから安全な場所まで逃げるだろうか? 警察に連絡するだろうか?
しかしながら、現況に於いて、そんなことをしている奴はいなかった。
鎧武者の周囲は全くの無人だった。視界を広げて都市全体を見ても、これまた全くの無人だ。
無人の都市、所謂「ゴーストタウン」。そんな寂しい場所に、一人ぼっちの巨大鎧武者。そのように考えると、同情の念を覚えなくもない。
しかし、鎧武者は孤独ではなかった。彼の腹の中には――やっぱり「人」が入っていた。しかし、赤ちゃんではなかった。
鎧武者の腹の中にいた者は、中学三年生男子と、手のひらサイズの小女だ。
中学生は座席に座ったまま忙しなく動いていた。動きながら、何やら叫んでいる。少女の方も、大声でがなり立てていた。
とても、とても、とても――煩い。喧しい。寂しさなど覚える暇がないほど騒がしい。
尤も、煩いの「中」だけではなかった。「外」は、もっと喧しかった。それこそ爆心地と錯覚するほどに。
実際、鎧武者の周りで何度も爆発が起こっていた。それも、鎧武者に近い場所で次々——連続で。
鎧武者は爆発の標的だった。彼は現在進行形で窮地に立っている。毎秒迫る命の危機から、必死に逃げ回っている最中だった。
鎧武者が高層ビル群の影に入った途端、頭上から爆音が上がった。それも複数回。それが一つ聞こえる度、高層ビルが一つ倒れた。その際、巨大なコンクリートの塊が、地面に向かって雪崩の如く落下した。
降り注ぐコンクリート塊の雨霰。その殺人的大瀑布を、鎧武者は命辛々回避した。その直後、彼の腹の中で手のひらサイズの少女「小妖精」が声を上げた。
「『燿平』。流石に、今のは危なかったぞ」
小妖精の声に続いて、「燿平」と呼ばれた中学三年生が声を上げた。
「『耀蔵爺ちゃん』。危なくなかったときって――有ったっけ?」
「無いな」
「だったら言わないでよねっ」
中学三年生男子の声は震えていた。 その男子、「名取燿平《なとり・ようへい》」は恐怖していた。
負けるどころじゃすまない。このままじゃ――殺されるっ!?
鎧武者の腹内に設けられた「操縦室」という狭い空間で、中学三年生男子が必死に手足を動かし続けている。
その男子、耀平は、左右それぞれの手で、複数のボタンが付いた操縦装置を同時に操作し続けていた。その両足で、足元から突き出した複数個のペダルやフットレバーを同時に操作し続けていた。
耀平の体から生えた全ての手足が、全ての操縦装置を、目にも止まらぬ超高速で操作し続けている。その行為は人外の神技だ。
しかし、耀平は飽くまで人間だ。人間の領域を超える技に耐えられるほど、彼の体は丈夫ではなかった。
両手の操縦装置は血に塗れていた。耀平の手の皮がズル剥けていた。足も同様だった。耀平の体から血が滴っていた。それらの傷は痛みを伴っていた。そのせいで、耀平の目から涙が出た。
それでも、耀平は必死に操作し続けた。
我慢、我慢、我慢――絶対に好機は来る。それまで我慢だっ!!!
今の耀平を支えていたものは、「秘策」と言う名の希望だった。そこまで辿り着けたなら、窮地を脱することができる。勝利することができる。その可能性を想像して、耀平の心に希望の光が射した。その瞬間、
((耀平っ、後ろっ))
唐突に、耀平の耳に声が飛び込んできた。しかし、それは小妖精には届いていなかった。
そもそも、それは声ではなかった。
謎の声は、耀平の「脳内」に直接届いていた。聴覚が反応していない以上、「幻聴」の可能性を想像しても止む無しか。
しかし、耀平は「声」に反応した。
耀平は両脚で巧みにフットレバーを操作して、真横、左手側に舵を切った。すると、彼らを乗せた鎧武者が左手側に横っ飛びした。
その直後、鎧武者の頭ほども有る砲弾が鎧武者の真横を通り過ぎていった。その事実を直感して、耀平と小妖精は顔を見合わせた。
「今のは、マジで――」
「危なかったぞ」
「うん」
耀平も、小妖精も、右手を掲げて額の汗を拭った。その瞬間、再び燿平の脳内に「声」が響き渡った。
((気を付けてくれよな。全く))
この場にいない第三者の声。一体、誰の声なのか? その正体を、耀平は完璧に理解していた。
「分かってるよ。『ムラマサ』」
ムラマサ。その型式番号はNTM01(Natori heavy Industries Tsukumosu Military version 01)。それが、この鎧武者の名前、「製品名」だ。
鎧武者は「名取重工業」という会社が造った搭乗型ロボットだ。
そのロボット(総称)を「ツクモス」と言う。
鎧武者ムラマサは、初めて戦闘用(軍用)として造られたツクモスだった。
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