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54 普通の転生者、色々と察する
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この前のお店まで行ったらいいのかなって思っていたら、上司から「宰相府に持って行って、届けたらそのまま帰っていい」って言われて書類を渡された。
言われた通りに届けたら、今度は宰相閣下に直接渡すようにって言われて、お会いしたらそのままお店に行く事になった。うん。何となくだけど届け物の時点でそうじゃないかなって思っていたんだ。
普段は使われていない出入り口に用意をされていた馬車に乗ってお店に行くと、今日は先に元帥閣下が来ていらした。そうして前と同じようにお料理が出て、春の祭りの用意の話をしたりして……
「さて、ではそろそろ本題に入るか」
元帥閣下の言葉に宰相閣下が頷いて、話が始まった。
まず、起きていた事は色々な思惑やら恨みやら、陰謀みたいなものが絡み合っていた。
まずは僕の婚約者候補の取り消し。これはお祖父様と通してエマーソン家からきちんと申し出た。普通は子爵家と王室に関係する人の婚姻なんてありえなし、ましてや子爵家からお断りっていうのもありえないんだけど、そこはやってしまったんだよね。そして通ってしまった。
うん。エマーソン家は過去にも王家とか公爵家とかの申し込みをお断りしているからね。でもどうやらそれが火種だった……みたい。
断られた第四王子は恥をかかされたと思った。
そしてそれを聞いた人の中で、子爵家風情がと思った人がいた。思った人の中にはお祖父様の事を良く思っていない人がいた。
でもね、宰相閣下は僕の事はあくまでもきっかけの一つに過ぎないと仰っていた。それ以前にも色々あって、最初は第四王子が婿入りする予定だったんだけど、第三王子になったんだって。これは他言無用。
色々な所から色々な思惑やら、妬みやら、画策やらがあって、そのうちの一つが、僕が見回り騎士とお付き合いをしている事を第四王子に知らせたらしい。で、第四王子自身がというよりは、そのとりまきの一人である騎士団員がフィルに関わりがない筈の罪を被せた。これがフィルが城内の
「だが、そこに更に余計な者が絡んできやがった。で、今度は騎士団の内部の事情ってやつがゴタゴタしだした」
「そうそう。そこから複雑になるんだよ」
「まぁ、ちょっと公には出来ないのだが、第三王子が婿入りした事もあってね、タイミングと言うか、なんと言うか、騎士団の内部にいた馬鹿と第四王子が結びつき、とんでもない事を企てた」
「そこにレスター様に対して恨みを抱いている者まで引き寄せられて……。あ~エマーソン君。話が出来るのはここまでかなぁ。まぁ、納得はいかないかもしれないが、今回の第四王子の養子縁組と、その後の王国内の粛清にも似た爵位の変動や騎士団の中で処罰をされた者などは聞こえてきて来る部分もあると思う」
「……はい。何となく」
「うん。それで推測をしてくれ。悪いな。繰り返すが公には出来ないんだ」
「分かりました」
二人の話で何となく想像をした事は勿論口には出来なくて、でもそれがきちんと終わったというか、ある意味で水面下として収束をしたのはこの二人のお陰なんだろうなって思った。
そして多分、そこにはお祖父様の働きもあったんだろうな。だって、以前「あの方の手がどれだけ長いか」っていうような事を言っていたもの。
食べたような、食べないようなそんな食事に溜息を飲み込んで、僕は出てきたデザートに手を伸ばしてふと気になった事を口にした。
「あの、一つだけ伺ってもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「あのフィルが、えっと罪を着せられた幼馴染みの養子先の伯爵家は」
「ああ、レスター様の奥方様のご実家ですね。ええとそちらは、端的に言えば第四王子のとりまきからの嫌がらせ、ですかね。もう大丈夫の筈ですが」
「え、ええ。そうなんですが、少し気になったので。そうですか、第四王子がらみの嫌がらせか……」
僕がそう言うと宰相閣下は「もっと簡単に言えばレスター様を見くびって行ったただの馬鹿だよ」とニッコリと笑って付け加えた。
「そうですか。まぁ、大丈夫だって聞いてはいたのですが。やっぱり私のせいだったんだなと」
「ああ、それだけではないですね。エマーソン君との事だけではなく、フィリップ・グレンウィードは昨年採用の中では秀でていましたからね」
「そう、なんですか」
「ええ、学園の成績も優秀でしたし、最終学年の遠征訓練もとても良い評価が出ている」
宰相閣下の言葉に元帥閣下が頷きながら口を開いた。
「フィリップ・グレンウィードは男爵家でなければ近衛の方に入れたいと思うほどの実力があると評価されていたんだ。伯爵家と養子縁組をした事でとりあえずは城内の見回り騎士として様子を見て、そのうちにもう少し実践的な場所へ異動をさせる予定だったんだが、本人が近衛にはならないと言っていた事もやっかみの原因の一つになった。君のせいという問題ではない。将来性のある者を潰すような動きが騎士団の中にあるというのがまずおかしい。しかも……あ~~~まぁ、とにかく原因の一端というよりは、彼の場合はとばっちりだ。こんな事でせっかくの人材をなくすのは惜しいからね。下の者を育てていくという枠組みも見直すいい機会にはなった。なので、気にするなと言っても気にはなるだろうが、それよりも彼の今後の事を」
「ダスティン」
微笑みを浮かべたまま宰相閣下が元帥閣下の名前を呼んだ。
「まぁ、そういう事で、別にエマーソン君のせいという事ではありません。はっきりと言えない部分があり、納得が出来ない事も多くあると思いますが、第四王子が婿入りでもなく、同盟国としても格下の、しかも爵位も侯爵家ですらない伯爵家との養子縁組。そして君の所にも大量に回って来ただろう粛清と呼ばれるほどの書類。これで何となく浮かんだ事で収めてほしい」
「…………わ、分かりました。色々とお世話になりました」
「エマーソン君にも色々と期待をしているんだよ。これからも頑張ってね」
もう話はおしまいとばかりにそう言われて、僕には頷く事しか出来なかった。
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言われた通りに届けたら、今度は宰相閣下に直接渡すようにって言われて、お会いしたらそのままお店に行く事になった。うん。何となくだけど届け物の時点でそうじゃないかなって思っていたんだ。
普段は使われていない出入り口に用意をされていた馬車に乗ってお店に行くと、今日は先に元帥閣下が来ていらした。そうして前と同じようにお料理が出て、春の祭りの用意の話をしたりして……
「さて、ではそろそろ本題に入るか」
元帥閣下の言葉に宰相閣下が頷いて、話が始まった。
まず、起きていた事は色々な思惑やら恨みやら、陰謀みたいなものが絡み合っていた。
まずは僕の婚約者候補の取り消し。これはお祖父様と通してエマーソン家からきちんと申し出た。普通は子爵家と王室に関係する人の婚姻なんてありえなし、ましてや子爵家からお断りっていうのもありえないんだけど、そこはやってしまったんだよね。そして通ってしまった。
うん。エマーソン家は過去にも王家とか公爵家とかの申し込みをお断りしているからね。でもどうやらそれが火種だった……みたい。
断られた第四王子は恥をかかされたと思った。
そしてそれを聞いた人の中で、子爵家風情がと思った人がいた。思った人の中にはお祖父様の事を良く思っていない人がいた。
でもね、宰相閣下は僕の事はあくまでもきっかけの一つに過ぎないと仰っていた。それ以前にも色々あって、最初は第四王子が婿入りする予定だったんだけど、第三王子になったんだって。これは他言無用。
色々な所から色々な思惑やら、妬みやら、画策やらがあって、そのうちの一つが、僕が見回り騎士とお付き合いをしている事を第四王子に知らせたらしい。で、第四王子自身がというよりは、そのとりまきの一人である騎士団員がフィルに関わりがない筈の罪を被せた。これがフィルが城内の
「だが、そこに更に余計な者が絡んできやがった。で、今度は騎士団の内部の事情ってやつがゴタゴタしだした」
「そうそう。そこから複雑になるんだよ」
「まぁ、ちょっと公には出来ないのだが、第三王子が婿入りした事もあってね、タイミングと言うか、なんと言うか、騎士団の内部にいた馬鹿と第四王子が結びつき、とんでもない事を企てた」
「そこにレスター様に対して恨みを抱いている者まで引き寄せられて……。あ~エマーソン君。話が出来るのはここまでかなぁ。まぁ、納得はいかないかもしれないが、今回の第四王子の養子縁組と、その後の王国内の粛清にも似た爵位の変動や騎士団の中で処罰をされた者などは聞こえてきて来る部分もあると思う」
「……はい。何となく」
「うん。それで推測をしてくれ。悪いな。繰り返すが公には出来ないんだ」
「分かりました」
二人の話で何となく想像をした事は勿論口には出来なくて、でもそれがきちんと終わったというか、ある意味で水面下として収束をしたのはこの二人のお陰なんだろうなって思った。
そして多分、そこにはお祖父様の働きもあったんだろうな。だって、以前「あの方の手がどれだけ長いか」っていうような事を言っていたもの。
食べたような、食べないようなそんな食事に溜息を飲み込んで、僕は出てきたデザートに手を伸ばしてふと気になった事を口にした。
「あの、一つだけ伺ってもよろしいでしょうか?」
「何かな?」
「あのフィルが、えっと罪を着せられた幼馴染みの養子先の伯爵家は」
「ああ、レスター様の奥方様のご実家ですね。ええとそちらは、端的に言えば第四王子のとりまきからの嫌がらせ、ですかね。もう大丈夫の筈ですが」
「え、ええ。そうなんですが、少し気になったので。そうですか、第四王子がらみの嫌がらせか……」
僕がそう言うと宰相閣下は「もっと簡単に言えばレスター様を見くびって行ったただの馬鹿だよ」とニッコリと笑って付け加えた。
「そうですか。まぁ、大丈夫だって聞いてはいたのですが。やっぱり私のせいだったんだなと」
「ああ、それだけではないですね。エマーソン君との事だけではなく、フィリップ・グレンウィードは昨年採用の中では秀でていましたからね」
「そう、なんですか」
「ええ、学園の成績も優秀でしたし、最終学年の遠征訓練もとても良い評価が出ている」
宰相閣下の言葉に元帥閣下が頷きながら口を開いた。
「フィリップ・グレンウィードは男爵家でなければ近衛の方に入れたいと思うほどの実力があると評価されていたんだ。伯爵家と養子縁組をした事でとりあえずは城内の見回り騎士として様子を見て、そのうちにもう少し実践的な場所へ異動をさせる予定だったんだが、本人が近衛にはならないと言っていた事もやっかみの原因の一つになった。君のせいという問題ではない。将来性のある者を潰すような動きが騎士団の中にあるというのがまずおかしい。しかも……あ~~~まぁ、とにかく原因の一端というよりは、彼の場合はとばっちりだ。こんな事でせっかくの人材をなくすのは惜しいからね。下の者を育てていくという枠組みも見直すいい機会にはなった。なので、気にするなと言っても気にはなるだろうが、それよりも彼の今後の事を」
「ダスティン」
微笑みを浮かべたまま宰相閣下が元帥閣下の名前を呼んだ。
「まぁ、そういう事で、別にエマーソン君のせいという事ではありません。はっきりと言えない部分があり、納得が出来ない事も多くあると思いますが、第四王子が婿入りでもなく、同盟国としても格下の、しかも爵位も侯爵家ですらない伯爵家との養子縁組。そして君の所にも大量に回って来ただろう粛清と呼ばれるほどの書類。これで何となく浮かんだ事で収めてほしい」
「…………わ、分かりました。色々とお世話になりました」
「エマーソン君にも色々と期待をしているんだよ。これからも頑張ってね」
もう話はおしまいとばかりにそう言われて、僕には頷く事しか出来なかった。
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グレフル様
返信遅くなりました~~~~~( ;∀;)
は~そうですね。私も食べたくなりました。。。。。
サミー、もうすぐブチ切れ予定です・・・・(* ̄▽ ̄)フフフッ♪
どこまでも予定を狂わすサミー(笑)
フィルくんがんばれ!
なかなか立場的にもグイグイいけないんでしょうけれどね。辛いね。
でも見守ってるこちらはそれがイイの(笑)
がんばれ♡🤭
グレフル様
ありがとうございます!
無自覚系、難しいわ〜。
でもそろそろフィル、頑張れ(笑)
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