悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第8章  収束への道のり

318.対決

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「どういう事だ?」
「それが、支流の方で一体討伐されたようだと」
「支流で、ワイバーンを?」

 デイヴィットはそう言って眉間の皺を深くした。
 何が起きたのか。本当はすぐにでも調べに行きたかったが、今はまず街を守らなければならない。城の敷地内には魔物達が城壁の外に出られないように結界を施しているが、空には限界がある。
 ワイバーン二体が向かっていると報告が上がったのはよりによって王城の北側、平民たちが多く住む街だ。強固な建物も、身を隠すような場所も限られている。ワイバーンが低空飛行でもすれば、それだけで壊れる家も多いだろう。またワイバーンはごく稀に火を吹く時があると言われているが、万が一にでも街中で火を吹かれたら、石だけでなく木材も多く使われている彼らの家は瞬く間に火の海になる。

「いっそ街を抜けて北の森の方まで行ってくれれば竜巻でも何でも起こして引きずり落とすのだが」
「デイヴィット様、それはそれでせっかく封印をした場所が心配です」
「だが、街中で暴れられたらそれこそ大事だ。とりあえず城の魔術師たちに城壁の結界を出来る限り高くしてもらったが、それがどこまで有効かは分からないからな」

 三体と報告を受けたワイバーンは現在二体になって、そのまま街に出てしまう事はなく城の上空を旋回している。それもまた厄介だが、現状では手が出せない。あいつらが下りてくるのは獲物を捕らえる時だけだ。けれどそれを待っている余裕もない。もとより、獲物は自分たち人間だ。
 黒竜の時のように何か道具を使って他の場所に連れて行くしかないのか。他のワイバーンを近づけたら縄張り意識が出てついてくるだろうか。 
 いっそのこと竜巻を起こしてその気流に巻き込むと言う事も考えたが、城の真上で竜巻を起こすわけにはいかない。

(対空魔用の道具を考えておかなくてはならなかったな)

 今更の事を考えながらデイヴィットは空を飛ぶ翼竜を憎々し気に見つめた。

「……獲物を狙う様な様子もないしな。だが城壁内にいるうちに始末をしないと。やはり竜巻トルネードでも放ってみるか。うまく巻き込まれてくれれば風魔法で着地点を調整してそのままいけるか」

 降りてこないワイバーンにしびれを切らしてデイヴィットは魔導騎士達に作戦を伝えるとスタンピードが起きている場所とは反対側の庭園の奥に、先ほど使ったワイバーンの土人形を飛ばす事を決めた。
 新参者を追い払う為にやってきたところを引きずり落とす。バランスを崩して、直接魔法が届く範囲内に入れば後は翼を集中的に狙って飛べなくすればいい。

 とにかく早く決着をつけたい。そして出来る事ならばエドワードの所へ駆け付けたい。怪我はしていないだろうか。どの地点で戦っているのだろうか。スタンピードの状況はどうなっているのだろうか。王太子についているというアルフレッドの様子も気になっている。

「デイヴィット様! 奴らが王城の南側に位置を変えました」
「偽物を出す前に自ら場所を変えるとは助かった。よし、トルネードの重ね掛けだ。何としても気流に巻き込ませるぞ。位置を間違えて城を壊す事のないように!」

 デイヴィットの言葉に騎士達は笑いながら「気を付けます」と答えた。
 やがて、作られた風が渦を巻き、空に向かって二本の渦を作った。

 
-*-*-*-

 
 カルロスとマーティンが王城に着いたのは、王城の南の庭園奥で、竜巻がワイバーンを巻き込んでいる時だった。

「……相変わらず無茶をするな」

 そう呟いたカルロスに隣を歩いていたマーティンは「それを貴方が言いますか?」と胸の中で思いながら、きりきり舞いをして落ちていく翼竜を見つめた。

「このままスタンピードへ向かってはまずいでしょうね」
「うむ、挨拶と封印の報告をして、スタンピードの状況を把握せねば。レイモンド隊四十名の投入は大きいからな」
「ではすぐに参りましょう。到着の知らせはニールデン公爵に出しました。すぐに謁見を」

 マーティンの言葉に頷いて、カルロスたちは城の中に入った。
 城の中は混乱を極めていた。
 それでもどうにか動いているのはニールデンやコートニーズの二公爵家に加え、トールマンやクレバリー、バーナード等の侯爵家、モーガン、ランドール、マクロード、ロマースクなど現在自領の騎士たちを派遣させている家の当主が自ら来て、現在の状況を見ているからだ。

 応接の間での報告は短いものだった。
 ワイバーンが現れ、本流の始点では大きな被害が出て、第二隊からアルフレッドが二十名程の魔導騎士達を率いて援護に向かっている。第一隊の後方は前方への支援と、二体のキュウキによってほぼ壊滅。更にフレイム・グレート・グリズリーが出現して、最前へ向かうと言う知らせが入っていた。

「レイモンドからの魔導騎士達と共に最前へ向かいます」

 マーティンの言葉に国王グレアムは「行ってくれるか」と言った。

 マーティンはすぐに隊を整え、まずは神殿の前まで、次に第二隊の所まで転移をして、壊滅的だと報告のあった第一隊の後方部隊が居たあたりに転移をした。ここからは転移途端魔物と鉢合わせをする可能性があるので、最前までは徒歩で進むことになる。

 アルフレッドには何度か書簡を送っているのだか、返事は無い。
 エディと合流したというダニエルからは始点の方に向かって森の中を移動している事と、モーリスと繋がっている道にある扉を修復して閉じたいと考えているようだと返事が来た。
 とんでもない事を考えているなと思いつつ、マーティンは第一隊に合流しようとしている事と、始点にフレイム・グレート・グリズリーが現れている可能性があるので、注意をしてほしいと返し、カルロスにも現状を送った。
 さて、あのどこまでも規格外の元侯爵はどう動くだろうか。

 索敵のスキルは無いが、薄く魔力を伸ばして、返る魔力を確かめながら、マーティンは、先発隊として10名足らずの者達と短い転移を繰り返していた。多少の危険はあるが、それでも徒歩で進むよりは早い。
 とにかく急がなくてはと気が急いた。早く、早く、友人の顔が見たい。

 次に転移をすると前方から激しく戦っている音がした。ここからは十分注意をして、進まなければ。そう思って息を吐いた途端。

「大穴を開けてくれ、そいつが沈むほどの!」
「!」

 聞こえてきた声にマーティンは思わず走り出していた。そして見えてきた光景にゆっくりと足を止めて、見入った。
 アルフレッドは、奈落の底のような大穴に落とされた真っ赤に燃える魔熊に向かって、その頭上から滝のような水を降らしていた。

「グワァァァァァァァァ!!」

 濛々と上がる水蒸気。だがそれをも押さえ込むような勢いで水が落とされていき、周りの騎士達も負けずに氷の槍をその滝つぼにいる筈の魔熊に叩きつけていた。

「……カルロス様の伝説か。アルフレッド、混ぜてくれ」
「マーティ!?」

 振り向いた顔はいつもの友人の顔だった。

「やるぞ!」
「ああ」

 ニヤリと笑うと、口の端を上げた笑みと一緒に短い返事が返って来る。
 穴の中から上がる水蒸気、響く咆哮。怒りのままに噴きあがる炎。

「ガァァァァァァァァッ!!!」

 威嚇の声と同時に水の中の身体にアルフレッドとマーティンは容赦なく雷を叩きこんだ。

「グ、ギャァァァァァッッ!」

 地面が揺れる。穴の崩壊を防ぐために土魔法を持つ者達が地面を強化していた。
 水の中でも炎を纏っていた体から黒い煙があがり、パチパチと小さな稲妻が跳ねているのが見えた。
 開いたままの口。開いたままの瞳、大きく伸ばされたままの太い腕は、けれどもう赤くはなかった。

「い、やったぁぁぁぁぁぁ!!!」

 その場にいた騎士達から歓声が上がった。
 まだスタンピードが収束したわけではない。だが、大きな魔熊の出現に他の魔物たちはこの場から逃げ出すようにしてどこかに散っていってしまって、これで終わったというような気持ちになった。
 
「よし、これであの時の借りは返した」

 黒く煤けたような顔にはいくつもの擦り傷がついていた。

「……案外執念深いよね」

 そう言うとアルフレッドはひょいと肩を竦めて、魔熊の亡骸をマジックボックスに回収する。穴はすぐに土魔法を使える者が直していた。その後方で、まるでタイミングを計っていたかのように始点から小型や中型の魔物たちが飛び出してきた。それをマーティンと一緒にやってきていたレイモンド隊が即座に討ち取り始める。

「何とでも言ってくれ、とにかく、口惜しかったんだ。あんなにも無力な自分を感じた事はなかった。だから、強く、強くなろうと誓った。……ああ、今日は最高の日だ」
「最高の日、ね」
「フレイム・グレート・グリズリーを二体討ったんだ、最高だろう」
「ああ、もう一体居たのか。挨拶をしていなければ間に合ったのに残念。じゃあ、まぁ後は小物たちで我慢するか」

 マーティンがそう言っていると残りのレイモンド隊も到着をした。

「怪我をしている者、魔力が不足してきている者は一旦後ろに下がってポーションを取ってほしい。しばらくはレイモンドがこの場を抑える」

 その言葉に第一隊の面々はどこかホッとしたような顔をした。

「ところでダニーがエディの方に合流した。どうやらこちらに向かっているらしいよ」
「! エディが?」
「うん。さすがカルロス様の孫というか。あそこの扉を修復して、閉めようと思っているらしい」

 マーティンが指さしたのはスタンピードの始点の穴だった。あの奥に空間の歪みがあって、遥かモーリスのダンジョンに繋がっている。

「すごいね、君の未来の奥さんは」
「! マ……!」
「ふふふ、あとで、詳しく聞かせてもらおうかな、熊とは別の最高の日の話をね。ああ勿論婚約式にも結婚式にも呼んでくれ。特大の花火を上げてやろう」

 そう言って、ニッコリと笑うとマーティンはのそりと出てきたアウルベアに「また熊か」と言いながら手の平に魔力を集めた。


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あちこちでつつかれてる兄様とエディwww
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