有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

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第三十一話 団欒

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 西暦二千百三十年、十月八日(日)。
 黒い地下空間ジオフロントに、老人と中学生男子が向かい合って立っている。彼らの傍には黒い半球状の山がそびえていて、その傍に直径二メートルの黒球が転がっていた。

 黒球は、新たに生まれ出た名取エンジンである。その誕生現場を目の当たりにして、中学生男子、名取耀平ナトリ・ヨウヘイは目を輝かせながら拍手した。

「おおぉ――凄い、凄い、凄い」

 感嘆の声と小気味良い音が、黒い半球状の空間に鳴り響いていた。それが止んだところで老人、名取耀介ナトリ・ヨウスケが声を上げた。

「耀平。こいつを――あっちに運んでくれないか?」

 耀介は右手を掲げて、人差し指を伸ばした。その仕草を見て、耀平は即応で耀介が指示した方を見た。

 超巨大黒球名取エンジン製造機の麓、耀平達から五メートルほど離れた辺りに、幾つかの黒球が転がっていた。それを視認した瞬間、耀平は右手を掲げて同じ場所を指差した。

「あっち?」
「うん」

 耀介は静かに頷いた。続け様に、黒球を放置している意味を告げた。

「係の人が取りに来るのが月初なんだ。それまで置いておかないと」

 今日は八日。次の回収日まで結構な時間が有る。その事実を直感して、耀平の眉根が不安げに歪んだ。

「これで床が埋まったりって――無いよね?」

 耀平の脳内に、黒球の海の中で溺れる耀介の様子が閃いていた。しかし、耀介は耀平の不安を一笑に伏した。

「無い無い。有る訳なかろう」
「だよね」

 耀介の回答を聞いて、耀平は「ほっ」と息を吐いた。そのタイミングで、どこからともなく音――スマホの着信音が鳴り響いた。

 え? 俺のかな?

 耀平は、反射的に胸に下げたボディバッグを見た。しかし、音は元より、振動も覚えなかった。

 俺のじゃない。じゃ――

 耀平は耀介を見た。すると、耀介は作務衣の懐からスマホを取り出していた。

「もしもし」

 着信源は、耀介のスマホだった。耀介は二言三言と言葉を交わした後、ユックリ通話を切った。
 その際、耀介は「ふふっ」と笑い声を漏らしていた。その様子は、耀平の視界に映っていた。

 何の話だったんだろう?

 耀平は首を傾げながら、ジッと耀介を見詰めていた。その視界の中で、作務衣姿の老人が顔を上げた。

「婆さん(リオン)からだ。昼飯ができたって」

 昼飯。それを耀介が告げた瞬間、耀平の腹が「ぐぅ」と鳴った。その音は、耀介の耳にシッカリ届いていた。

「はははっ。じゃ、行くか」

 耀介は愉快そうに笑った。その快活な笑みを顔一杯に張り付かせながら、耀平に向かって右手を突き出した。その行為は、当然耀平の視界に映っていた。

「うん」

 耀平は返事をした後、耀介の方へとトコトコ歩いた。
 彼我の距離が五十センチほどに迫ったところで、耀平は右手を伸ばした。その右手に、耀介の右手が触れた。その瞬間、二人同時にガッチリ握手した。
 その行為は、超巨大黒球名取エンジン製造機(或いは超々巨大黒球名取エンジン製造工場)の視覚に捉えられていた。

 突然、二人の足下に直径二メートルの穴が開いた。その穴に、二人の体が吸い込まれた。

 耀平も、耀介も、無窮の闇の中を落下した。しかし、果ては有った。
 暫く落下を続けていると、底の方に光が射した。その光が急速に拡大して、二人の体を飲み込んだ。耀平と耀介の視界が光で埋め尽くされた。しかし、目が眩むことはなかった。
 光は瞬きするほどの刹那で収まっていた。

 耀平達の視界に、様々な色と像が映った。二人にとって、その光景は見覚えが有るものだった。
 そこは――超々巨大黒球名取エンジン製造工場の麓だった。二人は外に出ていた。

 落下したはずが、外に出ている。これもまた、意志を持つ金属生命体ツクモス(黒球)の仕業だ。その事実を、耀介は元より、耀平も経験上よく分かっていた。
 二人は外に出るや否や、繋いでいた手を解いた。

「ああ、わしの腹も鳴った」
「うん。急ごう」

 耀平達は、家に向かって同時に駆け出した。二人とも脚の速さには自信が有った。しかも、ゴールは存外に近い。
 二人は殆ど同時に家に着いた。続け様に、それぞれの右手を伸ばしてスライド式の玄関扉を開けた。
 その瞬間、二人の鼻腔に美味しそうな匂いが飛び込んだ。

「「!!!」」

 耀平達は同時に息を呑んだ。二人の腹は盛大に鳴った。その腹の底から食欲という名の衝動が猛然と這い上がってきた。

 居ても立っても居られないっ!!

 耀平も、耀介も、直ぐ様下履きを脱いだ。家の中に上がるや否や、匂いの許へと走った。すると、二人の視界に開きっ放しの障子戸が飛び込んできた。

 家の南側中央部の部屋、居間である。名取家では食堂も兼ねている。耀平も、耀介も、長卓に並んだ料理群を想像していた。それは、二人が居間に入った瞬間――いや、それ以前から具現化していた。
 十畳、畳敷きの和室は「山海の珍味の宝庫」と化していた。

 居間中央に置かれた長卓に、出来立てと思しき料理群が並んでいた。それが目に入った瞬間、耀平と耀介の口から感嘆の声が漏れた。

「「おおぉ――」」

 二人は料理群に見惚れた。しかし、その行為は長くは続かなかった。二人の腹の虫が、「早く食え」と激しく主張していた。

 二人は、それぞれ西側の席(燿平は出入り口側、耀介は窓側)に座った。そこでようやく自分達以外の存在を直感した。
 それぞれの隣には、割烹着姿の女性が座っていた。

 耀平の隣に雨淋ユーリン。耀介の隣にリオン。二人の存在、及び彼女達の格好を見たところで、耀平も、耀介も、現況の意味を理解した。

 これ(料理)、二人の合作なのか。

 どちらがどの料理を作ったものか? 尋ねてみたい気持ちも沸く。しかし、その機会は、直ぐには得られなかった。
 先に、状況が動いていた。
 雨淋とリオンは、茶碗に御飯(玄米)を盛り付けていた。それを掲げて、

「「どうぞ」」

 それぞれの隣にいる男性に渡した。それに対して男性陣は、

「「有難う」」

 頭を下げながら、恭しく茶碗を受け取った。その行為の直後、女性達は自分の茶碗に御飯を盛り付けた。
 その行為を以て、それぞれの食事の準備が完了した。
 その事実を直感した瞬間、全員揃って手を合わせた。

「「「「頂きます」」」」

 名取家の昼食が始まった。耀平も、耀介も、夢中で料理を口に掻き込んだ。その最中、耀平の脳内に過去の記憶が閃いた。

 昔――この家に住んでいた頃、こうして四人で食べてたっけ。

 耀平にとって、雨淋にとって、最高の幸福と言える記憶だ。それを繰り返すことができた。その事実は、二人の胸をジンと熱くさせた。その一方で、耀平は一抹の不安も覚えていた。

 こんなことができるのって――後何回だろう?

 ツクモス学園を卒業すれば、雨淋は地球軍のツクモス部隊に入る。それは決定事項だ。その事実を思うほど、耀平が持つ箸の動きは重くなった。
 しかし、箸が止まることは無かった。

 俺も、絶対に雨淋と同じところに行く。行くぞっ!!

 耀平は、目の端に涙を滲ませながら、箸と口を動かした。その行為は、雨淋達が作った料理群を食べ尽くす瞬間まで続いていた。
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