悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

tamura-k

文字の大きさ
220 / 303
第9章   幸せになります

381. それぞれの幸せ

しおりを挟む
「わぁ、フィンレーの温室と同じくらい薬草やらお花やら果物やらすごいね!」

 新しい温室に入ってルシルは楽しそうにそう言った。

「そういえば、温室に植えてあったあの木、こっちに持ってきて植えたんだね」
「うん。気が付いた?」
「気づくよ。リュミエールにもある祈りの木だもん。本当に綺麗な木だよね。もう恐ろしい事が起こらないようにって自然に祈るよ。リュミエールのあの場所は祈りの場として定着をしてきている」
「うん。それがいいと思う。グリーンベリーは直接『首』が眠っている所ではないからね。代々の当主が祈りを捧げて行けばいいと思うんだ」
「それぞれの所で、それぞれ合った形でいいよね」
「うん。あ、ここなんだ」

 僕はそう言って一番奥の温室の扉を開けた。

「え……これは……麦? あれ? え……まさか」
「うん。半分は元ハーヴィンから運んできた魔素の砂漠の砂。そしてもう半分がシェルバーネの魔素の砂漠の砂で育てているんだ」

 ルシルの瞳が大きく見開いた。

「本当はね、砂漠化した砂を加護の力で土に戻してしまうのが早いんだ。だけど砂漠化した所全てをそんな事したら、僕自身がどうなってしまうか分からないし、一度やってしまえば力があるならそうしなければならないって、その為の力だろうって思う人が必ず現れると思うからそれは出来ない。それに魔素が変化をすると何も育てる事が出来ない土地になってしまうっていう事実も残っていた方がいい。そう思ったんだよ」
「うん。うん、そうだね」

 何度も頷きながら、ルシルの瞳はもう涙が浮かんでいる。

「砂漠化して使えなくなった所の一角を領主の直営地として実験をしてみない? 温室の中では育つ事が出来ても、外ではダメかもしれない。育っても、もしかしたら一度で枯れてしまうかもしれない。でもそれでもこれが希望になってくれたらいいなって思うんだ」
「エディ……」
「うん。シェルバーネにいる叔父様がね、砂漠で風になびく麦の穂が見てみたいって言ったんだ。僕もそれを見られたらいいなって思った。うまくは言えないんだけど、ルシルはルシルの力をルシルが使いたいと思う時に使えばいいし、僕は僕の力を僕が使いたいと思う時に使う事が出来たらいいと思っている。力って本来はそういうものなのかなって思うから。やらなければいけないっていうのは自分にとっても何か違うなって思うから。僕がやらなかったらって駄目だって思うのは、なんだかちょっと偉そうでしょう?」

 そう言って笑うとルシルは涙の滲んでいた瞳のままクシャリと笑った。

「エディらしい。ふふふ、ありがとう。そうだね。エディはずっと変わらずに言ってきたものね。自分が出来る事を出来る範囲内でって。エディの気持ち、受け取らせてもらってもいいかな」
「うん。実はもう2回くらい収穫をしているんだ。特に変わった事はなかったよ。砂の中にこの刈り込んだ麦を混ぜた作ったたい肥を入れてみたり色々している。何度かそうして繰り返すうちに、土壌自体が変化をしてくれたらいいなって思っているんだ砂に根を張って実をつけてくれるように品種を改良しているけれど、それだけではなくて、元からね変わっていってくれたらもっといいかなって。魔素から生まれてしまった砂で、何をしても植物が育たないと言われていても、こうして芽吹いて、穂をつけてくれると愛おしいよね」
「うん。頑張ってみるよ。ありがとうエディ。また植えてから分からない事があったら相談に乗ってくれる?」
「勿論」

 ルシルは「場所を決めたら知らせるね」と言った。
 僕は「分かった」って返事をした。

 帰り際に僕はルシルにお土産の白いイチゴを渡した。そして。

「ねぇ、ルシル。駄目って決めたら駄目なんだよ。きっと」
「…………」
「大丈夫だよ。信じる事も、好きだっていう気持ちも、自分にとってすごく大きな力になるから。だから自分を信じてあげてね」
「……ありがとう」
「品種改良した白いイチゴ、食べてね。今度は量産に向けて改良をしていくつもりなんだ」
「楽しみだね」
「うん。また遊びに来てね」
「うん。エディもね」

 そうしてルシルは転送陣の中に消えた。

「兄様」
「なんだい?」
「僕、お節介でしたでしょうか」
「いや、いいんじゃないかな。決めるのは自分たちだから」

 兄様はそう言って僕の隣に並んだ。

「そうですよね。ルシルにも幸せになってほしいな」
「ふふふ、そうだね。さて、ところでエディ。次の週末はフィンレーにきてほしいって母様から呼び出しが入ったよ」
「え? もしかして……」

 僕は兄様の顔を見た。空色の瞳が楽しそうに笑っている。

「結婚式の衣装の相談だって。頑張ろうね」

 言葉と一緒に頬っぺたに落とされた口づけ。

「は、はい! 頑張ります!」

 顔は赤くなったけど何だかすごく嬉しくて、僕は答えながらギュッて兄様の腕にしがみついた。


---------

しおりを挟む
感想 945

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。