有魂機人ツクモス The Comrades

霜月立冬

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第五十五話 無謀

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 地方の駅前ビル群が相次いで倒壊していく。巻き上がった土煙が、都市全体を覆い尽くしている。その灰褐色の煙を突っ切って、漆黒の鎧武者が飛び出した。

 NTM01ムラマサ。その威容が曇天の下に晒された瞬間、武者の腹の中で中学三年生男子が叫んだ。

「着いたあああああああああああっ!」

 耀平ヨウヘイの大声に、耀平の左肩に乗った小妖精が反応した。

「耀平よ。は拙いぞ?」

 ムラマサ内の全周囲モニターは、モウモウと立ち込める土煙を映している。視覚で現況を確認することは困難極まりない。
 しかし、ムラマサの近くセンサーは超優秀。都市、第三演習場を表示した地図のお陰で現在地の確認は容易だ。

 ムラマサを示す青い光点は、第三演習場のメインストリートに表示されていた。

 現在、ムラマサは南北に連なる四車線の大道の中間に立っている。前後(南北)の空間は開けていて、障害物と思しきものは殆ど無い。弾避けが無いのだ。
 尤も、それが有ったとしても、弾避け毎粉砕される訳だが。

 敵、マック・ア・ルインのグレネードランチャーは、軍用ツクモスが使用できる武器の中では最高級の火力を誇る。その弾も、それなりに大きい。
 ツクモスの特効であるIN酵素アイエヌ・エンザイムの減衰も、他の銃火器より緩やかだ。その事実の意味するところが、小妖精――耀蔵ようぞう(AI)の口から飛び出した。

「流石に、アレと正面から撃ち合うのは無謀だぞい」

 撃ち合いは、それなりの距離から始まる。その上、IN酵素の効果を発揮する距離は、弾の大きさに比例する。そこに相手の速射性能の高さや、予備弾倉を持っている等、諸々の要素が加わってくる。それに対して、耀平達に有利な要素は殆ど無い。

「まあ、うん。そうだね」

 耀平は頷いた。それこそ、首許に顎が埋まると錯覚するほど深く。その反応は、耀蔵(AI)の視界(視覚センサー)にも映っている。

「逃げるのであれば――」

 耀蔵(AI)は、気を利かせて逃げ道を表示した。ところが、耀平は首を横に振った。

「逃げない。ここで迎え討つ」

 メインストリートでの戦闘。その事実を告げられて、耀蔵(AI)の円らな瞳が一杯に開いた。その表情の意味が、耀蔵(AI)の可憐な口から飛び出した。

「正気か?」

 耀蔵(AI)の言葉に、耀平は静かに頷いた。続け様に、現況に留まる意味を告げた。

「うん。一応、策は有るから」

 策。その言葉を聞いて、耀蔵(AI)の可愛らしい首が傾いだ。

「策とな?」
「うん。ムラマサのリクエスト」
「それは――」

 ムラマサのリクエスト。それは近接格闘戦である。
 それを実行するに至るまでの計画は、耀平の脳内には有った。一応、耀蔵(AI)にもそれとはなしに伝えている。少なくとも、耀平はそのつもりだった。
 耀蔵(AI)も、何となくそんな気がしていた。だからこそ、記録回路の中から、それと思い当たるデータを検索し始めている。しかし、間に合わない。

 第三演習場の地図に表示された赤い光点が、ムラマサのいるメインストリートに急接近していた。それを直感して、耀平は直ぐ様ムラマサを走らせた。

 このとき、マック・ア・ルインは最短ルートを選択して、メインストリートの北寄りに向かっていた。それを避けるように、ムラマサは南下し出した。

「やっぱり逃げるんかい?」

 耀蔵(AI)は肩を竦めた。その直後、耀蔵(AI)の可憐な顔が強張った。

 耀平は、何を思ったか、両手の銃火器を路上に捨てた。その奇行を目の当たりにして、耀蔵(AI)の円らな瞳が一杯に開いた。

「耀平!?」

 耀蔵(AI)は開き切った目で耀平を見詰めた。その疑念に満ちた視線が、耀平の頬に痛いほど突き刺さる。それに反応して、耀平が声を上げた。

「大丈夫。これも作戦の内」

 耀平としては作戦通りの行為。しかしながら、耀蔵(AI)の首は傾ぐばかり。

 そもそも、ツクモス専用武器が無ければ、ツクモスは倒せない。その事実を鑑みると、耀平の行為は「態と負けるように仕向けている」としか思えない。

 耀蔵(AI)は首をかしげながら、耀平の意図を理解しようと思考回路をフル回転させた。しかし、それ強力に邪魔するアクシデントが、続け様に発生した。
 銃火器を捨てた後、ムラマサは走るのを止めた。

「よ、耀平っ!?」

 耀蔵(AI)は声を上げた。耀平は無視して、ムラマサの操作を続行した。
 ムラマサは踵を返した。続け様に打刀を抜き放った。その行為を見て、耀蔵(AI)は声を上げた。

「これで戦うのだな? だが――」

 連射が効くグレネードランチャーに打刀で挑む。その可能性を鑑みるほど、耀蔵(AI)の思考回路は無謀の二文字で埋め尽くされていく。それでも、現況から推測できる可能性は、それしかなかった。そのはずだった。
 ところが、耀蔵(AI)の予想は外れた。耀平の無謀は、更にエスカレートしていた。

 耀平は、ムラマサは道路にしゃがみ込ませた。続け様に打刀路上に置いた。その上で、その場に正座した。その際、立ち上がり易いよう、僅かに腰を浮かせている。
 それら全ての行為を目の当たりにして、耀蔵(AI)の頭上に「?」が浮かんだ。

 一体、これは何じゃ? 何なんじゃ?

 耀平は全ての武器を手放した。しかも、観念するように正座している。
 現況の意味を考えると、観念した、或いは敗北宣言等々、ろくでもない可能性しか閃かない。
 少なくとも、耀蔵(AI)の思考回路にはネガティブな可能性ばかりが閃いていた。

「耀平――――」

 耀蔵(AI)は、耀平の名前を呼んだ後、言葉を失った。まるで餌を求める鯉のように口をパクパクさせている。その表情や反応は、耀平も何となく直感していた。しかし、

「…………」

 敢えて無視。今の耀平に他所事に構う余裕は無い。

 ムラマサの言う通り、今はこれしかない。けど、フィンが乗ってこなかった場合は――ここで試合終了だ。

 耀平の全神経は「ムラマサのリクエスト」に集中している。
 果たして、策は発動するか否か? 上手くいくか否か? その答えを出す瞬間が、たった今訪れた。

 メインストリートを隠していた土煙が収まり出した。それと同時に、耀平の視界に白金の煌めきが飛び込んできた。

 NTMH05Cマック・ア・ルイン。

 白金の重装騎士は、その両手にグレネードランチャーを構えている。その左右の人差し指はトリガーに掛かっていた。

 彼我の距離は、凡そ三百メートル。もう少し近付けば、集中砲火でムラマサの腕を吹き飛ばせる。その事実を、マック・ア・ルインの操縦者、フィン・マックールは直感していた。それを具現化すべく、漆黒の鎧武者へと近付いていく。

 後少し。もう少し――ん?

 後一歩踏み込めば、有効射程に入る。その事実を直感した瞬間、フィンの首が傾いだ。
 フィンの瞳には、正座して畏まっている漆黒の鎧武者の姿が映っていた。

 耀平。「勝てぬ」と知って観念したか。

 フィンの端正な口許に酷薄な笑みが浮かんだ。
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