有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

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第三十二話 最強戦のお知らせ

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 西暦二千百三十年、十月二十三日(月)。
 ツクモス学園が内包する教室は千を超えている。その全ての教室の黒板型スクリーンに、同じ内容の映像が表示された。

〈ツクモス学園最強決定戦のお報せ〉

 ツクモス学園最強決定戦。通称「最強戦」。ツクモス学園生だけでなく、全世界が注目する一大イベント。例年の開催日時の一箇月前になって、漸く出場選手、及び要綱が開示された。
 最初に選手の名簿が表示された。その瞬間、Mクラスの殆どの教室からどよめきが起こった。その現象の主因と言うべき生徒は、M1クラスにいた。

 名取耀平ナトリ・ヨウヘイである。

 しかし、M1クラスは殆ど無音であった。皆、平静だ。彼らは――いや、他のクラスも含めて、殆どの生徒が「耀平の出場」を知っていた。

 数か月前に食堂街階層で起こった事件フィアナ騎士団とのいざこざ。あのとき漏洩した情報は、今や殆どの生徒の耳に入っている。

 どよめいた他クラスの生徒達にしても「やっぱり」とか、「辞退するかと思った」などと、例の事件にかかわる内容を口にした。
 騒ぐ者もいれば、平静な者もいる。同じMクラスの生徒達と言えども、その反応は様々だ。しかし、彼らの心中には全く同一の希望が輝いていた。

 Mクラスから優勝者が出るかも。

 Mクラスの殆どの生徒の脳内に、短く髪を刈り込んだ痩身の男子生徒の姿が閃いていた。しかし、M1クラスの生徒は想像する必要はなかった。

 こいつなら、やるかもしれない。

 M1クラスの生徒達は皆、教壇正面の席にいる男子生徒を見ていた。それぞれの視線には、熱い思いが込められている。
 それを集める男子生徒――耀平は、涼しげな顔で教室前面のスクリーンを見詰めていた。
 耀平の瞳には、出場選手名簿が映っていた。その中には、一年生の名前も有った。
 しかし、耀平の視線は三年生名簿、その内の二名に釘付けになっていた。

 劉雨淋リュウ・ユーリン
 フィン・マックール。

 どちらも耀平の幼馴染だ。
 前者は連覇達成者。後者は連続優勝者。どちらも「学園始まって以来の天才操縦士」と言われている。
 この二人と同じ世代になってしまった他の生徒達にとっては、不幸以外の何ものでもない。だからと言って、耀平も、他の出場選手も、諦める気は全く無かった。

 絶対に、俺が優勝する。

 耀平の瞳の奥に、投資の炎がメラメラと燃えていた。それが赤から青へと温度を上げたところで、表示画面が切り替わった。
 耀平の青く発光する瞳に、最強戦の日程が飛び込んだ。

 開催場所。
 ツクモス操縦訓練場、開会式、閉会式。
 試合会場。第一演習場(荒野)、第二演習場(湿地帯)、第三演習場(市街地)、第四演習場(森林地帯)の何れか。

 開催期間。十一月二十三(木)日から十二月八日(金)。
 準備期間。十一月十五日(水)から大会開催当日まで。
 期間中は特別日課。授業は午前中のみ。各選手は本期間中に「整備班」を決定し、大会本部に報告すること。

 開会式。十一月二十三日(木)。午前十時開始。
 第一回戦。十一月二十四日(金)から二十七日(月)。第一試合、午前十時開始。第二試合午後十五時開始。
 第二回戦。十二月一日(金)、二日(土)。第一試合、午前十時開始。第二試合、午後十五時開始。
 準決勝戦。十二月五日(火)。第一試合、午前十時開始。第二試合、午後十五時開始。
 決勝戦。十二月八日(金)、午前十時開始。
 閉会式。十二月八日(金)、午後十五時開始。

 試合形式。トーナメントによる勝ち抜き戦。
 決着判定。ツクモスの両腕欠損。同時の場合、時間差。或いは試合内容。再試合の際、日程変更の可能性有り――(以下、省略)。

 耀平の視界に、全ての内容が映り込んでいた。それを何度も読み返した後、耀平の口からポツリと声が漏れた。

「いつも通り――か」

 耀平の呟きに、他の生徒達がコクリと頷いた。
 日時以外の内容は例年通り。その事実を直感しながらも、耀平は全ての内容を確認した。それを何度か繰り返したところで、耀平の口が「へ」の字に曲がった。

 耀平の視線は「整備班」の三文字に釘付けになっていた。

 整備班。その名の通り、ツクモスの整備を担当するチームである。そのメンバーの選出方法は様々だ。
 プロの整備士(ツクモス学園の卒業生)に頼む者もいれば、懇意にしている生徒に頼む者もいる。中には「他の奴に、我が愛機を触れさせたくない」と、一人で挑戦した生徒もいた。それが可能な環境が、ツクモス学園には揃っていた。
 世界最高峰の整備と、大量の予備パーツ。整備工場のAIに命令するだけも十全な成果を期待できるのだ。要するに、人手は余り必要無いのだ。
 それでも、愛機の世話となれば、人の手を加えたくなる者も、それなりに多い。

 因みに、ツクモス学園の授業では、中等部一年生で整備、二年生で補修が必修となっている。
 
 耀平としても、最終確認は勿論、気になる箇所は自分の目で確認したい。可能であれば、二重三重に確認したい。できれば、他の生徒の目も借りて――と、そこまで想像した瞬間、口から想いが零れ出た。

「整備班――か」

 耀平が声を掛ければ、Mクラスの生徒ならば必ず応えてくれる。耀平は中量級の希望なのだ。しかしながら、誰でも良いとなると、逆に選び難い。
 そもそも、耀平が特別に懇意にしている生徒は殆どいなかった。

 耀平の学園生活は、その殆どがツクモスに占められている。それ以外の要素が有るとすれば、雨淋と、後は父耀児くらい。偶にフィンが入ってくることも。しかし、基本的には雨淋以外の生徒は眼中に無い。

 耀平は、青春を全てツクモス(ムラマサ)に捧げている。その熱意が最強戦出場という奇跡に繋がった。
 その代わり、失ったものもそれなりに多い。その事実を想像した瞬間、耀平の口から大きな溜息が漏れた。
 しかし、溜息は一度きり。直ぐに顔を上げて、

「ま、なるようになれ」

 思い切り開き直った。それは空元気からげんき――と、いう訳でもない。実は、今日の耀平には嬉しいことが一つ有った。

 今日の昼、ユーリンと会う約束をしているからな。

 雨淋と昼食を共にする。その出来事に付いて想像した瞬間、耀平の口はだらしなく緩んでしまうのだった。
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