悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

tamura-k

文字の大きさ
90 / 303
第8章  収束への道のり

258. プチお茶会と仲間たち

しおりを挟む
 一の月の終わり、僕はタウンハウスでプチお茶会を開いた。
 皆には事前に『首』の事について一緒に考えてもらいたい事があるって伝えてあった。今王国ではまさにその事でまだ揉めているので、参加しにくい場合は言ってほしいと伝えていたが、皆当たり前のように来てくれた。
 今日は応接室でのお茶会でちょっと味気ないけれど、それでもタウンハウスのシェフが腕を振るってくれた。

「えっと、お休みの所来てくれてありがとう。とりあえずいつものように食べながらって事でいいかな」

 僕がそう言うと皆笑って頷いてくれた。
 今回はルシルにも参加をしてもらった。ルシルから第二王子にそのまま筒抜けになる事もないし、兄様もシルヴァン殿下は少し変わったよって言われたから。

「うん。それでいいよ。相変わらずエディの所のお茶会のメニューは種類が多くて、美味しそう」
「ふふふ、良かった。デザートも色々用意をしているみたいだからみんな頑張って食べてね。まぁ食べながらの話題が『首』の事で申し訳ないんだけど」
「それは仕方がないし、ここに居る皆は大丈夫だよ。ところでさ、王城はまだ揉めているんでしょ? 馬鹿だよね」

 ミッチェル君の毒舌は年を追うごとに切れ味が鋭くなっていく気がするね。

 レナード君が苦笑しながら「ミッチェル、身も蓋もない言い方をしてはいけないよ」って言った。

「だってさ、僕たち学生でも今がどういう時なのか分かるじゃない?」
「それはさ、『首』の存在を知っていたからって事もあると思うよ。やっぱり何も知らなくて、いきなり他国の使者から『首』がなんて聞いたら驚くよ」
 そう言ったのはエリック君。

「だけどさ、王国の中で今まで起きていた事を思えば何かおかしいとか、何か起きているのかもしれないって思うでしょう? それなのに自分たちの事ばかり優先して、他人の力ばかりを当てにしてきたような人たちが、今度は知っていたならなぜ話さなかったって言うのはおかしいと思うんだよ。知ったところでどうせ他力本願だっただろうって思っちゃうんだよね。というか騒がれても困ったけどさ。だから本来だったら、『首』を封じてくれてありがとうだと思うんだ」
「うん。ミッチェルの言う事は判るよ。だからこそ、言いたい奴には言わせて、それで本当にいいのかを皆が感じてくれないと困るんだよね。ここまでレイモンド家やフィンレー家が動いてくれて、王家も巻き込んできちんと封じ込めをしたんだからさ、気づく人はもう気付いているよ。そう言う声が聞こえてきているって」
 
 トーマス君がそう言うとレナード君やユージーン君たちも頷いた。

「そうだね。そろそろ教えてくれなくてとか、一部の人間だけが……という声よりも気付かずにいて申し訳ないとか、封じ込めをしてくれて感謝するっていう声の方が多くなったって私も聞いたよ。今後はどこが抜け駆けをするとかそういう事でなく、王国の為にどうしたらいいのかっていうのと、西の国との交易をどう考えていくのかっていう方に向かってほしいね」
「うん。それは分かる。でもちょっと言いたかったんだ。レイモンドも、フィンレーも別に何かが欲しくてそうしていたわけじゃないし、なのにどうしてこんな言われ方をするんだろうって思っていたから」
「それは僕も思ったよ。でもこの事は父様たちに任せておくしかないって。それしか出来なくてちょっと落ち込んだりもしたよ」
「うん。何でもない顔をしている父上を見ると、悲しくなったりしたんだ。ごめん。こんな話から入る事になって」
「いや、現状が変わってきている事が判ったし、実際に封じ込めに関わって一番風当りの強い当主たちの苦労も分かったし、悪い事ではないよね。さて、じゃあ食べながらにさせてもらおう」

 レナード君はそう言ってサンドウィッチに手を伸ばしてくれた。本当に変わらないな。最初のお茶会から彼には色々と助けられている。
 僕たちは食事をしながら色々な事を話した。

 他の二つの『首』が封印をされている候補地の事。
 僕が感じた『首』の禍の違いについて。
 そして西の国の交易の事。

「自分の先祖が旧ディンチ領だったとか、モーリスから嫁入りをした人の事とか全然知らなかったよ。それにしても微妙な場所だよね。旧ディンチ領もモーリス領も」

 ミッチェル君がそう言うと、ルシルが頷きながら口を開いた。

「うん。第一の『首』が封じられてからモーリスのダンジョンもスタンピードの兆候がなくなってきたみたいだものね。やっぱり何か関係あるのかなって思っちゃうよね」
「まぁ、モーリスのダンジョンは過去にも何度かスタンピードを起こしていますし、兆候が表れて、なくなった事も何回かありますから、一概に『首』だけの問題でもないかもしれないですが。でもやはり気にはなりますね」
 スティーブ君が眉間の辺りに皺を寄せながらそう言った。

「だけどさ、モーリスのダンジョンはどこかと繋がっているっていう噂があったよね」
「え? どういう事?」

 ユージーン君の言葉に僕は思わず声を出してしまった。
 
「確かな事じゃないんだよ。でもどこかの層が別の空間に繋がっているとか、そんな事は子供の頃に聞いた気がするよ」
「ああ、そういえばモーリスのダンジョンは空間が捻じれている所があるとかって噂になった時があったね。でもジーンの言う通り確かな話じゃないんだよ。それにその層はかなり下の層で、そこまで言った冒険者の数も少ないから作り話である可能性もあるんだ」

 スティーブ君も思い出したというように付け加えた。

「そうなんだ。でも、気にはなるね」
「確かめにはさすがに行かれないけどね」
「ふふふ、それはそうだね。行くならまずは冒険者登録をしないとね」
「それはきっと皆から止められるよ。勿論僕も止めるよ」
「しないよ、トム。そんな顔をしないで」
「うん。わざわざ魔物を倒しにダンジョンに潜るなんて本当にやめてね」
「うん。約束する」

 そんなやり取りの後は王都の話になった。場所については僕たちには確かめようがないので何とも言えなかったけれど、もしもそんなところで封印が解けたらと、みんな苦い表情を浮かべていた。

「封印場所が三箇所の何処かとして、それが万が一、第一の『首』のように封印が解けかけてしまったら王都の中に魔物を召喚されてしまうかもしれない。それはとても恐ろしい」
「喚べる距離的なものがあるかもしれないけれど、街中にあの地下に現れたような、ヘルハウンドやアーミーアントなどが数多く現れたり、フレイム・グレート・グリズリー等が出たらかなりの被害が出る」
「それもあるけど、さっきエディが言っていたように『首』による禍の違いがあるかもしれないっていうのも気になる。どれも嫌だけど、王家が封じたのは<絶望>だからね」

エリック君、ルシル、それにレナード君が次々に口を開いた。

「ヘルハウンドにアーミーアントか。数で来られたらフレイム・グレート・グリズリーよりも被害が出るかもしれないな」
「うん。厄介だよね。確かサイクロプスとかガルムも出たんだよね?」
「オーガも」
「…………本当にこれが王都に現れたら大変な事になるな」

 他のメンバーも顔を引きつらせていた。

「起こるか起こらないか分からない事言っても仕方がないけれど、そう言った魔物たちが現れた事があるというのを知っているのは大事だね。ただ、無暗にそれを広めたりしないように気を付けないといけないな。パニックが起きる方が街の中は恐ろしいからね」

 スティーブ君の言葉に皆が頷いた。


 王都の場所についてはやはり街の中に出さない事が重要だねという話をして、具体的な話まではさすがに行かなかった。ただ警戒感を持つことはやっぱり必要だよね。
 
 『首』それぞれの特性についても分からない事が多いので、起きている事をこれからもお互いに伝えあって行こうって事になった。
 あと、やっぱりモーリスのダンジョンは気になるので、その辺りは情報を集めてみようかって話にもなった。



「わぁぁ! なにこれすごく美味しそうだよ」
「チーズのスフレだよ。少し蜂蜜のソースが掛かっているんだって。こっちは最近出たホワイトチョコレートのケーキ。イチゴは温室で少し小さめのを育ててみたんだ」
「可愛い!」

 皆でデザートを食べた。
 色々な話が出来て、考えて、時には注意をしたり、寄り添ったり、本当に素敵な仲間たちだと思う。
 
「皆に出会えて本当に良かった。これからもよろしくね」

 そう言うと皆が頷いてくれた。



 
 二の月に入る前に、王城では建設的な会議が出来るようになってきたって、兄様から聞いた。
 そして、父様にもちゃんと会えるようになってきて、二の月からはお祖父様の講義も再開される事になった。

 


しおりを挟む
感想 945

あなたにおすすめの小説

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。