悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

263. 初めての目撃者

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 手がかりがないまま二の月が終わろうとしていた。
 情報は全くと言っていいほど集まらないのに、被害者は増えていく。
 一体どうして人がいなくなるのか。何のために居なくなるのか、どうやって居なくなるのか。連れ攫われるのか。消えてしまうのか。魔力の残滓を残さずに人が消えてしまう様な方法があるのか。

「…………う~~~ん、何度考えても思いつかない」

 そんな時はお祖父様だ。明後日の講義の時に聞いてみよう。
 
「そう言えばティオとも会えないなぁ」

 名前を教えてもらった綺麗なグリーンの髪の金色に光る妖精。僕は彼? の姿しか見る事が出来ないけれど、今までにもティオやティオの仲間たちが夢に現れたり、温室で声をかけてくれたりしていた。講義や勉強会がなくても週末は出来る限りはフィンレーの温室には行っていたつもりだったけれど、枝のお礼をしてからはタイミングが合わないのか顔を見ていない。
 行っても必ず会えるわけではないのであまり気にはしていなかったけれど、こんな風に誰かが消えたと言う様な事が続いていると何だか気になる。

「ハリーにも何か変わった事がないか聞いてみよう」

 明日は順番的には植物の勉強会だ。勉強会では今までにエターナルレディに効く薬草を増やしたり、美味しいポーションを作る為に薬草を探したり、育てたり、あるいは掛け合わせて作ってみたり、【緑の手】の力と思われる力で作り出してみたりしていた。
 ポーションを作っている中で、偶然の産物で出来た頭痛や腹痛、そして熱など、今まではお医者様に掛かっていたような病気に関してのポーションというか飲み薬のようなものも出来ていた。扱いに困っていたら父様とお祖父様がいつの間にか薬草の栽培や薬師たちの確保、そしてお医者様がお薬として使ってくれるように整えてくれた。
 一つの症状に特化していて量もそんなに必要ないし、価格も平民でも十分に手が届くもので、まだフィンレーの領内だけなんだけど、もう少し色々が整っていけば王国中に広がっていくかもしれない。
 小さな子供にも飲めるし、味も悪くないし、使い勝手がいいって言われてすごく嬉しかった。調合に関しては僕だけじゃなくてハリーもスティーブ君もトーマス君も関わっているから、カーライル領にはすでにこれが実験的に入っているんだ。
 本来はこれは薬師さんのお仕事なんだけど、こんな風に皆に役に立てる事が出来て行けるといいなって思っている。その為には父様たちがして下さった。販売出来るまでの経路もきちんと作れるようにならないとダメだよね。

 学園に行くと皆がもう揃っていた。また何だか雰囲気が暗い?

「おはよう。皆。えっと、何かあった?」
「おはよう、エディ。ああ、うん。僕の領にも行方不明者が出たんだ」

 トーマス君がそう言った。

「カーライルにも?」
「うん。ジーンのところも初めての貴族の被害者が。領地なしの役人で男爵位を持っている人。でもね」
「でも?」

 トーマス君の言葉を引き継ぐようにユージーン君が口を開いた。

「目撃者が居たんだ」
「え!」

 僕は思わず大きな声を出してしまって慌てて口を押えた。ミッチェル君がすかさず「遮音してる」と笑った。

「あ、ありがとう。えっとそれでその目撃者って?」
「それがね、酔っぱらっていたから見間違いなんじゃないかって言われているらしいんだけど。絶対にそんな事はないって言い張っていて。今まで目撃者なんていなかったから父も話を聞いたんだけど。ちょっと信じられない感じで」

 ユージーン君は小さく眉を寄せて、再び口を開いた。

「影の中に落ちたって言うんだ」
「…………え」
「そんな魔法は聞いた事がない。すぐに魔法の跡を調べたんだけど何もなかったって。ああ、その人は魔法の流れっていうのかな、そう言うのが判る人なんだよ。だから一概に酔っていて見間違えたとか夢を見ていたとは言えなくてね」
「影に、落ちる」
「うん。本人の話だとストンって。驚いて足元をその足もとを見ても何もない。影自体もね。恐ろしくなって自分の影を見て、触ってみたけれど、石畳の感触しかしなくて叫びながら見廻り詰め所に駆け込んだ。すぐに騎士達もそこにいったけれどやはり何もなくて、探していたら彼が持っていたと思われるペンが見つかった。息子が王都で流行りのインクの要らないペンをプレゼントしてくれたと言っていた事が確認されて行方不明者に認定されたんだ」
「影に落ちる、吸い込まれる、でも魔力の跡はないし、元々影の中に生きている人間を落とすような魔法もない。それでも今までで唯一の目撃者の話だし、嘘をつくような人物ではないから王国にも届け出る事になったんだそうだ」

 スティーブ君がそう言って僕たちは思わず黙り込んでしまった。
 影に落ちる、吸い込まれる。もしもそれが本当の事だとしたら大変な事だ。
 だって影は誰でも持っている。それがどこかに繋がってしまって落ちてしまうと言うのであれば防ぎようがない。

「今うちの領では一人での移動や外出などは禁止をされているんだ。必ず誰かと一緒に行動をする。平民も色々な所で行方不明者が出ているっていう噂を気味悪がって、その辺りはだいぶ浸透してきている。もっともこの前の令嬢のように自室の中でとなると一人暮らしなどは防ぎようがないところもあるけどね。でも本当に影に吸い込まれてしまうのであれば、誰かと一緒にというのも意味がないね」

 苦さを滲ませたようなミッチェル君の言葉に僕は呆然としたまま頷いた。

「とにかく、影に落ちる前に何か揺らぎの様なものを感じた気がすると言っているので、その辺りの事を調べるつもりだ。後はもしもこれに対して悪意のあるものという認定が出来るのであれば、聖神殿のお守りが効くかもしれないから各自、結界と共に持ち歩くようにしておこう。
「そうだね。何が効くのか、防げるのか分からないんだから思いつく事はしておこう。僕も週末にお祖父様の所にいくから影とか闇魔法の事とか聞いてくるね」
「エディ、確か今度のっ薬草とかの勉強会だよね?」
「うん。そうだよ。参加を控える?」
「ううん。反対。絶対に一緒に聞きたい」
「私もお願いします」
「うん。元々二人は薬草の勉強会は参加が許されているし問題ないよ」
「……それは、私も聞く事ができますか?」

 ユージーン君が口を開いた。

「お祖父様にきいてみないと分からない。薬草とかそういう勉強会だから」
「カーライルとフィンレーで発売されている水薬について興味があります。その事も含めて参加をさせていただければと。確認をしていただけますか?」
「わかった。聞いてみるね。あんまり人数が多くなるとダメかもしれないから返事は連絡をするね」
「ありがとうございます」

 講師が来て、僕らの話は終わりになった。解かれた遮音。始まる講義。

『影の中に落ちたって言うんだ』

 甦るユージーン君の言葉にグッと唇を結んで、僕はまた何かが始まって動き出している事を改めて感じていた。


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昨日はすみませんでした。
少しずつ書いていきます。


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