1 / 14
第1話 プロビンス村の害獣退治
しおりを挟む
「ニルドラせんせー、それなんですかぁ?」
「おっ、よくぞ聞いてくれたなぁ。これはなぁ、ラドニール魔法部隊員募集ポスターだぞ。お前らも興味あったら応募しな!お金もらえて単位もくるぞ~」
「ヤダー、どうせ大変なんでしょ~」
「そりゃそうさ。うまい話なんてこの世にはないからな」
ラドニール魔法部隊?
ちょうど廊下を通りすがっただけだが、耳慣れない単語と、なんか怪しい誘い文句が聞こえてきたので、思わずそのポスターをまじまじと見つめた。
俺はアイン・ビロクシス。ラドニール魔法学園高等部の生徒で、魔道科所属だ。
成績は中の上、得意な魔法もはっきりせず (おそらく炎だろうが)、大絶賛モラトリアム中の、どこにでもいる魔法学校の高校生だ。
俺たち魔法使いは体内で魔力を作ることができ、魔法使いそれぞれが炎や氷の魔法の形にするのに得手不得手がある。魔力を作り貯める力や、魔法として出力する力にも個人差があり、この力が特に弱い人は魔法使いにはならないそうだが、程度の差はあれ大抵の人は魔力を作っているそうだ。
件のポスターには『ラドニール寮入居必須、魔道科大歓迎』と書いてある。さっきキャピキャピと冷やかしていた女子生徒や俺みたいな生徒を募集しているということだろうか?
「おっ、アイン。お前も興味あるならやってみたらどうだ?いい経験になるぞ、大変かもしれないけどな」
「はぁ」
このときの俺は、ラドニール魔法部隊なんか完全に他人事だった。大変そうだし、よくわからんし、俺は別に魔法が強いとかじゃないし。
けど、なんやかんやあり、俺はこのラドニール魔法部隊に入ることになってしまうのだ。
俺はプロビンスという、学校から離れた片田舎の実家に住んでいて、学校にはテレポート魔法を利用して通っている。学校のあるラドニールは学園都市として発展していて、人も物も魔法も溢れかえってごみごみしているが、こっちは家庭菜園の野菜で物々交換が当たり前といったザ・田舎っぷりだ。
ある週末、学校が休みのときだ。俺の幼なじみが部屋の窓をバシバシ叩く音で目を覚ました。
「なんだよセリアか。日曜くらい寝坊させてくれよ」
「アイン、大変なんだよ!早く出てきて!」
斜向かいの家にくそでかいキャベツでも育ったんか、と思いつつ着替えを済ませて家を出た。親も慌てふためいて「アインが頼りだよ、本当に一大事なんだ」とか言ってる。どんな大事だ?
「アイン!あのね、村の南に洞窟があるでしょ。そこのモンスターが村まで来ちゃって、作物が荒らされちゃってるんだって」
「ええ……?なんでそれを俺に……」
すると、村でいちばん南に住んでるおじさんが口を開いた。
「なんだっけ、ラドニール魔法部隊?に対応を頼みはしたんだがねぇ、それまでの間、アインに警備を頼みたいんだよ」
「え俺がですか」
「そりゃそうさぁ。魔道の名門たるラドニール魔法学園魔道科の学生なんだから、きっと大丈夫だと思いねぇ」
「俺一人の力量なんかたかが知れてますって!だいたい今まで大丈夫だったモンスターがこっち来てるって変すぎますよ、俺の手に負える気がしませんって」
「一人が不安ならセリアちゃんにも助けてもらえばいいよぉ。とにかく、その部隊の人がくるまででいいんだ」
「お願い、アイン!私は魔術科だけど、手伝うから!」
魔術科というのは、魔法学園の学科のひとつだ。俺のいる魔道科は主に戦闘や力仕事などの魔法を扱い、セリアのいる魔術科は魔法薬作りや魔法開発などの研究をするらしい。
モンスターが出たとかの災害対策は魔道科、つまり魔道士の仕事だ。そりゃ分かってるが、俺はまだペーペーの学生だ。まごまごしているうちに、遠くの方からものすごいスピードで飛んでやってくる大男が見えた。黒い立襟の軍服みたいなのを着ている。色が赤いが、おそらくラドニール魔法部隊の隊服は赤いんだろう。
男は近くまで来たあと、スピードを落として小走りしながらこう言った。
「すみません、遅くなりました。ラドニール魔法部隊の者ですが」
「いやー、あっという間だねぇ。ありがとさん」
「それで、被害というのは」
「ええとね……」
おじさんはラドニール魔法部隊の人にいろいろ説明をしている。無事人も来たんだし、俺もお役御免だろうと思っていたのだが、あろうことかおじさんがこんなことを言う。
「それでねぇ、うちの村にラドニール魔法学園の生徒がいるんでね、部隊の人がくるまで警備を頼もうと思ってたんだけど、もし良かったら使ってくださいね」
おじさん!!!
なぜ俺を巻き込むのか。
いや、部隊の人ひとりでモンスターを一掃できるのかどうか俺も分からんが、明らかにその人強いじゃん。背丈高すぎて俺2個分ありそうだし、いまさっきマッハ2みたいな速さで飛んできてたし……
「いいんですか!ありがとうございます」
部隊の人も乗っかるなよ!!!
なんの役にも立たないぞ俺!!!!!!
「あそこにいる男の子ですよ。おーい、アイン」
おじさん、俺の名を呼ぶな。
「アインくん、よろしくね」
ほら見ろおじさん!部隊の人が俺の名前を把握しちゃったじゃん!
「ええと、ラドニール魔法学園高等部魔道科2年のアイン・ビロクシスです。その……あんまり魔道の腕は良くないんで、足手まといになるんじゃないかと……」
「ずいぶん自信なさげだねー。俺はケビン・ウィルソンっていうんだ。ラドニール魔法部隊は俺がアインくらいのときからいたけど、案外なんとかなるもんだよ。アインは得意な魔法何?」
「攻撃魔法は炎が得意かなーと。でも、あんまり得意不得意がはっきりわかってなくて」
「お、攻撃魔法使えるんだ。ちょっと手伝ってよ」
「えぇ……」
「そう渋い顔すんなって。俺フェアリーテイマー……ええと、妖精専門の召喚士だからさ、攻撃魔法そんな得意じゃなくて、基本フィジカルなのよ。な、頼むよ~。手伝って!」
「そうだよアイン、せっかくの機会だし、勉強にもなるよ、きっと」
「ちょ、セリアまで」
「そうそう、もっと言ってやって。ちなみにきみは?」
「私は魔術科なんです。物体魔法を使ってマテリアルを作る勉強をしてます」
「へぇ~すごいねぇ、まだ高校生なのに。なあアイン、どうしてもだめか?」
「そこまで言うなら手伝いますが……演習もそんなにやってないんでほんとに……」
「マジで!?ありがとうアイン!!恩に着るよ~!」
はめられた。主におじさんとセリアと、あとこのラドニール魔法部隊の人……ケビンさんに。
ケビンさんにアドバイスをもらいながら簡単に装備を整え、洞窟に向かうことになった。
道中で、ケビンさんはここの討伐はそんなに難しくないからひとりで良いだろうとほっぽり出されたと愚痴を言っていた。彼は妖精から力を借りてとても素早く移動しながら敵の目をかく乱した上で、槍やら斧やらを使った物理攻撃が主な戦闘スタイルなんだそうだ。
「部隊の勧誘ポスターを掲示してもらってるんだけどさ、学校で見た?」
「ああ見ました。俺には全然関係ないと思ってましたよ。こんなところでお世話になるとは」
「さらに大変なことにさー、隊員の勧誘をやれって言われてんの俺。無理はしなくていいけど、アインさえ良ければ手伝ってくれると助かるんだよね。うち分かりやすく攻撃魔法使えるやつが1人もいないんだよ……っと、早速出たね。こいつだ、畑を荒らしてたのは」
ケビンさんが指さした先にはスライムのようなモンスターがいた。確かに、村の畑に汚く散らばっていたネバネバと似た見た目をしている。
「もし無理そうでも俺がお前を抱えてサッサと逃げれば問題ないから、とりあえずやってみよう。なんにせよ数が多そうだ。頼んだぜ、アイン」
「は、はい」
スライムは動きが鈍く、俺の魔法が簡単に当たる。しかし洞窟が湿っているせいで炎の勢いが弱まり、なかなか倒せない。仕方がないので、焦げてさらに動きの鈍ったスライムを踏みつけるという方法で片付けていった。せっかく装備のために新しく買った長靴がベトベトだ。まあ、このために買ったんだけど……
ふとケビンさんの方を見ると、彼も似たような戦法を取っていた。斧でスライムをみじん切りにしているのは斬新だった。そこまでする?
「アイン、このへんの個体はまとめて焼いておこう。スライムは死んだと思っても意外と生きてるからな」
ケビンさんが妖精さんをたくさん呼んでくれて、妖精さんの魔法か何かでべちゃべちゃねちょねちょのスライムの破片をかき集め、ケビンさんが油をまき、俺が点火してスライムを燃やした。
「なんか料理してるみたいですね」
「お前のんきだな。度胸あるじゃん」
「す、すみません」
「褒めてんだよ。……さて、これだけじゃ村までスライムが出てくるとは思えねえんだよな」
「奥の方にまだいっぱいいるとか?」
「その線が濃いな~。全掃討するのも良くないから、異常に増えてる個体をピンポイントで叩きたい。たぶんでかい」
「ボス的な?」
「言っちゃえばそんなもんだね。さ、あと少しだ!早く片付けて帰りて~!」
そう言いながらケビンさんはどんどん洞窟の奥に進んでいく。俺はついて行くので精一杯で、大きいスライムを探す余裕は全くなかった。一方ケビンさんはというと、「こいつは小さい」「こいつは色が違うだけ」「この大きさは個体差だ」とか言いながらボススライムを探していた。もうケビンさん一人でいいんじゃないかな。帰っていいかな俺。
そう思いながらふと遠くの洞窟の壁に目を向けた時だ。明らかに大きいスライムがケビンさんに向かっているのが見えた。いわゆるザコスライムの3倍はある。
「ケビンさん、前、でかいです!あれ、ボスのスライムじゃないですか?」
「あー、たしかにでけえな……」
ケビンさんは武器を槍に持ち替え、スライムに突っ込んだ。しかしスライムは形を変えて、ケビンさんを飲もうとする。
「あ、危ない!」
俺はとっさに炎の魔法を放ち、スライムを焼いてケビンさんを守ろうとしていた。ケビンさんはというと、俺が炎魔法の呪文を唱えている間にスライムの後ろに回り込んでいた。なるほどこれが妖精さんの加速魔法……
「サンキュ、アイン!そのまんま焼いちまえ!」
「無理です!でかすぎますって!!」
「さっきので急所は突いてる!あと焼くだけだ!」
「は、はい!」
その後しばらくかかって大きなスライムを無事丸焼きにし、ケビンさんはカピカピに焼けたスライムを調べた。やはりこの無駄にでかいスライムのせいらしい。
「異常発達個体っていうらしいんだが、スライムだとちぎれた破片が別の個体になって増えすぎたりするんだよな。洞窟に魔力がたまってたり、あるいはなさすぎたりしたせいなんじゃないかな。このでけえスライムのおかげでしばらくは大丈夫そうだけど、今後は定期的に掃除したほうがいいかもね」
「そうなんですね、ありがとうございます。ケビンさん、詳しいんですね」
「めちゃくちゃ詳しい同期の受け売りだよ。俺そんな詳しくねえし」
村に帰ったあと、ケビンさんは同じ説明を村の人にもしてくれた。本人は別に詳しくないと言っていたけど、村人の質問にも答えてたし、ラドニール魔法部隊ってすごいなと思った。
そう思ってボーッと立っていると、セリアが話しかけてきた。
「アインすごいね!スライムやっつけたんでしょ」
「ちげーよ、ケビンさんの手伝いしただけだって」
「でもケビンさんはアインの魔法が必要だったんでしょ?すごく役に立ってたってことじゃん、すごいよ」
「そ……そうか?」
珍しく褒められたので、なんだか照れくさくなってしまった。そして俺は、その様子をニヤニヤ見ているケビンさんに全く気づかなかった。
「そう……そんな優秀なアインにはな、今後も力を貸してほしいと思ってるんだよ、俺は」
「ケビンさん!?」
「ねえ彼女もそう思うよね」
「はい!ね、アイン!」
「え?ちが」
ナチュラルに外堀から埋めてきたぞこの人。あとセリアは彼女じゃない。幼なじみだ。
「アイン~、行きがけに話しただろ~?頼むよ~。体験だけですって来てくれるだけでもいいからさぁ、明日の放課後来てくれよ、ラドニール魔法部隊!」
「そこまで言うなら……仕方ないですね」
「ほんとか!?ありがとうアイン!恩に着るよ!じゃ、明日な!授業に遅刻すんなよ!今日はあったかくして早く寝ろ、な!」
「あっ、はい」
ケビンさんはでっかい手で俺の頭をわしわし撫でて帰っていった。
「嵐のような人だな……」
「アイン、ラドニール魔法部隊に入るの?」
「入らねえよ、ちょっと顔出すだけ。今お礼言いそびれたし……」
まあ、顔を出すだけだと思ったらそのまま成り行きで部隊に入ることになっちゃったんだが、それはまた次の話。
「おっ、よくぞ聞いてくれたなぁ。これはなぁ、ラドニール魔法部隊員募集ポスターだぞ。お前らも興味あったら応募しな!お金もらえて単位もくるぞ~」
「ヤダー、どうせ大変なんでしょ~」
「そりゃそうさ。うまい話なんてこの世にはないからな」
ラドニール魔法部隊?
ちょうど廊下を通りすがっただけだが、耳慣れない単語と、なんか怪しい誘い文句が聞こえてきたので、思わずそのポスターをまじまじと見つめた。
俺はアイン・ビロクシス。ラドニール魔法学園高等部の生徒で、魔道科所属だ。
成績は中の上、得意な魔法もはっきりせず (おそらく炎だろうが)、大絶賛モラトリアム中の、どこにでもいる魔法学校の高校生だ。
俺たち魔法使いは体内で魔力を作ることができ、魔法使いそれぞれが炎や氷の魔法の形にするのに得手不得手がある。魔力を作り貯める力や、魔法として出力する力にも個人差があり、この力が特に弱い人は魔法使いにはならないそうだが、程度の差はあれ大抵の人は魔力を作っているそうだ。
件のポスターには『ラドニール寮入居必須、魔道科大歓迎』と書いてある。さっきキャピキャピと冷やかしていた女子生徒や俺みたいな生徒を募集しているということだろうか?
「おっ、アイン。お前も興味あるならやってみたらどうだ?いい経験になるぞ、大変かもしれないけどな」
「はぁ」
このときの俺は、ラドニール魔法部隊なんか完全に他人事だった。大変そうだし、よくわからんし、俺は別に魔法が強いとかじゃないし。
けど、なんやかんやあり、俺はこのラドニール魔法部隊に入ることになってしまうのだ。
俺はプロビンスという、学校から離れた片田舎の実家に住んでいて、学校にはテレポート魔法を利用して通っている。学校のあるラドニールは学園都市として発展していて、人も物も魔法も溢れかえってごみごみしているが、こっちは家庭菜園の野菜で物々交換が当たり前といったザ・田舎っぷりだ。
ある週末、学校が休みのときだ。俺の幼なじみが部屋の窓をバシバシ叩く音で目を覚ました。
「なんだよセリアか。日曜くらい寝坊させてくれよ」
「アイン、大変なんだよ!早く出てきて!」
斜向かいの家にくそでかいキャベツでも育ったんか、と思いつつ着替えを済ませて家を出た。親も慌てふためいて「アインが頼りだよ、本当に一大事なんだ」とか言ってる。どんな大事だ?
「アイン!あのね、村の南に洞窟があるでしょ。そこのモンスターが村まで来ちゃって、作物が荒らされちゃってるんだって」
「ええ……?なんでそれを俺に……」
すると、村でいちばん南に住んでるおじさんが口を開いた。
「なんだっけ、ラドニール魔法部隊?に対応を頼みはしたんだがねぇ、それまでの間、アインに警備を頼みたいんだよ」
「え俺がですか」
「そりゃそうさぁ。魔道の名門たるラドニール魔法学園魔道科の学生なんだから、きっと大丈夫だと思いねぇ」
「俺一人の力量なんかたかが知れてますって!だいたい今まで大丈夫だったモンスターがこっち来てるって変すぎますよ、俺の手に負える気がしませんって」
「一人が不安ならセリアちゃんにも助けてもらえばいいよぉ。とにかく、その部隊の人がくるまででいいんだ」
「お願い、アイン!私は魔術科だけど、手伝うから!」
魔術科というのは、魔法学園の学科のひとつだ。俺のいる魔道科は主に戦闘や力仕事などの魔法を扱い、セリアのいる魔術科は魔法薬作りや魔法開発などの研究をするらしい。
モンスターが出たとかの災害対策は魔道科、つまり魔道士の仕事だ。そりゃ分かってるが、俺はまだペーペーの学生だ。まごまごしているうちに、遠くの方からものすごいスピードで飛んでやってくる大男が見えた。黒い立襟の軍服みたいなのを着ている。色が赤いが、おそらくラドニール魔法部隊の隊服は赤いんだろう。
男は近くまで来たあと、スピードを落として小走りしながらこう言った。
「すみません、遅くなりました。ラドニール魔法部隊の者ですが」
「いやー、あっという間だねぇ。ありがとさん」
「それで、被害というのは」
「ええとね……」
おじさんはラドニール魔法部隊の人にいろいろ説明をしている。無事人も来たんだし、俺もお役御免だろうと思っていたのだが、あろうことかおじさんがこんなことを言う。
「それでねぇ、うちの村にラドニール魔法学園の生徒がいるんでね、部隊の人がくるまで警備を頼もうと思ってたんだけど、もし良かったら使ってくださいね」
おじさん!!!
なぜ俺を巻き込むのか。
いや、部隊の人ひとりでモンスターを一掃できるのかどうか俺も分からんが、明らかにその人強いじゃん。背丈高すぎて俺2個分ありそうだし、いまさっきマッハ2みたいな速さで飛んできてたし……
「いいんですか!ありがとうございます」
部隊の人も乗っかるなよ!!!
なんの役にも立たないぞ俺!!!!!!
「あそこにいる男の子ですよ。おーい、アイン」
おじさん、俺の名を呼ぶな。
「アインくん、よろしくね」
ほら見ろおじさん!部隊の人が俺の名前を把握しちゃったじゃん!
「ええと、ラドニール魔法学園高等部魔道科2年のアイン・ビロクシスです。その……あんまり魔道の腕は良くないんで、足手まといになるんじゃないかと……」
「ずいぶん自信なさげだねー。俺はケビン・ウィルソンっていうんだ。ラドニール魔法部隊は俺がアインくらいのときからいたけど、案外なんとかなるもんだよ。アインは得意な魔法何?」
「攻撃魔法は炎が得意かなーと。でも、あんまり得意不得意がはっきりわかってなくて」
「お、攻撃魔法使えるんだ。ちょっと手伝ってよ」
「えぇ……」
「そう渋い顔すんなって。俺フェアリーテイマー……ええと、妖精専門の召喚士だからさ、攻撃魔法そんな得意じゃなくて、基本フィジカルなのよ。な、頼むよ~。手伝って!」
「そうだよアイン、せっかくの機会だし、勉強にもなるよ、きっと」
「ちょ、セリアまで」
「そうそう、もっと言ってやって。ちなみにきみは?」
「私は魔術科なんです。物体魔法を使ってマテリアルを作る勉強をしてます」
「へぇ~すごいねぇ、まだ高校生なのに。なあアイン、どうしてもだめか?」
「そこまで言うなら手伝いますが……演習もそんなにやってないんでほんとに……」
「マジで!?ありがとうアイン!!恩に着るよ~!」
はめられた。主におじさんとセリアと、あとこのラドニール魔法部隊の人……ケビンさんに。
ケビンさんにアドバイスをもらいながら簡単に装備を整え、洞窟に向かうことになった。
道中で、ケビンさんはここの討伐はそんなに難しくないからひとりで良いだろうとほっぽり出されたと愚痴を言っていた。彼は妖精から力を借りてとても素早く移動しながら敵の目をかく乱した上で、槍やら斧やらを使った物理攻撃が主な戦闘スタイルなんだそうだ。
「部隊の勧誘ポスターを掲示してもらってるんだけどさ、学校で見た?」
「ああ見ました。俺には全然関係ないと思ってましたよ。こんなところでお世話になるとは」
「さらに大変なことにさー、隊員の勧誘をやれって言われてんの俺。無理はしなくていいけど、アインさえ良ければ手伝ってくれると助かるんだよね。うち分かりやすく攻撃魔法使えるやつが1人もいないんだよ……っと、早速出たね。こいつだ、畑を荒らしてたのは」
ケビンさんが指さした先にはスライムのようなモンスターがいた。確かに、村の畑に汚く散らばっていたネバネバと似た見た目をしている。
「もし無理そうでも俺がお前を抱えてサッサと逃げれば問題ないから、とりあえずやってみよう。なんにせよ数が多そうだ。頼んだぜ、アイン」
「は、はい」
スライムは動きが鈍く、俺の魔法が簡単に当たる。しかし洞窟が湿っているせいで炎の勢いが弱まり、なかなか倒せない。仕方がないので、焦げてさらに動きの鈍ったスライムを踏みつけるという方法で片付けていった。せっかく装備のために新しく買った長靴がベトベトだ。まあ、このために買ったんだけど……
ふとケビンさんの方を見ると、彼も似たような戦法を取っていた。斧でスライムをみじん切りにしているのは斬新だった。そこまでする?
「アイン、このへんの個体はまとめて焼いておこう。スライムは死んだと思っても意外と生きてるからな」
ケビンさんが妖精さんをたくさん呼んでくれて、妖精さんの魔法か何かでべちゃべちゃねちょねちょのスライムの破片をかき集め、ケビンさんが油をまき、俺が点火してスライムを燃やした。
「なんか料理してるみたいですね」
「お前のんきだな。度胸あるじゃん」
「す、すみません」
「褒めてんだよ。……さて、これだけじゃ村までスライムが出てくるとは思えねえんだよな」
「奥の方にまだいっぱいいるとか?」
「その線が濃いな~。全掃討するのも良くないから、異常に増えてる個体をピンポイントで叩きたい。たぶんでかい」
「ボス的な?」
「言っちゃえばそんなもんだね。さ、あと少しだ!早く片付けて帰りて~!」
そう言いながらケビンさんはどんどん洞窟の奥に進んでいく。俺はついて行くので精一杯で、大きいスライムを探す余裕は全くなかった。一方ケビンさんはというと、「こいつは小さい」「こいつは色が違うだけ」「この大きさは個体差だ」とか言いながらボススライムを探していた。もうケビンさん一人でいいんじゃないかな。帰っていいかな俺。
そう思いながらふと遠くの洞窟の壁に目を向けた時だ。明らかに大きいスライムがケビンさんに向かっているのが見えた。いわゆるザコスライムの3倍はある。
「ケビンさん、前、でかいです!あれ、ボスのスライムじゃないですか?」
「あー、たしかにでけえな……」
ケビンさんは武器を槍に持ち替え、スライムに突っ込んだ。しかしスライムは形を変えて、ケビンさんを飲もうとする。
「あ、危ない!」
俺はとっさに炎の魔法を放ち、スライムを焼いてケビンさんを守ろうとしていた。ケビンさんはというと、俺が炎魔法の呪文を唱えている間にスライムの後ろに回り込んでいた。なるほどこれが妖精さんの加速魔法……
「サンキュ、アイン!そのまんま焼いちまえ!」
「無理です!でかすぎますって!!」
「さっきので急所は突いてる!あと焼くだけだ!」
「は、はい!」
その後しばらくかかって大きなスライムを無事丸焼きにし、ケビンさんはカピカピに焼けたスライムを調べた。やはりこの無駄にでかいスライムのせいらしい。
「異常発達個体っていうらしいんだが、スライムだとちぎれた破片が別の個体になって増えすぎたりするんだよな。洞窟に魔力がたまってたり、あるいはなさすぎたりしたせいなんじゃないかな。このでけえスライムのおかげでしばらくは大丈夫そうだけど、今後は定期的に掃除したほうがいいかもね」
「そうなんですね、ありがとうございます。ケビンさん、詳しいんですね」
「めちゃくちゃ詳しい同期の受け売りだよ。俺そんな詳しくねえし」
村に帰ったあと、ケビンさんは同じ説明を村の人にもしてくれた。本人は別に詳しくないと言っていたけど、村人の質問にも答えてたし、ラドニール魔法部隊ってすごいなと思った。
そう思ってボーッと立っていると、セリアが話しかけてきた。
「アインすごいね!スライムやっつけたんでしょ」
「ちげーよ、ケビンさんの手伝いしただけだって」
「でもケビンさんはアインの魔法が必要だったんでしょ?すごく役に立ってたってことじゃん、すごいよ」
「そ……そうか?」
珍しく褒められたので、なんだか照れくさくなってしまった。そして俺は、その様子をニヤニヤ見ているケビンさんに全く気づかなかった。
「そう……そんな優秀なアインにはな、今後も力を貸してほしいと思ってるんだよ、俺は」
「ケビンさん!?」
「ねえ彼女もそう思うよね」
「はい!ね、アイン!」
「え?ちが」
ナチュラルに外堀から埋めてきたぞこの人。あとセリアは彼女じゃない。幼なじみだ。
「アイン~、行きがけに話しただろ~?頼むよ~。体験だけですって来てくれるだけでもいいからさぁ、明日の放課後来てくれよ、ラドニール魔法部隊!」
「そこまで言うなら……仕方ないですね」
「ほんとか!?ありがとうアイン!恩に着るよ!じゃ、明日な!授業に遅刻すんなよ!今日はあったかくして早く寝ろ、な!」
「あっ、はい」
ケビンさんはでっかい手で俺の頭をわしわし撫でて帰っていった。
「嵐のような人だな……」
「アイン、ラドニール魔法部隊に入るの?」
「入らねえよ、ちょっと顔出すだけ。今お礼言いそびれたし……」
まあ、顔を出すだけだと思ったらそのまま成り行きで部隊に入ることになっちゃったんだが、それはまた次の話。
0
あなたにおすすめの小説
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について
国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”
人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる