悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

tamura-k

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第8章  収束への道のり

266. ティオの話

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 皆が帰ってから僕は温室に行ってみた。
 お皿の上のイチゴはそのままで、今日はやってこなかったんだなって思った。

「マジックバックに入れておいて少し多く採れたらジャムにしようかな」

 そう言いながらイチゴに手をかけると「えでぃー」という小さな声が聞こえた。

「! ティオ? 久しぶりだね。元気にしていた?」

 だけどティオの姿は見えない。

「ティオ? どうしたの? イチゴを用意して待っていたんだよ? お友達と来たの? イチゴを持って帰る?」

 僕がそう言うとティオはまた小さな声を出した。

『こわいのが、くるから、あそびにいったらだめなのー。おおきいひとにいわれたのー』
「こわいの?」

 僕の脳裏に夢の中の黒い化け物が甦った。

「エディとも、遊んだら駄目なの? お話も、お土産をあげるのも駄目なの?」

 迷っているような気配がした。一体何があったのか。以前も聞いた事のある大きい人というのは誰なのか。そんな事を考えていると、少し向こうの花の影からティオが姿を現した。

『えでぃー』
「ティオ、お顔を見せてくれてありがとう」
『うん。イチゴもらう~』
「いいよ。皆の分を持って行って」

 そういうとティオは泣き出してしまった。

「ど、どうしたの!? お腹が痛いの?」
『ちーがうー。こわいのがいるからあそびにいったらだめなの~。どっかいっちゃったの~』

 ドクンと心臓が大きく跳ねたような気がした。

「ティオ、こわいのって前にエディに教えてくれた黒いの? みんなはどこに行っちゃったの?」
『わからない~、こわいのはちがうこわいのなの~。つかまるときえちゃうの~』
「捕まると消える?」

 それはどういう事だろう? 

「ティオ、フィンレーには強い結界が張られているから、怖いのはそんなに簡単に来られないと思うよ。今はエディもいるから、ティオを守るよ。イチゴを持って帰ってあげて、ティオが持てるバッグも作ってもらったんだよ。こうすると沢山イチゴが入るよ?」

 僕は今度会ったら渡そうと思っていた小さなグリーンのマジックバッグを取り出してイチゴを中に入れた。

『す~ご~い~! これティオの?』
「そうだよ。ティオの髪の色に合わせたティオのバッグだよ。こうして入れて、欲しいものを考えると出てくるよ」
『わぁぁぁぁ! えでぃーありがと~、イチゴもらうよ~』

 そう言ってティオはせっせとバッグの中にイチゴを入れ始めた。そして時折取り出してはにんまりとしてまた詰め直している。可愛い。

「ねぇ、消えちゃうってティオのお友達が消えちゃうの?」
『こわいのが、つかまえるの。つかまったらきえちゃうの。こわいの。ティオのともだちつかまったの。それで、つかまえるのに、つかわれてきえちゃったの~』
「ご、ごめん、怖い話をさせたよね。でもエディのお友達もどこかに消えちゃったんだよ。急に影の中に落ちたんだって。だからティオ達の事も心配だよ」

 僕がそう言うとティオは「う~ん」と考えるような顔をした。

『かげにおちるのはようせいがつかわれたの」
「え?」
『もうかえるの。こわいの。えでぃありがとイチゴ」
「ううん。怖いのを我慢して会いに来てくれてありがとう。もしも会いに来るのが怖かったら前みたいに夢の中に出てきて? 夢ではお土産は渡せないけど、お話を沢山聞く事は出来るよ。そうしたらこわいのをエディがやっつけてあげるからね」

 そう言うとティオは小さく笑って「うん」と言うと、緑のバッグを持って、手を振って、消えた。
 それを見送って僕は今聞いた事を必死に考えていた。

 違う怖いの。
 捕まると消える。
 怖いのは妖精を捕まえている。
 捕まえるのに使われて消える。
 影に落ちるのは妖精が使われた。

「…………何が、起きているの?」

 ドクンドクンと胸の鼓動が早くなる。
 
「エディ兄様? まだいらっしゃるのですか?」
「!!」

 温室に入ってきたハリーの顔を見て、僕は大きく息を吸って、吐いて……

「ハリー、聞いてほしいんだ。今ティオが来ていたんだ」

 

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いつもより短いですが、一旦切ります。
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