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39 幼馴染み、へこむ
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週末、予定をしていた通りにサミュエルはエマーソン領へと向かった。といってもサミュエルの場合は転移が出来るので、途中まで馬車で行き、後は一気に転移をするのだろう。
サミュエルが王城の文官を目指すと聞いた時は、頭を殴られたような気がした。
フィリップは卒業後はエマーソン領に戻り、領内で騎士団を作るつもりでいたのだ。グレンウィード家は代々エマーソン家を支えてきた家だ。その主となる経済的な部分は長兄が跡を継ぐ事になっていたが、自分は領内の守りの強化という点でそれを支えていけると思っていた。
そして、エマーソン家の末っ子サミュエルに卒業の前に結婚を申し込み、二人でエマーソンの文武を支えていかれると思い描いていたのだ。
だからサミュエルの秀でた計算の能力や物事をきちんと文書にまとめ上げて整理をする力に負けないだけの力をつける。そう決めていた。
それなのにサミュエルはエマーソンに戻るつもりはないと。部屋住みで家の世話になるのは嫌だから王城の文官を試験を受けると言い出した。
フィリップの計画は180度の転換を余儀なくされた。領主には自分の気持ちは伝えていて、サミュエルがうんと言えば認めるという事になっていたが、高等部の2年でまさかの方向転換だ。
そうであるならば自分には何が出来るのか。危なっかしくて愛おしい幼馴染みを手に入れる為にどうすればいいのか。領地なしの男爵家、しかも嫡男ではない自分には王城内に勤める事すらできない。
良くて王城の外の警護か門番。後は外詰めの騎士だ。平民からの叩き上げのような状態になる。
情けないと思いつつも実家を頼り、エマーソン家にも相談をした。
そうして最終学年の騎士の試験に受かれば、知り合いの伯爵家の養子となり、王城勤めが出来るようにしてもらえる所までは根回しをしてもらったのだ。だが、エマーソン家の第一の条件はどんな事があってもサミュエルの気持ちが一番。例え王家からの婚約の話であっても、公爵家からの養子縁組の話でもあっても、サミュエルが嫌がったら認められない。
それは勿論フィリップも同じで、サミュエルの気持ちをまずはきちんと掴み取る事が課題だった。
好かれている、とは思っている。
だが、それはあくまでも幼馴染みの延長線上にあるものだとフィリップは思っていた。そしてサミュエルの性格を考慮して、一度にガンと攻めてしまうと「無理!」と引かれてしまうとも思っていた。
だからこそ、絡めとるように少しずつ、少しずつ意識をしてもらって詰めていく。そう思っていたのに、まさかの第四王子からの接近だ。
しかも宰相であるアルトマイヤー公爵家も諦めてはおらず、他の者たちからサミュエルは全く気づいてはいないようだが、秋波は送られているのである。
フィリップは自室で頭を抱えるようにして大きな溜息を落とした。
今日サミュエルが養子の話と婚約の話を断ってほしいと言いに行けば、何があったのか、どうなっているのかとフィリップの方にも確認が入るだろう。
そうして春の祭りという場があったというのにお前は何をしていたのかと実家からはヘタレの烙印を押されるに違いない。
だが、実家からならばサミュエルの性格を考えているのだからもう少し放っておいてくれと言える。でもエマーソン家から『任せられない』という烙印を押されてしまったらお終いだ。
しかも自分には三年間という縛りが付けられている。
いくら知り合いの伯爵家と言っても何の見返りもなく養子に迎えるわけがない。三年してもサミュエルの心が掴めなければ…………
「くそぅ……もう少しだけ、強めに押していくか」
あの状態からいって、第四王子がそのまま引き下がるとは思えない。あの手のタイプは手に入らないと思うほど手に入れようとして来るタイプだ。
「まったく……どうして、こんなにどこまでも鈍感で、厄介な奴を好きになっちまったんだろうな」
ポツリを零した言葉は、勿論サミュエルに聞こえる事はなかった。
サミュエルが王城の文官を目指すと聞いた時は、頭を殴られたような気がした。
フィリップは卒業後はエマーソン領に戻り、領内で騎士団を作るつもりでいたのだ。グレンウィード家は代々エマーソン家を支えてきた家だ。その主となる経済的な部分は長兄が跡を継ぐ事になっていたが、自分は領内の守りの強化という点でそれを支えていけると思っていた。
そして、エマーソン家の末っ子サミュエルに卒業の前に結婚を申し込み、二人でエマーソンの文武を支えていかれると思い描いていたのだ。
だからサミュエルの秀でた計算の能力や物事をきちんと文書にまとめ上げて整理をする力に負けないだけの力をつける。そう決めていた。
それなのにサミュエルはエマーソンに戻るつもりはないと。部屋住みで家の世話になるのは嫌だから王城の文官を試験を受けると言い出した。
フィリップの計画は180度の転換を余儀なくされた。領主には自分の気持ちは伝えていて、サミュエルがうんと言えば認めるという事になっていたが、高等部の2年でまさかの方向転換だ。
そうであるならば自分には何が出来るのか。危なっかしくて愛おしい幼馴染みを手に入れる為にどうすればいいのか。領地なしの男爵家、しかも嫡男ではない自分には王城内に勤める事すらできない。
良くて王城の外の警護か門番。後は外詰めの騎士だ。平民からの叩き上げのような状態になる。
情けないと思いつつも実家を頼り、エマーソン家にも相談をした。
そうして最終学年の騎士の試験に受かれば、知り合いの伯爵家の養子となり、王城勤めが出来るようにしてもらえる所までは根回しをしてもらったのだ。だが、エマーソン家の第一の条件はどんな事があってもサミュエルの気持ちが一番。例え王家からの婚約の話であっても、公爵家からの養子縁組の話でもあっても、サミュエルが嫌がったら認められない。
それは勿論フィリップも同じで、サミュエルの気持ちをまずはきちんと掴み取る事が課題だった。
好かれている、とは思っている。
だが、それはあくまでも幼馴染みの延長線上にあるものだとフィリップは思っていた。そしてサミュエルの性格を考慮して、一度にガンと攻めてしまうと「無理!」と引かれてしまうとも思っていた。
だからこそ、絡めとるように少しずつ、少しずつ意識をしてもらって詰めていく。そう思っていたのに、まさかの第四王子からの接近だ。
しかも宰相であるアルトマイヤー公爵家も諦めてはおらず、他の者たちからサミュエルは全く気づいてはいないようだが、秋波は送られているのである。
フィリップは自室で頭を抱えるようにして大きな溜息を落とした。
今日サミュエルが養子の話と婚約の話を断ってほしいと言いに行けば、何があったのか、どうなっているのかとフィリップの方にも確認が入るだろう。
そうして春の祭りという場があったというのにお前は何をしていたのかと実家からはヘタレの烙印を押されるに違いない。
だが、実家からならばサミュエルの性格を考えているのだからもう少し放っておいてくれと言える。でもエマーソン家から『任せられない』という烙印を押されてしまったらお終いだ。
しかも自分には三年間という縛りが付けられている。
いくら知り合いの伯爵家と言っても何の見返りもなく養子に迎えるわけがない。三年してもサミュエルの心が掴めなければ…………
「くそぅ……もう少しだけ、強めに押していくか」
あの状態からいって、第四王子がそのまま引き下がるとは思えない。あの手のタイプは手に入らないと思うほど手に入れようとして来るタイプだ。
「まったく……どうして、こんなにどこまでも鈍感で、厄介な奴を好きになっちまったんだろうな」
ポツリを零した言葉は、勿論サミュエルに聞こえる事はなかった。
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