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第3章 両親への挨拶
3-2 話の真相
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石造りの二階建て集合住宅は、一階の正面に複数戸分の玄関があり、その一つが私の家になる。
中の階段で上下の階に移動可能なメゾネットタイプだ。
「ねぇ、サムとの結婚の申し込みを受けたって本当!?」
玄関の扉を開き、そのまま中に入って居間にいた親に会うなり、私は叫ぶように大声で質問していた。マルクによって肩を抱き寄せられた格好で。これも彼の考えあっての行動みたいだから、黙認している。本当はすごく恥ずかしいんだけどね!
両親は血相を変えた私を見るなり、目を大きく見開き、それからマルクを見て目を丸くしていた。
「おおおお、落ち着きなさい」
お母さんが一番動揺している。それでもお客さんに中に入るように勧めていた。
我が家の狭い食卓にお父さん対三人で着席する。
私が一番端っこで、真ん中にマルク。その彼の隣に大柄のサムがいる。
お母さんがかまど(暖炉兼用)と食卓を往復してせっせと動き、みんなにお茶を出している。私も手伝おうとしたけど、隣にいるマルクをチラリと見て断られてしまったので、黙って座っている。
弟はまだ帰宅していなかったので、修羅場に巻き込まれずに済んでいる。
「サムが先ほど我が家に来て、ミーナとの結婚の許可を求めてきたのは本当だ」
仕事を終えたお母さんが座ったあと、気まずそうにお父さんが話を切り出すと、サムがそのとおりと言わんばかりにうなずく。
「おじさんは、すぐに良いって言ってくれたんだぜ」
自信満々に答える彼にお父さんはため息をつく。
「違うぞ。正確にはこう言ったんだ。『ああ、いいぞ。ミーナさえ良ければ』とな」
両親の答えに心の底から安堵したのと同時に、私の意志を優先してくれる両親を心からありがたく感じた。
「サム、お父さんにこう言われたら、次は私に求婚するべきじゃなかったの? お父さんは私の意思を尊重するって言ってくれたんだから」
「え? そんなことわざわざ聞かなくても分かっていたし。ミーナは俺のこと、好きだろう?」
そう切り返されて、思わず口籠った。
たしかに記憶を思い出す前の私だったら、結構彼を比較的好ましく思っていたから。
でも、彼に夢中というわけでもなく、他の女の子が話すように恋をしているわけじゃなかったけど。
「お祭りのとき、俺に花をくれたしな。それって、そういうことだろ?」
年に一度、地元で花祭りが開催される。国王の即位記念日を祝うため、色とりどりの花が町中に飾られ、国中から観光客が溢れかえる。
そのとき、男女が意中の相手に花を贈るのも、名物となっていた。
「うん。仕方がないから花をもらってやるよ。俺しかもらってくれる奴はいないだろ。そう言ってサムは私のボロボロな花をもらってくれたよね」
いつも不恰好な花輪しか作れなかったから、そんなものでも貰ってくれる彼を優しいと思っていた。
家族の役立たず。自分自身、そう思っていたから特に。
「でも、サムは他の女の子の花ももらっていたし、一緒に他の子と二人きりで出かけてもいたから、あれって義理で私の花を貰ってくれたんだと思っていた」
「そうだったのか!?」
「そうよ」
「じゃあ、俺の勘違いだったのかー!」
サムは見るからに落ち込んで、オレンジ頭を抱えたまま勢いよくうつむいていた。
「ミーナごめん。俺、すげー恥ずかしい」
「いいよ、私のことは気にしないで。それよりもサムの落ち込み具合が今は心配」
「ミーナは優しいな。それなのに俺はミーナに誤解させるようなことをしていたんだな」
「誤解というか、全然言われるまで特別好かれているって分からなかったよ。ごめん。それに私が魔導士になっても、スミおばさんが言ったように私はサムのお嫁さんには向いてないと思うし」
「そうか……。色々と悪かったな」
彼は私の言葉をきちんと受け止めて、気まずそうだけど反省しているようだった。
私のお断りが彼にも伝わり、ようやく問題は解決したみたいね。
「でも、お前に振られたら、俺は一体誰と結婚すればいいんだ……。俺が気に入った女の子は、みんなお袋がダメって言うし、お袋が決めた相手と結婚するなんてカッコ悪くて最悪だ……。自分の嫁くらい自分で決めたいのに」
「ん?」
サムからさらに問題発言が聞こえた気がした。
「もしかしてサムは、本当は私以外の女の子と結婚したかったの?」
「いや、そういうんじゃなくて、どんな子もお袋がダメって言うんだよ! だから、もう魔導士になるミーナくらいしか残ってなかったんだよ」
そうサムが言った途端、私とサムの間にいたマルクがいきなり立ち上がった。
「黙って聞いていれば、君は彼女をなんだと思っているんですか! 彼女はこの世でたった一人しかいない大事な人なんです! そんないくらでも代わりが利く程度の好意で彼女に近づかないでください!」
すごい怒り方だった。こんなに激情に駆られた彼を見るのは久しぶりな気がする。
私のために真剣に抗議してくれた。その彼の気持ちが、とても嬉しかった。
中の階段で上下の階に移動可能なメゾネットタイプだ。
「ねぇ、サムとの結婚の申し込みを受けたって本当!?」
玄関の扉を開き、そのまま中に入って居間にいた親に会うなり、私は叫ぶように大声で質問していた。マルクによって肩を抱き寄せられた格好で。これも彼の考えあっての行動みたいだから、黙認している。本当はすごく恥ずかしいんだけどね!
両親は血相を変えた私を見るなり、目を大きく見開き、それからマルクを見て目を丸くしていた。
「おおおお、落ち着きなさい」
お母さんが一番動揺している。それでもお客さんに中に入るように勧めていた。
我が家の狭い食卓にお父さん対三人で着席する。
私が一番端っこで、真ん中にマルク。その彼の隣に大柄のサムがいる。
お母さんがかまど(暖炉兼用)と食卓を往復してせっせと動き、みんなにお茶を出している。私も手伝おうとしたけど、隣にいるマルクをチラリと見て断られてしまったので、黙って座っている。
弟はまだ帰宅していなかったので、修羅場に巻き込まれずに済んでいる。
「サムが先ほど我が家に来て、ミーナとの結婚の許可を求めてきたのは本当だ」
仕事を終えたお母さんが座ったあと、気まずそうにお父さんが話を切り出すと、サムがそのとおりと言わんばかりにうなずく。
「おじさんは、すぐに良いって言ってくれたんだぜ」
自信満々に答える彼にお父さんはため息をつく。
「違うぞ。正確にはこう言ったんだ。『ああ、いいぞ。ミーナさえ良ければ』とな」
両親の答えに心の底から安堵したのと同時に、私の意志を優先してくれる両親を心からありがたく感じた。
「サム、お父さんにこう言われたら、次は私に求婚するべきじゃなかったの? お父さんは私の意思を尊重するって言ってくれたんだから」
「え? そんなことわざわざ聞かなくても分かっていたし。ミーナは俺のこと、好きだろう?」
そう切り返されて、思わず口籠った。
たしかに記憶を思い出す前の私だったら、結構彼を比較的好ましく思っていたから。
でも、彼に夢中というわけでもなく、他の女の子が話すように恋をしているわけじゃなかったけど。
「お祭りのとき、俺に花をくれたしな。それって、そういうことだろ?」
年に一度、地元で花祭りが開催される。国王の即位記念日を祝うため、色とりどりの花が町中に飾られ、国中から観光客が溢れかえる。
そのとき、男女が意中の相手に花を贈るのも、名物となっていた。
「うん。仕方がないから花をもらってやるよ。俺しかもらってくれる奴はいないだろ。そう言ってサムは私のボロボロな花をもらってくれたよね」
いつも不恰好な花輪しか作れなかったから、そんなものでも貰ってくれる彼を優しいと思っていた。
家族の役立たず。自分自身、そう思っていたから特に。
「でも、サムは他の女の子の花ももらっていたし、一緒に他の子と二人きりで出かけてもいたから、あれって義理で私の花を貰ってくれたんだと思っていた」
「そうだったのか!?」
「そうよ」
「じゃあ、俺の勘違いだったのかー!」
サムは見るからに落ち込んで、オレンジ頭を抱えたまま勢いよくうつむいていた。
「ミーナごめん。俺、すげー恥ずかしい」
「いいよ、私のことは気にしないで。それよりもサムの落ち込み具合が今は心配」
「ミーナは優しいな。それなのに俺はミーナに誤解させるようなことをしていたんだな」
「誤解というか、全然言われるまで特別好かれているって分からなかったよ。ごめん。それに私が魔導士になっても、スミおばさんが言ったように私はサムのお嫁さんには向いてないと思うし」
「そうか……。色々と悪かったな」
彼は私の言葉をきちんと受け止めて、気まずそうだけど反省しているようだった。
私のお断りが彼にも伝わり、ようやく問題は解決したみたいね。
「でも、お前に振られたら、俺は一体誰と結婚すればいいんだ……。俺が気に入った女の子は、みんなお袋がダメって言うし、お袋が決めた相手と結婚するなんてカッコ悪くて最悪だ……。自分の嫁くらい自分で決めたいのに」
「ん?」
サムからさらに問題発言が聞こえた気がした。
「もしかしてサムは、本当は私以外の女の子と結婚したかったの?」
「いや、そういうんじゃなくて、どんな子もお袋がダメって言うんだよ! だから、もう魔導士になるミーナくらいしか残ってなかったんだよ」
そうサムが言った途端、私とサムの間にいたマルクがいきなり立ち上がった。
「黙って聞いていれば、君は彼女をなんだと思っているんですか! 彼女はこの世でたった一人しかいない大事な人なんです! そんないくらでも代わりが利く程度の好意で彼女に近づかないでください!」
すごい怒り方だった。こんなに激情に駆られた彼を見るのは久しぶりな気がする。
私のために真剣に抗議してくれた。その彼の気持ちが、とても嬉しかった。
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