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第二十四話 高壁
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耀平と雨淋がバスに乗り込んでから、二時間ほど経った。その間、幾つものバス停を通り過ぎた。窓から見える景色は、近未来的な学園都市から、牧歌的な緑溢れる田園風景に変っていた。
田畑と山、後は舗装された道しかない。人によっては退屈と思える場所だ。
しかし、景色を眺める耀平達の瞳はキラキラという擬音が見えるほど輝いていた。その輝きの理由が、たった今、バスの中に響き渡った。
「次は終点――『名取家前』」
名取家前。バス停の名前が個人の家。世界的にも珍しい名称だろう。
そこは、耀平の生家であった。しかしながら、家と思しきものは見えない。その代わり、天を衝くほどの高壁がそびえ立っていた。それも、万里の長城を彷彿とするほど長大だ。
一体、中に何が有るのか? 壁を見た者に「余程大きな町が有るのだろう」と想像させる。
バスは、その高壁に向かって直進していた。そのまま進めば衝突する。その可能性は、例えAIと言えども予想に易い。
高壁が迫ると、バスは減速した。そもそも、バスの目的地は高壁の手前だった。
高壁の下に、バスターミナルと思しき建造物が有った。しかし、他のバスの姿は無い。ただ、ちょっと豪華なバス停と、Uターン地点が有るだけ。
まるで「ここに止まらず、そのまま帰れ」と言っているような構造だ。
実際、ここを利用する一般人はいない。利用するのは名取家の関係者だけ。名取家の人間にとっては、唯一無二の外界との接点である。
耀平達が小学生の頃、地元の小学校に通う為に頻繁に利用している。一般人の目から見れば刑務所のような高壁も、耀平達にとっては懐かしい故郷の景色。
高壁を見詰める耀平達の目は、一層輝きが増していた。それぞれの想いは、バスが止まった瞬間爆発した。
停車した途端、二人は揃って立ち上がった。そのタイミングで、バスの中腹に設置されたドアが開いた。その事実を直感するや否や、二人は外へと飛び出した。
因みに、二十二世紀における公共交通機関の運賃は、殆どが「0」円。その中に、バスも含まれていた。
耀平達が下りると、バスのドアが閉まった。
「発車します」
バスから機械音声が上がった。それと同時に、バスが静かに走り出した。そのままターミナル内のU字を曲がり、来た道に入って去っていく。その様子を、耀平と雨淋は黙って静かに見詰めていた。
安全運転、感謝。
耀平は心中でバスに向かって手を合わせた。その最中、唐突に雨淋が声を上げた。
「よ~へくん」
雨淋は、声を上げると同時に、左手を伸ばして耀平の右手を掴んだ。
耀平の右掌に柔らかで暖かな感触が伝わった。その刺激は、耀平もシッカリ直感していた。その瞬間、耀平の胸が高鳴った。
胸が――痛い。けど、心地良い。
耀平の口許が自然と緩んでいく。それに伴って、空いている左手が雨淋の体に伸び掛けた。しかし、それは耐えた。
落ち着け。俺。
耀平は左手を元の位置に戻した。続け様に、大きく深呼吸した。その奇行は、雨淋の視界にバッチリ映っていた。
「よ~へくん?」
雨淋は、不思議そうに小首を傾げた。それを見た耀平は、声を上げた。
「じゃ、行くか」
耀平は、雨淋と繋いだ手を引いて、移動開始した。その行為は、雨淋の虚を突いた。しかし、雨淋は直ぐに対応した。
「うんっ」
雨淋は、嬉しそうに頷いた。耀平の手を引き返して、その隣を歩いた。
しかし、二人の行く手には高壁が立ちはだかっていた。それでも、二人は構わず歩いた。当然、壁の手前で立ち止まる羽目になった。
耀平達の視界一杯に、光沢を放つ分厚い金属板が映っている。それをぶち破る手段は、今の二人には無かった。その事実は、二人も良く心得ていた。だからこそ、拳で殴ったり、足で蹴ったりしなかった。
その代わり、二人揃って声を上げた。
「名取耀平と――」
「劉雨淋です」
二人は壁に向かって名乗った。暫くすると、金属板から四本のサーチライトが飛び出した。
それぞれの光線が、耀平達の眼球を直撃した。しかし、痛くはなかった。「目に何か触れているような?」と、錯覚を疑うほどの刺激しかない。その為、耀平達は平気で耐えられた。
「「…………」」
耀平達は、目に光を浴びながら、無言で立ち尽くしていた。暫くすると、唐突に光が消えた。
その直後、耀平達の目の前の金属板に長方形型の筋が奔った。それがスライドして――「道」が開けた。
先のサーチライトは虹彩認証だった。
因みに、耀平達が名乗った際には声紋認証が行われている。
耀平達は、無事に二重認証を突破した。その功績を讃えて、道が開いた。
耀平達は開いた穴を悠々と潜って、壁の向こう側へと足を踏み入れた。
高壁を抜けた先は――更地だった。
整地された地面が、無限と錯覚するほど広がっている。その先に黒い山がそびえ立っていた。
完全な半球状の山。明らかに人工物。そこに向かって、耀平達は歩いていた。その最中、前を向く二人の視界に奇妙な集団が飛び込んできた。
「あれは――」
「『ツクモス』だね」
ツクモスと思しき影が四つ。それぞれが、耀平達の方へと向かって来ている。
このとき、高壁に空いた穴は閉まっていた。もし、向かってくるツクモスが「敵」ならば、二人に逃げ場は無い。その可能性を、耀平も、雨淋も、全く想像していなかった。
耀平達は構わず前進し続けた。ツクモスの方は時速百キロほどで走っている。彼我の距離は直ぐに詰まった。
近付くほどに、耀平達の視界に相手の姿がハッキリ映し出された。
四人のツクモスは青い大鎧をまとっていた。その色と形は、耀平と雨淋の記憶にバッチリ入っていた。その事実を直感した瞬間、二人は揃って声を上げた。
「「コテツ――」」
NTM03コテツ。耀平の大叔父、名取耀善が開発した傑作機。第三世代型が配備されるまで、地球軍ツクモス部隊の主力を務めていた軍用ツクモス。
嘗ての世界最強陸戦兵器が、今、土煙を上げながら耀平達に向かって突っ込んできていた。
田畑と山、後は舗装された道しかない。人によっては退屈と思える場所だ。
しかし、景色を眺める耀平達の瞳はキラキラという擬音が見えるほど輝いていた。その輝きの理由が、たった今、バスの中に響き渡った。
「次は終点――『名取家前』」
名取家前。バス停の名前が個人の家。世界的にも珍しい名称だろう。
そこは、耀平の生家であった。しかしながら、家と思しきものは見えない。その代わり、天を衝くほどの高壁がそびえ立っていた。それも、万里の長城を彷彿とするほど長大だ。
一体、中に何が有るのか? 壁を見た者に「余程大きな町が有るのだろう」と想像させる。
バスは、その高壁に向かって直進していた。そのまま進めば衝突する。その可能性は、例えAIと言えども予想に易い。
高壁が迫ると、バスは減速した。そもそも、バスの目的地は高壁の手前だった。
高壁の下に、バスターミナルと思しき建造物が有った。しかし、他のバスの姿は無い。ただ、ちょっと豪華なバス停と、Uターン地点が有るだけ。
まるで「ここに止まらず、そのまま帰れ」と言っているような構造だ。
実際、ここを利用する一般人はいない。利用するのは名取家の関係者だけ。名取家の人間にとっては、唯一無二の外界との接点である。
耀平達が小学生の頃、地元の小学校に通う為に頻繁に利用している。一般人の目から見れば刑務所のような高壁も、耀平達にとっては懐かしい故郷の景色。
高壁を見詰める耀平達の目は、一層輝きが増していた。それぞれの想いは、バスが止まった瞬間爆発した。
停車した途端、二人は揃って立ち上がった。そのタイミングで、バスの中腹に設置されたドアが開いた。その事実を直感するや否や、二人は外へと飛び出した。
因みに、二十二世紀における公共交通機関の運賃は、殆どが「0」円。その中に、バスも含まれていた。
耀平達が下りると、バスのドアが閉まった。
「発車します」
バスから機械音声が上がった。それと同時に、バスが静かに走り出した。そのままターミナル内のU字を曲がり、来た道に入って去っていく。その様子を、耀平と雨淋は黙って静かに見詰めていた。
安全運転、感謝。
耀平は心中でバスに向かって手を合わせた。その最中、唐突に雨淋が声を上げた。
「よ~へくん」
雨淋は、声を上げると同時に、左手を伸ばして耀平の右手を掴んだ。
耀平の右掌に柔らかで暖かな感触が伝わった。その刺激は、耀平もシッカリ直感していた。その瞬間、耀平の胸が高鳴った。
胸が――痛い。けど、心地良い。
耀平の口許が自然と緩んでいく。それに伴って、空いている左手が雨淋の体に伸び掛けた。しかし、それは耐えた。
落ち着け。俺。
耀平は左手を元の位置に戻した。続け様に、大きく深呼吸した。その奇行は、雨淋の視界にバッチリ映っていた。
「よ~へくん?」
雨淋は、不思議そうに小首を傾げた。それを見た耀平は、声を上げた。
「じゃ、行くか」
耀平は、雨淋と繋いだ手を引いて、移動開始した。その行為は、雨淋の虚を突いた。しかし、雨淋は直ぐに対応した。
「うんっ」
雨淋は、嬉しそうに頷いた。耀平の手を引き返して、その隣を歩いた。
しかし、二人の行く手には高壁が立ちはだかっていた。それでも、二人は構わず歩いた。当然、壁の手前で立ち止まる羽目になった。
耀平達の視界一杯に、光沢を放つ分厚い金属板が映っている。それをぶち破る手段は、今の二人には無かった。その事実は、二人も良く心得ていた。だからこそ、拳で殴ったり、足で蹴ったりしなかった。
その代わり、二人揃って声を上げた。
「名取耀平と――」
「劉雨淋です」
二人は壁に向かって名乗った。暫くすると、金属板から四本のサーチライトが飛び出した。
それぞれの光線が、耀平達の眼球を直撃した。しかし、痛くはなかった。「目に何か触れているような?」と、錯覚を疑うほどの刺激しかない。その為、耀平達は平気で耐えられた。
「「…………」」
耀平達は、目に光を浴びながら、無言で立ち尽くしていた。暫くすると、唐突に光が消えた。
その直後、耀平達の目の前の金属板に長方形型の筋が奔った。それがスライドして――「道」が開けた。
先のサーチライトは虹彩認証だった。
因みに、耀平達が名乗った際には声紋認証が行われている。
耀平達は、無事に二重認証を突破した。その功績を讃えて、道が開いた。
耀平達は開いた穴を悠々と潜って、壁の向こう側へと足を踏み入れた。
高壁を抜けた先は――更地だった。
整地された地面が、無限と錯覚するほど広がっている。その先に黒い山がそびえ立っていた。
完全な半球状の山。明らかに人工物。そこに向かって、耀平達は歩いていた。その最中、前を向く二人の視界に奇妙な集団が飛び込んできた。
「あれは――」
「『ツクモス』だね」
ツクモスと思しき影が四つ。それぞれが、耀平達の方へと向かって来ている。
このとき、高壁に空いた穴は閉まっていた。もし、向かってくるツクモスが「敵」ならば、二人に逃げ場は無い。その可能性を、耀平も、雨淋も、全く想像していなかった。
耀平達は構わず前進し続けた。ツクモスの方は時速百キロほどで走っている。彼我の距離は直ぐに詰まった。
近付くほどに、耀平達の視界に相手の姿がハッキリ映し出された。
四人のツクモスは青い大鎧をまとっていた。その色と形は、耀平と雨淋の記憶にバッチリ入っていた。その事実を直感した瞬間、二人は揃って声を上げた。
「「コテツ――」」
NTM03コテツ。耀平の大叔父、名取耀善が開発した傑作機。第三世代型が配備されるまで、地球軍ツクモス部隊の主力を務めていた軍用ツクモス。
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