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第12話 ラドニールへの帰還
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「ケビンさん、彼女いたんですね」
「うるせえぞアイン。入隊希望者だって言ってんでしょ」
俺はアイン・ビロクシス。ラドニール魔法部隊の隊員で、高校2年生。
錬金術師、エリス・アルケミーさんが新しく仲間に加わり、隊も大きくなろうとしていた所に、なんともう1人増えるのだそうだ。その人が、ケビンさんの彼女……ではなくて、フペイン帝国から来た氷魔道士のクイン・ロンクレアさん。
「良かったです、ケビンさんがサウスランドに残ってくれて。行き違いになっていたら大変でしたね」
オペレーターのツクレシーさんは、ケビンさんが帰ってきてからずっとこの調子だ。クインさんの問い合わせがあったときに、サウスランド (エリスさんに会いに行ったボルケイノエリアのある国だ)に出張中と伝えたばかりに行き違いが起きたことをすごく気にしていたのだ。
「いや、まったくだ。ありがとうケビン」
「お前の判断もよかったんだよ、ジェイソン」
さすがジェイソンさんとケビンさんは阿吽の呼吸だ。かっこいいなぁ。
クインさんはツクレシーさんと一緒に入隊の手続きをしに行った。ケビンさんは俺たちとは別行動を取っていたので、あのあとの顛末を聞く。
「それで、あの野郎の件は大丈夫なのか?」
「あまり大丈夫ではないな。ハインリヒの配下が暗躍している所に私も含めて居合わせてしまった以上、ラドニール魔法部隊にカナウスの息がかかっているのがバレてしまったからな」
「カナウス様、なんでわざわざハインリヒのことを聞いちゃったんですか」
「あのような悪どい所業がハインリヒでなかったらそれはそれで問題だからだ」
「そりゃそうか。ドラゴンの使役と市民の営業妨害だもんな」
「これがバレると国際法違反のフルコースみたいなものだからな。気をつけないと我々全員口封じに殺されるかもしれぬ」
「ハインリヒ一派ってそんなろくでもない集団なのか?」
「少なくとも、ハインリヒそのものはろくでもないな。配下の人間に関してはそれぞれだろう」
「穏やかじゃねえなぁ。そしたらちょっくらラドニール平原に行ってくるかな。使い魔のその後を聞きに行きたい。アインも来る?」
「行きます!」
「アイン、何かあったらこちらから連絡するから通信魔法の受け取りを頼んだぞ」
「はい!」
「何かあったらお前からも発信を頼んだぞ」
「……はい!」
なんでケビンさんひとりで行かないんだろうと思ったが、ジェイソンさんの指示を聞いて納得した。ひとりだと奇襲に遭った時危ないからだ。あのとき、ラドニール平原の件を知っているのはジェイソンさんとメアリーさんと俺とケビンさんで、事情を知っている方が都合がいいのは確かだ。
ケビンさんと俺で任務に当たるのはプロビンス村のスライム討伐以来だ。初めて魔道による戦闘行為にチャレンジしてから数ヶ月経ち、俺も少しは役に立つようになったっぽい。
ケビンさんが気を利かせて授業がない休みの日に行けるよう予定を調整してくれたので、俺らは朝からラドニール平原だ。
「アインもすっかり頼もしくなったなぁ。魔装剣の鍛錬はどうよ。セインの指導は厳しいか?」
「ニルドラ先生の指導ですか?優しいですよ。めっちゃ褒めてくれるし」
「ほーん、そうなんだ」
「そういえばケビンさん、妖精さんはウインドウルフにあげちゃったんですよね?なんでまた話を聞こうと」
「ハインリヒの件と関係があったら情報欲しいじゃん?ついでに使い魔との契約も少し変えてモニタリングできるようにしときたいしさ」
「へえー、召喚術っていろいろできるんですね」
「でしょ。便利だけどその分難しいぜ~」
ウインドウルフが暴れていないラドニール平原はいたって平和で、魔物もほとんどいない。あっという間に群れのリーダーの巣までたどり着き、ケビンさんはリーダーに話をつけて妖精さんを呼び出し、何やら話し込んでいる。
いや、めちゃくちゃ楽しそうだな!
傍目には雑談で盛り上がっているようにしか見えない。とはいえ、ケビンさんのことだから真面目な話だけど妖精さんのテンションに合わせているのだろう。
ふと、俺の背後からツリーアニマルがにゅ、と顔を出してきた。ツリーことツリーアニマルは魔力を食べてすくすく成長し、だんだん小狐のような形に姿を変えてきている。こころなしか色もかわってきていて、ちょっとピンクっぽくなってきた。
「ねえアイン、魔道士の気配がするよ」
「……え?」
それを聞いて、俺はすぐさま振り返り、俺たち以外の魔道士がいないか確かめた。特に物音はしないし、人影も見当たらない。しかし、ツリーの勘はまあまあ当たるのだ。油断はできない。
そんな俺たちの様子に気づいたのか、ケビンさんがこちらに気づき、大声で話しかけてくる。
「それにしてもアイン、ボルケイノエリアの一件は大変だったな~!ドラゴン退治なんか久しぶりだったぜ!」
ケビンさんの声色は明るいが、表情は険しくあたりを見回している。ハインリヒの仲間であればドラゴンの件と聞いて分かるだろうと、あえて煽っているのだろう。俺が頷くと、ケビンさんも笑顔で応えてくれたので、俺も大声でケビンさんに続ける。
「まったくですよ、街の人もドラゴンなんかどこから出たのかって怖がってましたもんね!」
「あの大男はなんだったんだろうなー、目の色ピンクで珍しかったが!」
その瞬間、茂みがわずかに揺れた。
ケビンさんがすかさず飛び込む。
……いや、危なくね?
と思った瞬間にはケビンさんが犯人を捕まえていた。こんどはちっちゃい男の人で、黄色い髪に黄緑の瞳をしている。ケビンさんに足を持たれて吊るされて、なすすべもないといった感じだ。
「この服装、見覚えあるなぁ」
ボルケイノエリアで出会った大男の服とそっくりなのだ。これは仲間確定だ。俺はすかさず通信魔法を魔法部隊本部に飛ばした。
「こちらアイン。現在、ケビンと共にラドニール平原にハインリヒの手下と思われる男と接触中」
通信魔法がすぐ帰ってきた。通信先はツクレシーさんらしい。
「こちら本部。応援は要りますか」
「不要です」
「了解。身の安全に気をつけてください」
ケビンさんはというと、捕らえた男を伏せおさえている。さすがのフィジカルだ。
「なーんで俺らをコソコソ尾行してきたのかな?使い魔にもバレてんぞ、兄ちゃん」
「うるせえ!触んじゃねぇよっ」
男は悪態をついてその後すぐ消えた。ドラゴン使いの大男と同じ移動魔法だ。
深追いしても危険だし意味がないので俺たち2人は大人しく本部に戻ることにした。
「ケビンさん、さっきの人、妖精さんもちょくちょく見かけてたんですかね」
「らしいぜ。分かりやすいようにチョロチョロ飛び回ってたら悪さはしなかったらしいんだけど、ときどき覗きにきてたらしい」
「何が目的なんでしょうね。ラドニールに用でもあるんですかね」
「分かんねえな~、カナウス様も知らねえんじゃお手上げよ」
本部に戻ると、エリスさんとクインさんが新しく仕立てた隊服を合わせており、改めて隊員全員で情報共有をすることになった。
「はぁー、ラドニール平原の異常事態もハインリヒの配下のしわざだったってわけ?」
「うん。あのときアインが感じ取っていた気配の正体はそいつらだったってことみたいだな」
話を聞いたメアリーさんとジェイソンさんは「これは面倒なことになったぞ」とでも言いたげな難しい顔をしている。
「ふむ……ランスブルクとサウスランドか。随分と広範囲で偶発的だな」
カナウス様の言う通り、ランスブルクとサウスランドは別の国で、しかも海を隔てている。地形も平原と火山で全然違うし、関連性が分からない。
「カナウス様のスーパーパワーでハインリヒの根城の場所が分かったりしません?」
「神とて万能ではないからな。全知全能の私だが、私の探知を逃げ切る者がハインリヒであるからこそ苦労しているのだ」
ケビンさんが冗談っぽく聞いたが、カナウス様の歯切れが悪い。要するに、俺たちの敵であるハインリヒは全知全能のカナウス様ですら力が及ばない厄介者ということだそうだ。
「でも、放置する訳にはいかないですよね?どうにかして調べたいのではありませんか?」
「その通りです、クインさん。何かいい案はありませんか?」
クインさんがひるむことなく差し込んできた。ジェイソンさんはこころなしか嬉しそうに応えている。
「世界各地のカナウス様に与する神々に協力を依頼するのはいかがでしょう?」
「ふむ、確かに名案だ。しかし……」
カナウス様は鋭い目つきで俺たちを見回した。また試練でも課されるのか……?
「私はラドニール八神の中心だから、ラドニール八神については問題ないのだが、それ以外については協力を仰げるか保証しかねるのだ」
「なるほど」
「ラドニール八神だけだとランスブルク国内だけになるねえ」
「ラドニール八神にそれぞれアテがあるのであれば、多少は力になろう。まあ、彼らは私たちの子供達だから、一柱ずつ試練が課されるだろうな」
「うーん、忙しいですねぇ、これまで通りのラドニールの保安業務に加えて、ラドニール八神の試練かぁ」
「あのー、お前ら、ちょっといいか」
みんながうーんと考え込んでいるところに、ニルドラ先生が差し込んだ。
「もともとラドニール魔法部隊はランスブルクの特殊部隊のひとつとして編成されたわけだが、魔物駆除や国内の保安が任務なのね。今後ハインリヒの配下との対人戦が発生する場合、ラドニールの保安目的でない限り越権行為になっちゃうからさ、くれぐれも気をつけるように。特にジェイソン、ケビン、メアリーはその辺りの指揮系統の権限を持つだろうから、念の為な」
「了解した。アインはまだ高校生だしな」
「でもさジェイソン、万が一、今の任務権限を超えることになる場合はどうするの」
メアリーさんとケビンさんは不安そうだ。俺もなんとなくニルドラ先生の言った通りの範囲でなんとかなるとは思えない。
「ランスブルクの本部次第ではあるが……そういう事態になることがあればケビン、メアリー、お前たちも含めた隊員全員に意向を聞くことにしよう。アインは高校生だし、エリスさんやクインさんはランスブルク国民ではないから、退役してもらうことになるかもしれない」
俺は、それを聞いてすぐに「それでもジェイソンさん達について行きます!」と言いたくなった。けれど、俺が今それを言うべきじゃなさそうなことに直感で気づいたので、何も言えなかった。
つづく
「うるせえぞアイン。入隊希望者だって言ってんでしょ」
俺はアイン・ビロクシス。ラドニール魔法部隊の隊員で、高校2年生。
錬金術師、エリス・アルケミーさんが新しく仲間に加わり、隊も大きくなろうとしていた所に、なんともう1人増えるのだそうだ。その人が、ケビンさんの彼女……ではなくて、フペイン帝国から来た氷魔道士のクイン・ロンクレアさん。
「良かったです、ケビンさんがサウスランドに残ってくれて。行き違いになっていたら大変でしたね」
オペレーターのツクレシーさんは、ケビンさんが帰ってきてからずっとこの調子だ。クインさんの問い合わせがあったときに、サウスランド (エリスさんに会いに行ったボルケイノエリアのある国だ)に出張中と伝えたばかりに行き違いが起きたことをすごく気にしていたのだ。
「いや、まったくだ。ありがとうケビン」
「お前の判断もよかったんだよ、ジェイソン」
さすがジェイソンさんとケビンさんは阿吽の呼吸だ。かっこいいなぁ。
クインさんはツクレシーさんと一緒に入隊の手続きをしに行った。ケビンさんは俺たちとは別行動を取っていたので、あのあとの顛末を聞く。
「それで、あの野郎の件は大丈夫なのか?」
「あまり大丈夫ではないな。ハインリヒの配下が暗躍している所に私も含めて居合わせてしまった以上、ラドニール魔法部隊にカナウスの息がかかっているのがバレてしまったからな」
「カナウス様、なんでわざわざハインリヒのことを聞いちゃったんですか」
「あのような悪どい所業がハインリヒでなかったらそれはそれで問題だからだ」
「そりゃそうか。ドラゴンの使役と市民の営業妨害だもんな」
「これがバレると国際法違反のフルコースみたいなものだからな。気をつけないと我々全員口封じに殺されるかもしれぬ」
「ハインリヒ一派ってそんなろくでもない集団なのか?」
「少なくとも、ハインリヒそのものはろくでもないな。配下の人間に関してはそれぞれだろう」
「穏やかじゃねえなぁ。そしたらちょっくらラドニール平原に行ってくるかな。使い魔のその後を聞きに行きたい。アインも来る?」
「行きます!」
「アイン、何かあったらこちらから連絡するから通信魔法の受け取りを頼んだぞ」
「はい!」
「何かあったらお前からも発信を頼んだぞ」
「……はい!」
なんでケビンさんひとりで行かないんだろうと思ったが、ジェイソンさんの指示を聞いて納得した。ひとりだと奇襲に遭った時危ないからだ。あのとき、ラドニール平原の件を知っているのはジェイソンさんとメアリーさんと俺とケビンさんで、事情を知っている方が都合がいいのは確かだ。
ケビンさんと俺で任務に当たるのはプロビンス村のスライム討伐以来だ。初めて魔道による戦闘行為にチャレンジしてから数ヶ月経ち、俺も少しは役に立つようになったっぽい。
ケビンさんが気を利かせて授業がない休みの日に行けるよう予定を調整してくれたので、俺らは朝からラドニール平原だ。
「アインもすっかり頼もしくなったなぁ。魔装剣の鍛錬はどうよ。セインの指導は厳しいか?」
「ニルドラ先生の指導ですか?優しいですよ。めっちゃ褒めてくれるし」
「ほーん、そうなんだ」
「そういえばケビンさん、妖精さんはウインドウルフにあげちゃったんですよね?なんでまた話を聞こうと」
「ハインリヒの件と関係があったら情報欲しいじゃん?ついでに使い魔との契約も少し変えてモニタリングできるようにしときたいしさ」
「へえー、召喚術っていろいろできるんですね」
「でしょ。便利だけどその分難しいぜ~」
ウインドウルフが暴れていないラドニール平原はいたって平和で、魔物もほとんどいない。あっという間に群れのリーダーの巣までたどり着き、ケビンさんはリーダーに話をつけて妖精さんを呼び出し、何やら話し込んでいる。
いや、めちゃくちゃ楽しそうだな!
傍目には雑談で盛り上がっているようにしか見えない。とはいえ、ケビンさんのことだから真面目な話だけど妖精さんのテンションに合わせているのだろう。
ふと、俺の背後からツリーアニマルがにゅ、と顔を出してきた。ツリーことツリーアニマルは魔力を食べてすくすく成長し、だんだん小狐のような形に姿を変えてきている。こころなしか色もかわってきていて、ちょっとピンクっぽくなってきた。
「ねえアイン、魔道士の気配がするよ」
「……え?」
それを聞いて、俺はすぐさま振り返り、俺たち以外の魔道士がいないか確かめた。特に物音はしないし、人影も見当たらない。しかし、ツリーの勘はまあまあ当たるのだ。油断はできない。
そんな俺たちの様子に気づいたのか、ケビンさんがこちらに気づき、大声で話しかけてくる。
「それにしてもアイン、ボルケイノエリアの一件は大変だったな~!ドラゴン退治なんか久しぶりだったぜ!」
ケビンさんの声色は明るいが、表情は険しくあたりを見回している。ハインリヒの仲間であればドラゴンの件と聞いて分かるだろうと、あえて煽っているのだろう。俺が頷くと、ケビンさんも笑顔で応えてくれたので、俺も大声でケビンさんに続ける。
「まったくですよ、街の人もドラゴンなんかどこから出たのかって怖がってましたもんね!」
「あの大男はなんだったんだろうなー、目の色ピンクで珍しかったが!」
その瞬間、茂みがわずかに揺れた。
ケビンさんがすかさず飛び込む。
……いや、危なくね?
と思った瞬間にはケビンさんが犯人を捕まえていた。こんどはちっちゃい男の人で、黄色い髪に黄緑の瞳をしている。ケビンさんに足を持たれて吊るされて、なすすべもないといった感じだ。
「この服装、見覚えあるなぁ」
ボルケイノエリアで出会った大男の服とそっくりなのだ。これは仲間確定だ。俺はすかさず通信魔法を魔法部隊本部に飛ばした。
「こちらアイン。現在、ケビンと共にラドニール平原にハインリヒの手下と思われる男と接触中」
通信魔法がすぐ帰ってきた。通信先はツクレシーさんらしい。
「こちら本部。応援は要りますか」
「不要です」
「了解。身の安全に気をつけてください」
ケビンさんはというと、捕らえた男を伏せおさえている。さすがのフィジカルだ。
「なーんで俺らをコソコソ尾行してきたのかな?使い魔にもバレてんぞ、兄ちゃん」
「うるせえ!触んじゃねぇよっ」
男は悪態をついてその後すぐ消えた。ドラゴン使いの大男と同じ移動魔法だ。
深追いしても危険だし意味がないので俺たち2人は大人しく本部に戻ることにした。
「ケビンさん、さっきの人、妖精さんもちょくちょく見かけてたんですかね」
「らしいぜ。分かりやすいようにチョロチョロ飛び回ってたら悪さはしなかったらしいんだけど、ときどき覗きにきてたらしい」
「何が目的なんでしょうね。ラドニールに用でもあるんですかね」
「分かんねえな~、カナウス様も知らねえんじゃお手上げよ」
本部に戻ると、エリスさんとクインさんが新しく仕立てた隊服を合わせており、改めて隊員全員で情報共有をすることになった。
「はぁー、ラドニール平原の異常事態もハインリヒの配下のしわざだったってわけ?」
「うん。あのときアインが感じ取っていた気配の正体はそいつらだったってことみたいだな」
話を聞いたメアリーさんとジェイソンさんは「これは面倒なことになったぞ」とでも言いたげな難しい顔をしている。
「ふむ……ランスブルクとサウスランドか。随分と広範囲で偶発的だな」
カナウス様の言う通り、ランスブルクとサウスランドは別の国で、しかも海を隔てている。地形も平原と火山で全然違うし、関連性が分からない。
「カナウス様のスーパーパワーでハインリヒの根城の場所が分かったりしません?」
「神とて万能ではないからな。全知全能の私だが、私の探知を逃げ切る者がハインリヒであるからこそ苦労しているのだ」
ケビンさんが冗談っぽく聞いたが、カナウス様の歯切れが悪い。要するに、俺たちの敵であるハインリヒは全知全能のカナウス様ですら力が及ばない厄介者ということだそうだ。
「でも、放置する訳にはいかないですよね?どうにかして調べたいのではありませんか?」
「その通りです、クインさん。何かいい案はありませんか?」
クインさんがひるむことなく差し込んできた。ジェイソンさんはこころなしか嬉しそうに応えている。
「世界各地のカナウス様に与する神々に協力を依頼するのはいかがでしょう?」
「ふむ、確かに名案だ。しかし……」
カナウス様は鋭い目つきで俺たちを見回した。また試練でも課されるのか……?
「私はラドニール八神の中心だから、ラドニール八神については問題ないのだが、それ以外については協力を仰げるか保証しかねるのだ」
「なるほど」
「ラドニール八神だけだとランスブルク国内だけになるねえ」
「ラドニール八神にそれぞれアテがあるのであれば、多少は力になろう。まあ、彼らは私たちの子供達だから、一柱ずつ試練が課されるだろうな」
「うーん、忙しいですねぇ、これまで通りのラドニールの保安業務に加えて、ラドニール八神の試練かぁ」
「あのー、お前ら、ちょっといいか」
みんながうーんと考え込んでいるところに、ニルドラ先生が差し込んだ。
「もともとラドニール魔法部隊はランスブルクの特殊部隊のひとつとして編成されたわけだが、魔物駆除や国内の保安が任務なのね。今後ハインリヒの配下との対人戦が発生する場合、ラドニールの保安目的でない限り越権行為になっちゃうからさ、くれぐれも気をつけるように。特にジェイソン、ケビン、メアリーはその辺りの指揮系統の権限を持つだろうから、念の為な」
「了解した。アインはまだ高校生だしな」
「でもさジェイソン、万が一、今の任務権限を超えることになる場合はどうするの」
メアリーさんとケビンさんは不安そうだ。俺もなんとなくニルドラ先生の言った通りの範囲でなんとかなるとは思えない。
「ランスブルクの本部次第ではあるが……そういう事態になることがあればケビン、メアリー、お前たちも含めた隊員全員に意向を聞くことにしよう。アインは高校生だし、エリスさんやクインさんはランスブルク国民ではないから、退役してもらうことになるかもしれない」
俺は、それを聞いてすぐに「それでもジェイソンさん達について行きます!」と言いたくなった。けれど、俺が今それを言うべきじゃなさそうなことに直感で気づいたので、何も言えなかった。
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