悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

tamura-k

文字の大きさ
213 / 303
第9章   幸せになります

374. 年の終わりの密談

しおりを挟む
 兄様がお手伝いをした冬祭りは無事に終わった。
 残念ながら僕は冬のお休みはグリーンベリーに行きっぱなしになってしまった。細々とした事がやっぱり回らないような感じで人員をもう少し増やす事になったんだ。だけどそれは誰でもいいわけではないから、それならいっそ平民から引き抜いてみるのはどうだろうって話になった。
 この国の識字率はそれほど悪くはない。一応最低限の読み書きが出来るように平民が通う学校も領ごとにきちんと建てられているし、貴族は学園に入る12歳までに基本的な教育を家庭教師によって学ぶ。けれど平民はそれが難しいので、平民が通う学校は魔法鑑定のある6歳から12歳までとなり、成績優秀な者はその上の学校に通える事になっている。もっともそれは領によって差異がある。ルフェリットは奴隷制度はないので、そこまでひどい状況はないけれど、それでも教育の機会が奪われている事もあるみたい。

 僕のグリーンベリーは元々がハワード先生の領なので、その辺りの教育はしっかりとしていた。
 なのでいきなり役職というわけにはいかないけれど、まずは見習いのような所から領の官吏への道を開いてみようかって話になったんだ。勿論難色を示す人はいたけれど、今年は王国内に大きな移動があったから優秀な人材はどこでも引っ張りだこなんだよね。それならば自領で発掘して育てるという方が、今後へ繋がっていくんじゃないかって。
 それを聞いたジョシュアやルーカス、そしてクラウス君達は騎士団の方もやってみたいって言ってきた。平民からの騎士。うん。だって元冒険者だって養成所に入って騎士になれるんだもの。自領の平民でやる気がある人がいるなら挑戦をしてほしいよね。

 領の官吏も騎士も、どちらも誰も来なかったら来なかったでまた考え直さなければならないけれど、とりあえず新しい領主が何か新しい事を始めたっていう感じでやってみる事になった。
 だってさ、紹介された有力者の子が、自領の大きな街の名前を覚えていないとか、どの地域でどんな産業が盛んなのかとか、何も分かっていないのは困るでしょう? それが困るって分からない事自体がすでに困るんだよ。 

 僕はハワード先生から受け取ったこの領をただこのまま引き継いでいくだけにはしたくないんだ。伸ばしていけるもの。今後を考えて新しい事を考えていかなければならないもの。その他にやってみたいと思うものや実現が可能なのか検証していくものを見極めて行かないといけない。
 それは勿論簡単には出来ないし、すぐに実のなるものでないかもしれないけれど、価値があって、可能性があるならば拾い上げていくべきだって思っている。
 色々な考え方は必要だけれど、ただ闇雲に否定をするだけの人は必要ない。価値観は多様であっていいんだ。だけど出てくる芽を摘むのはダメ。その違いが分かる人でないとこれからの事を考えるのは難しいなって思う。ハワード先生がよく言っていた『柔らかい頭』って本当に大事だなって思うよ。

 兄様にそう言ったら「エディはさすが賢者の教え子だね。素敵な領主になると思うよ」って褒められた。褒められるのは照れるけれどやっぱり嬉しい。そうミッチェル君に言ったら「うん。ごちそうさま」って言われたよ。
 ミッチェル君てば、ごちそうさまは食事の後に言う言葉なのに。


-*-*-*-


 新領の慌ただしい年の瀬を迎えようとしているグリーンベリーとは異なり、フィンレーではデイヴィットの書斎でひそやかな話が行われていた。

「来年から少しずつと思っていたんだが、本当にいいのかい?」

 その言葉に向かいのソファに腰かけていたアルフレッドは「はい」と短く返事をした。それにハァとデイヴィットは溜息をつく。

「本来であれば、高等部に入った頃にはそう言った事も一応は教えられるものなんだが……」
「はい。ですが、先日の婚約式の時もあのような状況でしたし、私としてもこれはもう、少しずつ慣れて行って貰うというか、直接的な事を誰かから教えられて変に身構えられたりするのはこちらとしても辛いものがありますし、教えられた事を頑張って勉強をするなどと言われたりするのも予想が出来るというか、やめてほしいというか。ですのでエディへの閨教育はなしという事でお願いいたします。ああ勿論、房中術もお断りいたします」

 そう言って頭を下げた長男にデイヴィットは「まぁ、その方がいいかもしれないね」としか言いようがなかった。

 エドワードは昔から頭の良い子供だった。だが、その手の事に関してはまるで無関心……というか、無邪気というか、照れたりする事はあっても、それを意識するような事はなかった。けれどそうであっても年頃になってくればどこかから自然にそういった話は伝わると思うのだが、どうもそのまま今に至っているようだった。

「加護の事もあって友人選びも慎重にしたしね。おそらくそう言った話題自体がタブーのようになっているのかもしれないね」
「そうですね」

 確かにデイヴィットにしてもアルフレッドにしても、自覚はあるのだ。だが、しかし…… 

「………………さすがに精通はしているのだろうね」

 思わず声を潜めてしまった父にアルフレッドは眉を寄せて「存じません」とだけ答えた。

「そう……そうだね。うん。大事にしてきた自覚はあるが、まさかこんな話をする日がくるなんて思ってもみなかったよ。まぁ、結婚式はなるべく早めに……とは言っても学園に在学しているうちにというのも、そういった事がない訳では無いが、やはり卒業後の方がいいだろう。一の月の間には行えるように聖神殿の方と日程を調整しているよ。神殿も新年の色々があるからね。とにかく……その辺りの事はアルフレッドに任せるようにしよう。後はなるようになるしかない」
「はい。出来る限り少しずつ、意識をしていってほしいとは思っていますが、意識され過ぎるととんでもない事になると思いますので、気を付けていきます」
「ああ……そうだね」

 デイビットはこめかみを押えるようにしてもう一度ハァとため息をついた。

「ところで、話は変わるが、グリーンベリーで少し領主を軽んじるような派閥があるようだね」
「ええ、ですがフィンレーが後ろ盾で、元領主の覚えも良い為、今の所表立った動きはないようです。ですが、何かと新しい領主様はお若いとか、まだよく領の事をお分かりではないというような事を口にする者もいるようですのであまりうるさいようでしたら……」
「ああ、そうだね。ハワードの後ならそういった者はいないかと思っていたが、蓋が外れると湧き出て来る者はどこにでもいるという事だね」
「はい。ですが、エディ自身がかなりはっきりと言っているので、そこで何かを仕掛けてくるような事があればこちらから手を回します」
「ああ、分かった。エドワードがきちんと言っているのであれば問題はないよ。その辺りはテオも送り込んだ者達も、そして友人として入っている者達も分かっている筈だ。勿論話を聞く事は必要だが、最初が肝心という事もあるからね。見極めは必要だ、早めにね」

 公爵家の当主の顔でデイヴィットはそう言った。先ほどとは打って変わったようなその表情にアルフレッドは胸の中で小さく笑ってしまった。

「うん? どうした?」
「いえ。父上の「父として顔」と「領主としての顔」の違いを、私も身につけて行かなければならないなと改めて思っていました」
「…………まぁ、仕方がない事だよ。大事な者を、そして領民を守っていく為には色々な顔が必要になる事もある」
「はい」

 父と息子は向かい合ったまま笑いを漏らした。
 あと数日で新しい一年が始まる。

「少し飲まないかい?」
「ご相伴させていただきます」

 遮音の魔法が解かれて、テオの後を継いだ執事がドアをそっと開けた。


------------

wwwwwwwwww



 
 
しおりを挟む
感想 945

あなたにおすすめの小説

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。