お助け妖精コパンと目指す 異世界サバイバルじゃなくて、スローライフ!

tamura-k

文字の大きさ
9 / 123
第一章 転生

9 ヘタレな俺の初勝利

しおりを挟む
「…………いやだ……サバイバルはしたくない。出来ない、無理……」

 先程『魔法』というキーワードでちょっと復活したけれど、その希望を遥かに上回る『一か月間もこの森の中を移動しながら暮らす』という現実に俺は思わずガクリ膝をついた。その拍子に『お助け妖精』もコロンと肩の上から落ちる。

「いたたた……あ、アラタ様! 大丈夫ですか?」
「……そうだ! 魔法があるじゃん。魔法でどこかの国の近くまで行くのはどうだろう? それかさっき言っていた妖精の道? それを通って森を出られるんじゃない?」

 目の前に来て俺を気遣う小さな存在に縋るような眼差しを向けた。

「む、無理です! そんな距離を移動できるような魔法なんて使えません! それに妖精の道は妖精が通る道だからアラタ様は通れません!」
「…………サバイバルは不可避なのか。え、じゃあどうするの? ここで移動しながら一か月以上地べたで生活するの? 食べ物は? さっきみたいにその辺の木の実とか食べろって? それに、そうだよ水は? 水がなかったら死ぬよ。嫌だ、帰してくれ! 死んでしまった身体がこうして元に戻せるなら、前の所で暮らしてもいいじゃないか。就職活動があるんだ。働いて、稼いで、両親にも少しは親孝行をしたいし、恋人はいなかったけど、いずれは自分の子供だって……」

 言いながら今度こそ涙が出た。異世界転移だとか魔法だとかちょっとばかり浮かれていたけれど、現実はどうにもままならない。読んでいた沢山の小説の主人公たちのようにもらった力を使って無双するなんて、現実ではやっぱりありえないんだ。

「帰りたい。元の世界に帰りたい……」

 俺はなりふり構わずうずくまった。

「…………あ、あの、お、お水は出せます!」
「え?」
「お水は出せます。きっと少しすればアラタさんにも出来るようになります」

 流れる涙を小さな手が必死で拭いていた。

「……水、出せるの?」
「はい! おまかせあれ~」

 『お助け妖精はそう言って小さな手をグルリと回した。すると俺の鼻先でちょろちょろと水が流れ出した。

「ちゃんと飲めますよ。喉が渇いたら言ってください。もっとレベルが上がったらもっと沢山の水が出せるようになります。食べ物も頑張って集めます! 私はアラタ様の『お助け妖精』ですから!」
「………………」

 ああ、恥ずかしいと思った。
 俺は二十一年も生きているのに、こんなに小さな子供のような存在に何度も八つ当たりをして、泣き出して、文句ばかりを言っている。

「アラタ様?」
「うん。教えてくれ。えっと、水はこのまま飲むのは難しいから、この中に入れられる?」

 俺は一口だけになっていたペットボトルの中身を飲み干して、差し出した。『お助け妖精』はもう一度「おまかせあれ~」と口にしてペットボトルの中に水を入れてくれた。
 うん。水の問題はどうにかなった。食べ物も、この小さな妖精と一緒に集めよう。とにかく一か月。どこかの国をめざして生きていこう。だけど、せめて、一矢報いさせてほしい。

 俺はおもむろに立ち上がると、俺は空に向かって口を開いた。

「寝泊まりするテントや最低限の道具くらいはサービスしてくれ!」
「ア、アラタ様?」
「話し合いが出来なかったんだから、それくらいはしてくれ! そうしたら、俺も頑張るから!」

 その瞬間、スマホがピロンと鳴った。
 取り出してみると『インベントリ』と書かれているフォルダのようなものが出来ていて、開くと中にショップでパラパラと見たテントや道具のセットがあった。
 試しにタッチしてみると目の前にドサリと現れる。
 その瞬間なぜか「勝った」と思った。

「ありがとうございます。『お助け妖精』と一緒に、頑張ってこの世界で生きてみます」
「あわわわわ! え、えっと、えっと……すごいです~~~~~! 地上から女神様にお話が出来るなんて、アラタ様はすごいです!」

 興奮してぴょんぴょんと飛び跳ねている俺の『お助け妖精』

「すごいのは君だよ。ありがとう。一緒に頑張ろう。魔法も、この世界の事も、沢山教えてくれ」
「! おまかせあれ~!」

 飛びついてきた小さな身体。
 それをしっかり受け止めて、俺たちは再び森の中を歩き出した。


----------

「おまかせあれ~」  
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

処理中です...