悪役令嬢の心変わり

アストルム騎士団創立編

第28話 悪役令嬢 冷酷になる

意外そうにこちらを見上げるヒナをひょ言っと横抱きに抱き上げると思った以上の軽さに衝撃を受けた。

「君、ご飯は？食べてないのかい？」

「食べて、、、ます。」

つまり酷い食事内容ということか。
それに風呂にも入れてないのか。

まったく公爵家だと言うのに考えが至らない人間ばかりいて困るよ。

「メアリー、マーサ。私のバスルームにお湯を張ってくれ。」

私はそのまま自室へと向かいながら2人に指示を出す。

部屋に着きゆっくりと椅子に座らせてやるとメアリーとマーサに「あとは頼む」と残して部屋を後にした。
玄関にはロランが呼んできた騎士見習いたちが整列して待っていた。

「キース、済まないな。領地の件で忙しいと言うのに。」

「何をおっしゃいます。いずれあなた様がお作りになられる騎士団の騎士として従うのは当然のこと。」

空色の髪をしたこの少年は私と同い年の侯爵家、嫡男。

キース・ド・アルヴェーヌ

水の魔法属性を持ち諜報に長けている家系でもある。
彼自身も諜報活動に長けていて領地の情報は全て彼から入っている。

「早速騎士らしい仕事をしようと思ってな。」

「ノア含め闇属性騎士見習いは呼ばなくとも良いとの事でしたが宜しかったでしょうか？」

「いいよ、彼らは潜入捜査中・・・・・だ。それに、すぐ終わるだろうしね。」

あぁ、こういうことなら騎士服を着ておくんだった。

「ロラン、騎士服に着替える用意しろ。キース、その間に捕らえてあるメイドに尋問をしてこの件に関与している使用人を捕らえろ。」

「承知しました。」



数十分後 私は着替え終わると再び東館のレーナ殿の部屋へと向かう。

報告で受けた部屋は使用人が使うような狭い一室だった。そんな部屋の前に騎士と使用人がぞろぞろと狭いに決まっている。

捉えられた使用人は私の登場に困惑していた。だがまだ恐怖の色は見れない。

舐めている証拠だ。

「狭いな。場所を変えよう。全員外に出ろ。」

訓練場に使用人を出すと外に待たせていた馬に乗った騎士見習いが1列にずらりと並ぶ。

緊張感を出すためだ。

「さて、、、なぜ私たちに捕らえられたか。わかるものはいるか？」

「お、お嬢様！誤解でございます！レーナ殿には相応の対応を！」

「殿？相応の対応？」

声を上げる使用人に睨みを利かせながら怒気を含ませた低い声で言葉を繰り返す。

「いつから貴様は公爵家の人間と同じくらい偉くなったのだ？」

「っ！い、いえ！そういうつもりでは！」

「レーナ殿は公爵家当主 ガエル・クロウリーの側室であり、公爵夫人と呼ばれる立場にある。あのような部屋に閉じ込め使用人の真似事をさせていい方では無い。」

「で、、ですが！」

「そのレーナ殿の娘ヒナは私の妹にあたる人間だ。つまり私と同じ公爵令嬢だ。」

「奥様に言いつけられて！」

「奥様のご命令です！」

口々に母上のせいだと言い出す使用人たちに冷ややかな目を向けているとただ1人、ヒルダだけは納得していないような表情で見上げていた。

「恐れながらお嬢様、レーナ様もヒナ様も公爵家に相応しくない生まれでございます。貴族の血縁とはいえ公爵家の血を引いている訳では無いのですっ！それを、その者たちのためにこのような騒ぎ！お嬢様は騎士見習いの方々と騎士団の真似事をしたいだけです！ですがお遊びが過ぎましてございます！このようなこと奥様がお許しになるわけがございません！お嬢様は大人しく聖女候補としての教育を受けて淑女として！」

長々と喋り続けるこの女。

昔から嫌いだった。

そのよく回る舌を切り落としたくなってきた。

私はヒルダの面前に剣を勢いよく突き刺すと彼女を黙らせた。

「この際だから言っておこう。私は聖女候補の選抜に参加する気は毛頭ない。私はヒナに聖女候補選抜に参加してもらおうと考えているのだからな。」

「そんなこと、、、、奥様がお許しになるわけが！」

「黙れ。いつ私に口答えをして良いと許可した。」

あぁ、ヒルダの声は本当に煩わしい。

イライラがどんどん溜まるばかりだ。

人を見下し、馬鹿にし、その程度の人間だと勝手に見定める。

なんと浅い考えなのか。

私の魔力が増大するのを感じる。

私の周りに影が帯び、空気を震わせていく。

使用人どころか騎士見習いたちもどんどん顔を青ざめていくのがわかる。

「貴様たちが先程から母上のことばかりを口にするが、レーナ殿とヒナに は公爵家の人間として相応しく振る舞うように父上から仰せつかっている。貴様たちは公爵家の人間がこのような身なり、扱いで良いと言うんだな？この私も同じ扱いで良いと。」

「と、、、とんでもあり、、ません。」

「貴様たちが真に使えるべきは当主である父上だ。その父上に従わないということがどういうことか。わかるな？」

「どうか！どうか慈悲を！」

「こ、心の底では間違っているとわかっておりました！」

「ふざけるな、貴様たちを母上の使用人として働かせていたのは私の傍に起きたくないからだ。」


「ロラン、新しい使用人の準備は出来てるな？」

「はい、お嬢様の申し付け通り街から使用人経験のない者を準備させました。」

「聞いての通り、レーナ殿とヒナの住む東館には新しい使用人を置くとする。貴族の事情など知らぬ、偏見を持たぬ者に世話をさせる。よって、貴様たちは不要だ。直ちに使用人部屋を空けよ。」





𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭🌃