悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

tamura-k

文字の大きさ
91 / 303
第8章  収束への道のり

259. 本当はかなりお怒りだったハワード先生

しおりを挟む
 紛糾をしていた王城内も、いつまでも文句や嫌味を言っている者達がいつの間にか弾かれるようになってきたらしい。そんなに手柄を立てたいのかって今度はその人が言われるようになったとか。
 何だか人の心とか気持ちの流れとか、そう言うのって面白いなぁって思った。
 そんな風になるのに、父様たちはどんな事をしたのかと聞いてみたら、何もしていないよと笑っていた。

 西の国・シェルバーネの使者から伝わった『首』の話。
 伝わった時は本当に大変な騒ぎになっちゃったみたいだけど、王様は賢者であるハワード先生に『首』の説明をさせたんだって。
 始まりは西の国に伝わっている五つ首のお伽話の本。それで、王国にも同じような話がある事を知ってその本を探し出したら、王国にあったのは三つ首の化け物を退治する話だった。
 似ている部分が多いけれど、お伽話の英雄譚に書かれている事を鵜呑みにする事は出来ないし、大体『首』とはなんなのか。
「はるか昔に退治をされて封じられ、お伽話の中ではめでたしめでたしとなっているそれが何だと言うのか。始めはそんな気持ちでした」
 そう言ったハワード先生にこの時点で怒りを収めた人もいたらしい。

 勿論話はまだまだ続く。むしろここからだ。
 ハワード先生は120年ほど前に西の国で起きた先々王の事をフィンレー当主の弟から聞き、今王国で起きている事と同じような事が起きていた事を知り、本格的にそれを調べるようになったと説明をした。
 でも元々が英雄譚の本なので、どこまで信じられるものか分からない為、調査は交流の深かった当主たちに限られた事。お伽話で王国を騒がせるわけにはいかないという気持ちがあった事もきちんと言った。この時点で黙った人も多かったんだって。

 調べていくうちに120年前の西に国で起きた事がルフェリットでも起こる可能性があるのではないかと思い始めた事を説明。しかし、本当に王国の中に『首』が封印された場所があるのか。ここまで来て、調べる手立てに限界を感じて、王室へ資料の閲覧を申し出た事を言った。
「王室に許可を頂いて、事情を説明し、巻き込むような形になったのはここからです。ですが、大方は私の妄想。元は英雄譚。国王と今まで協力をしてくれていた友人に相談をして皆様に説明をする事は控える事になりました」
 この時点ではもう賢者という称号とその力に脱帽している人の方が多かったみたいだって。

 ちなみにね、ここまでの説明と報告だけで何日もかかったんだって父様が言っていた。
 文句も多かったけれど、それ以上にハワード先生の説明が凄すぎて、引いている貴族たちが多かったみたい。でも聞きたいと言っていたのだからぜひお聞き下さいと、これでもかなり短くなっているんですよって笑ったと言うハワード先生はきっとものすごく怒っていたんだろうなって思ったよ。
 でも本当に沢山の時間をかけて辿り着いた事だったんだから、それを責めるなら説明をきちんと聞かないとね。

 先生の説明は実際の話の流れとは少し異なるけれど、それは煩雑になるし、分かりづらいし、僕たちが辿った事を全て話をする事もないと思うからそれでいいと思うんだ。だって僕たちだって一直線に『首』の封印について辿り着いたわけではないから。間にはエターナルレディの薬草とか、アンデッドや魔人や魔素の騒ぎとか色々とあったしね。

 それから、王国内に厄災と呼ばれた化け物の『首』がある確率が高く、その封印が解けかけて色々な事が起きている可能性が高い事が分かって、今度は早急に場所を探し出して、封印をし直さなければならないって話になった事。
 場所の確定に時間がかかった事と、思っていた以上に『首』がもたらす禍が酷く、文献の中から眠らせる事を探し出し、封じられたのが昨年末だった。ここでの発表も考えたけれど、封印はあと2か所あって、それの特定が進んでおらず、絞り込みをしている最中だったと先生は話をしたんだって。
 最初は声高に「一部の者たちのみが」とか、「国の大事を隠すとは」とか、「情報は共有すべき」とか、果ては「国王が信用している者たちだけを引き立てる」とかそんな事までも言っていた人たちも、それを解き明かすまでにどれほどの知力と労力が費やされてきたのか、そしてお伽話をお伽話と笑わずに調べて行った者達への敬意を表す者も現れたんだって聞いて僕はすごく嬉しくなった。
 なったんだけど、どうやら先生の怒りは収まらなかったみたいでね。その後に封印する時に現れた魔物の事とか、瘴気よりも重い気の事とか、そんな状況を事例として挙げた後に。

「封印の事を話してまた前回の魔素の時のように何日も会議をするような事を避けたいと、出来る限り早く特定をして、無事に封印が出来たとご報告申し上げたかったのですが、こうなった以上は封印を解いてしまう事がないように、皆さんで探していただくしかないようですね。私たちは一の首を封印致しましたので、どうぞ、二の首の<死>、三の首の<絶望>は他の皆様で封印をなさって下さいませ。同じ王国内の貴族として平等にとおっしゃるのであれば、私は一の首に関わった友人たちと一緒にここで手を引かせて頂きます。勿論同じ王国の仲間ですから、私が調べた資料はご覧いただいて構いません。どうぞ、封印が解ける前に封印の状況を確認して、封印しなおして下さいませ。よろしくお願い致します」

 ハワード先生の一言で王城は再び混乱。
 自分たちも出来る限り何か情報が必要であれば調べたり、出来る限りの事はするので、このまま調査を続けて封印までやってほしいと。
 全部任せきりにされるのはこうなった以上は困ると先生がごねて、でも賢者にしか出来ない事があるのでお願いしたいってなって…………一応収束したらしい。

「正直大変ですし、これ以上煩わしいのに振り回されるのは面倒ですし、本気でフィンレーを独立させてもいいですか?」って父様に聞いてきたんだって。ハワード先生に今度何か差し入れを持っていこう。

 ともあれ、ミッチェル君やトーマス君、そして皆が言っていた通りだったね。
 紛糾しているって聞いて、父様がまたものすごく忙しくなって、どうしてこの国の人たちはいつもこんな風なんだろうって僕も思ったりしていたんだ。
 本当に国の事を考えるならばそんな言葉は出ない筈だって。勿論人だから、自分の事や自分の領の事を一番に考える事もあるだろうけれど、それでも分かる筈なのにって。
 功を争う様な事ばかりをしていては、いずれ国は立ち行かなくなってしまう。だけど父様たちが厳しく粛清をしたり、きちんと仲間を作って行ったりする中で王室も変わり始めて、先生が切れちゃった事もあったけど、それでもちゃんと国の事を考えられる人たちもいたね。良かった。
 
 色々とあったけれど、こうして『首』の封印の事が周知されて、先走るような人も出てこなくて、更に西の国との国交についてどのような事が考えられてどのような決まりが必要になるのかって言う事も並行して話し合われているっていうから、僕はホッとして、父様たちにこの前のお茶会で好評だった、ホワイトチョコレートのお菓子を差し入れた。
 だけど、ちょうど二の月の『告白の日』が近かったから、ものすごく、ものすごく、兄様にがっかりされてしまって、しかもそれに全然気が付かなくて、ミッチェル君から兄様が落ち込んでいるみたいだって言われて、僕は慌てて兄様たちにもホワイトチョコレートのお菓子を贈った。
 王城のシルヴァン様の執務室に、僕からの差し入れだって、ルシルに持って行ってもらったんだ。兄様は何故か苦笑いをしていたらしい。



「エディ、今日は差し入れをありがとう」
 
 帰ってきてそう言った兄様に僕は「はい」って返事をした。そして、夕食の後に「ホワイトチョコレートはみんなにお贈りしましたが、これは兄様だけにです。いつもありがとうございます」ってザッハトルテっていうチョコレートケーキを出したんだ。
 濃厚なチョコレートのケーキは小さくてもとても食べ応えがあって、食べながら目があった兄様に「美味しいね」って言われて、僕は何だかわからないけど顔が熱くなったような気がした。


-------------
ちょっと大人げない先生と自覚観察中のエディ(笑)
 

しおりを挟む
感想 945

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。