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第9章 幸せになります
336. ブルーベルとワイルドベリー
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あの日、ワイルドストロベリーを摘みながら歩いた道を、僕たちはゆっくりと進んでいた。
森の中の道は僕の記憶の中だともう少し自然に近いような遊歩道だった気がするんだけど、今は馬に乗ったままでも通れるようにきちんと整備されている。
あの王城のスタンピードの森を見たせいか、何となく森というよりは少し大きい公園みたいだ。
「気持ちがいい。王都だとこういうところは中々ありませんからね。あ、でも昔父様がお城の中にタヌキとキツネとイタチが出たって言っていました。あの森の中に住んでいたのでしょうか。でもあの森からお城の中に入るのは結構大変ですよね。何か道があったのかなぁ。今回その道が魔物達に見つからなくて良かったですね」
僕がそう言うと兄様はなぜか笑うのを我慢しているような顔をして「そうだね」って言った。
「森とはまた違うけど、北の街の外れの方に王立の植物園もあるんだよ。今度行ってみようか?」
「はい! ぜひ!」
その植物園には珍しい植物が沢山集められているんだって兄様が教えてくれた。一年に一日だけ、夜に咲く花もあるんだって。見てみたいなぁ。
「あ、ワイルドストロベリーだ」
「ああ、本当だ。でもまだ小さいかな」
日当たりのよい開けた場所に見知ったそれが見えて、僕たちはそちらに向かった。
「そうですね。まだ小さいですね。でも可愛い。ふふ、すごいですね。フレイム・グレート・グリズリーがあの炎で焼き尽くしたような所もあった筈なのに、こんな風にちゃんと同じ植物が生えてくるんですね。すごいなぁ」
それからあの日には行かなかった、もう少し奥の方まで進んだ。こっちの方は始めの方よりも背の高い木が多いような感じだ。その木々の間に小さな花が色々咲いていた。紫色、白、淡いピンク……そして。
「あ、こっちの方にもあったんですね」
木立の中に見えたのは釣鐘のような青い花だった。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫です。ブルーベル。妖精の住む花ですね」
そう。あの花を見ていたらフレイム・グレート・グリズリーが出てきたんだ。それでも身体が震える事はなかった。あの真っ赤に燃える魔物はもういない。
「『変わらぬ心』っていうんだよ」
「え?」
隣にいた兄様がそっと口を開いた。
「以前花言葉を気にしていた時期があったよね」
あ、そう言えば。最近は花とかあまり送ったりしないから気にしていなかったけど。
「『変わらぬ心』ですか?」
「そう」
そう言われて僕は改めて小さな釣鐘型の花を見た。
「ふふふ、そうなんですね。妖精が住んでいるとか、釣鐘みたいだとかそういう事ばかりを覚えていたけれど、そんな意味のある花だったんだ。少し摘んでいって、押し花にしようかな」
「エディ?」
「前みたいに栞にしたら、使ってもらえますか?」
兄様は少しだけびっくりしたような顔をして、それからすごく嬉しそうに笑った。
「勿論」
ちょっと恥ずかしかったけれど、せっかく教えてもらったんだもの、今日ここに来た記念にしたいよね。
木立の中に入っていくとすぐにマリーとルーカスが後をついてきた。まるであの日と同じだ。だけどここにはあの赤く燃える魔物はいない。青い妖精の花の上にキラキラとした木漏れ日が躍っているだけだ。
「ふふふ、摘んできました」
摘みたてのブルーベルの花を見せてから、僕はそっとマジックバックの中にしまった。それを見て兄様がポツリと呟いた。
「早く十の月になったらいいのに……」
「兄様? わぁ!」
言葉と同時に腕の中に囲い込まれて、僕は思わず声を上げてしまった。
「え、えっと、あの、えっと……」
どうしよう。こういう時ってどうしたらいいんだろう? だって、マリーも、ルーカスも、ジョシュアも、兄様も護衛の人だっているのに! はず、恥ずかしいよ。
「ワ、ワイルドストロベリーはまだ早いみたいです!」
「エディ?」
「えっと、だから、その、また今度、摘みにきませんか?」
「…………そうだね、また来よう。紅茶に入れて、ジャムも作れる位摘まないとね?」
それはあの日、僕が兄様に言った言葉だ。
「はい。沢山摘みましょう。マルベリーも!」
嬉しくなって笑ったら、掠める様に口づけられた。
「っ……!」
そうして、熟したワイルドストロベリーみたいに真っ赤になった僕に、兄様は「約束だよ」って笑った。
----------
兄様……(;・∀・)
森の中の道は僕の記憶の中だともう少し自然に近いような遊歩道だった気がするんだけど、今は馬に乗ったままでも通れるようにきちんと整備されている。
あの王城のスタンピードの森を見たせいか、何となく森というよりは少し大きい公園みたいだ。
「気持ちがいい。王都だとこういうところは中々ありませんからね。あ、でも昔父様がお城の中にタヌキとキツネとイタチが出たって言っていました。あの森の中に住んでいたのでしょうか。でもあの森からお城の中に入るのは結構大変ですよね。何か道があったのかなぁ。今回その道が魔物達に見つからなくて良かったですね」
僕がそう言うと兄様はなぜか笑うのを我慢しているような顔をして「そうだね」って言った。
「森とはまた違うけど、北の街の外れの方に王立の植物園もあるんだよ。今度行ってみようか?」
「はい! ぜひ!」
その植物園には珍しい植物が沢山集められているんだって兄様が教えてくれた。一年に一日だけ、夜に咲く花もあるんだって。見てみたいなぁ。
「あ、ワイルドストロベリーだ」
「ああ、本当だ。でもまだ小さいかな」
日当たりのよい開けた場所に見知ったそれが見えて、僕たちはそちらに向かった。
「そうですね。まだ小さいですね。でも可愛い。ふふ、すごいですね。フレイム・グレート・グリズリーがあの炎で焼き尽くしたような所もあった筈なのに、こんな風にちゃんと同じ植物が生えてくるんですね。すごいなぁ」
それからあの日には行かなかった、もう少し奥の方まで進んだ。こっちの方は始めの方よりも背の高い木が多いような感じだ。その木々の間に小さな花が色々咲いていた。紫色、白、淡いピンク……そして。
「あ、こっちの方にもあったんですね」
木立の中に見えたのは釣鐘のような青い花だった。
「大丈夫?」
「はい。大丈夫です。ブルーベル。妖精の住む花ですね」
そう。あの花を見ていたらフレイム・グレート・グリズリーが出てきたんだ。それでも身体が震える事はなかった。あの真っ赤に燃える魔物はもういない。
「『変わらぬ心』っていうんだよ」
「え?」
隣にいた兄様がそっと口を開いた。
「以前花言葉を気にしていた時期があったよね」
あ、そう言えば。最近は花とかあまり送ったりしないから気にしていなかったけど。
「『変わらぬ心』ですか?」
「そう」
そう言われて僕は改めて小さな釣鐘型の花を見た。
「ふふふ、そうなんですね。妖精が住んでいるとか、釣鐘みたいだとかそういう事ばかりを覚えていたけれど、そんな意味のある花だったんだ。少し摘んでいって、押し花にしようかな」
「エディ?」
「前みたいに栞にしたら、使ってもらえますか?」
兄様は少しだけびっくりしたような顔をして、それからすごく嬉しそうに笑った。
「勿論」
ちょっと恥ずかしかったけれど、せっかく教えてもらったんだもの、今日ここに来た記念にしたいよね。
木立の中に入っていくとすぐにマリーとルーカスが後をついてきた。まるであの日と同じだ。だけどここにはあの赤く燃える魔物はいない。青い妖精の花の上にキラキラとした木漏れ日が躍っているだけだ。
「ふふふ、摘んできました」
摘みたてのブルーベルの花を見せてから、僕はそっとマジックバックの中にしまった。それを見て兄様がポツリと呟いた。
「早く十の月になったらいいのに……」
「兄様? わぁ!」
言葉と同時に腕の中に囲い込まれて、僕は思わず声を上げてしまった。
「え、えっと、あの、えっと……」
どうしよう。こういう時ってどうしたらいいんだろう? だって、マリーも、ルーカスも、ジョシュアも、兄様も護衛の人だっているのに! はず、恥ずかしいよ。
「ワ、ワイルドストロベリーはまだ早いみたいです!」
「エディ?」
「えっと、だから、その、また今度、摘みにきませんか?」
「…………そうだね、また来よう。紅茶に入れて、ジャムも作れる位摘まないとね?」
それはあの日、僕が兄様に言った言葉だ。
「はい。沢山摘みましょう。マルベリーも!」
嬉しくなって笑ったら、掠める様に口づけられた。
「っ……!」
そうして、熟したワイルドストロベリーみたいに真っ赤になった僕に、兄様は「約束だよ」って笑った。
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兄様……(;・∀・)
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