悪役令嬢の心変わり

ナナスケ

文字の大きさ
107 / 127
王宮内暗殺事件編

第81話 第十三師団と王国騎士団

しおりを挟む
王都に入るとノアたちはたちまち注目の的となった。
どうやらカリムが襲撃されたことは国民の耳にも入っているらしい。
この事件の裏にセーレム公告敵対派の貴族がいるのは明白なこと。

王宮にあるアヤ側妃とカリムが住む別宮に到着すると案の定王国騎士団が待ち構えていた。
先頭にはいつかのバッカス副団長がしかめっ面で馬に乗ってこちらを睨みつけている。
ノアは裏腹にいつものにやけ顔で近づいて行く。

「何用でここに来た、ノア・モンフォーヌ。」

「どうやらカリム殿下並びにアヤ側妃の周りが不穏であると風の噂で聞きましてね。調べてみたら襲撃に遭われたというではありませんか。」

「おふたりのお命はお守りした。問題は無い。」

「その暗殺者に騎士団の者が何名か殺されたというではありませんか。それのどこが問題ないのです?」

ノアの言葉に苦虫を噛み潰したように表情を歪めるバッカス。
他の王国騎士団もざわつき始めた。

「王族のために血を流し命を落とすことになんの躊躇いがあると言うのだ。名誉な死を侮辱する気か!」

叫ぶバッカスにノアは闇の魔法を纏わせながら首を傾げると低い声で突き刺さるような言葉を言い放つ。

「王族や国民を守らなければならない俺たちが一番死んではならないのだと何故わからない?命懸けは死ぬことでは無いぞ?生きることだ。貴様たちの団長は王族のために死ねなんていうのか?」

なにも言い返せずにいる王国騎士団の横を通り過ぎようとするがバッカスが食い下がる。

「おい!話は終わっていない!そもそもお前たちアストルム騎士団のトップは学園にいるはずだ!騎士団の活動も禁じられているだろう!」

「残りのアストルム騎士団員を統率する権限はマスターからこの俺が預かっている。そんなことで王国騎士団がとやかく口を挟む権利など無いはずですよ?それに、昔に比べて王国騎士団は随分とだらしなくなったようで……」

じろりと王国騎士団を睨みつけるノアに皆が気まずそうに視線を逸らしていく。

今王国で蔓延している麻薬の取り引き。
つい最近も王国の貴族が秘密裏に違法取引している事が判明し厳粛に取りしまわれたばかりだった。
その貴族のひとりに王国騎士団の者がいた。

「未成年の騎士が集まってなんの役に立つというのだ。」

「あなた方よりは役に立つと思いますが?」

「なんだと?!」

今にも掴みかかりそうなバッカスの荒らげた声を女性の声が遮った。


「そこまでだ。」

凛とした佇まいに誠凛な声、そして王国を象徴する赤色の豪華なドレスを着た女性が眉をひそめてその場を鎮めた。

「王妃陛下……」

直ちにその場にいた全員が膝をつき頭を垂れた。

「バッカス副団長、そなたの上官には撤退するように命じたはずだが命令が届いていないのか?」

「しかし!」

「そなたら王国騎士団には本宮に戻り警護に戻れと申したのだ。側妃と王子の警護はアストルム騎士団に命じた、わかったらすぐに下がれ。」

「か、かしこまりました。」

なんとも言えない表情でバッカスは騎士団を連れてその場を去っていく。
ノアはその時兄のフォンとすれ違いざまに視線を交し口元をニヤリとさせていた。

「王妃陛下、アストルム騎士団第十三師団ただいま参上仕りました。」

「よく来たな、そなたらの上官から手紙を受け取った時は目を疑ったが我が息子の命を一度守っている。疑いの余地はなかろうと考えたのだ、その期待を裏切るでないぞ?」

その姿はブランディーヌ王女と似ているものの威厳のある顔つきはまさに女王に相応しいものだった。

「はっ!お任せ下さい。」

クレアローズ王妃、ベルファ・アルベルト・ブランディーヌの母親であり国の母たる唯一の存在。
寛容にもアヤ皇女を側妃として迎え入れた女性。
その後も荒波を立てることなく静かに王宮にて王子たちを育て国を導いた聡明さにダリアは買っていた。

「王妃殿下、お手を煩わせてしまい申し訳ございません。」

「かまわぬ、よもや誇り高き騎士があのようにだらしないとは情けなくて声も出ぬわ。アヤ側妃には話をしてある。」

「しかし、妃殿下をあのような者たちに守らせるなど些か不安を感じますが。」

「これこれ、刺々しい物言いをするでない。こちらは王国騎士団に任せよう、同じようなヘマをするほどあの団長は愚かでは無いはずだからな。」

「かしこまりました、王宮まで使い魔に護衛させましょう。」

「なるほど、全くアストルム騎士団はいちいち有能さを見せつけてくれる。頼りになる娘を持ったな、は。」

「お褒めの言葉光栄でございます。」


頭を下げ王妃を見送ると別宮にいるアヤ側妃のもとへと向かった。



𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹🌌
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang
恋愛
皇女シエラ・ヒペリュアンと皇太子ジェレミア・ヒペリュアンは血が繋がっていない。 シエラは前皇后の不貞によって出来た庶子であったが皇族の醜聞を隠すためにその事実は伏せられた。 元々身体が弱かった前皇后は、名目上の療養中に亡くなる。 現皇后と皇帝の間に生まれたのがジェレミアであった。 "容姿しか取り柄の無い頭の悪い皇女"だと言われ、皇后からは邪険にされる。 皇帝である父に頼んで婚約者となった初恋のリヒト・マッケンゼン公爵には相手にもされない日々。 そして日々違和感を感じるデジャブのような感覚…するとある時…… 「私…知っているわ。これが前世というものかしら…、」 突然思い出した自らの未来の展開。 このままではジェレミアに利用され、彼が皇帝となった後、汚れた部分の全ての罪を着せられ処刑される。 「それまでに…家出資金を貯めるのよ!」 全てを思い出したシエラは死亡フラグを回避できるのか!? 「リヒト、婚約を解消しましょう。」         「姉様は僕から逃げられない。」 (お願いだから皆もう放っておいて!)

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...