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第六章 龍と解放と中年冒険者

物売りと中年

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 ギルド周辺は、それなりに賑わっていて、店やホテル、コンビニもある。

 が、治安は悪そうだな。

『よう、身なりも良さそうだし。なぁ、金持ってるか? あるなら少し恵んでくれよ』
 このオッさん、ナイフ片手に言う事か?

『悪いが、今は手加減が出来ないぞ? それな』
“バキッ!”
『……おい』

『さて、ようやく体が動くよ。兄ちゃんありがと』
 賢人がオッさんを蹴り飛ばし、ストレッチしている。

『お兄さんが手加減しないと、死んじゃいますからね?』
 ノセも普通だな。

『さっさと起きろよ。……まぁいいか』
 オッさんを回復して、逃げていくのを見る。

『なんで治安が悪いのかな? 冒険者が多そうなのに』
 賢人が聞いてくるが、

『まぁ、あれだろ?』
 顎で促すと、露店で売られてる装備は、血の付いた物や、片方だけの物。

 多分、冒険者が亡くなるか、弱ってる奴から奪った物だろう。

『うへぇ、やり過ぎじゃないですか?』
 ノセが顔をしかめる、賢人も同じらしい。

『あれが普通だろ。日本も少なからずやってる奴はいる。死人に口無し、生きてりゃ腹も減るし、そうしないと生きていけない人間もいる』

『……んだね。……だから、冒険者に見えない人もいるのか』

 よく見ると子供までいる。
 ……食糧事情はよくないようだな。

『さっさといくぞ、あまり気分は良くないからな』
 二人も頷き、ホテルに向かう。

 チェックインして、四人部屋に三人で泊まる。

「オートロックだし、割と良さそうだね」
 部屋の中では日本語だ。

「大事な物はここに置くなよ? さっき、チェックインした時に書いた紙にあったけど、部屋の中で起きた事は、保証しませんってあったからな」

 ちゃんと読まないと分からない。

 まぁ、用心しろってこったな。

「まぁ、なんて悪質」
 ノセは相変わらずだな。

「そうでもないだろ、さっきと変わらん。……さてと、扉を試すか」

 異次元ハウスの扉を取り出す。


(アンコ? 聞こえるか?)

(はーい、聞こえますよ。どーぞ)

(扉を開けるが、誰もいないよな?)

(問題ないでーす)

 扉を開けると、

『よう! おかえり』

 ナキがいた。


 話を聞くと、ナキはアンコを見張ってたらしく、急いで家に帰るアンコをつけたらしい。

「ごべんなざいぃぃ」

 頭を撫でてやると、俺によじ登ってくるので、抱っこしてやる。

「話は分かったが、ナキ? アンコをいじめるなよ?」

『いや、あ、アンコ、ごめんな? もうしないから許してくれ』
 ナキもアンコには弱いようだな。

「まぁ、泣きやんでるから大丈夫だろ。あとナキはこの事を言わないように!」

『みんなで攻略するんじゃないのか?』
 残念そうだが仕方ない。

「あぁ、今回は攻略しない」

 目が光るナキは、
『って事は、次があんだな。ならいいや』
 
 さっさと帰っていくあたり、サッパリしてるよな。

「アンコもありがとうな?」
「はい!」
 笑顔になってるからよかった。

 扉も問題なし、てか普通に使えるはずだ。
 異次元に繋がってるんだしな、でも念には念を入れとく。

「ちゃんと繋がってるね」

「だな。後は明日だ。気を抜いてケガするなよ?」

「俺よりノセだよ。気が抜けて寝やがった」
 ベッドにうつ伏せで寝ているノセを指差す。

「起こして飯に行こう」
 そろそろ夕飯の時間だ。

「りょ! サーーン年ゴロシ!」
 ドスっ!っと音がしそうなカンチョーだな。

「ぬあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」
 ベッドを転げ回るが、

「賢人、俺は起こしてと言ったんだ。誰が立てなくしろと言った」

「アハハ、ごめんごめん」

「ま、まって! そこじゃない! 僕のお尻が大問題だよ!」
 ノセが喚いてる。

「飯行こうよ」

「そだね」
 二人でノセを引っ張ろうとすると、

「ちーがーう! や、まって! 今お尻が! お尻がぁ!」
 お尻を押さえて、爪先でちょこちょこと歩くノセ。

「ブッ! フッフッ、フハハハハ!」
「ちょっ! 兄ちゃブフッ! フッフハハハハ!」

 ダメだ。

「な、ふざけるな、この鬼兄弟! 笑うなぁー! あ、ダメ! 引っ張らないで! お、おふぅっ!」
 
 あぁ、こりゃダメだ。

 ノセを回復して、ようやく外に。

『あのね? 賢人もお兄さんも悪ノリしたらダメ! 分かった?』
 歩きながらノセが注意するが、

『『ワカリマシター』』
 中国語難しい。

『キィィィー! このヒトデナシ!』
 叫ぶノセ。



 歩いていると、観光と思われたのか、呼び込みが多い。
 言葉を喋れると、現地の関係者と勘違いして、すぐに逃げてしまうが。


『あ、あの、これ、買いませんか?』
 と、まだ小学生くらいの幼い男の子が、辿々しい言葉で何かを売りに来た。

『ん? 何を売ってるんだ?』
 しゃがんで聞くと、

『あ、お兄さんの弱いとこが来たね』

 うっさい、こんな子が売ってたら話くらい聞くだろ。

『あ、こ、これ、似合う』
 差し出してくれるのはストールだ。別段、凝っているわけでもないし、普段使い出来そうだな。

『へぇ、俺は紫か。似合うか?』
 首に巻いて聞くと、

『に、似合う! 耳、一緒。イシシッ!』
 ピアスと揃えてくれたんだな。
 いい笑顔だ。

『あ、いいな! ねぇ、俺は?』
『ぼ、僕も僕も!』

 結局、三枚買って、男の子にもチップを弾む。
 賢人は黒でノセは黄色。

『あ、あ、ありがと』

 チップをギュッと握り締める手はガサガサで、喉の奥が締まる。
 
 着ているものも、ボロのアウターで、綿も潰れているようだし、ジーンズも土で汚れて、破れていないだけマシだろう。

『いい笑顔だ、これ、ありがとうな』
 頭に触れようとすると、ビクッとしたが、撫でると笑ってくれた。

 髪も洗ってないのだろう、茶色の長い髪は、撫でると少し埃が舞う。

『名前なんて言うの? また売りに来てよ』
 賢人がしゃがんで言うと、

『ア、アジャティ』
 
『俺がケント、こっちが兄ちゃんのカズト、で、この豚がノセ』
 賢人がゆっくりした言葉で喋ると、

『ケント、カズト。……ブタ』

『イエス! アジャティは賢いな!』

『ちょーい! ツッコミは苦手! 僕はボケだよ? じゃなくてブタって言った。ノーセ! ブータ違うよ? ノーセ!』

 遊んでると、ちゃんと笑ってるからいいか。
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